最近の韓国メディアにおける「ウォン安」警戒記事は、やや常軌を逸しているようにも思えます。この手の記事があまりにも多いので、本日は久しぶりに、日本の通貨ポジションと「国益」についての論点整理を行っておきたいと思います。
目次
またしても「ウォン安」記事
少々神経質すぎる?韓国メディア
当ウェブサイトでは先週の『「韓国のジレンマ」:ウォン安も地獄、ウォン高も地獄』で触れたとおり、最近、韓国メディアには「韓国ウォンの為替相場次第で韓国経済が減速する」、といった記事が頻繁に掲載されています。為替相場変動に対し、韓国メディアは少し神経質になり過ぎているのではないでしょうか?
こうしたなか、先週金曜日には、『中央日報』(日本語版)に、「コリアエクソダス」という単語が用いられた記事が掲載されています。
韓国ウォン・株を売る外国人…「コリアエクソダス」始まる?( 2018年06月29日10時41分付 中央日報日本語版より)
この記事も何だかよくわかりません。いちおう、記事の要諦の部分を抜粋すると、おそらく次の箇所だと思います。
「米国が利上げのスピードを速めると、新興国は通貨価値と株価が同時に下落する「緊縮発作」にあえいでいる。ここに米中間の貿易戦争が本格化して、外国人投資家は相対的に安全な資産を求めて動き始めた。この衝撃波が韓国市場まで広がってきている様相だ。」
しかし、米国が利上げのペースを速めるとの観測が高まっていることは事実ですが、だから何か気にする必要があるのでしょうか?株価が下落した場合、年金基金や投資信託などからは運用資産の評価損が発生するかもしれませんが、それはあくまでも評価損であって、通貨危機とは無関係だからです。
だいいち、株式は返済義務のある負債ではありません。株価が急落したところで、別に韓国企業が潰れる、というものではないからです。くどいようですが、『【準保存版】韓国の外貨準備統計のウソと通貨スワップ』にまとめたとおり、韓国経済の本当の問題点は「外貨建ての借入金」であって、株価ではありません。
実際の為替相場と株式相場
それに、実際に韓国のドル・ウォン相場(USDKRW)を左軸に、韓国の株価指数(KOSPI)を右軸にとって、それぞれの推移を眺めてみると、現在のドル・ウォン相場、株価指数はともに、別に危機的な状況にあるようには見えません(図表)。
図表 USDKRW(左軸)、KOSPI(右軸)
(【出所】WSJより著者作成。ただし、グラフの軸はゼロから始まっておらず、また、左軸と右軸で目盛が異なる点に要注意)
たしかに、今から10年前の「リーマン・ショック」直後の2008年11月頃には、韓国からの資金流出リスクが強く意識され、為替相場は1ドル=1502ウォン、株価指数は949ポイント程度にまで下落した瞬間がありました。
しかし、株価指数はその後、顕著に回復し、李明博(り・めいはく)、朴槿恵(ぼく・きんけい)両政権時代を通じて1900~2100ポイント前後で推移していますし、文在寅(ぶん・ざいいん)政権下では株価は2500ポイントを超えた瞬間もあったほどです。
一方の為替相場についても、2009年2月末頃には1ドル=1586ウォンにまで下落したものの、その後はじりじりと持ち直しており、一時期を除くと、1ドル=1100~1200ウォン程度のレンジで推移している状況にあります。
韓国が「新興市場諸国(EM)」のカテゴリーに入っていて、米国の利上げの影響を大きく受ける可能性があることは事実ですが、だからといって、現状でそこまで神経質になる必要があるのかといわれれば、そこは大いに疑問です。
IMFのトラウマ、リーマンのトラウマ
ただ、どうやら韓国では、「IMFのトラウマ」というものがあるようです。
これは、1997年にタイで始まったアジア通貨危機が各国に波及する中で、インドネシアや韓国にも通貨の売り浴びせの流れが押し寄せ、国際通貨基金(IMF)による救済を余儀なくされた事件のことを指します。
この「IMFショック」の際、韓国は徹底した緊縮財政や財閥解体を余儀なくされ、最後まで韓国を金融面で支えてくれた日本に対して、「日本が貸し剥がした」という、事実無根の逆恨みめいた発言が出るほど、韓国国内では「通貨危機の恐怖」として語り継がれているようです。
それだけではありません。実は、韓国は約10年に1度、通貨危機に見舞われている国でもあります。「IMFショック」の11年後、リーマン・ブラザーズの経営破綻に端を発する世界的な金融危機において、韓国ウォンが売り浴びせられ、また、韓国の企業・銀行は、ドル資金の調達が難しくなりました。
この危機を乗り越えたのは、日本を初めとする主要国から差し出された「通貨スワップ」という救いの手であり、再びIMFの救済を受けないで済みました。余談ですが、この際も韓国は「日本の支援が遅かった」とばかりに恨み事をぶつけて来ています。
「韓国が厳しい時、日本が最も遅く外貨融通」(2009年07月07日08時07分付 中央日報日本語版より)
李明博(り・めいはく)政権時代の韓国の尹増鉉(いん・ぞうげん)企画財政部長官(=当時)は
「韓国が最も厳しい時に外貨を融通してくれたのは、米中日の中で日本が最後だ/世界第2位の経済大国なのに、日本は出し惜しみをしている気がする/日本は周辺国が大変な時は率先し、積極的に支援の手をさしのべてほしい。アジア諸国が日本にふがいなさを感じるゆえんだ」
と、日本に対して恨み節をぶつけて来たのです。「国民の血税で助けてやっても恨み節をぶつけて来たことがある」という事実については、私たち日本国民はしっかりと記憶しておく必要があるでしょう。
韓国を助ける価値
日本国の通貨ポジションは世界最強!
ところで、金融規制の専門家という立場から見れば、日本の外貨ポジションは世界最強です。
なぜなら、常時100兆円を超える外貨準備を保有していて、日銀は米FRBやECB、英イングランド銀行などとの間で、期間・金額ともに無制限の為替スワップのラインを持っていますし、さらに日本の通貨・日本円自体が、国際的に極めて強い通用力を有しているからです。
とくに通貨危機などが発生した場合、世界の基軸通貨である米ドルとともに、真っ先に買われる通貨は日本円とスイス・フランであり、真っ先に売られる通貨は、韓国ウォンや中国人民元(CNYやCNH)などのEM諸国通貨です。
このため、日本は外交力を強めるために、もっと多くの国と通貨スワップや為替スワップを締結すべきだと思うのですが(たとえばインドや台湾など)、こうした戦略は人民元の国際化を図る中国に対する牽制としても、非常に有益であるはずです。
助けても助けなくても恨み節?
ただ、私は「金融規制の専門家」である以前に、1人の日本国民でもあります。総論としては、「通貨ポジションが最強である日本」が、「通貨ポジションが弱い国」を助けることには賛成ですが、そのこと自体はあくまでも日本の国益に資する場合に限られるべきです。
この点、韓国が危機に備えて支援を欲しがっているという事情もよくわかりますが、もしもの通貨危機が生じた場合に彼らを救済するための資金の出所も、もとをただせば私たち日本国民の税金です。助けてやっても恨み言ばかりの国に、私たちの貴重な税金を1円たりとも使ってほしいとも思いません。
また、天下の財務省様や日経様の言い分によると、「日本は財政危機(笑)にあり、財政再建(笑)が必要」だそうですから、なおさら血税を韓国に投じる必要などないでしょう(笑)
…というのは冗談として、やはり、韓国に対して通貨スワップを締結してやるかどうかについては、彼らと通貨スワップを締結することで、どの程度、日本の国益に資するのか、という観点から判断すべきでしょう。
実際、韓国が日本に対して「恨み節」をぶつけて来たとしても、仮に――あくまでも「仮に」――、韓国が日本に文句を垂れながらも結果的に「海洋同盟チーム」の一員として、日本と利益をともにし、中国や北朝鮮に対してキッチリと牽制してくれるならば、ここは我慢して、韓国を救済すべきです。
必要なスワップは1000億ドル?
では、日本が韓国に対して通貨スワップを締結してやるとすれば、その金額はいくらになるのでしょうか?
結論からいえば、韓国が必要としている、日本との通貨スワップの金額は、米ドル換算でおよそ1000億ドルです。その計算根拠については、これまで散々、議論して来ましたので、細かい計算についてはここでは繰り返しません。
「日韓新スワップ1000億ドル」の計算根拠については、先ほども引用した『【準保存版】韓国の外貨準備統計のウソと通貨スワップ』に加え、『日韓スワップ「500億ドル」の怪』などの過去記事などもご参照ください。
ただし、1000億ドル(現在の為替相場で11兆円程度)といえば、日本の外貨準備の10%弱にも相当する金額です。そして、外貨準備は「財務省の資産」ではありません。「私たち日本国民の資産」です。この資産から虎の子を10%も韓国に対して拠出することのメリットは、いったい何なのでしょうか?
先ほど私は、「仮に韓国が『海洋チーム』の一員として、日本とともに行動するならば」、という前提条件を付けました。では、「韓国が『海洋チーム』の一員として日本とともに行動する」とは、いったい何なのか、そしてその可能性はどの程度あるのでしょうか?
具体的には、日本が直面する最大の脅威である北朝鮮の核問題、大量破壊兵器問題、日本人拉致問題等を巡り、韓国が日本と歩調を合わせてくれることです。また、尖閣諸島の領有権問題などを含め、台頭する中国の軍事的脅威に、韓国が一緒に立ち向かってくれることです。
そのような可能性はあるのでしょうか?
もう答えは出ています
この期に及んで、その可能性を、敢えて論じる必要はないでしょう。
日本政府の判断は、すでに出ています。あくまでも私の理解も含めて具体的に思い起こしてみれば、ぱっと思いつくものだけでも、10個や20個は列挙できてしまいます。
- 2015年12月の「日韓慰安婦合意」を誠実に履行しようとしないこと。
- 慰安婦問題を蒸し返そうとしていること。
- 全世界で慰安婦像の設置を強行していること。
- 高高度ミサイル防衛システム(THAAD)の運用を妨げていること。
- 竹島を不法占拠していること。
- 北朝鮮に対する「最大限の圧力」という国際的な協調を乱したこと。
- 仏像を日本から盗み出して返そうとしないこと。
- 「徴用工問題」というありもしない問題を捏造して日本を糾弾していること。
- 日本海という呼称を「東海」という名称に勝手に書き換えようとしていること。
- 旭日旗を「戦犯旗」などと呼んで侮辱していること。
これらのなかには、韓国政府の問題もありますが、韓国国民の問題もあります。しかし、いずれの問題についても、根っこにあるのは政府、国民を挙げた韓国の日本に対する敵意です。そんな韓国を日本が金融面で助けたとして、これらの敵意が好意に転じる可能性は、あるのでしょうか?
もっといえば、韓国で報じられるさまざまな記事、過去に日本が韓国を助けた時の韓国政府高官らの発言などから判断する限り、これから日本が新たな通貨スワップを韓国に提供したならば、半島有事などが発生した際に、韓国は絶対に日本の「味方」となってくれるとでもいうのでしょうか?
くどいようですが、韓国が必要としているのは、11兆円、あるいは1000億ドルという巨額の資金です。「財政危機(笑)」にあるはずのわが国が、ここまでの巨額な血税を韓国に提供することによって、韓国が日本の「味方」となってくれるのであれば、韓国に通貨スワップ協定を提供すべきでしょう。
いざというときに韓国が日本の味方になってくれるのかどうか。これまで散々、韓国に煮え湯を飲まされ続けてきた日本では、すでにその答えは出ていると思われます。
View Comments (1)
< 更新ありがとうございます。
< 日本の外貨準備高の10%、たかがというには額が大きいですが、11兆円ぐらい隣国の韓国が困っているなら、明確な期限、言葉ではなく書面で返済についての文章化をしてくれるなら、日本にも影響があるのだから、援助してあげるべきだと思います。反日といえども、それはプライド高い故の逆の意味、日本は全く助けられた事はないが、豊富な外貨で助けれるのは日本だけ。もう一度韓国にチャンスを与えても良いと思います。え?
< という事を私が言うはずがない(嘲笑)。1ミリも思ってない。今のは媚韓保守議員、野党議員や親韓企業、ジャーナリスト、朝日はじめマスゴミらの言いそうな事。今の世相でそういう妄言を言えば、90%以上のほとんどの日本国民は、見識を疑うだろう。
< 日本国民の大事な血税を、『日本人嫌い』『日本人を侮蔑したい』『日本は助けるのが当然だ』『嫌いだが借りてやっても良い』とのたまう韓国政府、愚民には、1ドルも1円もスワップなどしない。マジで、今度スワップしたら間違いなく返って来ない。南北統一基金だとか血迷い事言ってうやむやにされる。
< 20年前も10年前も日本が最後まで助けたのに、『日本が一番遅い』だの『日本はアジア各国から信用されない』だの、到底看過出来ない事を平気で言い、また日本政府も大人の対応なのか、抗議しない。ナメられてるよ、まったく。
< 韓国が経済破綻して日本企業に悪影響与えようが、そんな犯罪国家侮日国家で儲けようとしたツケだ。連鎖倒産、経営悪化しても自業自得です。分かったか、○レ。
< 韓国発でマスゴミ、財界人、青瓦台、議員、韓国銀行から盛んに1,000億ドル(寝とんか?寝言は寝てから言えッ)という空前のスワップ話が出ていますが、あんな愚民国にするなら、台湾、ベトナム、タイ、インドネシア、ラオス、マレーシアあるいは首相が初訪問した東欧諸国と結んだ方が、ずっとマシ。正直、韓国と結ぶんなら、ドブに捨てた方が良い(笑)。ハイ、以上です。