社会人と情報発信
つい先日、某有名大手証券会社の従業員がツイッターのウェブサイトで、自分の会社が主幹事を務めている特定企業を「上場廃止に追い込むべきだ」などと発言したことなどが問題視されています。特に証券会社であれば、反社会的勢力とのつながりを厳しく咎められる立場にありますが、冷静になって考えてみると、インターネット時代特有の「ネットを使った社会人の情報発信」については、基本的なルールが必要ではないかと思えるのです。
目次
反社会的勢力と社会人
本日は、普段とやや趣向を変えて、私が以前から関心を持っているテーマについて説明したいと思います。それは、「社会人の情報発信活動について」、です。
大手証券会社従業員が反社会的ツイート
インターネットが普及したことで、「一般人が気軽に情報発信できる時代」が到来しました。普段は会社や役所などに勤めている人であっても、SNSやブログなどを利用しているというケースも出て来るでしょう。中には、「インターネットで副業をする」、「ブログで実名を出す」、という人もいるようです。
こうした中、産経ニュースに興味深い報道がありました。それは、大手証券会社の「部長」とみられる人物が、ツイッターのウェブサイトで特定の企業を「上場廃止に追い込むべきだ」などと書き込みをしていたという事件です。
大手証券会社社員が「上場廃止になるまで追い込まないと」とツイートしたとして炎上 ネット上での指摘に会社側は「把握しているが…」(2016.11.7 17:34付 産経ニュースより)
事実だとすれば、大変非常識で恥ずかしい話です。
もちろん、日本には憲法で認められた「表現の自由」がありますから、個人としてSNSなどを利用することは自由です。しかし、それと同時に、会社員・公務員などのように、自分が勤務する先に対して迷惑を掛けることは避けなければなりません。
事態の深刻さ
この産経ニュースが報じたこの事件は、既にインターネットの匿名掲示板で「炎上」しており、該当する証券会社の具体名までわかっています(一応、当ウェブサイトではその会社の実名を挙げることを控えておきますが…)。また、この人物は極左団体などの反社会的勢力とつながっているとのうわさもあり、これらの情報が事実なら、金融庁の監督下にある大手証券会社が間接的に反社会的勢力とつながっているという可能性がある、ということです。
ただし、この人物が、どの部署に所属しているのかについては、私にはよくわかりません。
大手証券会社の場合、大きく分けて「プライマリー」(引受、アドバイザリーなどを司る部署)と「セカンダリー」(流通市場の部署)という部署があります。また、「セカンダリー」部署であったとしても、顧客層が「機関投資家(法人)の債券部門」なのか「法人の株式部門」なのか、あるいは「リテール(個人)」向けなのか、等によって、カルチャー自体が全く異なります。
仮に、この渦中の人物が「セカンダリー」部署に所属していた場合、基本的には法人関係情報を何も知らないでツイートしている可能性が高いといえるでしょう。彼が「上場廃止に追い込むべきだ」とツイートした企業の内部情報を、彼は全く所持していないはずです(だからといって該当するツイートが問題にならない、という訳ではありませんが…)。
しかし、仮に彼が「プライマリー」部署に所属していた場合、事態は極めて深刻です。彼が対象企業の「プライマリー情報」を入手し得る立場にあったとして、起債や新株発行といった情報を入手し、「自分の目的」(この場合は「上場廃止」)を達成するために「反社会的勢力」にこの情報を提供するなどしていたら、日本の資本市場全体に対する信頼が損なわれかねません。
いずれにせよ、大手証券会社という、社会的な影響力がとても大きな組織で、このような不祥事が発生したことは事実です。
サラリーマンとインターネット副業
ところで、冒頭に紹介した、某証券会社の従業員のツイート事件もそうですが、急速にインターネットが普及したことで、従来では考えられなかったことが発生し始めていることは事実でしょう。
終身雇用と副業禁止規定
会社員や公務員などのように、「毎月、給料(サラリー)を受け取る職業」のことを、日本語で「サラリーマン」と呼びます。最近、「サラリーマン」という和製英語は、英語に逆輸入されているらしく、“salaryman”で通用します。
この「サラリーマン」、多くの場合は「終身雇用」で会社に雇われています。最近の若い人の間では、徐々に「終身雇用神話」が崩れているとの報道もあります。しかし、日本では「労働法」の規定上、会社が従業員を解雇するのが難しく、事実上、「終身雇用」は続いています。
そして、その終身雇用の代償として、いわば、従業員はその会社に「尽くす」ことが求められています。その証拠でしょうか、多くの会社では「副業禁止規定」を設けています。会社に所属していながら自分自身でビジネスをすると「副業禁止規定違反」となるのです。
インターネットを使った「副業」
ところで、ブログなどのサイトに、グーグルやアマゾンなどの提供する「ウェブ広告」を設置すれば、うまくすると収入が発生します。これは、立派な「副業」です。
私の解釈ですが、サラリーマンであっても、公務員ではないかぎり、「副業」をしても違法ではありません。ただ、多くの会社では「副業禁止規定」を置いています。これはどういう意味でしょうか?
公務員の場合は、民間企業と「兼業」することも、自分で事業を営むこともできません(国家公務員法第103条など)。これは民間企業との「癒着」を防ぐ観点から当然の規定だと思います。おそらく、民間企業の「副業禁止規定」は、役所の「兼業禁止規定」をマネしたものでしょう。しかし、民間企業の場合は、「癒着」を防止する規定など、本来なら必要がないはずです。
ここから先は完全な「私見」ですが、次の原則を守れば、サラリーマン(公務員以外)であっても、「副業」をしても良いはずです。
- 本業に差支えが出るほど忙しい副業はダメ(副業をし過ぎて疲れて会社で寝てしまう、など)
- 本業で得た情報を不正に横流しした副業はダメ(それは一種の横領罪です!)
- 本業で勤める会社のライバル会社で副業することはダメ(一種の「競業避止義務」)
- 反社会的な副業はダメ(ポルノ・わいせつ画像、麻薬・危険ドラッグ、銃器などの販売サイト等)
「雑所得20万円以下の確定申告不要」は間違い
ただし、「副業」をするにしても、所得があればきちんと税務署に「確定申告」しなければなりません。よく「副業の収入が年間20万円以下なら申告は必要ない」というウェブサイトを目にしますが、これは間違いです。国税庁ウェブサイト「給与所得者で確定申告が必要な人」を読むと、正しくは
2か所以上から給与の支払いを受けている人の場合、給与所得の収入金額から、雑損控除、医療費控除、寄附金控除、基礎控除以外の各所得控除の合計額を差し引いた金額が150万円以下で、給与所得及び退職所得以外の所得の金額の合計額が20万円以下
の場合に確定申告が必要ない、という話です。たとえば「年収700万円だ」という人が、「雑所得が20万円以下だった」から確定申告しなくて良い、という話ではありません。インターネットで副業をするのなら、くれぐれも脱税にならないように気を付けることを強くお勧めします。
※当ウェブサイトは「ネット・ビジネスのやり方」を議論するページではありませんし、「ネット・ビジネスの税金」について案内するページでもありません。税金については税務署や税理士などの専門家にきちんと相談してください。
社会人とインターネット情報発信
「ネット・ビジネス」と並んで、もう一つ、インターネット時代に必要な議論とは、「社会人がインターネットで情報発信をすること」の妥当性、です。
インターネット時代の特徴
新聞やテレビなどの「マス・メディア」が情報発信を独占していた時代だと、一般人が気軽に、日本全国、あるいは全世界に向けて「顔を売る」ということはできませんでした。しかし、現代社会では、ツイッターやフェイスブックなどのSNSも充実していますし、無料のブログもたくさんあります。つまり、インターネット時代の最大の特徴は、
「誰でも気軽に全世界に向けて情報発信することができる」
ということです。
そのように考えると、我々社会人も、インターネットとの「付き合い方」を整理しておくことが必要ではないかと思います。
社会人のSNSを禁止できるか?
私の理解ですと、日本国憲法には「表現の自由」が認められており、社会人であっても、SNSやブログを使って情報発信をしても良いはずです。
しかし、だからといって、自分が勤務する役所・会社のPCや情報端末を使って、勤務時間中に「2ちゃんねる」などの掲示板にアクセスするのはいただけません。さらに、自分が所属する組織の秘密情報を、インターネットに書き込んだりすることは大きな問題です。
これについて、一部の会社は、会社のインターネット環境からSNSやインターネット掲示板へのアクセスを禁止している事例もあります。しかし、私が知る限り、「SNSやブログを全面禁止」にしたという事例はありません。
会社や役所が、社会人のSNS等の私的利用を禁止することはできませんが、だからといって社会人としても無制限にSNSなどの活動をしてよい、というわけではありません。
これについては、総務省が公表している「国家公務員のソーシャルメディアの私的利用に当たっての留意点」と題する資料が参考になります。要約すると、
- 法令をきちんと守ること
- 自分が発信する内容は、自分が所属している組織の見解ではないと明らかにすること
- 秘密情報等について、うかつな情報発信をしないこと
といったところでしょうか。どれも当たり前の話ですが、きちんと守る必要があります。
意見発信は自由だが自己責任で!
冒頭に紹介した証券会社の従業員の事例は論外ですが、
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