先ほどの『仲裁手続の「次の議論」とは、韓国の経済的焦土化?』でも触れた、「日韓請求権協定第3条第2項措置」を巡って、先ほど外務省は韓国大使館の次席公使を外務省に召致し、本日、第3項措置に移行すると通告しました。ただ、仮に韓国が今回の措置についても日本の要請を無視した場合には、7月18日(ないし19日)に、名実ともに「無法国家」となります。こうしたなか、韓国メディア『中央日報』(日本語版)は、この期に及んで「大阪G20会合で日韓首脳会談があるか」という、実に周回遅れの議論をしているようです。
第2項措置から第3項措置への移行を通告
先ほどの『仲裁手続の「次の議論」とは、韓国の経済的焦土化?』でも触れたとおり、自称元徴用工問題を巡り、日本政府が5月20日に通告した「日韓請求権協定第3条第2項措置」(仲裁付託)を、韓国政府は無視した格好となりました。
これを受けて、日本政府側に動きがあったようです。
徴用工訴訟、「第三国」の仲裁委手続きに移行 韓国政府に通告(2019.6.19 11:40付 産経ニュースより)
韓国に第三国仲裁へ手続き要求 元徴用工問題で外務省(2019/6/19 11:09付 日本経済新聞電子版より)
政府、第三国の仲裁委要請/徴用工巡り韓国に手続き切り替え(2019/6/19 11:37 JST付 共同通信より)
複数のメディアの報道によれば、外務省の金杉憲治アジア大洋州局長は19日午前、在日韓国大使館の次席公使を外務省に呼び出し、仲裁付託を「第3条第3項措置」に移行させることを通告したそうです。
ここで、日韓請求権協定第3条とは、簡単にいえば、
- ①日韓両国で紛争が起これば、まずは外交の経路を通じて解決してください。
- ②①で解決できなければ、まず30日以内に両国が1人ずつ委員を選び、その2人の委員が次の30日以内に日韓以外の第三国からもう1人委員を選び、その3人で仲裁委員会を組織して議論してください。
- ③②の期間内に片方の国が期限内に仲裁委員を選ばなかった場合や、第三国をどこにするか合意できなかったときは、仲裁委員会の人選自体、第三国にお願いし、30日以内に選んでもらいましょう。
- ④出た結論には従いましょう
という流れのことです(詳細は『資料:「日韓請求権協定第3条」の原文と解説』をご参照ください)。
第3項措置とは、上記③、つまり、韓国側が期限内に仲裁委員を選ばなかったために、3人で構成される仲裁委員会そのものを第三国に委ねましょう、とする措置のことです。「6月19日から起算して30日の期間内」とは、「初日不算入」なら7月19日、「初日算入」なら7月18日です。
来月、韓国は名実ともに無法国家になる
考えてみれば、この第3項措置とは、非常に深刻な状態です。
なぜなら、いわば、この第3項措置とは「日韓間で生じた争いを日韓間で決着がつけられなくなったから、完全に第三国に委ねますよ」、という意味であり、第2項までの措置と違って、もはや日韓両国は争いの当事者ではなくなってしまうからです。
ただし、もし韓国側がこの第3項措置にも応じなければ、日韓請求権協定上は、これ以上、紛争を解決する手段はなくなってしまいます。つまり、事実上、韓国が日韓請求権協定を破棄したのと同じような効果が生じてしまいかねないのです。
この点、日本政府が韓国に対して第1項措置(協議)を申し入れた1月9日の時点で執筆した『日韓請求権協定の手続と「韓国社会の崩壊」という嫌な予感』では、「韓国が日韓請求権協定第3条措置を無視する可能性が濃厚」という前提を置いていました。
しかし、それと同時に、本来、韓国という国は、「一線を越えない範囲でギリギリのところを攻めて来る」ことを得意としていたはずですし、2015年の「明治期産業革命施設の世界遺産登録」、今年の「福島県産海産物のWTO上級審逆転劇」の例にもあるとおり、国際的ロビー活動には、やたらと強いのです。
このため、当時の私は、「韓国がとりあえず仲裁手続を受け入れて、第三国を巻き込んで日本にとって不利な仲裁を実現させる」ことが大きなリスクシナリオだと考えていました。
まさか、文在寅(ぶん・ざいいん)政権がここまで「無能」だとは思ってもみなかったというのが、本件を巡る正直な感想です。
そして、どうせ韓国はこの措置にも応じないでしょうから、7月18日(または19日?)は、「韓国が名実ともに無法国家となる日」だ、という言い方もできるのかもしれません。
韓国が名実ともに無法国家となれば、日韓基本条約そのものを筆頭に、日本が韓国との間で締結しているさまざまな条約が守られないということにもなりかねませんし、そうなれば、この期に及んで韓国に進出し続けている日本企業も、思わぬ損害を被る可能性があります。
当然、マトモな企業経営者であれば、「法治国家の皮をかぶった無法国家」で事業活動を続けているということに意識が向かないはずはありませんし、無法国家での訴訟リスクを株主に対してどう説明するのかという点も難しいでしょう。
(※もっとも、日本企業の多くは、すでに「中華人民共和国」という無法国家でビジネスを営んでいますので、「さほど影響はない」と指摘する人もいるかもしれませんが…。)
中央日報の周回遅れ過ぎる議論
さて、私の「愛読紙」(?)である韓国メディア『中央日報』(日本語版)に、こんな記事が出ていました。
北東アジアの「スーパー外交ウィーク」習近平氏の訪朝から幕開け…韓日首脳会談は実現できるだろうか(1)(2019年06月19日10時35分付 中央日報日本語版より)
記事のなかで、中央日報は驚くべきことを報じています。
「G20は韓国政府にとってもう一つの理由で不都合だ。開催国である日本の安倍晋三首相との首脳会談が実現できない可能性もあるからだ」
え?
まさかとは思いますが、この期に及んで「日韓首脳会談が実現できる」とでも思っているのでしょうか?(苦笑)中央日報は
「日本メディアの一部で晩餐の中で略式で進める方針が協議されたが、これに対してもこの消息筋は「小説だ。まだ何も決まったことはない」と話した。韓国外交部当局者も18日、記者会見で「何も決定されていない」と話した。G20のような大規模の首脳外交行事で開催10日前まで日程が決まっていないのは異例的だ。」
などと述べていますが、周回遅れも良いところでしょう。
昨年秋以降に限っても、「旭日旗騒動」に始まり、自称元徴用工問題に慰安婦財団解散、レーダー照射事件、さらには天皇陛下(現・上皇陛下)に対する侮辱など、現在、日韓間の懸案があまりにも多すぎます。
こうした状況に加え、文在寅氏の政治的指導力や実務能力は決して高いとは言えないばかりか、むしろ非常にお粗末というほかなく、おそらく日本政府も現在の文在寅政権を「もはや対話に値せず」と位置付けているのではないでしょうか。
しかも、これらの韓国による日本に対する不法行為の数々は一般の日本国民を激怒させており、日本国民の韓国に対する怒りが強すぎる(『「日韓協力」「日韓首脳会談」 日本の世論が許さない状況に』参照)状況を踏まえるならば、日韓首脳会談実施は安倍政権にとっても大きなリスクです。
安倍政権がこのタイミングで日韓首脳会談に踏み切るほどの冒険をするとも思えません。
「周回遅れ過ぎる議論」をもう1つ発見
…というところで本稿を締めようとしたのですが、もう1本、とてつもなく周回遅れの議論を発見してしまいましたので、ついでにこの話題も紹介しておきましょう。
強制徴用問題 韓日両国企業拠出の財源で被害補償=韓国政府(2019.06.19 16:18付 聯合ニュース日本語版より)
韓国メディア『聯合ニュース』(日本語版)は先ほど、「韓国政府外交部が日本政府に対し、日韓両国企業の自発的な拠出金で財源を確保し、被害者に慰謝料を支払う案を提案したことを明らかにした」、と報じています。
昨年11月21日に慰安婦財団を自分で解散しておきながら、なにを寝ぼけたことを言っているのかと呆れてしまいます。せめてこの提案がなされるのが、慰安婦財団解散前の時点であれば、まだ救いもあったかもしれません(ま、ありませんが…)。
あるいは1億歩譲って、1月9日に日本政府が韓国政府に外交的協議を申し入れた直後にこのような案を提示していれば、もしかしたら日韓間で本件の対話が進んだ可能性がゼロではなかったでしょう。
しかし、さすがに「第3項措置」にまで進んでしまった現段階では、もう日韓双方は直接話し合いをする状況にはありません。
日本政府が言うべきことは、「仲裁委員会を開け」の1点しかないでしょう。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
さて、『韓国との外交では、「道徳外交」「密室外交」を完全否定せよ』でも述べたとおり、以前から当ウェブサイトでは、日韓関係は日本の外交の悪い点が凝縮されていたと考えています。
自称元徴用工判決問題を受けて、今後の日韓関係の方向性があるていど見えて来たこともありますので、久しぶりに「そもそも論」について考えてみても良いかと思っている次第です。
是非、内容にご期待ください。
View Comments (49)
丁度韓国が、日韓企業同士で基金とは言わないで、補償をするなら、外交協議すると言って来たようです。
相手にする必要は、無いと思いますが、第三者委員会で同じ事を提案する可能性が出て来たと思います。
韓国は曖昧な表現で騙そうとしているのでしょうか。
強制徴用工に対する賠償、だと日本は納得しないから
支援的な表現に変えただけのようにも読めます。
「日本が金を支払う必要が無いことを確認するための協議」に
「日本が金を支払う事」を前提条件として付けるなんて…。
会話が通じないとはまさにこの事か…。
立場を弁えない傲慢な連中ですね。
まぁ文が韓国のトップで居てくれる限り日本は韓国切り出来るので、今回の一軒も寧ろ火に油を注ぐ行為を褒めてあげるべきですかね。
いいぞ文大統領!このまま永久大統領で居続けてくれ!
聨合ニュースでは、半年検討した結果の基金方式を提案したと出ています。
しかも、日本が基金方式に応じれば、韓日請求権協定第3条1項の協議手続き
の受け入れを検討する用意があるそうで・・・。
日本に丸投げして、時計を逆回しするそうで、まったく、いつものパターンです。
現状というものを、まるで理解できないんですね。
>日韓両国企業の自発的な拠出金
その「自発的な拠出金」てもう集まってるの?
集まってるという話聞かないけど、集まってないならこれから「自発的に出せ」って強要するの?
それ自発的って言わなくなくなくない?
単なる感想ですが・・・
ようやく次の段階に進んだんですね。今回は日程の隙間もなく。
韓国政府の、支持基盤と保守派の両方の顔色を見た上での「意図的な不作為」の結果だと思いますが・・・ここまで問題解決能力が低いとは。
彼らが国内にしか目を向けてないことの引き換えに、対外的な韓国の評判は順調に悪化しているわけで。
韓国のような対外貿易で食ってる国がこれやったら、ヤバいことは明らかなんでしょうが、目の前の苦しさを逃れることの方が大事なんでしょう。
どじょう地獄かと。↓
http://livedoor.blogimg.jp/osomato/imgs/c/8/c8fbde9a-s.png
韓国の提案は要注意ですね。第三国や国内の眉韓派が丸呑みしそうな悪い予感がします。
事情を全く知らない人からすれば、妥当な案に聞こえますから。
独断と偏見かもしれないと、お断りしてコメントさせていただきます。
朝日新聞あたりが、社説で「丸吞みせよ」と言い出すと思います。
駄文にて失礼しました。
引きこもり中年様、
今回、日本政府が素早く反論したようで良かったですが、反応が遅れれば、朝日新聞あたりは韓国政府の提案をさも素晴らしい中立的なものであるかのように宣伝しまくったでしょうね。
いや、今からでもするような気がしますがw
何も知らない若者相手に煽ってきそうですね。
だんだん、何も知らない若者が日本の弱点になってきましたね。
カワイイは正義
↓
韓国はカワイイ
↓
韓国は正義
↓
韓国批判は悪
この論法どうにかならないものでしょうか・・・
いい年こいた若作りの連中もこんな感じです。
足手まとい感がスゴイ
韓国は意図的にやってるでしょう。これも一種のパブリック・ディプロマシーかと思います。
日本だけでなく東南アジアでは韓国の好感度が物凄く高いですよ。あのベトナムでさえ。
K-POP、韓流ドラマ、韓国の家電の影響力は凄まじいです。
東南アジアの若い女の子たちは、韓国人ならどんなブサイクなハゲオヤジでも彼氏にしたがるし、男は韓国男に似てるのがステータス。韓国人からプレゼントされたものなら、100円ショップのリップスティックでも高級品だと思い込みます。(そのリップスティックは日本製だったりするのですが…)
さらに、腹立たしいことに韓国のコンテンツでは、とにかく日本が悪者にされてますから、韓国コンテンツが盛んな場所では日本は二流、悪者、悪質だと思われてます。彼らは日本は韓国の劣化コピーだと信じ込んでるんですよ。誇張抜きで。
日本の若者に韓国コンテンツを徹底的に刷り込んで親韓派、媚韓派をつくりあげようというのは韓国が情報戦、世論戦の一環でやってることです。これは一種の戦争ですから、日本も本格的に防戦しないとまずいですね。
日本のマスコミ、左派系言論人が何か言い出しそうですね。
実際この判決の根拠としている「併合は違法」という概念ですが、日本人が多く関わっているようです。
廬武鉉政権の時に所謂徴用工問題は請求権協定に含まれているから、併合は違法だから慰謝料払えとなった経緯に、日本人が関わっているとの見方があります。
管政権の時に首相談話として併合派違法であったと入れようと画策した日本知識人が500名ほど署名活動を行ったとのこと。
和田春樹教授、作家の大江健三郎、青木某ジャーナリスト等早々たるメンバーです。
そりゃ日本人自ら違法だったと言えば、韓国側もこりゃ行けるかもと思いますよね。
詳しくは、YouTube、
【怒れるスリーメン】Part31-③ 加藤×髙橋×西岡力 日韓併合条約を無効だと言わせる運動をしてきた…
で、興味のある方はどうぞ。
日本政府は速攻拒否した模様。
今回の第3項措置への移行も時間の隙間なく実施されたし、
ICJ単独提訴⇒制裁開始 まで一直線ですね。
「徴用工問題、政府は韓国提案の前提条件を拒否」
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190619-00050267-yom-pol
>ICJ単独提訴⇒制裁開始 まで一直線ですね。
同感です。朝日・毎日新聞、韓国与党と親戚の(共に)民主党、額賀/河村議員らの、媚韓派が付け入るスキを与えてはいけません。日本が、韓国の提案を拒否すれば、朝日/毎日あたりは、間違いなく批判してきます。雑音は無視でいいと思います。
同感です。1カ月後、すなわち国政選挙前に制裁することは、安部政権想定通りかと思われます。岩屋氏は信じられませんが、安部さんのことは信じています。
シンシアリーさんのブログから。
問題なのは韓国が国際法違反を破っていること、企業間の基金の提案を受け入れてはいけない。
納得しました。
韓国が保証する以外にないとおもいます。
申し訳ありません。
韓国が国際法を破っていること。
今後の予定です。
6月18日 仲裁委員会設置期限
6月28日 G20
6月末 米韓会談
7月1日~ 米国対中制裁第4弾発動?
7月18日 第三国指定仲裁委員会設置期限
7月21日 参院選
8月~ 差し押さえ資産現金化
9月末 韓国外債1000億ドル償還
G20直前に第2項期限、参院選直前に第3項期限を
持ってきてます。意図的でしょうね。
勘ですが、最近の韓国経済指標を見てると9月末の
韓国デフォルトがスケジューリングされてる気がします。
並行して在韓米軍撤退が進む予感。
日韓請求権協定自体が違法であるというトンデモ論法を元に自称徴用工の判決が出ているから
仲裁手続きに応じてしまうとそれを認めるという事になる。ってんで無視しているのかね?
ま、主張に「根拠」を必要としない彼らなのでそんな事も気づいていないと思いますが・・・
河野太郎
@konotarogomame
韓国から、韓国企業と日本企業が拠出した財源から確定済みの大法院判決の原告への慰謝料の支払に充てることに日本政府が同意するならば請求権協定に基づく協議を受け入れる旨発表がありましたが、これは韓国の国際法違反の状態を是正することにはならず、この提案は受け入れられません。
1:24 - 2019年6月19日
https://twitter.com/konotarogomame/status/1141260511880740864