勘違いする日朝議連、むしろ北朝鮮こそ拉致問題で誠意を示せ
自民党の衛藤征士郎衆議院議員が会長を務める「日朝議連」なる団体が、どうやらとんでもない国会決議案を準備しているようです。
目次
古い自民党が頭をもたげる
日朝議連は何をやっているのか!?
昨日の産経ニュースに、少し仰天するニュースがありました。
日朝議連、日朝首脳会談の早期実現求める決議準備 自民幹部は提出認めず(2018.7.12 07:00付 産経ニュース)
タイトルにある「日朝議連」とは、超党派の議員でつくる「日朝国交正常化推進議員連盟」のことです。産経ニュースによれば、この議連は日朝国交正常化などを求める国会決議案を準備しているものの、自民党幹部は「北朝鮮に誤ったメッセージを与える」として、今国会提出を認めない考えだとしています。
日本政府の現在の公式見解は、小泉純一郎元首相が2002年9月に訪朝した際に署名した『日朝平壌宣言』は、まだ生きている、とするものです(私に言わせれば、北朝鮮が約束を破って核・ミサイル開発を行った時点で、この宣言は無効にすべきだと思いますが…)。
今さら指摘するまでもありませんが、現在の安倍政権の立場は、国交正常化以前に、まずは日本人拉致問題と核開発問題などの完全な解決が必要だとしており、現状ではいずれの条件も満たされていない以上、日本が日朝平壌宣言など、履行する必要はまったくありません。
それなのに、この議連は、次の2つの決議案を準備しているのだそうです。
日朝平壌宣言を「日朝両国にとって、国交正常化の規範」と明記し、拉致、核、ミサイル問題の包括的解決のため「我々は政府に対し、速やかに日朝首脳の直接対話を要請する」と訴える決議案
「日朝平壌宣言に基づき、拉致、核、ミサイルといった諸懸案を包括的に解決し、不幸な過去を清算して、国交正常化を目指すべきだ」とし、同様に日朝首脳による速やかな直接対話を求める決議案
まったく言語道断というほかありません。
衛藤征士郎衆議院議員は「古い自民党議員」?
ところで、この日朝議連の会長は、日本共産党や立憲民主党などの議員ではありません。自由民主党の衛藤征士郎衆議院議員です。衆議院当選12回という、自民党内では重鎮議員の1人であり、また、自民党が下野していた2009年9月以降は衆議院副議長も務めていました。
主張内容としては保守的なものが多いものの、彼が会長を務めている議連には、たとえば「日韓海底トンネル推進議員連盟」なるものもあるらしく、日韓、あるいは日朝両国の友好を推進しようとする運動に、積極的に関わっていることは間違いなさそうです。
それはともかくとして、「日韓海底トンネル」云々はどうでも良いとして、衛藤氏は自民党の所属議員です。そして、自民党は安倍政権の出身母体でもあります。いわば、今回の日朝議連の動きは、安倍政権を後ろから撃つようなものであり、到底、看過することができないものです。
では、なぜ衛藤氏が朝鮮半島との友好を推進しようとしているのでしょうか?なぜ「日朝議連」などというものに属しているのでしょうか?
これについては、実はよくわかりません。ご経歴を調べていくと、衛藤氏は当時日本領だった朝鮮全羅道で1941年4月29日に生まれ、終戦後日本に引き上げたという経歴があるようです。朝鮮半島との友好関係を推進しようとする原動力は、その来歴にあるのかもしれません。
しかし、あえて衛藤氏の気持ちを「忖度」するならば、この手の古い自民党議員には、「日本が配慮してやって、朝鮮半島とうまく関係を作っていくべきだ」とする、不思議な配慮が働いているのではないかと私は思うのです。
現状での北朝鮮との友好関係などあり得ない
ここで、少し本論から外れますが、日朝関係を巡る私自身の持論を申し上げておきます。
まず、日本は自由民主主義国家であり、法治主義国家でもあります。これに対して北朝鮮は、自由民主主義を正面から否定し、金日成(きん・にっせい)の子孫が支配する独裁主義国家です。現状のまま、日本と北朝鮮が価値を共有することは、絶対に不可能です。
ということは、現在の日本と北朝鮮が友好関係を築こうとしても、「価値を共有する関係」ではないため、非常にハードルが高いのです。日本としては北朝鮮の金正恩(きん・しょうおん)による独裁体制を尊重しながら相手に全面的に配慮する形でしか、「友好関係」を築くことはできません。
しかも、日朝間には、明確な北朝鮮による犯罪である日本人拉致事件が未解決のままで横たわっています。これはれっきとした国家主権の侵害であり、本来ならば日本が北朝鮮に軍隊を送り込み、金正恩を含めた北朝鮮政府幹部を拘束してでも強制捜査すべき問題です。
逆に言えば、この拉致問題を未解決で放置したままで北朝鮮と友好関係を築くのであれば、日本は独立国家としての資格を失うことにもなりかねません。
もちろん、北朝鮮側には拉致問題を解決する意思も能力もないというのが実情かもしれません。なぜなら、これ以上拉致問題を追及すれば、金正恩自身の立場が危うくなりかねないためであり、北朝鮮としては拉致問題について、どこか落としどころを見つけて手打ちにしてほしいと思っているのではないでしょうか?
しかし、拉致事件は北朝鮮自身が起こした犯罪ですから、それに落とし前をつける責任は、北朝鮮自身にあります。北朝鮮に解決する意思と能力がないのなら、本来、日本は北朝鮮を滅ぼすくらいのことをやるべきなのです。
もちろん、現在の日本にできることといえば経済制裁くらいのものであり、軍事制裁などできません。しかし、たとえ経済制裁だけであっても、それを徹底すれば、北朝鮮を資金面で締め上げる効果があることは間違いありません。
したがって、私は次の3段論法が成り立つと考えています。
- 日朝国交正常化の前に、日本人拉致事件を完全解決する必要がある
- 日本人拉致事件を完全解決する義務は全面的に北朝鮮にある
- したがって、北朝鮮が誠意を見せない限り、日本は国交正常化に応じる必要はない
もし、「拉致問題なんてどうでも良い」、「拉致問題の解決をないがしろにしてまで、北朝鮮との国交正常化に踏み切るべきだ」、などという考え方の人がいたとすれば、私はそんな人に日本国民を名乗る資格などないとすら思います。
類型の議論と北朝鮮
日韓関係の6類型
さて、私が衛藤氏を取り上げたのには、理由があります。当ウェブサイトではこれまで何度か示してきたのが、「日韓関係はどうあるか」とする、6つの考え方ですが(図表1)、衛藤氏の行動は、「対韓配慮論」に近いものではないかと思います。
図表1 日韓関係の6類型
カテゴリ | 分類 | 概要 |
---|---|---|
日韓友好 | Ⅰ 日韓対等論 | 日韓は対等な主権国家同士、友誼を深め、手を取り合ってともに発展していく |
Ⅱ 対韓配慮論 | 日本は過去の歴史問題に多少配慮し、謝るところはきちっと韓国に謝る | |
Ⅲ 対韓追随論 | 韓国が求める「正しい歴史認識」を全面的に受け入れ、半永久的に韓国に謝罪し続ける | |
日韓非友好 | Ⅳ 韓国放置論 | 韓国が日本に対して突きつけてくる不当な要求を無視し、敢えて日韓関係の改善を先送りにする |
Ⅴ 日韓断交論 | 韓国との関係を断ち切る、あるいは韓国と距離を置く | |
Ⅵ 誅韓論 | 韓国と関わらないだけでなく、むしろ積極的に韓国という国が滅亡するのを助ける |
(【出所】著者作成)
この6つの類型は、別に私が賛同して書いているわけではありません。あくまでも「現在の日本国内の報道や主張、世論など」を眺めていて、このような考え方がある、と紹介しているだけの話です。
これらのうち最も理想的な関係とは、「Ⅰ 日韓対等論」でしょう。日本も韓国も、お互いに対等な主権国家として、自由、民主主義、法の支配などの共通の価値観を持ち、未来に向けて手を取り合い、発展していけるならば、これ以上素晴らしいことはありません。
一方、「Ⅱ 対韓配慮論」や「Ⅲ 対韓追随論」は、日本の政治家や外務省、マス・メディア産業関係者などの間で、広く見られるものです。
このうち「Ⅲ」について、「韓国が歴史問題で日本に対して怒りを抱いている以上、相手が『もう気が済んだ』というまで謝るべきだ」といった極論を唱えているのは、マス・メディアのなかでは朝日新聞や毎日新聞、政治家のなかでは日本共産党や立憲民主党ですが、こうした意見が支持されないのは当然です。
しかし、「Ⅱ」については、実は、自民党内にも、少なからず、支持している政治家が含まれています。また、マス・メディアのなかでは読売新聞や産経新聞のなかにも、こうした意見が、つい最近まで、わりと頻繁に登場していたのです。
これに対し、現在の安倍政権が採用しているのは「Ⅳ 韓国放置論」に近いものです。これは、私の理解に基づけば、「関係が決定的に悪化しないようにマネージする」ものの、日本の方からは積極的に日韓関係を改善しない、とする考え方です。
また、「Ⅴ 日韓断交論」は、おもにインターネット上で「ネトウヨ」と呼ばれている人たちの間で支持されている考え方で、さらに極端な論者は、最近では「Ⅵ 誅韓論」に近い考え方を示しています。
もっとも唾棄すべきは対韓配慮論
以上から、この6類型のうち、「Ⅱ 対韓配慮論」の考え方こそが、これまでの日韓関係を規定して来たものであると見るべきです。実際、衛藤氏に限らず、多くの「古い自民党議員」のなかには、こうした考え方に立脚していると思しき事例が多数、散見されます。
また、安倍政権が登場する以前の外務省も、こうした「日本がちょっとだけ韓国に譲歩してあげることで、円滑に日韓関係を回していくことができるなら、譲歩してやればよい」といった考え方が蔓延していたのではないでしょうか?
しかし、私自身は、こうした「対韓配慮論」のような考え方は、非常に危険だと考えています。なぜなら、少し譲歩してやれば、次回からはさらに大きな譲歩を求めてくるというのは、中国、韓国、北朝鮮の常套手段だからです。
実際、中国相手に領土・領海問題で大きな苦戦を強いられているのも、中国に対して毅然とした態度を取らなかった歴代の自民党政権の責任が大きいと言わざるを得ません。また、韓国に対しても譲歩を続けて来たことで、慰安婦問題など、日韓間で抜けないトゲのような問題が大量に発生したのです。
人間関係に例えてみればわかりますが、普通の友人関係だと、片方がもう片方に対して過度に配慮したりする特殊な関係など、長続きしません。国と国との関係もそれと同じことであり、「日本が韓国に配慮してあげる」という特殊な関係など、いずれ破綻するのです。
少なくとも日韓関係は、「日韓の特殊な関係」ではなく、「普通の隣国同士」の、原理原則に基づいた関係になるべきです。これは、「友好を志向しながらも、言うべきことは毅然と言い放つ」という関係です。それが成立しないなら、日韓関係は疎遠になるしかありません。
日朝関係にも6類型が成り立つ?
ただ、この「日韓関係の6類型」を眺めていて、北朝鮮との関係についても、同じような議論が成立しても良いと思うようになりました(図表2)。
図表2 日朝関係の6類型
カテゴリ | 分類 | 概要 |
---|---|---|
日朝友好 | Ⅰ 日朝対等論 | 日朝はさまざまな懸案を解決し、国交を樹立し、対等な主権国家同士、友誼を深め、手を取り合ってともに発展していく |
Ⅱ 対朝配慮論 | 日本は過去の歴史問題に多少配慮し、国交樹立後も、謝るところはきちっと北朝鮮に謝る | |
Ⅲ 対北追随論 | 日本は国交樹立後、北朝鮮が求める「正しい歴史認識」を全面的に受け入れ、半永久的に北朝鮮に謝罪し続ける | |
日朝非友好 | Ⅳ 北朝鮮放置論 | 日朝間のさまざまな懸案については、あえて関係を先送りにする |
Ⅴ 日朝断交論 | 北朝鮮との関係を断ち切る、あるいは北朝鮮と距離を置く | |
Ⅵ 誅朝論 | 北朝鮮が日本人拉致問題などを解決しないならば、いっそのこと北朝鮮に攻め込み、金王朝を滅ぼしてしまう |
(【出所】著者作成)
図表2は、図表1の「韓国」を「北朝鮮」に置き換え、いくつかの点で文章を書き換えたものです。自分で書いてみて驚いたのですが、こうやって眺めてみると、驚くことに日朝関係についても、見事に「6類型」が成り立っています。
冒頭で紹介した日朝議連の動きは、「Ⅰ~Ⅲ」のどれかに属していることは間違いないでしょう。これに対して、「日朝平壌宣言」の立場は「Ⅰ」ですが、現在の安倍政権が採用しているスタンスは「Ⅴ~Ⅵ」であると考えて良いでしょう。
もちろん、現在の日本には「軍事力を使って北朝鮮に侵攻する」ということはできませんが、それでも、「経済力を使って北朝鮮を締め上げる」ということは十分に可能ですし、また、現実に多大な成果を挙げています。また、経済制裁自体、北朝鮮との関係を断ち切っているのと同じことでもあります。
しかし、日朝議連はこうした安倍政権の動きを、まさに後ろから撃つものであり、私としては到底、容認できないのです。
結語:どちらに義務があるのか?
さて、こうした「日朝関係の6類型」という思考ゲームは、ある意味で非常に興味深いものです。図表2は私が急ごしらえで作ったものに過ぎませんが、今後、当ウェブサイトの中でもブラッシュ・アップし、折に触れて議論してみても良いかもしれません。
それはともかくとして、マス・メディアの報道などを読んでいて、私が抱いてしまう違和感があります。それは、
「安倍政権は、日朝関係をどうしようとしているのだろうか?」「安倍政権は、日本人拉致事件を解決するために、どうすればよいのだろうか?」といった議論です。
この点、確かに安倍晋三総理大臣は日本の行政の長として、日本人保護に最終責任を負っている人物です。しかし、それと同時に、有権者である私たち日本国民が、安倍総理に対して「北朝鮮にとらわれたままの日本人を救出するための十分な力」を与えているのか、自問する必要があります。
何度も申しあげて恐縮ですが、日本人拉致問題とは、だれか他人の問題ではありません。私たち日本国民一人ひとりが考えるべき問題です。そして、「日本人を救出するためには、憲法を改正し、北朝鮮に軍事侵攻できるようにするしかない」という議論が出てこないこと自体、大きな問題です。
それはさておき、日本人拉致事件を解決する責任は、安倍政権ではなく、第一義的には北朝鮮側にあります。「何をすれば日本国民が納得するのか?」「日本に対して誠意を見せるにはどうすれば良いのか?」について考える責任があるのは、安倍政権ではなく、金正恩の側です。
そして、「北朝鮮側が、日本国民が納得するような解決策を提示しない」のであれば、「日本側は、現在の憲法下でできる最大限の圧力を、北朝鮮に対して加え続ける」という選択肢しかないのです。
このあたり、「日本人拉致問題を日本国民が納得できるように完全解決する責任は、安倍政権にある」とする論調は、実に筋違いでナンセンスなものであると指摘しておきたいと思います。
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
そんな日韓関係論を巡って、素晴らしい書籍が出てきた。鈴置高史氏著『韓国消滅』(https://t.co/PKOiMb9a7T)。
日韓関係問題に関心がある人だけでなく、日本人全てに読んでほしい良著。
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なんでこんなに北朝鮮との関係を正常化したい自民党議員がいるのか不思議な人には、
「北朝鮮利権の真相」
という本のシリーズがオススメです。Amazonで古本がなぜか1円で売られていますので、お求めやすくなっていますねw
正直どうでもいいと思っている人が多いのでしょう。
【阿比留瑠比の極言御免】日朝正常化議連の怪(http://www.sankei.com/premium/news/180713/prm1807130005-n1.html)に今日のブログ主さんと同じような主張があります。阿比留さんによると6月21日の会合の講師は、平成14年9月の小泉純一郎首相(当時)の初訪朝時の交渉役だった田中均元外務審議官と、在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)の機関紙「朝鮮新報」の金志永・平壌支局長だったそうです。
まああの議連も怪しいことこの上ないですが、北朝鮮シンパと言えば、なんといっても共同通信。
https://www.sentaku.co.jp/articles/view/17329
(購読しないと読めませんが全文転載していた人がいます)
http://tskeightkun.blog.fc2.com/blog-entry-3072.html
年間1億円をハンドキャリーで上納。
でもって実際にジャーナリストとして活動できるかというと、同様に支局を置いているAP通信に関してこんな記事。
北朝鮮当局とAP通信の合意文書が暴露
https://dailynk.jp/archives/31771
経済制裁違反をジャーナリズムの金科玉条で平気で行っているようですね。