【昼刊】米国経済の「メガクラッシュ」に警戒する

日本時間の今朝、米FRBが金利を引き上げました。ただ、現在の米国の場合、トランプ政権がやろうとしている経済政策が、米国経済をクラッシュさせようとしているように思えてなりません。

金融引き締めが続く米国

FRBの利上げとフィリップス曲線

米国のFRBは日本時間の今朝早朝のFOMCで、政策金利にあたる「FF金利」の誘導レンジを0.25%引き上げ、1.75~2.00%とすることを決定しました。

Fed Raises Interest Rates, Sets Stage for Two More Increases in 2018(米国夏時間2018/06/13(水) 19:50付=日本時間2018/06/14(木) 08:50付 WSJより)

米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)によると、今回の利上げは全会一致で決定され、かつ、年内の利上げ回数の予測を3月時点の3回から、今回は4回に変更しているとのことです。パウエル議長は「経済成長、雇用市場ともに堅調であり、インフレ率もターゲット内にある」と述べています。

これをどう読むべきでしょうか?

まず、記事を読む大前提として、米国では「アメリカ中央銀行」というものは存在せず、連邦準備制度理事会(FRB)が金融政策を決定しています。そして、米国の場合は、FRBの政策目標は

  • 最適インフレ率の達成
  • 雇用の最大化

という2点にあります。

日本銀行や欧州中央銀行(ECB)などは、「雇用の最大化」を政策目標として負っているわけではありませんが、これはいったいどういうことでしょうか?

その理由は、「フィリップス曲線」にあります。

この「フィリップス曲線」とは、インフレ率(物価上昇率)と失業率の間に負の相関関係がある、という統計調査結果にあります。各国で観測されるフィリップス曲線に多少の差異はありますが、簡単に言えば、

  • 物価(あるいは賃金)の上昇率が高まれば失業率は低下する
  • 物価(あるいは賃金)の上昇率が低下すれば失業率は高まる

という関係にある、ということです。

どうしてこういう関係にあるのか、その理由については、「物価が上昇する局面では労働力が不足するためだ」などと説明されることがありますが、正直なところ、よくわかりません。インフレ率と失業率に「因果関係」があるのか、「相関関係」があるのかによって、最適な政策は変わってくるはずです。

しかし、ここでは事実として、「米国では中央銀行に相当するFRBが2つの政策目標を掲げている」という点を知っておく必要があります。

インフレ率と失業率はどうなっているのか?

FRBが政策として掲げているインフレ率は2%ですが、現在の米国のインフレ率(いわゆるコア・インフレ率)は、今年1月から4月までの時点で、おおむね2%前後で推移していることがわかります。

コア・インフレ率
  • 2018年1月…1.8%
  • 2018年2月…1.8%
  • 2018年3月…2.1%
  • 2018年4月…2.1%
  • 2018年5月…2.2%

(【出所】U.S. Bureau of labor statistics)

一方で、米国の失業率は史上最低水準にまで落ちています。

非農業部門失業率
  • 2018年1月…4.1%
  • 2018年2月…4.1%
  • 2018年3月…4.1%
  • 2018年4月…3.9%
  • 2018年5月…3.8%

(【出所】U.S. Bureau of labor statistics)

2008年のリーマン・ブラザーズの経営破綻時に、米国の失業率は10%台を記録したこともあったのですが、いまや失業率は史上最低水準にあり、いわば「自然失業率」(つまりこれ以上失業率が下がらない状況)にあると見て良いでしょう。

もし米国が、このまま金利を引き上げなければ、どうなるか。

景気が過熱し、インフレ率が上昇し過ぎてしまいます。場合によっては、資産バブルが発生してしまうかもしれません。ということは、米国の金融政策の目標に照らすならば、このタイミングで利上げするのは非常に自然な話であり、かつ、利上げのペースはさらに早まる可能性があります。

嫌な予感しかしない、トランプ経済政策

トランプ政権の功績ではない!

米国の好景気について、トランプ大統領はつい先日、こんなツイートを発しています。

Robert De Niro, a very Low IQ individual, has received too many shots to the head by real boxers in movies. I watched him last night and truly believe he may be “punch-drunk.” I guess he doesn’t… (2018年6月13日 18:40付 ツイッターより

…realize the economy is the best it’s ever been with employment being at an all time high, and many companies pouring back into our country. Wake up Punchy!(2018年6月13日 18:40付 ツイッターより

これは、トランプ氏が俳優・映画監督のロバート・デ・ニーロ氏を「IQが低い!」と罵ったコメントであり、このなかで、トランプ氏は「現在の経済は失業率が史上最低水準にあり、多くの企業がわが国に戻ってきている」と述べています。

しかし、現実にインフレ率と雇用の最大化が達成され始めたのは、トランプ政権下でFRBのパウエル議長が就任した時点ではありません。オバマ政権下でバーナンキ、イエレン両議長がQE(量的緩和政策)を遂行していたころから一貫して低下しているのです。

トランプ政権下で米国に資産バブルが発生?

それだけではありません。

現在の米国経済は、すでに十分な好景気状態にあるのですが、トランプ氏は法人税の減税などを通じ、さらに米国への投資を勧誘しています。先日の日米首脳会談で、安倍総理が米国への追加投資を表明したことは記憶に新しい点ですが、これは正しい政策なのでしょうか?

端的に言えば、「資産バブルに一直線」、です。場合によっては、FRBの利上げが間に合わず、米国経済が「ハード・ランディング」、という可能性もあるでしょう。その理由は、好景気時に財政政策を吹かすと、ひたすら景気を過熱させる効果しかもたらさないからです。

しかも、トランプ政権は国内の好景気にも関わらず、中国や日本、カナダやメキシコ、さらに欧州連合(EU)に対して、貿易戦争を仕掛けています。外国からの輸入品に次々と制裁関税を課していく方法だと、物価の上昇が加速することになります。

つまり、法人税減税などの「財政政策」と「輸入制限」の合わせ技で、米国経済は過熱し、物価上昇が加速し、金利が上昇し、資産バブルが発生し、ハンドリングを間違えるとクラッシュしてしまうでしょう。これが「トランプノミクス」の正体です。

杞憂だったら良いのだが…

こうした「米国経済のメガ・クラッシュ」が私の杞憂だったら、非常にうれしいと思います。しかし、残念ながら、トランプ政権の経済政策を見ていると、本当に嫌な予感しかしないのです。

まず、トランプ政権が世界各国を相手に輸入関税をはじめとする貿易戦争を仕掛けまくれば、米国の輸入品価格が押し上げられます。

もちろん、この問題を巡っては、EUや日本やカナダ、さらには中国などが一致団結してWTOに提訴すれば、米国が敗北するという可能性は高いでしょう。しかし、WTO裁定が出るまで時間が掛かります。米国の輸入品価格が押し上げられれば、これは間違いなく物価上昇圧力となります。

次に、すでに好景気にあるのに、法人税減税などの財政政策を吹かせば、企業の投資意欲が高まり、債券市場などを通じて市場金利が上昇します。米国の金利が上昇すれば、投機資金が米国に戻ってくるため、さまざまな資産価格が、実態と離れた水準にまで上昇する懸念もあります。

不動産、株式を中心とするリスク資産の価格が実態と乖離した水準にまで押し上げられることを、一般に「資産バブル」と呼ぶのですが、こうした資産バブルが崩壊すれば、米国経済にはリーマン・ショックを上回る衝撃が生じかねません。

米国が自分の意思で資産バブルを発生させる分には勝手にやれば良いのですが、米国の通貨・米ドルが全世界で使われる「基軸通貨」である、という問題については、重く見る必要があります。つまり、米国の経済がクラッシュすれば、全世界を道連れにするからです。

こうした「金融市場の津波」の発生に、私たちは十分に警戒する必要がありそうです。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. とゆら より:

    >不動産、株式を中心とするリスク資産の価格が実態と乖離した水準にまで押し上げられることを、一般に「資産バブル」と呼ぶのですが…

    「実態」はどこの統計で判断すれば良いでしょうか。
    例えば、前五年移動平均とかそういうものと比較してバブルか否か判断するのでしょうか。

    それにしてもリーマン・ショックの再来は勘弁です。
    すでに米金利の上昇で新興国を中心に影響が出てきていますし。

  2. 招き猫 より:

    いつも大切なこと伝えてくださいましてありがとうございます。
    アメリカの株価かなりいいところまできているようですね。私もリーマン・ショックの再来が来ないことを祈るばかりです。山が高いと谷が深くなるとよくいわれますが最近の株売買、AIの活用で極端に一方的になるようなのでその時が来たらと思うと。。。
    ここのサイトと出会うきっかけになったの入院してた時と細谷火工という会社の株を一時持っていた時期があったかです。朝鮮半島の情勢で上がったり下がったり心臓に悪いので今はもってないですが。そんなことで世界情勢を知らないと大きな津波に飲み込まれてしまうので今度こそ上手に避難できるようにしたいです。

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