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見えてきた「チーム日米」対「チーム朝鮮」

昨日は『米朝首脳会談中止の敗者と勝者』で、米朝首脳会談の中止について詳報しました。しかし、その後、安倍晋三総理大臣、ドナルド・トランプ米大統領、そして文在寅(ぶん・ざいいん)韓国大統領が、それぞれ重要な動きを見せています。これらを丁寧に探っていけば、「チーム日米」対「チーム朝鮮」、という対立構造が見えてきます。

昨日の振り返り

ドナルド・トランプ米大統領は5月24日付で、北朝鮮の独裁者である金正恩(きん・しょうおん)に宛てられた、6月12日に予定されていたシンガポールでの米朝首脳会談を見送ると通告する文書を発表しました。これについては昨日も『米朝首脳会談中止の敗者と勝者』で詳報したばかりです。

この中で私は、「米国を挑発した結果、逆に会談中止を通告された北朝鮮こそが、最大の敗者だった」、「韓国が主導して設定された会談が中止になった以上、韓国にとっても外交的な敗北だ」、「中国は今回の会談で米国と何らかの密約を持っていた可能性があり、そうだとしたら中国も敗者だ」と述べました。

そして、最初から一貫して北朝鮮の核、大量破壊兵器などのCVID  ((CVIDとは、「完全な、検証可能な、かつ不可逆な方法での廃棄」(“Complete, Verifiable and Irreversible Dismantlement”)のこと))  を主張してきた日本こそが、この場合、最大の勝者である、と申し上げました。その理由は、米国が北朝鮮に対して変な妥協をする可能性が極めて少なくなったからです。

ただ、米国が米朝首脳会談の中止を発表した直後に、日本の安倍晋三総理大臣、そして米国のトランプ大統領自身が、非常に意味深な発言を行っているのです。それは、2人とも、米朝会談の必要性や再開の可能性に言及した、という事実です。

安倍総理の存在感

サンクトペテルブルク訪問

まず、安倍総理の発言を見ておきたいのですが、その前に、少しだけ「寄り道」をしたいと思います。

安倍総理は現在、「サンクトペテルブルク国際経済フォーラム」などに参加するために、ロシア・サンクトペテルブルクを訪問しており、フランスのエマニュエル・マクロン大統領との会談王岐山(おう・きざん)中国国家副主席との立ち話のほか、ロシアのウラジミル・プーチン大統領との会談も予定されています。

ロシアではときどき、国際経済フォーラムが開催されており、安倍総理自身が何度かこの手のフォーラムに参加しています。日本はロシアとの間で北方領土問題などの懸案を抱えているものの、安倍総理の対話の窓口を維持しようとする姿勢は、素直に評価して良いでしょう。

ロシアは今から4年前の2014年3月、ウクライナ領だったクリミア半島を併合し、国際社会から厳しく糾弾され、プーチン大統領はG8から追放されました。また、欧州連合(EU)は現在でも対露制裁を続けており、欧露関係は非常に悪い状態にあります。

それだけではありません。英国はロシアの元スパイに対する殺人未遂疑惑により、事実上、ロシアと断交状態に近づいていますし、米国も、2016年の大統領選にロシアが介入した疑惑などで、ロシアとの関係が揺れています。

2014年以降、西側諸国の中でロシア制裁に大々的に加わっていないのは日本くらいなものですが、逆にロシアから見れば、日本との外交関係が相対的に好転している格好だ、ということもできるでしょう。

実際、今回の経済フォーラムに首脳が参加している国はそれほど多くなく、G7諸国では日本の安倍総理とフランスのマクロン大統領だけです。安倍総理としては、こうした地道な積み重ねで、プーチン氏に「恩を売る」格好になっているのです。

「日米、そして日米韓」という謎の発言

さて、米朝首脳会談の話題に戻りましょう。安倍総理は多忙のなか、サンクトペテルブルクで記者団との会見に応じました。

米朝首脳会談についての会見(2018/05/25付 首相官邸HPより)

安倍総理の発言を、そのまま紹介すると、次のとおりです。

北朝鮮の問題については、米朝首脳会談に向けてトランプ大統領と緊密に連携をとっており、その方針、認識について完全に一致してきています。/その中で、今回、米朝首脳会談が実施されなくなったことは残念ではありますが、今回のトランプ大統領の判断を尊重し、支持します。/大切なことは、核、ミサイル問題、そして何よりも重要な拉致問題が実質的に前進する機会となる、そのような首脳会談にしなければならないということであります。/今後、日米、そして日米韓、またロシア、中国、国際社会としっかりと連携し、様々な問題の解決のために全力を尽くしていきたいと思っています。」(下線部は引用者による加工)

ここでは私が違和感を覚えた部分に2ヵ所、下線を引きました。このうち、後者の方から見ていきましょう。「日米、そして日米韓、ロシア、中国、国際社会としっかり連携し」というくだり、非常に不思議です。なぜ「日米、そして日米韓」と述べているのでしょうか?

おそらくこれは、安倍総理のなかで、「日米」というユニットと、「日米韓」というユニットは、それぞれ別に存在している、ということだと思います。

「日米」とは、日本にとっても最も重要な日米同盟の枠組みに従い、日米両国が緊密に連携しながら主体的に動くというユニットであり、いわば、基本的な単位です。これに対して「日米韓」とは、「日本+米国+韓国」、ではありません。あくまでも「日米韓」が一心同体となるユニットです。

言い換えれば、「韓」は「日米」の付属物であり、韓国政府が日米の言うことを聞かず、勝手な行動をすることは許されない、という発想です。もし、安倍総理が「米国や韓国と連携しよう」と思っているのならば、このくだりは次のようになるはずです。

日本は米国、韓国、ロシア、中国、国際社会としっかり連携し

それなのに、安倍総理の発言では、米国ではなく「日米」、韓国ではなく「日米韓」となっていて、それにロシア、中国が単独で引用される、という形態をとっているのです。よって、安倍総理の発言は、「まずは日米同盟が主導権を取り、これに日米韓連携が従う」、と読むべきなのです。

ついでに、朝鮮半島核問題で沈黙を守っているロシアと中国を名指ししたことで、この問題に両国を巻き込むつもりがある、ということも、強く意識する必要があるでしょう。

「米朝首脳会談中止が残念だ」の真意

次に、米朝首脳会談が実施されなくなったことが「残念だ」と述べた下りがありますが、これは果たして安倍総理の「ホンネ」でしょうか?

私にはそうは思えません。というのも、今回のシンガポール会談は、文在寅(ぶん・ざいいん)韓国大統領がスタンドプレーで日本を除け者にし、勝手に米国に提案したものだからです。文在寅政権が核のCVIDにも日本人拉致問題の解決にも関心を持たない以上、これは迷惑以外の何物でもありません。

また、首相官邸HPの発表には存在していませんが、次の時事通信の報道だと、「米朝首脳会談は必要不可欠」、「(米朝会談は)今後も追及していく必要がある」、などと述べたのだそうです。

米朝会談は必要不可欠=安倍首相(2018/05/26-00:13付 時事通信より)

繰り返しですが、安倍総理にとっての韓国とは、「対等な連携相手」ではありません。「日米同盟の付属物」です。時事通信の報道が事実ならば、安倍総理は「米朝首脳会談自体は行われるべき」だが、それは「韓国の影響力が排除されたところで行われるべきだ」、と言いたかったのだと思います。

トランプ氏のツイート

米朝首脳会談、急転で開催の可能性も

一方、トランプ大統領自身も金曜日深夜(日本時間土曜日午前)になってから、北朝鮮との首脳会談について、開催される可能性に言及しています。

We are having very productive talks with North Korea about reinstating the Summit which, if it does happen, will likely remain in Singapore on the same date, June 12th., and, if necessary, will be extended beyond that date.(2018年5月26日 9:37付 ツイッターより)

意訳を交えるならば、ツイートの内容は次のとおりです。

我々は北朝鮮との間で、サミットの再開に向けて非常に生産的な会話を行っている。もしそれが行われるならば、場所はやはりシンガポールであり、日付は同じ6月12日か、もしくはそれ以降となるだろう。

これを、どう読むべきでしょうか?

トランプ氏の真意も「韓国抜き」か?

ここでもっとも重要なポイントは、「北朝鮮との間で」、会話を行っている、という下りでしょう。

これは、当初、米朝首脳会談が行われるに至った経緯を考えると、よくわかります。まず、3月5日に鄭義溶(てい・ぎよう)国家安保室長などから構成される韓国政府の「特使」が北朝鮮を訪れて金正恩と面会し、米朝首脳会談の開催提案を「口頭で」受け取ったところから始まります。

鄭室長はそのまま米国に飛び、米国時間の3月8日、ホワイトハウスを訪れて金正恩のメッセージを伝達。トランプ氏がこの「口頭の」提案を受け取る形で、米朝首脳会談に応じると表明した、という体裁です。ここに金正恩からの文書(たとえば親書)は一切含まれていません。

このように考えていくと、昨日も紹介した、トランプ氏から金正恩に宛てられた「親書」とは、「金正恩から韓国を介して口頭で提案がなされたこと」に対する意趣返しでもあります。要するに、「韓国を経由して口頭で提案してきた北朝鮮の非常識さ」と、「親書で返す米国の丁寧さ」を際立たせる、という狙いです。

そして、「韓国経由で提案された」米朝首脳会談を、いったんキャンセルにしてリセットし、あらためて「北朝鮮と直接」、首脳会談に向けて話し合う、という体裁です。端的に言えば、「韓国外し」でしょう。

「生産的な」とは何を意味するのか?

もう1つ、トランプ氏のツイートで気になるのは、「生産的な(productive)」、というくだりです。

トランプ氏は以前から常々、「時間を無駄にしたくない」と主張して来ました。こうした発言に照らすならば、この「生産的な」とは、「北朝鮮が提示する変な条件闘争に応じる必要がないこと」だと考えるのが、自然な解釈ではないでしょうか。

つまり、トランプ氏にとっては、わざわざシンガポールくんだりまで出掛けて会談を行うのであれば、その前の段階で、「CVIDを呑むか、呑まないか」、「日本人拉致事件を解決する意思はあるのか、ないのか」について、今いちど詰める、ということでしょう。

米朝間の対話がどう流れていくのか、そしてそこに日本がどう関わっていくのかについては、引き続き、興味深く見守っていく価値がありそうです。

正気の沙汰ではない韓国

再び南北首脳会談

こうしたなか、日本時間の昨日夜、米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)に、こんな記事が配信されました。

Kim Jong Un, South Korea’s Moon Meet Amid Uncertainty Over U.S. Summit(米国夏時間2018/05/26(土) 07:27付=日本時間2018/05/26(土) 20:27付 WSJより)

(※まったくの余談ですが、WSJの記事では北朝鮮人である金正恩についてはKim Jong Un(キム・ジョン・ウン)とわかりやすく表記されている一方、韓国人である文在寅氏についてはMoon Jae-in(モオン・ジャエ・イン)と、朝鮮語の原文の発音からかけ離れたローマ字表記となっています。おもしろいですね。)

著作権があるので、原文をそのまま転写するのは控えたいと思いますが、記事の内容を、ごくかいつまんで日本語で要約すると、次のとおりです。

  • 南朝鮮の大統領モオン・ジャエ・インと北朝鮮のリーダー・キム・ジョン・ウンは土曜日、サプライズで2時間のミーティングを行った
  • 両朝鮮の関係を維持し、米朝首脳会談を軌道に乗せるのが目的と見られる
  • 南朝鮮大統領府によれば、今回、両名は非武装地帯の北側で会談し、意見を交わした
  • 南朝鮮大統領府の報道官・ヨオン・ヨング・チャンは「2人の首脳は4月27日の板門店宣言の履行や米朝サミットの成功などについて率直な意見交換を行った」と述べた
  • 詳細はセオウル時間の日曜日午前10時に発表される

ちなみに「南朝鮮」とは記事の “South Korea” の直訳であり、また、ところどころ出てくる「モオン・ジャエ・イン」だの、「セオウル」といった単語は、それぞれMoon Jae-in(つまり「ぶん・ざいいん」)やSeoul、つまり韓国の首都・ソウルのローマ字表記です。分かり辛いですね(笑)

韓国はもはや「敵国」

南北首脳会談の内容は日曜日の朝10時に公表されるのだそうですが、別に公表しなくても、話し合われた内容はただ1つ。「どうやってCVIDを拒否し、段階的な非核化で押し通すか」、であることは、ほぼ間違いありません。

おそらく、文在寅氏にとっては、今回の行動も、彼のなかでは一貫しているのだと思います。要するに、「北朝鮮が主張する段階的な非核化を米国に呑ませること」と、「朝鮮半島の平和統一」、あわよくば「核武装した統一朝鮮の大統領となること」、です。

しかし、北朝鮮の「段階的な非核化」とは、簡単にいえば「その場しのぎのウソをついて時間を稼ぎ、核開発を続ける」ことを意味します。今回も米国や日本がこの「段階的な非核化」で合意した場合、北朝鮮は間違いなく、いままでとまったく同じように核開発を継続します。

いままで日本や米国にとっての直接的な敵国は北朝鮮だけでしたが、いまや韓国は全力でCVIDという目標を阻害し、日米の戦略を妨害しようとしているのです。これを「敵国」と言わずして、なんと表現すれば良いというのでしょうか?

いずれにせよ、文在寅氏はホワイトハウスが米朝首脳会談の破棄を通告した時点で、しばらく謹慎すべきでした。しかし、こうも表立って行動してしまったことで、韓国はもう取り返しのつかない橋を渡ってしまった格好です。

中国がCVID容認に転じるか?

さて、来週以降、朝鮮半島核問題はどう動いていくのか、そして米朝首脳会談はどうなるのか、ますます目が離せない展開が続きそうです。ただ、文在寅氏の軽率な行動により、すでに北朝鮮問題とは、

  • 対話による解決…北朝鮮、中国、韓国
  • 圧力による解決…米国、日本

という対立構造が鮮明になりつつあります(ロシアのスタンスは「対話による解決」が近いと思われるものの、あえてここではロシアを無視しています)。

しかし、仮に中国がCVID容認に転じた場合、一挙に朝鮮半島情勢が動き出します。要するに、

  • 対話による解決…北朝鮮と韓国
  • 圧力による解決…米国、日本、中国

に変わるのです。こうなってしまえば、「朝鮮半島」対「朝鮮半島以外の周辺大国」という対立構造が出現する、ということであり、北朝鮮が韓国ごと粉砕されるという展開すら予想されるのです。

その意味で、以前、執筆した『緊急更新「朝鮮半島の6つのシナリオ」仮定版』のなかで提示した「朝鮮半島全体の中華属国化」というシナリオに注目する価値がありそうです。

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

むかしから、現実は小説より奇なり、と言います。北朝鮮の問題は、下手なドラマを見ているよりも、はるかにスリリングです(といっても、「面白い」、と言うつもりはありませんが…)。

とりあえず、日曜日午前10時の韓国大統領府の報道発表については、なにか重要な話題が含まれていれば、本日、もしくは明日のコンテンツに反映させたいと思います(まぁ大した内容はないと思いますが…)。

引き続きご愛読をお願い申し上げます。

新宿会計士:

View Comments (2)

  • いつも知的好奇心を刺激する記事の配信有り難うございます。

    チーム朝鮮。管理人様の認識の通りです。

    チームに勝つには弱い方を叩くのが勝つ為の定石です。

    韓国マスコミが金を出して北朝鮮の核兵器実験場廃棄の取材に行った事を奇貨として韓国に工業製品、部品、金融取引の停止、韓国パスポート保有者の物品持ち出し禁止を行うべきです。

    韓国マスコミは韓国船の瀬取り行為に続けて国連決議に再違反したではないですか(笑)。
    もう容赦不要です(笑)。

    チームの片割れを破滅させればもう一方は無条件降伏しか出来ません。

    日本の国益達成の為、韓国に己の身の程を教える厳しいムチを。

    以上です。
    駄文失礼しました。

  • < 毎日の更新ありがとうございます。
    < 『日米』VS『朝鮮半島族』の構図が本当に確定しました。金正恩も、文在寅もさぞかし、トランプ大統領のシンガポール会談中止の報告が「寝耳に水」だったんでしょう。(おもしろ!)
    < 韓国はまた同盟国側、自由主義側の掟破り、反則技の南北首脳会談を勝手に板門店で行ないました。もう、なりふり構わずです。とにかく自分が運転席にいるんだ、統一で大統領、核付きと妄想している。金は韓国を籠絡して、なんとかCVIDを止めさせ、段階的破棄で物資・資産を先取りしようとする。ハナから核破棄可視的、非可逆的破棄、そして拉致被害者解放謝罪なんて思ってません。
    < もちろん日米も疑い、ほぼ最初から核破棄は実行しないと読んでます。安倍首相のロシアでの(ホントによく働くね~。野党さんは連休?)記者会見、『日米、そして日米韓』というのは今の状況を如実に表していますね。『韓国は味方ではございません。真正の敵国だ』と言う意味。トランプ大統領もそうです。さて、もうそろそろ、朝鮮半島の運転士気取りが『迷文』を発表するでしょう。今後の為にゴタクを聞いたろか。大して全然期待してないが(笑)。でもその後の日米の対応も愉しみだなあ。
    < 失礼します。