北朝鮮ミサイル危機と「自分の足で立つこと」

北朝鮮が新型ミサイルを発射したことは、日本にとっては深刻な脅威でもありますが、それと同時に「チャンス」でもあります。本日は過去に私自身が発信した記事を振り返るとともに、あらためて「自分の足で立つ」ことの重要性を強調したいと思います。

過去の自分自身の見解を振り返る

私は会社員時代の2013年9月20日に、『安倍政権は中国による尖閣海域侵犯を「放置」せよ』と主張するブログを公表したことがあります。その時の私の主張を簡単にまとめておきたいと思います。

尖閣諸島で領海侵犯は日々どのくらい発生しているのか?

私がオリジナルの記事を執筆した2013年時点で、すでに中国の尖閣海域侵犯は常態化していました。

海上保安庁のウェブサイトによると、中国の「公船」などによる尖閣諸島周辺の領海侵入隻数は、当時の野田佳彦政権が尖閣諸島を国有化した2012年9月以降、急増していることがわかります(図表)。

図表 海上保安庁ウェブサイト上の中国公船の動向(クリックで拡大)

http://www.kaiho.mlit.go.jp/mission/senkaku/image01.png

当時の私は次のように申し上げています。

野田政権の拙速な国有化が中国の活動を活発化させる契機となり、そのことが自民党政権に代わった現在も、尖閣諸島周辺海域の情勢を不安定にさせている要因である、と評する事もできよう。このように頻繁に日本領海を侵犯されていると、我々国民としては不安感を抱かざるを得ない。

ただ、当時の私は、「安倍政権は尖閣問題をあえて放置すべきだ」と申し上げました。これはどういう趣旨なのでしょうか?

安倍政権は尖閣問題を敢えて放置する?

2013年9月時点といえば、尖閣諸島周辺の領海には中国公船の侵入が相次いでおり、中国当局は日本に対し、尖閣諸島領有権問題の存在を認めるよう、執拗に迫っていた時期です。当時はまだ特定秘密保護法も安保関連法制も成立しておらず、日本は事実上「丸腰」状態でした(もっとも、安保法制も何かと不十分であり、「日本が丸腰だ」という状況は、現在でもそれほど変わりませんが…)。

中国の習近平(しゅう・きんぺい)国家主席は、「安倍政権がこの問題の存在を認めなければ首脳会談を開催する事すらない」と言明していて、いわば、日中関係の停滞が人質に取られた格好となっていました。

こうした中、当時の私は、「現実的に解決策を考えるのであれば、次のような選択肢が思い浮かぶ」と主張しました。

  • (1)尖閣諸島の領有権を放棄し、日中関係の改善を急ぐ。
  • (2)尖閣諸島の領有権問題を棚上げし、日中関係の改善を急ぐ。
  • (3)尖閣諸島の領有権問題の存在をあくまでも認めず、中国の武力排除も辞さない。

そのうえで、これらの選択肢のうち朝日新聞や毎日新聞、あるいは琉球新報、沖縄タイムスあたりの左派メディアなら(1)を、「バランスを重視する」(?)日本経済新聞や読売新聞ならさしずめ(2)を主張するであろうが、(3)については、「少なくともメディアの主流を占めることはないだろう」と指摘しました。

ただ、結論からいえば、(1)~(3)はいずれも愚策です。

(1)は論外ですが、(2)にも(3)にも何かと問題があります。中国による領海侵入は常態化しており、もはや「領有権問題の棚上げ」ができないことは明らかですが、その一方で、憲法第9条第2項という制約もあり、日本が中国と一戦を交えるというのも非現実的です。

残念ながら、この状況は現在でも変わっていません。

こうした状況に対し、当時私が出した「現時点(=2013年9月時点)で考えられる最善の選択肢」とは、

  • (4)事態が悪化しないように管理しつつ、中国船舶の領海侵入の頻発をあえて放置する。

ことです。当時、私がそのように考えた理由とは、きわめてシンプルです。

国防意識を振興する絶好のチャンスだ

ここでは、当時の私の主張を、そのまま繰り返します。

尖閣の領有権侵犯問題は、実は平和ボケした日本人に冷や水をぶっかけ、危機意識を植え付けるためのショック療法としては絶好の機会なのである。冷静に考えると、現在の中国は、日米連合軍を前に、武力で尖閣諸島を制圧するだけの十分な能力と大義名分を有しているとは言えない。よしんば、尖閣諸島に対する一時的な武力制圧が成功を収めたとしても、そのことは中国人の稚拙な愛国心を満足させることに繋がるだけであり、まず日米合同軍による尖閣奪回のおそれに直面する。これに加え、中国による武力行使は日本による経済制裁の発動を誘発するおそれもあるし、他に領有権問題を抱えるASEANやインドが一斉に中国の敵対国となる可能性もある。かかる状況を踏まえると、現在の中国の政権当局者が、そこまでの軍事的冒険に踏み切るとは考えられないだろう。

したがって、とりあえず中国政府としては中国人民の愛国心を鼓舞し続けるために、周辺海域の「パトロール」と称した領海侵犯を続けるだろう。そして、それを続けさせれば良いのだ。むしろ、安倍政権としては3年後の参院選(プラス、もしかしたら同日での衆院選)で勝利を収め、改憲を現実のものとするための材料に使えるからだ。

「日本政府は中国の度重なる領海侵犯にも関わらず、尖閣の防衛には成功しています。しかし、問題を根本から解決するために、本当は中国を武力で排除したいのですが、憲法の制約からそれができませんでした」

とでも言えば、次の選挙でも自民党を勝たせようとする機運が生まれやすい。集団的自衛権の議論は再開されたばかりだが、小手先の憲法解釈ではにっちもさっちも行かなくなりつつあるということを、国民が自ら自覚するためには、適度な脅威が存在している事は一種のショック療法としては有効なのである。

つまり、平和ボケの日本人に冷や水をぶっかけ、結果的に憲法第9条第2項の撤廃という議論にまで持って行くための、絶好のチャンスとして活用しろ、という主張です。

ただ、あれから4年弱が経過し、現実はこれより遥かに先に進んでいます。まず、2016年の参院選で、政権与党である自民党と公明党、改憲に前向きな日本維新の会の議席数は、合計して3分の2を超えました。公明党を「改憲勢力」と呼ぶには少々違和感はありますが、それでも「改憲勢力」(?)が衆参あわせて3分の2を超えたのは、戦後初めてのことです。

その一方で中国による尖閣侵入は常態化。あろうことか、日本のメディアはこうした実態を全く報道しなくなってしまいました。

つまり、私が申し上げた「改憲勢力が国会で多数を占めるまでの時間稼ぎとして、中国公船の領海侵入については事態が悪化しないように管理しつつ放置せよ」という段階は、明らかに変わったといえます。

「次のステージ」の時期は熟した!

「尖閣問題は、事態が悪化しないように管理しつつ放置せよ」―。

今になって読み返してみると、ずいぶんと過激な(?)主張です。ただ、いちおう次のように「但し書き」を付記しています。

ただし、これはあくまでもショック療法である。仮に、中国側が、「公船による領海侵犯」から「次のステージ」に行動を移してくるようであれば、安倍政権としても対策を講じなければならなくなるだろう。逆にいえば、現在のように中国側が尖閣上陸に踏み出さず、挑発行為を公船の領海侵犯に留めている限りにおいては、安倍政権としてこの問題を現段階で解決する必要はない。他の優先的課題に取り組んでいただきたいところだ(例:対中包囲網の強化、など)。

と私は、現時点ですでに、この「ショック療法」の段階は終了した考えています。というのも、日本の安全保障を取り巻く環境は、明らかに変化したからです。

国防「意識改革」の段階は過ぎた

北朝鮮のミサイル、「ロフテッド軌道」での発射

その一つは、日曜日に北朝鮮が発射した弾道ミサイルです。

北朝鮮「新型ミサイル発射に成功」 正恩氏が実験視察/「大型核弾頭の装着可能」(2017/5/15 10:47付 日本経済新聞電子版より)

日経を初めとする各社の報道から、情報をまとめておきましょう。

  • 日曜日の早朝に発射実験したのは地対地中長距離弾道ミサイル「火星12」であり、実験に成功した
  • 北朝鮮によると、このミサイルには「大型核弾頭の装着が可能」としている
  • 今回は通常より高い角度で打ち上げ、飛距離を抑える「ロフテッド軌道」での発射であり、角度を抑えるなどすれば射程は最低でも4000kmとなり、米国の一部を射程に収める可能性もある
  • 実験を視察した金正恩(きん・しょうおん)委員長は、米国やその同盟国が「正しい選択をするまで、核兵器と攻撃手段をさらに多く製造し、必要な実験を進めよ」と指示を出した

日本が長年、「パチンコ・マネー」などを放置したためでしょうか、遂に北朝鮮はここまでのミサイルを完成させてしまいました。我々は、これを重く受け止めなければなりません。

今回の発射は何が異なるのか?

ただ、今回のミサイル発射は、これまでのものと比べて異例な点がいくつかあります。

まず、米原子力空母「カール・ビンソン」をはじめとする空母打撃群が日本海に展開しているというタイミングで、日本海に向けてミサイルを打ったという点です。こうしたタイミングで、せっかく撃ったミサイルを空母に撃墜されてしまうリスクもありますし、下手に日本海に向けてミサイルを発射すれば、米空母などにミサイルを回収されてしまうリスクもあります。

この点、ニュースをよく読むと、今回ミサイルが発射された亀城(きじょう)は比較的、内陸にある地点であり、また、ロフテッド軌道で発射したミサイルは2112キロと「高度」を重視したためか、「飛距離」自体は発射時点から787キロだったとしています。

ということは、今回のミサイルの狙いは、北朝鮮が「米国を射程に収める新型ミサイルを開発した」ことを内外に誇示するとともに、発射したミサイルが米軍などに回収されることを防ぐことにある、と考えることができるかもしれません。

米中露はどう出るのか?

それでは、北朝鮮を巡り、米中露はどのように対応するのでしょうか?

いずれも国連の常任理事国でもありますが、まず、このうちの中露首脳が会談しています。

中露首脳が会談、「北での緊張の高まりに懸念」(2017年05月14日 21時36分付 読売新聞より)

これが昨日までの2日間、中国で行われていた「一帯一路フォーラム」の、唯一の成果らしい成果かもしれません(笑)。というのはともかくとして、読売新聞によると、中国の習近平(しゅう・きんぺい)国家主席とロシアのプーチン大統領は14日に北京で会談し、

両首脳は朝鮮半島情勢について詳細に協議し、北朝鮮のミサイル発射を含む緊張の高まりに懸念を表明した

と述べたそうです。この短い記事ですべてを判断することは難しいものの、いわば、朝鮮半島情勢を巡り、中露両国が「詳細に協議した」のです。中露両国が日米両国とどう連携するのかは現段階では不透明ですが、もしかすると両国は「日本や米国が北朝鮮情勢に介入するのではないか?」との警戒を共有しているのかもしれません。

一方、米国では、トランプ氏がFBI長官を罷免したことに対し、連日のようにそれを批判する報道が流れています。内政で行き詰った時、米国の政権は、多くの場合、対外戦争を決断します(※あくまでも「一般論」ですが…)。このように考えていると、

  • 日曜日の北朝鮮のミサイル発射は米国による北朝鮮攻撃のリスクを高める結果となった
  • これに対し、中露両国は連携し、「ポスト金王朝」について、早くも日米陣営を牽制する構えを見せている

という解釈も可能かもしれません。

全く存在感がなくなった韓国

韓国といえば、北朝鮮問題における「6カ国協議」の当事者のうち1カ国です。

ところが、今回の北朝鮮問題を巡り、韓国の存在感が全くなくなってしまいました。これはどういうことでしょうか?

いわば、「極左・親北」を公言する文在寅(ぶん・ざいいん)氏が大統領に就任したことで、韓国の国際社会からの扱いは全く変わって来ている証拠でしょう。あるいは、今回の北朝鮮のミサイル発射を、いわば文政権の発足に対する「祝砲」と見たとしても、それほどイジワルな見方ではないと見るべきでしょう。

存在感強める日本

一方、韓国とは逆に、今回の北朝鮮のミサイル発射劇で、存在感を強めた国があります。それが日本です。

North Korea test raises fears of new type of missile(2017/05/14付 FTオンラインより)

英FT紙は、日経の傘下に入ったものの、編集権は独立しているということだそうです。そのFTは、ソウル駐在のBryan Harris記者ですが、記事の2行目で

Japan’s defence minister said the missile had reached an altitude of 2,000km on its 700km journey, potentially indicating a new type of rocket.

(仮訳)日本の防衛相によれば、今回のミサイルは2000kmの高度に飛翔し、700km先に下落したが、これは新型ミサイルであることを示唆している

と述べていますが、いわば、北朝鮮リスクを巡って日本が外国メディアに堂々と登場しているということです。

憲法第9条第2項において自衛権の行使を禁じられており、ましてや国連の常任理事国でもないような国が、間違いなく、世界で存在感を強めているのです。

私は、北朝鮮や中国が軍事的な危機を煽ることについては、由々しき問題だと考えています。しかし、それと同時に、こうした国際的な危機が、結果的に日本国民の「横っ面」を叩くという効果があるのならば、その危機を逆にチャンスに転換すべきだと考えています。

「自分の足で立つ国」へ!

本日は2013年9月に私自身が執筆したブログ記事を再度紹介し、これを通じて日本人の「意識改革」の必要性を申し上げました。あれから4年弱が経過しましたが、動きは遅いとはいえ、日本では着実に改憲の動きが進んでいますし、日本人の意識改革も進んできました。

北朝鮮によるミサイル開発はもちろん、頼りにならないどころか敵側に寝返りかねない韓国、危機のドサクサに紛れて尖閣を狙いに来る中国、北方領土を不法占拠したまま返さないロシア、内政に不備を抱える米国などを見ていると、日本を守ってくれる国は世界にただ1カ国しかありません。

日本を守ってくれる世界でただ1つの国とは―「日本」です。

あたりまえですね。いま、私たち日本は、少なくとも自分の身を自分で守るだけの国になること、あるいは「自分の足で立つ国」になることが求められているのです。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. ムルムル より:

    更新お疲れ様です。
    改憲勢力が国会内で2/3まで来たのって初めてだったんですね、知りませんでした!
    自分はてっきり大衆の支持が得られず改憲出来なかったのだと思ってました。
    まぁ世代の違いが理由かも知れませんがよく憲法70年も変えずにやって来たものですよね……
    私の曾祖母はソ連に奪われた北方四島の出身だそうでソ連侵攻で家を追われたそうです。
    近年母に初めて教えてもらって知ったのですが故郷をもう2度と奪われない為にも私は領土問題では妥協は
    必要ないと思います。

  2. めがねのおやじ より:

    いわゆるパチンコ、スロットなどの遊技場は全廃でもいいかなと。カネのない者、生保者が30分や1時間ほどですってんてんになる、あれはもう娯楽じゃない。それに大半が北鮮に送金されている。ハナから胴元が売上の25%もテラ銭として抜いてれば、まともに出るわけがないね。北鮮の
    ミサイルが日曜日発射されましたが、なんの意味があるのでしょう。文への祝砲か?中ロが突っ込んだ話し合いをし、日米が険しい表情なら、「断首作戦」はありか?もう韓国のお立場というか、情けなさは舞台提供だけなんですね。

    1. 黒猫のゴンタ より:

      日曜日のミサイルの意味については

      【DHC】5/15(月) 青山繁晴・居島一平【虎ノ門ニュース】
      ttps://www.youtube.com/watch?v=T_Y7TQeOWYQ
      09:45あたりから

      青山さんがズバズバ・・・・切ってへんわぁ
      いや、切ってまんがな

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