日本の観光統計を読む 2019年6月版
最近は少し「時事ネタ」が続いていましたので、本稿では久しぶりに、少しだけ時事ネタから離れて、観光統計について触れておきたいと思います。当ウェブサイトでは以前から日中韓の人的交流についての統計データを追いかけていますが、最近、中国が入国統計の公表をやめてしまったらしく、現在では日韓両国の統計のみを眺めています。日韓ともに2019年上半期の統計データが揃ったので、久しぶりにこれらについて分析してみたいと思います。ただし、統計データ自体は非常にさまざまな角度から分析が可能であり、それなりに論点もたくさんあります。そこで、まず本稿では日本のデータから眺めていきましょう。
日中韓の人的交流
以前から当ウェブサイトでは、日中韓3ヵ国の人的往来についての統計を追いかけています。
といっても、一般に各国が公表している統計は、「いつ、どこの国から自国にやってきたか」というものであり、「いつ、どこの国に自国民が渡航したか」、という統計はありません。
たとえば、「2019年6月に日本にやってきた国籍別の外国人の数」については、日本政府観光局(JNTO)などが公表している統計を見れば調べられますが、「2019年6月に日本人がどこの国に出掛けたか」については、相手国の統計を見なければわかりません。
その理由は、出国の際に「どこの国に渡航するか」を申告する必要はないからです。
海外旅行に出かけたことがある方ならわかると思いますが、出国審査の際に渡航先は尋ねられませんし、実際、出国先を申告したとしても、その人が渡航先からさらに第三国に行けば、その渡航先を追いかけることは、まったく不可能です。
私自身も学生時代や独身時代には、しょっちゅう格安航空券を買っては海外に出掛けていたのですが、その際に使ったテクニックが「第三国を経由する便」です。
たとえば、ヨーロッパに行くのに、直行便ではなく、香港などを経由すると安くなることがあります。香港までのチケットと、香港からパリまでのチケットをバラバラに買えば、日本からの直行便よりも安く上がり、さらには途中の香港で観光も楽しめるため、一石二鳥、というわけです。
逆にいえば、統計を読む際、「日本人がどこの国に出掛けたか」というデータを得ることができない、ということでもあります。ウェブ評論家という立場になってからは、このことには随分と困っています。
「日中韓3ヵ国の人的交流」を見るうえでは、
- ①日本を訪れた中国人
- ②日本を訪れた韓国人
- ③中国を訪れた日本人
- ④中国を訪れた韓国人
- ⑤韓国を訪れた日本人
- ⑥韓国を訪れた中国人
という6つのデータ系列が必要なのですが、最近は中国が自国に入国した外国人の統計を公表していないらしく、③と④については最新データが手に入らなくなってしまったのです。やむなく現在は、①~②と⑤~⑥をベースに、間接的に日中韓の交流を探る、というスタイルに変化しています。
日本政府観光局(JNTO)データ
本稿で触れるのは、①、②を含めた日本の観光に関する最新データです。
日本政府観光局(JNTO)が公表している『月別・年別統計データ(訪日外国人・出国日本人)』がいちばん使いやすいでしょう。現時点までで、2003年から2019年6月までの16年6ヵ月分のデータをエクセルファイル形式で入手することができます。
ただし、観光シーズンの問題もあり、入国者数は毎月大きく変動します(図表1)。
図表1 日本に入国した外国人(国籍別、月別、2015年12月以降)(縦軸:百万人)
(【出所】日本政府観光局(JNTO)公表データより著者作成)
ただ、この図表だと、何となくトレンドとして日本に入国している外国人が増えているようにも見えるのですが、毎月の変動が大きすぎ、どうも比較し辛いと思います。
(※ちなみに図表1で、2019年5月と6月の「北アメリカ計」と「ヨーロッパ計」がゼロになっている理由は、データが速報値であり、北米と欧州に関しては国別詳細がまだ集計されていないからであり、これはいつものことです。)
そこで、当ウェブサイトで好む手法が、「その月までの12ヵ月分を集計した数値」、つまり1年間の移動平均値の数値の推移を見る方法です。
たとえば、「2019年6月」に、その月を含めた直近の12ヵ月分の数値を含める、という手法であり、この方法に従えば、
- 2019年6月…2018年7月~2019年6月の12ヵ月間
- 2019年5月…2018年6月~2019年5月の12ヵ月間
- 2019年4月…2018年5月~2019年4月の12ヵ月間
- 2019年3月…2018年4月~2019年3月の12ヵ月間
- 2019年2月…2018年3月~2019年2月の12ヵ月間
- 2019年1月…2018年2月~2019年1月の12ヵ月間
といった具合です。この方法で推移を取ったものが、次の図表2です。
図表2 日本に入国した外国人(国籍別、12ヵ月集計値、2004年6月以降)(縦軸:百万人)
(【出所】日本政府観光局(JNTO)公表データより著者作成)
いかがでしょうか。これだと、ずいぶんとわかりやすくなりますね。
図表2で見ると、入国者の総数は2013年11月に1000万人を超え、2016年1月に2000万人を超え、2018年4月に3000万人を超えていることがわかりますが、その後、入国者数の伸び率は鈍化しています。もう少しわかりやすく、図表2の前月比増減と増減率をグラフ化しておきましょう(図表3)。
図表3 日本に入国した外国人数の増減と増減率(12ヵ月集計値、2004年6月以降)
(【出所】日本政府観光局(JNTO)公表データより著者作成)
増減率でいえば、リーマン・ブラザーズの経営破綻に端を発する金融危機(とくに2008年9月以降の1年間)や、東日本大震災発生直後(とくに2011年3月以降の1年間)の減少幅が大きく、その直後には反動で増加していることがわかります。
ただ、「中国人による爆買い」が話題に上り始めた2015年3月ごろから、日本に入国する外国人数は大きく増加し始め、2018年6月頃まで強く伸び続けていたのですが、こうした傾向は2018年9月になり、68ヵ月ぶりにマイナスに落ち込んだことで反転。
その後は日本に入国する外国人数の伸びは落ち着き、だいたい3000万人台で推移している情きょづあと考えればわかりやすいでしょう。
日本に入国した外国人はおおきく6カテゴリ
日本に入国する外国人(2018年7月~2019年6月の12ヵ月間)を国籍別に分類したものが、次の図表4です。
図表4 訪日外国人国籍別シェア(2019年6月までの12ヵ月間)
区分 | 人数 | シェア |
---|---|---|
中国 | 8,856,100 | 27.74% |
韓国 | 7,385,279 | 23.13% |
台湾 | 4,732,321 | 14.82% |
香港 | 2,195,019 | 6.88% |
ヨーロッパ計 | 1,508,831 | 4.73% |
北アメリカ計 | 1,653,006 | 5.18% |
その他・未集計 | 5,595,819 | 17.53% |
総数 | 31,926,375 | 100.00% |
(【出所】日本政府観光局(JNTO)公表データより著者作成。ただし、欧州と北米については5月分、6月分の数値がゼロであるため、実態よりシェアが低く出ている)
これでわかるとおり、日本に入国する外国人の国籍は、大きく「▼中国、▼韓国、▼台湾、▼香港、▼欧州、▼北米」の6つのカテゴリーでだいたい説明がつきます(ほかにもタイ、豪州のように、年間数十万人が日本にやってくる国もありますが…)。
やはり圧倒的に大きなシェアを占めているのは中韓台港の4ヵ国です。
とくに、香港、台湾はいずれも親日国であり、人口2000万人の台湾からは500万人近く(つまり人口の4分の1近く)が、700万人程度の香港からは200万人(つまり人口の3分の1近く)が日本を訪れてくれているというのは、意外と知らない人が多いのではないでしょうか。
韓国、台湾、香港からの入国者数が減少
ところで、国別でみると、意外なことに、これら6地域のうちアジアについては、中国を除く3ヵ国で前年比マイナスとなっています。ここで、詳細を眺めてみましょう。
図表5 訪日外国人の国籍別変化(2018年6月までの12ヵ月間と2019年6月までの12ヵ月間の変化)
区分 | 2018年→2019年 | 変化 |
---|---|---|
中国 | 8,130,650→8,856,100 | +725,450(+8.92%) |
韓国 | 7,760,630→7,385,279 | -375,351(-4.84%) |
台湾 | 4,781,795→4,732,321 | -49,474(-1.03%) |
香港 | 2,258,834→2,195,019 | -63,815(-2.83%) |
ヨーロッパ計 | 1,622,070→1,508,831 | -113,239(-6.98%) |
北アメリカ計 | 1,851,108→1,653,006 | -198,102(-10.70%) |
その他・未集計 | 4,427,817→5,595,819 | +1,168,002(+26.38%) |
総数 | 30,832,904→31,926,375 | +1,093,471(+3.55%) |
(【出所】日本政府観光局(JNTO)公表データより著者作成。ただし、欧州と北米については2019年5月分、6月分の数値がゼロであるため、実態より数値が低く出ている)
早い話が、中国を除くほかの国からの訪日旅客数が、いっせいに減少しているのです。
とくに減少率が大きいのは韓国(▲4.84%)ですが、ほかにも台湾や香港などからの旅客数も落ち込んでいます(ただし、欧州と北米については、2019年5月分と6月分が加算されていないため、これらの数値が確定すれば、前年比で微増となっている可能性はあります)。
ここでは、さきほどの6地域について、北米と欧州を除き、残り4ヵ国について、改めて入国者数の推移をグラフ化しておきましょう(図表6)。
図表6 入国者数推移(2013年6月以降、12ヵ月集計値、縦軸:百万人)
(【出所】日本政府観光局(JNTO)公表データより著者作成)
この点、韓国からの入国者数の落ち込みが大きい理由は定かではありません。この点、「日韓関係が悪化したことが韓国からの入国者減少の要因だ」といった説明を聞くこともあるのですが、韓国からの入国者は2018年6月をピークに減少傾向に転じていることから、この説明は正しいとは言い切れません。
むしろ、香港や台湾からの入国者数についても横ばいになっていることから、日本に近接するアジア4ヵ国のうち、香港、台湾、韓国の3ヵ国に関しては、単純に日本観光の需要が一巡しただけではないかとも思えます。
一方、アジア4ヵ国のなかで、唯一伸び続けているのが中国であり、ほかにもグラフには示していませんが、北米や欧州も地道に少しずつ伸びています(なお、グラフに示していない理由は、北米と欧州については2019年5月、6月分のデータがないためです)。
ビザ免除国
さて、アジアには中国、香港、台湾、韓国以外にもたくさんの国があるはずですが、それら以外の国からの観光客が少ないのには、理由があります。それは、日本に観光に訪れる外国人には、1つの大きなハードルがあるからです。
それが「入国ビザ(査証)」です。
基本的にはビザが必要な出身国・地域の人は、日本に入国するためには事前にビザを取得する必要がありますが、中国の場合は沖縄県や東北3県などを訪れて宿泊した場合、「3年間有効で1回あたり30日滞在可能」というビザが交付されるなどの優遇措置が取られています。
一方、2017年7月時点で、日本が観光目的・短期商用目的などの場合にビザなし渡航を許可している国は68ヵ国ありますが、アジアでビザなしが認められているのは、次の9ヵ国です(図表7)。
図表7 日本がビザを免除している対象国(アジア)
国 | 滞在可能期間 | 備考 |
---|---|---|
インドネシア | 15日 | ICAO標準のIC旅券を所持し、IC旅券の登録などが必要 |
シンガポール | 90日 | |
タイ | 15日 | ICAO標準のIC旅券を所持することが必要 |
マレーシア | 90日 | ICAO標準のIC旅券を所持することが必要であり、それ以外の場合は厳格な入国審査が行われる |
ブルネイ | 15日 | |
韓国 | 90日 | |
台湾 | 90日 | 身分証番号が記載された台湾護照(旅券)を所持することが必要 |
香港 | 90日 | 香港居住権所持者に限る |
マカオ | 90日 | マカオ特別行政区旅券所持者に限る |
(【出所】外務省『ビザ免除国・地域(短期滞在)』より著者作成)
アジアで日本への入国ビザ取得が免除されている国が9ヵ国しかないというのも興味深いところですが、ビザ免除が認められていても、インドネシア、タイ、ブルネイの場合は15日間しか滞在できませんし、また、その他の国についても、パスポート要件が厳しく、ビザ取得が必要なケースもあるとされています。
結果的に、日本からの距離の近さとビザ要件の兼ね合いから、日本に渡航しやすい国は、香港、台湾、韓国などに限られる、というわけです。
ただし、たとえば韓国の場合、ビザなしで滞在できる期間が現状では90日間ですが、中国の場合は日本への入国要件が厳しく、数次ビザでも1回の滞在期間が30日とされています。
観光業に対する配慮という点からは、たとえば韓国に対する観光ビザ免除制度自体は維持したうえで、滞在可能期間を短縮する、入国審査を厳格化する、といった対応も、これから現実のものとなってくるのかもしれません。
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
そんな日韓関係論を巡って、素晴らしい書籍が出てきた。鈴置高史氏著『韓国消滅』(https://t.co/PKOiMb9a7T)。
日韓関係問題に関心がある人だけでなく、日本人全てに読んでほしい良著。
読者コメント欄はこのあとに続きます。当ウェブサイトは読者コメントも読みごたえがありますので、ぜひ、ご一読ください。なお、現在、「ランキング」に参加しています。「知的好奇心を刺激される記事だ」と思った方はランキングバナーをクリックしてください。
ツイート @新宿会計士をフォロー
読者コメント一覧
※【重要】ご注意:他サイトの文章の転載は可能な限りお控えください。
やむを得ず他サイトの文章を引用する場合、引用率(引用する文字数の元サイトの文字数に対する比率)は10%以下にしてください。著作権侵害コメントにつきましては、発見次第、削除します。
※現在、ロシア語、中国語、韓国語などによる、ウィルスサイト・ポルノサイトなどへの誘導目的のスパムコメントが激増しており、その関係で、通常の読者コメントも誤って「スパム」に判定される事例が増えています。そのようなコメントは後刻、極力手作業で修正しています。コメントを入力後、反映されない場合でも、少し待ち頂けると幸いです。
※【重要】ご注意:人格攻撃等に関するコメントは禁止です。
当ウェブサイトのポリシーのページなどに再三示していますが、基本的に第三者の人格等を攻撃するようなコメントについては書き込まないでください。今後は警告なしに削除します。なお、コメントにつきましては、これらの注意点を踏まえたうえで、ご自由になさってください。また、コメントにあたって、メールアドレス、URLの入力は必要ありません(メールアドレスは開示されません)。ブログ、ツイッターアカウントなどをお持ちの方は、該当するURLを記載するなど、宣伝にもご活用ください。なお、原則として頂いたコメントには個別に返信いたしませんが、必ず目を通しておりますし、本文で取り上げることもございます。是非、お気軽なコメントを賜りますと幸いです。
コメントを残す
【おしらせ】人生で10冊目の出版をしました
自称元徴用工問題、自称元慰安婦問題、火器管制レーダー照射、天皇陛下侮辱、旭日旗侮辱…。韓国によるわが国に対する不法行為は留まるところを知りませんが、こうしたなか、「韓国の不法行為に基づく責任を、法的・経済的・政治的に追及する手段」を真面目に考察してみました。類書のない議論をお楽しみください。 |
【おしらせ】人生で9冊目の出版をしました
日本経済の姿について、客観的な数字で読んでみました。結論からいえば、日本は財政危機の状況にはありません。むしろ日本が必要としているのは大幅な減税と財政出動、そして国債の大幅な増発です。日本経済復活を考えるうえでの議論のたたき台として、ぜひとも本書をご活用賜りますと幸いです。 |
おはようございます。
新宿会計士様へ。中程に誤植があります。
> その後は日本に入国する外国人数の伸びは落ち着き、
> だいたい3000万人台で推移している情きょづあと考えればわかりやすいでしょう。
「情きょづ」は「状況」ではないでしょうか。
よく韓国のビザを制限しろ90日から15日にしろという主張をされていますが、ビザ免除の国の表を見ていて思いついたのですが、
韓国に
>ICAO標準のIC旅券を所持することが必要
の条件をまず付けることから始めてみてはどうでしょう。
いや調べてみたら、韓国政府の発行するパスポートは既にICAO標準のIC旅券になっている(というか米国に入国するにはそうする必要があるようですね)ので、こちらも実質的な韓国人の被害はないはずです。
だけどこのタイミングでそういう「変更」を行えば、また大騒ぎしますよw。
日本のマスコミと合わせて 大騒ぎでしょうね w
もし 在韓米 陸軍が撤退する時があるならば
その頃にはビザを見直して欲しいですね。
日本海側の田舎者より
2018年訪日外国旅行者、消費額は4.5兆円 観光経済新聞
https://www.kankokeizai.com/2018年訪日外国人旅行者、消費額は4-5兆円%E3%80%80/
2018年の一般(クルーズ客除く)訪日外国人旅行者数は2885万人
うち韓国752万人(約26%)
2018年の一般(クルーズ客除く)訪日外国人旅行消費額44030億円
うち韓国5837億円(約13%)
韓国は近隣国であり、ショートステイ(平均4.3日)の訪日が中心となっていますね。
だからビザの有効期間を15日を短縮しても観光への影響は少ないと思いますし、工作員の活動抑制等、安全保障の観点で考えれば即時に発動すべきかと思います。
入国審査の厳格化も、「北朝鮮人でないことの確認」を理由に実施すればいいことです。(在日米軍基地の措置に倣えです)
*****
それにしても、観光収入に対する韓国の影響力は全体の13%程度でしかなく、日本旅行の自粛活動も中国のTHIRD報復を踏襲するかのような効果は期待できないみたいですね。
韓国は中国のやってることを、自分でもやりたがりますから、
韓国は中国から受けた屈辱を、日本にも与えたいんですよね。きっと。