イケメン会計士君の守秘義務違反事件

昔、知り合いから「公認会計士であれば昔監査した会社のドラマチックな話をブログサイトとかに書き込めば良いじゃないか」と言われたことがあります。しかし、私はどんな立場になったとしても、過去に得た「職業上の秘密情報」を誰かに明かすことはありません。本日は普段と趣向を変えて、「社会人が絶対にやってはならないエラー」のいくつかについて、考察をしてみたいと思います。

2016/09/28 08:00 追記

記事URLとタイトルが下書き段階のままでしたので、更新したうえで修正しております。

飲み屋で実名を出すな!

ウェブサイトの管理人「新宿会計士」は、最近、少々忙しくて、なかなか「時事ネタ」の深耕ができていないのを、最近反省気味です(笑)また、いつもいつも、堅苦しい経済・金融ネタや情熱的な政治ネタばかりでも飽きてきます。そこで、たまには軽いネタも取り上げたいと思っており、本日は「普段とガラッと異なるコンテンツ」として、やや変わった話題を紹介したいと思います。

私は「新宿会計士」というペンネームを使っている通り、「公認会計士」としての開業登録を受けており、法的には公認会計士の一人です。そして、公認会計士は公認会計士法第27条によって、いわゆる「守秘義務(秘密を守る義務)」が課せられています。

「公認会計士は、正当な理由がなく、その業務上取り扱ったことについて知り得た秘密を他に漏らし、又は盗用してはならない。公認会計士でなくなった後であつても、同様とする。」

この規定に違反して秘密を漏らすなどした場合、「2年以下の懲役か100万円以下の罰金」という刑事罰を受けることがあります(同第52条第1項)。つまり、業務を依頼する場合、相手が公認会計士ならば「法的に厳しい守秘義務を負っている」という安心感を相手に与えることができるのです。

逆に言えば、私自身、会計士補・公認会計士として会計監査に従事していたころに経験した事件について、実名入りの手記を書くことはできません。むかし、誰か有名な作家が執筆した小説で、「公認会計士が新聞記者に現在監査している企業の悪事を語る」というシーンが出てきた記憶があるのですが、少なくとも現実の世界では、そんなことは許されません。

以上を踏まえたうえで、簡単なテストをしてみましょう。

「次の5つの項目のうち、社会人としてやってはならないことはどれですか?」

  1. 現在勤めている会社の悪口を匿名でネットに掲載したが、業界などに詳しい人が見れば誰のことかわかるようになっている。
  2. 自分の勤務先にいる上司や同僚、部下の実名を出した上で、その批判をネットに掲載した。
  3. 飲み屋で久しぶりに会った友人に対し、自分の勤務先にいる同僚の悪口を実名入りで伝えた。
  4. 自分の勤務先における公表されていない事業計画をネットに書き込んだ。
  5. 昔勤めていた会社の事業内容に関する情報を元に、自分でライバル会社を立ち上げた。

いかがでしょうか?結構「それくらいならやってしまっている」という方もいるかもしれませんし、「そんなことは絶対にやらないよ」という方もいるかもしれません。上記(1)~(5)の行為、軽い順番に並べていますが、結論的には「全てアウト!」です。

匿名掲示板でもアウトはアウト!

まず、(1)(2)について、です。

確かに匿名にしておけば、書き込みがすぐに広まる、ということはありません。しかし、「よく読めば誰のことかわかってしまう」ということであれば、ひょんなことからそのことが判明することもあります。よくあるのが、匿名掲示板(「2ちゃんねる」など)に書き込む、というパターンです。

私がまだ会計士補だったころのことですが、「税金経理会計」の板で、大手監査法人(当時は「4大監査法人」と呼ばれていました)については、個別に「スレ」(thread:板)が立っていました(今でも立っているのかもしれませんが…)。そして、私が最初に入社した監査法人に関しては、いくつもの「スレ」が乱立し、当時の経営陣だの代表社員だのを「実名入りで」批判する書き込みが、日々、大量に投稿されていました。

ただ、その書き込みをした人が愚かだったのは、「会社から貸与されたPCで『2ちゃんねる』にアクセスしていた」ことです。そのため、会社のシステム部が取っていた「ログ」で、書き込んだ個人と書き込んだ日時が特定されてしまい、悪質な書き込みをした者は懲戒解雇処分を受けていたと記憶しています。その後、インターネット・リテラシーが高まったためでしょうか、さすがに最近では、自分の勤務先から「2ちゃんねる」にアクセスして会社の悪口を書き込むという人はいないようです(※まれにそういう人もいるようですが…)。しかし、たとえ社外のサーバから書き込んでいたとしても、内部者しか知り得ない情報を基に悪口が書き込まれ、その結果、その会社の風評に大きな打撃が生じるようなことでもあれば、通常の会社ならば投稿の「犯人捜し」が行われます。したがって、匿名にしていたとしても、誰が書き込んだかは早晩バレてしまう運命にあるのです。

あるいは、ここ数年、コンビニエンスストアのアイスクリーム販売用の冷凍庫に入り込んで写真を撮ってウェブサイトに投稿する、という行為に及ぶ事例が相次いでいますが、これも周辺の状況などから簡単に犯人を捜すことができます。最悪の場合、アルバイト従業員がコンビニで悪ふざけをした結果、その店自体が潰れてしまう、というケースもあるようです。そうなると、その人の人生が台無しになってしまいます。

街の飲み屋で他人の悪口を言う…

次に、(3)について考えてみましょう。これはけっこうたくさんの事例があります。

私の昔の友人の中に、リスク感覚のない人がいました。ここでは「A氏」としておきましょう。A氏が、現在、どこで何をしているかについては、こちらには敢えて記載しません。私は一時、そのA氏と頻繁に飲みに出かけていたのですが、非常に困った癖がありました。それは、「自分の勤務先にいる人の悪口を実名入りで(しかも大声で)話す」、というものです。私はA氏に対し、何度もそうしないように嗜めたのですが、「馬耳東風」とは彼のことを言うのでしょうか、結局、私の意図はA氏に全く通じませんでした。

A氏と私は新宿で飲むことが多かったという事情もあり、新宿から遠く離れた街で働くA氏にとっては、他人の悪口を実名入りで話したところで、どうせ知り合いなど居ない、とタカをくくっていたのかもしれません。しかし、日本が広いのは事実ですが、だからといって、どこでどのような知り合いと鉢合わせるかわかりません。

イケメン会計士のNG行為!

また、東京の某ビジネス街で食事をしていた時に、私が昔、所属していた監査法人Bの若い会計士の集団と出くわしたことがあります。私にとって監査法人Bは「古巣」ですが、若い彼らの中で、大昔に辞めた私のことを知る人はいません。どうして私が彼らを「某監査法人の会計士」だと判断したかといえば、その集団が全員、顔写真と個人名が入った身分証明書を入れた、監査法人のロゴが入ったストラップを首にぶら下げていたからです。彼らは私に気付かず、監査先の企業の経理に関する情報を、実名入りで堂々と大声で話していました。あまりにも印象深かったので、その集団の中にいた若者(結構今風のイケメン君です!)の名前と顔を覚えてしまいました。

あとで有価証券報告書や日本公認会計士協会のデータベース等で調べてみたら、確かに彼らが話していた会社は実在しており、かつ、その「イケメン君」は協会のデータベース上、監査法人Bに勤務していることがわかりました(※なお、このデータベースは公認会計士でなければ閲覧できません)。ちなみに、その時に得た情報は、悪用したければいくらでも悪用できますが、この情報を他人に漏らしても、私自身に「守秘義務違反」は発生しません。なぜなら、この情報は「昼食時にたまたま隣の席に座った集団が大声でしゃべっていた話がたまたま耳に入った」だけのことであり、私自身が「公認会計士としての業務上、知った情報」ではないからです。ただ、私自身にも「良心」がありますから(笑)、別にその監査法人を強請るつもりなど全くありません。ですが、自社のロゴ入りストラップに身分証明書をぶら下げたまま社外に出て、食堂で機密をべらべら喋るというのは、社会人としていかがなものかと思います。

機密情報を漏らすのは社会人失格

以上までであれば、まだ許せる(?)ものですが、それでは残りの(4)(5)については、どのように考えればよいのでしょうか?

私は、社会人として一番やってはならないことは、「背任」だと思います。そして、事例に挙げた事例のうち、特に(4)(5)は、きわめて悪質な行為です。社会人であれば、一般企業に勤務している人も多いと思いますが、それなりに昇格していけば、企業の秘密情報に触れるポジションに達する場合もあるでしょう。これらの情報は、勝手に持ち出すのもアウトですし、仮に会社を辞めたとしても、勝手に流用してはなりません。

ときどき見かける事件が、「未公表の内容をネットに書き込んでしまう」という事件です。これは、事例によってはわりと「シャレにならない事態」を引き起こします。一昔前であれば、秘密情報を持っていたとしても、それを世の中に公表するためには、新聞社やテレビ局など「マス・メディア」の関係者と知り合いでなければならなかったと思います。しかし、今日ではインターネットの発達のおかげで、きわめて少ないコストで情報を圧倒的多数の人に伝達することができる時代となりました。

しかし、上記でも触れたとおり、書き込みの性質によっては、仮に「匿名掲示板」であったとしても、「誰が書き込んだかがわかる」のです。「みんなに注目されたい」という理由で企業の機密情報をネットに書き込んだりしたら、あとで大変なことになりかねません。

一方、昔勤務していた会社の機密情報をベースに、自分自身でビジネスを立ち上げてしまうということは、実際には良くある話でしょう。ただし、その場合であっても、最低限の「流儀」があります。すなわち、自分の「古巣」の機密情報(顧客リストや秘伝の製法など)を盗み出して、それを「悪用」することは許されません。

もちろん、私自身もその例の一人ですが、前職で身に着けた「手に職」を活用する分には全く問題ないでしょう。しかし、私自身は少なくとも、前職で「顧客リスト」を持ち出したりしていません(お客様から頂いた名刺は全て前職に置いて来ました)。ただ、話を聞いていると、前職からさまざまな情報を持ち出しているというケースもあるようで、話を聞いていると少し不安になってくることもあります。

勝負するからには正々堂々と!

いずれにせよ、社会人であれば、様々な「機密情報」に接する機会もあるかもしれませんが、それらの情報については不当に流用してはなりません。社会人である以上、「勝負するからには正々堂々と」やっていくべきでしょう。当ウェブサイトで「公認会計士としての経験に基づく機密情報」を期待されている方には申し訳ないのですが、そんなものを記載してしまえば、公認会計士に対する社会的信頼が失墜してしまいかねません。

当ウェブサイトでも、私自身の個人的な経験をウェブサイトに記載することもあるかもしれませんが、原則として「公開された情報」だけで議論を構築していきたいと考えています。そのうえで、「正々堂々とした勝負」だけでどこまでやれるかに挑戦していきたいと考えています。

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