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【昼刊】邦人有罪判決は日中距離感を考え直す機会

中国で2015年に拘束された邦人男性に対し、昨日、懲役12年(!)などの厳しい実刑判決が下されました。これこそまさに「中国リスク」の1つといえるでしょう。

中国リスクと法治主義

中国で邦人男性に懲役12年!

すでにさまざまなメディアが報じていますが、中国で昨日、日本人に対してスパイ罪での実刑判決が下りました。この日本人は2015年に中国浙江省で拘束された愛知県出身の54歳の男性で、判決では懲役12年に加え、50万元(約850万円)の個人資産の没収などが宣告されたとしています。

ただし、昨日のいくつかの報道を調べても、この男性がいったいなぜ拘束され、なぜ12年もの実刑判決が下されたのかは、よくわかりません。今から1年少々前の産経ニュースの報道を読むと、この男性が調査していた地域の周辺に軍事施設があったことが、直接の拘束理由なのだそうです。

【中国6邦人拘束】/「何をすれば危険なのか…」曖昧な法運用 習近平政権、「スパイ摘発」を求心力強化に利用(2017.5.22 21:23付 産経ニュースより)

また、次の産経ニュースによれば、中国当局は2015年以降、スパイ摘発を理由に日本人の男女12人を拘束。4人が釈放されたものの、依然として8人が拘束されているとしています。

中国で拘束の邦人男性に懲役12年 スパイ罪で判決(2018.7.10 16:34付 産経ニュースより)

しかし、そもそも中国は法の厳格な運用が期待できない国です。いずれの方も、拘束容疑も曖昧ならば、取り調べもきちんとしている保証などありません。まさに、これこそが「中国リスク」の一種なのです。

この点、昨日の記者会見で菅義偉(すが・よしひで)官房長官は、「政府としては邦人保護の立場からできる限り支援を行なっていきたい」と明らかにしています。

中国で日本人スパイ罪実刑判決 官房長官「邦人保護で支援」(2018.7.10 18:12付 産経ニュースより)

ただ、菅長官は「司法プロセスが継続しており、コメントは控えたい」と述べていますが、私はこの点について、重要な疑義を抱いているのです。これについて説明する前に、「もりかけ問題」を例に挙げて、中国の司法プロセスについて考えてみたいと思います。

罪刑法定主義とデュー・プロセス

ところで、当ウェブサイトでは以前から「もりかけ問題」について、

安倍晋三(氏)が内閣総理大臣としての地位を悪用して個人的友人が経営する学校法人に違法な便宜を図った疑い

だと定義しています。もし、安倍総理が個人としての権力を悪用して友人に便宜を図っていたならば、それは由々しき問題です。しかし、仮にこれを「犯罪として」裁くためには、まず、

安倍晋三(氏)のどの行為が、具体的に、どういう法律の第何条に違反したのか?

という事実を明らかにしなければなりません。実は、日本などの法治国家では、「犯罪」は法律に規定されていなければ成立しません。たとえば、安倍総理が加計学園の加計孝太郎理事長や森友学園の籠池泰典前理事長から賄賂を受け取ることで、初めて「受託収賄罪」が成立する可能性があります。

【参考】受託収賄罪(刑法第197条第1項)

公務員が、その職務に関し、賄賂を収受し、又はその要求若しくは約束をしたときは、五年以下の懲役に処する。この場合において、請託を受けたときは、七年以下の懲役に処する。

また、安倍総理が賄賂を受け取り、内閣総理大臣として、官庁の官僚らに不正な行為を行うことを指示していたならば、斡旋収賄罪が成立する可能性もあります。

【参考】斡旋収賄罪(刑法第197条の4)

公務員が請託を受け、他の公務員に職務上不正な行為をさせるように、又は相当の行為をさせないようにあっせんをすること又はしたことの報酬として、賄賂を収受し、又はその要求若しくは約束をしたときは、五年以下の懲役に処する。

これが「法律で決まっていない犯罪は存在しない」、という、いわゆる「罪刑法定主義」の考え方です。法律で「賄賂を受け取って」と書かれている以上、賄賂を受け取っていないのに受託収賄罪や斡旋収賄罪が成立することは絶対にありません。

次に、ある人が有罪であるかどうかを決めるのは刑事裁判であり、訴える人は検事、裁く人は判事(裁判官)です。言い換えれば、検事が判事に対し、証拠を示したうえで、「この人間は有罪だと認めてくれ」と依頼する、ということです。

ということは、この場合、「私は無実だ」と主張する側(=被告人)が、「自分が無罪である証拠」を出す責任があるわけではありません。「この被告人が賄賂を受け取り、不公正なことをやっていた」と主張する側に、「有罪である決定的な証拠」を出す責任があるのです。

この、「法律が定める手続きに則って、適法に捜査を行い、適法に刑事訴訟を起こし、適法に有罪を宣告すること」を「デュー・プロセス」と呼ぶこともあります。

法治主義が期待できない国

以上の「罪刑法定主義」、「デュー・プロセス」などの考え方は、法治主義国では当たり前の発想です。

ときの権力者、独裁者が「コイツは俺に逆らうから気に入らない!」などとして、特定の人に対して勝手に罪状をでっち上げ、拘束し、死刑を執行するとしたら、人々は安心して生活することも、経済活動をすることもできません。

北朝鮮の場合は独裁者・金正恩(きん・しょうおん)が2013年12月12日に、自分の叔父である張成沢(ちょう・せいたく)を「国家転覆陰謀行為」により即日処刑しましたが、これなども、北朝鮮が罪刑法定主義、デュー・プロセスのいずれも完全に無視した未開国家である証拠です。

しかし、罪刑法定主義やデュー・プロセス、さらには人権を無視しているという意味では、中国や韓国も五十歩百歩でしょう。とくに、中国は「改革開放」により、西側諸国の投資資金が入り、見た目こそ豊かな国になりましたが、その実情は、中国共産党による一党軍事独裁国家です。

日本と違って、法律ではなく、中国共産党の幹部の意向によって有罪判決が下される可能性がある、という点については、決して無視できない問題なのです。

それでも中国に進出しますか?

さて、ここから先は経済合理性の議論です。あなたが企業経営者だったとして、中国に進出しますか?

当然、中国に進出するかどうかは、その目的(工場を作るためか、店舗を作るためか、証券投資を行うためか、など)やその条件(合弁・出資比率、契約、進出先の交通の便、インフラの整備状況など)、経済見通しなどに照らして総合的に判断することが一般的でしょう。

企業経営も遊びではありませんから、企業経営者としては、「感情」で判断するわけではありません。中国に進出することで利益が上がると判断すれば進出しますし、利益が上がらないと判断すれば進出しません。基本的には、ただそれだけの話です。

ただ、それと同時に、中国が私たち西側の自由民主主義諸国と同じ価値を理解している国ではない、という事実については、きちんと認識しておく必要があります。

中国に進出した結果、その企業に想定外の損失が発生すれば、経営者としてはその「想定外の損失」を発生させたことについて、経営責任を問われなければなりませんし、また、中国進出により、結果的に中国という「法治主義を理解しない化け物」を育ててしまったならば、そのことに道義的責任を感じるべきです。

今朝方の『【朝刊】米中貿易戦争はルール主義を無視する中国への鉄槌』でも議論しましたが、米国・トランプ政権が中国に貿易戦争を仕掛けていることは、トランプ氏の意思というよりはむしろ、米国と中国の「価値の衝突」という側面があると私は見ています。

では、日本は中国的な価値観と米国的な価値観のいずれを採用すべきでしょうか?

これについては迷うことなどありません。日本は自由主義、民主主義、資本主義、人権尊重、そして法治主義という価値観を大切にすべきであり、中国的な国家主義、独裁主義、共産主義、人権無視、そして人治主義という価値観からは距離を置くべきです。

今年は明治維新から150年ですが、言い換えれば、日本が西欧的な立憲君主制、三権分立、議会制民主主義を採用してから、すでに150年以上が経過した、ということです。これらの価値は、すでに日本社会に深く根を下ろしたと断言しても良いでしょう。

その意味で、今回の「日本人に対する懲役判決」というニュースは、日本が中国とどの程度、距離を置くかを考える上で、非常に重要な機会だといえるでしょう。

新宿会計士:

View Comments (3)

  • 相変わらずの寝ぼけコメントです。
    今回のコラムに賛同しましたが、一部に誤りの文章があり指摘します。
    >今年は明治維新から150年ですが、言い換えれば、日本が西欧的な立憲君主制、三権分立、議会制民主主義を採用してから、すでに150年以上が経過した、ということです。

    明治維新より150年経過したのは間違いではありませんが、維新直後から憲法が発効され、三権分立、議会政治が確立してません。日本が列強国から近代国と認められ不平等条約を変える目的で、憲法を作り、国会を開くまでに維新から23年を要した。最初の選挙では国民のわずか1%強しか投票できず、普通選挙は昭和になって、女性への選挙権は戦後からです。帝国憲法も今から見れば矛盾を抱えており、天皇の独裁権を認めたため、軍部の暴走を防ぐことができなかった。人権も尊重されず、何の手続き・書類もなし特高警察に捕まり、拷問取り調べが行われた。

    それでも、大津事件の裁判のように、政府の強圧な要求を退けており、日本の司法権が明治期には確立していた現れです。日本は様々な事件を教訓に法律を作り、裁判制度を整えてきた。国会で承認を得たものでしか法律として成り立たず、発効・告知も明確だ。それだけ歴史を積み重ねてきた。
    一方韓国や中国では、下地もなく一足飛びに国が作られ、法律ができた。そのため、韓国の検察・裁判は時の政権におもねるばかりか、国民の情緒感情にも左右される。まして中国には法律などあってなきものです。中国に行って、警察に捕まれば、この世との別れと思ってもよい。
    法律は明文化しただけで有効にはならない。国民が法律を尊重する精神がなければ死文化する。今の中国と韓国では誰もが法律を無視している。

    • 本当かどうか知りませんが、こういう記事もありました。

      https://dailynk.jp/archives/53243
      【対北情報戦の内幕-8-】公安調査庁はなぜ中国へ「スパイ」を送ったのか

      今回の判決を受けた日本人が、本当にNOC要員なのかどうかを知る術はありませんが、もしそうならこんな判決が出るまで、「捕虜交換」もできない国家に尽くす諜報要員など育ちようがありませんね。

      • ごめんなさい。レスするところを間違えました。本記事に対する投稿でした。