本日は、一帯一路フォーラムに関する記事を紹介するとともに、ドイツと中国の意外な類似性について議論したいと思います。
目次
一帯一路構想の本質
AIIBと一帯一路巡る虚報
中国が主導する「現代版シルクロード構想」といえば、「一帯一路構想」(Road and Belt Initiative, RBI)です。そして、この「一帯一路」は、アジアインフラ投資銀行(AIIB)、シルクロード基金とあわせて、中国が「金融面での世界覇権の確立」を目論むための、いわば「3点セット」のようなものです。
ただ、先週14~15日に中国の首都・北京で開催された「一帯一路フォーラム」では、これといった成果もなかった割に、中国のメディアはずいぶんと「成果があった」かのように報じました。しかも、私が驚いたのは、なぜか時事通信をはじめとする日本のメディアも、「一帯一路構想」やAIIBに対して、実に好意的な報道をしたことです。
疑問解消ならAIIB参加も=中韓首脳と7月会談意向-安倍首相(2017/05/16-00:30付 時事通信より)
「一帯一路」対応に変化も=首相側近ら派遣、米中取引を懸念(2017/05/15-22:25付 時事通信より)
これらの時事通信の報道については、以前『成果に乏しい一帯一路フォーラムとメディアの「虚報」』でも取り上げたので、本日は敢えて繰り返しません。ただ、時事通信といえば、共同通信と並び、地方紙をはじめとした数多くのメディアに記事を配信しているため、非常に影響力の大きなメディアです。そして、金融に詳しくない人がこの2つの記事を立て続けに読むと、読者としては「一帯一路構想は順調に進んでおり」、「日本もこれからAIIBに参加すべき」だとする意見を感じるのも無理からぬことでしょう。
こうした「虚報」のたぐいに相当する報道には、相当に注意しなければなりません。そして、あの「日経」の名を冠した一流メディア「日経ビジネス」(オンライン版)にも、こんな記事が掲載されました。
「一帯一路」構想にみる「中国第一主義」(2017年5月23日付 日経ビジネスオンラインより)
記事を執筆したのは「ジャーナリスト」で「明治大学 研究・知財戦略機構 国際総合研究所」のフェローである岡部直明(おかべ・なおあき)氏です。私は岡部氏の経歴やスタンスについて深く知り得る立場にはありませんが、少なくともこの記事を読んだ第一印象は、「大局観を欠いている」(もしくは、少なくとも私の「大局観」とは相いれない)記事だ、というものです。
果たしてどのような記事なのでしょうか?
大局観を欠いた記事
さて、この岡部氏の記事には、副題が付いています。
「日本は対抗意識捨て、大胆な構想力を持て」、だそうです。「日本がAIIBや一帯一路構想に参加しない理由は対抗意識がある」とでも言いたいのでしょうか?
それはさておき、私自身の文責において、リンク先の記事の冒頭部分を少し加工して引用しておきましょう(著作権があるため、詳細について知りたい方は、リンク先から全文をお読みください)。
- 中国主導の広域経済圏構想「一帯一路」に関する国際会議は、米国一極時代の終わりを告げる場になった
- 英国の欧州連合(EU)離脱やトランプ米政権による「排外主義」「自国第一主義」排外主義や2国間主義が(グローバリゼーションや多国間主義という)世界の経済秩序を揺さぶっている
- 一帯一路構想はアジアから欧州、アフリカまでの広域経済圏はそれ自体、世界経済の拡大につながる可能性を秘めているが、経済戦略にとどまらず安全保障戦略がからんでいるだけに、国際政治をきしませる要因になりかねない
私は、「一帯一路フォーラムは米国一極時代の終焉を告げる場となった」とする下りについては全く賛同しませんが、その一方で、部分的には岡部氏の主張に賛同します。というのも、確かに世界経済には「中国の勃興」というファクターだけでなく、「グローバリゼーション対自国第一主義」という争いがあることは事実だからです。
その意味で、質の低い時事通信や朝日新聞の記事と異なり、岡部氏の記事は、「バカらしい!」などとむげに切って捨てるほど低レベルなものではありません。
ただし、いくつか「評価を間違えている」と考えられる部分もあります。岡部氏は
- ロシア、インドネシア、イタリアなど29カ国の首脳が集まった
- 習近平主席はシルクロード資金の増額や政策金融機関融資などで7800億元(約12兆6000億円)の追加資金拠出を表明し、中国主導を鮮明にした
と指摘していますが、逆に(1)については、イタリアを除き、G7諸国からは首脳が一人も参加しなかったこと、BRICS諸国(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)から首脳が参加した国は中国とロシアだけだったことなどについては注目に値するでしょう。
また、(2)についても、習近平(しゅう・きんぺい)国家主席が1兆元近い資金の拠出を表明したことは事実ですが、中国が主導するAIIB自身、「アジア地域のインフラ需要は2030年までに40兆ドル(!)に達する」と予想していることと比べると、金額としてはいかにも中途半端です。しかも、シルクロード基金に1000億元などの資金を拠出すると表明はしたものの、「いつまでに」という期限については明らかにしていません。さらに、巨額のインフラ需要を支えるためには、日本をはじめとする巨額の資金を保有する国などからの民間資金協力が必須であるはずなのに、民間資金を取り込むための金融規制緩和などについても一切言及がありませんでした。
つまり、岡部氏の記事には、後述するAIIBの参加国数を除くと「事実誤認」はないものの、中国側の視点にかなり偏っていると言わざるを得ないのです。
ただし、「中国一辺倒」ではない
ただ、岡部氏の記事は、冒頭で紹介した時事通信の記事などと異なり、「中国を礼賛する」ような低レベルな代物ではありません。
たとえば、今回のフォーラムには、インドから首脳が参加していません。これについて岡部氏の記事では、
「中国と並ぶアジアの新興大国であるインドが国際会議への参加を見送ったのである。「国家主権と領土保全のへの懸念を無視した計画を受け入れる国はない」とインドは国際会議への参加を明確に拒否した」
と指摘。さらにEUについても、
「「一帯一路」構想の西側の到達点である欧州連合(EU)にも警戒感はある。(中略)「一帯一路」構想で中国流の「国家資本主義」が広がることには、批判が強い。その証拠に、国際会議の貿易分科会に参加したドイツなどは、物資調達の透明性や環境基準の問題点などあげて、合意文書を支持しなかった。」
としており、この辺りは報道が浅い日本のメディアと比べて、比較的しっかりと周辺取材をしていると感じられます。
どうしてそういう結論に?
ただ、私は、岡部氏の議論には、途中から賛同できません。
1つは、「英米初の自国第一主義が世界経済をリスクにさらし、」そのうえ「ユーラシアで中国第一主義が定着すれば世界経済は混迷の度を深める」ことになるため、日本はTPPを11カ国で発効させ、日中韓、豪州、ニュージーランド、インド、ASEANを巻き込み、RCEP(東アジア地域包括的経済連携)と結合すべきだ、とする主張です。TPPは中国を封じ込めるための大戦略であり、なぜそれをわざわざRCEPと結合させる必要があるのでしょうか?
もう1つ、岡部氏の議論が明らかに大局観を欠いている部分は、「AIIBとADBを結合させよ」とする議論です。大局観を欠いているというよりも「議論が飛躍している」と表現した方が正確かもしれません。余談ですが、
「EU諸国の参加を尻目に、米国と日本は参加に慎重姿勢を崩していない。しかし、参加国は70カ国を超えている。透明性の向上など運営に注文をつけるだけでなく、日米は共同で参加し、みずから改革を先導すべきだ。中国も金融、投資のノウハウのある日米に参加を強く求めている。」
とする下りには事実誤認があります。AIIBに「参加意思を示した国」は確かに77ヵ国ですが、「出資まで約束済み」の国は53ヵ国に留まっています。記事を書くならもう少し事実関係を調べたら良いのに、と思います。
グローバリゼーションの負の側面
日本は移民とどう向き合うべきか?
ところで、「グローバリゼーション」と「自国第一主義」の、いったいどちらが正しいのでしょうか?
私自身の見解ですが、たしかに古典派経済学の教科書にも記載があるとおり、自由貿易を推進するのは、世界の人類が共に未来に向けて発展するためには必要です。しかし、「共通で守るべきルール」が確立していない相手国とは、門戸を完全に開放すべきではありません。
たとえば、日本の場合はこれまで(少なくとも表向きは)移民を受け入れて来ませんでしたが、安倍政権が移民の実質的な受け入れに舵を切るのではないかと懸念しています。そして、移民を受け入れた社会でどのようなコンフリクトが生じているのか、その「事例研究」は必要です。
とくに中国が日本に大量に移民を送り込めば、「日本列島の乗っ取り」など、容易に実現してしまうでしょう。また、古今東西を問わず、人々は貧しい国から豊かな国に移動するものです。教育水準が高くて日本社会に忠誠を誓う人たちであれば、どんどん受け入れるべきですが、現実には日本に移住したがる人の多くは、単に豊かな暮らしを求めているだけの話であり、日本社会をより良くするためではありません。日本に生まれ育ち、日本から多大な恩恵を受けておきながら、被害者面をして居座る某民族もいますが、これは非常に恥ずかしい話です。
余談ですが、私自身も母親(故人)が在日朝鮮人(生前に日本に帰化済み)でしたから、私も「移民の子孫」ではあります。ただ、私は日本という国をより良くするために尽くしたいと思いますし、日本から逃げるつもりはありません。そして、自分の子供も「良き日本人」として育てるつもりです。
ドイツという「収奪モデル」
一方、私の長年のテーマは、ドイツという「世界のガン」です。
ドイツといえば「良い印象を持っている」という人も多く、実際、BBCが2015年まで公表していた「世界影響度調査」でも、ドイツとEUが「世界で最も良い影響を与えている国」に選ばれたことも多々あります。
しかし、現実のドイツは、ユーロ圏に加盟することで、他のユーロ圏に対し産業競争力の強いドイツ製品を輸出し、貿易黒字を無限に稼ぐというだけのものであり、いわば「欧州周辺国から収奪することで繁栄する」というビジネスモデルです。
では、なぜこのようなことが可能になるのでしょうか?
変動相場制を導入していた場合、産業競争力が強い国の通貨(例:日本円やドイツ・マルク)が切り上がり、産業競争力は低下します(ちなみに私は、アベノミクスの影響で円安になったことが、2013年以降の株高の主要因と考えています)。
しかし、ドイツの場合は「共通通貨・ユーロ」を導入しているため、少なくともユーロ圏の他国に対しては、為替相場を通じた競争力の調整が働きません。その結果、ドイツは無限に貿易黒字を積み上げるのです。
それだけではありません。
ドイツの貿易黒字の裏返しとして、南欧諸国は巨額の貿易赤字を抱えており、それを財政赤字でファイナンスします。そして、ドイツが主導するEUと欧州中央銀行(ECB)が各国に緊縮財政を義務付けており、財政出動の手足を縛られた状態にあり、ドイツからの収奪から脱却することは困難なのです。
そのドイツは、早い時期からトルコをはじめとする中近東地域の移民労働力を受け入れてきた国でもあります。つまり、「安価な移民労働力で安い製品を作り、ユーロという仕組みを悪用して安い製品を輸出しまくる」というビジネスモデルです。
中国とドイツのビジネスモデルは酷似!
ここまで書けばわかると思いますが、実は、ドイツのビジネスモデルは、中国と極めて似ています。
まず、為替変動メカニズムについては、中国人民元は自由利用可能な通貨ではなく、事実上、米ドルに対してペッグしています。このため、ドイツと同様、中国も為替相場を通じた産業競争力が働かないのです。
また、ドイツが東欧、中近東からの移民労働力を酷使しているのと同様、中国は内陸部から貧しい農民を都市部に移住させ、労働力として搾取しています。そして、安価な中国製品を、米国や日本に大量輸出することで、いわば「デフレを世界中にまき散らしている」のです。
その意味で、私はドイツと中国こそ、グローバリズムを悪用する「世界経済のガン」だと考えています。
そのような視点からニュースを眺めると、何かと気付くことが多くて面白いのではないでしょうか?
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更新お疲れ様です。
今回のお話のメインである中国とドイツが似ている点ですが確かに似ては居るのですがそうなった背景は180度違います。
まずドイツがあの様な周辺諸国から富を削り取る政策にしたのは冷戦期のアメリカが原因です。
冷戦期にアメリカはソ連を利用して西側の盟主として君臨していた時に一つの懸念がありました。
旧枢軸国の日本とドイツの経済的な台頭です、冷戦がいつまで続くかは当時のアメリカにも解らなかったでしょうが膨大な軍事費で悩むアメリカにとって味方ではあるものの経済的な台頭をしてくる日本やドイツは潜在的な脅威と考えたのです。そこでこれらの国への経済的な負担を増させる方法(肝心の名前は忘れましたが)を考え、同時にその国に挑戦してくる国を設け常に米国と同盟関係を維持させる政策に舵を切ったのです。
ところが妙な話でこの計画がメディアに暴露される事件が起きます(やったのはソ連かドイツ、フランス、イギリスでしょう)これが世に出てから数年も経たないうちにヨーロッパでは欧州共同体などの諸々の政策が加速していき現在に落ち着いています。要はドイツはアメリカから身を守る為にヨーロッパと言う市場で身を守ったのです。当然日本は無理でしたが……
中国は………話すまでも無いですね^_^長文失礼しました。
ところでお子さんがもう少し大きくなったら犬を飼って見ては?中型犬以上であれば躾次第で鳴き声は対処可能ですからオススメです。
いつも金融面からの鋭いコメント、勉強させていただいております。
本日のテーマに関連しますが、ドイツ企業の記事が本日の日経にて報道されております。
「VW、中国で提携3社目 政府と蜜月、EVも特別待遇800億円投じ新工場」
どういう意味かと申しますと、中国では外資系の自動車メーカーは中国資本の会社
とは2社までしか合弁できないというルールがあるにも関わらず、政治力でドイツ
が中国政府に出資を認めさせたというものです。(中国では自動車メーカーは
独資ができません、念の為)
表面的には移民受入、過去のホロコーストの反省、ということを言いながら、
実は自分の我欲をかっこ良い理念で包み、あくまで自分の利益を押し通す、
ということの現れではないかと思っています。この点はまさに中国人と
同じ思考だと思います。だから馬が合うのでしょう。
こういう思考をしない英仏と、過去に何度も戦争を起こした原因の一つが
ここにある、といったら言い過ぎでしょうか。
更新お疲れ様です。
日本人は一度はドイツに憧れると思います。
合理的、効率的、男性的原理が支配する国で、国民性は糞真面目。真面目すぎて他国と齟齬をきたす事多々あるが、世界有数の先進国……私もかつてはそう思っていました。
今は違います。彼らは機会主義的で狡猾です。中韓なとドイツに比べれば可愛いものとすら思えます。中韓を警戒しない日本人は今や少数派ですが、ドイツにシンパシーを感じる日本人は大多数でしょう。彼らは自らの邪悪さを隠してコーティングする術を知っています。そしてついにEUを手中に収めてヨーロッパを乗っ取ってしまった。
第一次世界大戦でドイツと干戈を交えたフォッシュ元帥は、ドイツに対して、「彼らには真の精神力がない。あるのはただ物質万能主義だけだ」と述べたそうです。
私も同感で、ドイツ人には共存共栄とか、ウィンウィンという発想がなく、勝つか負けるかのデジタルな思考をしているのだと思います。このような国家と取引をすれば、知らず知らずの内に一方的に不利な状況に陥るでしょう。なにせこちらは商取引の積りなのに、向こうは殲滅戦争のつもりで事に臨んでいるのですから。
お久しぶりにコメントさせて頂きます。NBOの記事の読者コメント欄凄いことになってますね。
ttp://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/071400054/052100025/?ST=viewcomment
コメント(30件)を読む
米国が会議に役人を出席させたことが、どうして米国が巷間言われている中国の構想なるものを支持したという判断につながるのですか? 例えばオーストラリアのビショップ外相は、シンガポールでのフラートン・フォーラムで、この「一帯一路フォーラム」は中国の真意を探る機会になる(だからオーストラリアは会議に参加する)と述べていましたよ。これが大人の感覚でしょう。収益性も定かでない、天文学的なインフラ建設の費用を、誰が負担するのですか? 本当に、何も知らず、知ろうという努力もせず、フワフワとした、同好会のような「エッセイ」もどきを人様の目に晒すのは、何ら建設的な意義がないので、もう止めたらどうですか。学問的トレーニングを受けていないメディア関係者が大学教員になるのは現代日本の不思議な風習ですが、世の中にとって多少なりとも有意義な仕事をしたいと考えているのであれぼ、日経BPにおかれては、鑑識眼とリーダーシップを発揮して、こういう気楽かつ知的誠実さの欠落した作文を発散するのは終わりにて、若手の rising star を発掘し、紹介されてはどうですか。
著者フルボッコですw
いつもブログを楽しみにしています。睡眠は、十分取れてますか?岡部氏の意見は偏っているようですね。偏向というより、木を見て森見ず、学者としての器、ストライクが返ってこないキャッチボール、会計士様の言う大局観のなさ、すべて当確です。「アメリカ一国時代の終焉」え?「TPPを発効させて、中韓を巻き込み」この辺になるとゴールポストが移動してます(笑)。学者ってどうして偏光
レンズの方が多いのでしょうかね。ドイツはEUで荒稼ぎ、
西アジア、アフリカの移民を受け入れても全然OK。日本人
はドイツ(旧西ドイツ)に憧れ、勤勉で尊敬の念を持っている人が多いのに、EUになってからは東独の面倒もあって
か、ドイツファーストになったのでしょうね。けしからん国です(笑)。でも南鮮はすぐにドイツに学べ!って今だ
に日本に恫喝しますよね。現在そして近未来は、シナ国とドイツが地球規模で「悪いヤツ」です。
ブログ以前からこのブログ見てます。会計士ってIFRSを推進したりグローバリゼーションを是とするなど「売国的」な人が多いイメージがありましたが、(失礼!)、こちらのブログ主さんはバリバリの右翼というか保守勢力らしいですね。読んでいてすっきりします。ただどこかのネトウヨサイトと違ってちゃんとした金融の知識があるからでしょうか、説得力が全然違います。ところで上でどなたかが書いてますが、今日の記事で取り上げられている日経のサイトの読者のコメントの投稿欄が凄い批判的ですね。そして件の人物、ブログ主さんがおっしゃる「大局観のなさ」、全く同感です。