「迷ったら基本に戻る」。これは私の持論です。普段、私のウェブサイトでは、金融・経済ネタや政治・外交ネタばかり掲載していますが、自分の専門分野外のことを調べなければならない時には、やはり基本的なことから勉強しなければなりません。また、普通に会社や役所で働いている人であればなおさら、突然、人事異動で慣れない仕事を命じられることだってあるでしょう。さらに、長い人生、壁にぶつかり、生き方に悩んでしまうこともあるかもしれません。そんな時にこそ、「基本となる知識」や「心の拠り所」が必要です。本日は、「日本人にとっての基本」について、「つれづれなるままに」綴ってみたいと思います。

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    ここからが本文です。

    小学校の「暗記教育」

    「基本に忠実」、という言葉があります。

    小学校では「ひらがな」や「カタカナ」、「掛け算の九九」をはじめとする、数多くの内容を学びます。日常的な漢字も、小学生のうちに大部分を習います。これらは、いわば日本国民としての「基本」です。

    あるいは、ヨーロッパやアメリカの場合、キリスト教徒であれば「聖書」を人生の指針として愛読していると聞きます。また、イスラム圏では「聖典クルアーン」を基本聖典として大事にしているようです。聖書やクルアーンは、いずれも、人間としての基本的な生き方に関する重要な指針であり、それぞれの教徒は「迷った時の指針」として、これらの聖典を読むことができます。

    しかし、日本の場合、何らかの「生きるための指針」はあるのでしょうか?

    え?小学校で憲法前文の暗記

    たとえば、キリスト教徒であれば聖書(新約聖書)を、イスラム教徒であればクルアーンを、それこそ「暗記する」くらいに読み込むのは自然な話ですが、ここで一つ、気になる話があります。全国多くの公立小学校・中学校で、日本国憲法の前文を丸暗記させているようなのです。

    「日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し、われらとわれらの子孫のために、諸国民との協和による成果と、わが国全土にわたつて自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。」

    この決して日本語として美しくない憲法前文を、小学校で暗記させているのはどういう目的なのでしょうか?まさか、キリスト教徒やイスラム教徒にとっての「聖典」として取り扱っているということなのでしょうか?

    私は、憲法前文の次の文章を読んで、違和感を覚えない日本人がいればお会いしたいと思っているくらいです。

    「われらは、いづれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであつて、政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に従ふことは、自国の主権を維持し、他国と対等関係に立たうとする各国の責務であると信ずる。」

    「われらは、いずれの国も」…、とありますが、「われらは」という「主語」に対応する「述語」は、「…と信ずる。」です。日本語として極めてアンバランスな悪文ですね。おそらくこの文章は、GHQが起草した

    “We believe that…”

    で始まる英文を、そのまま日本語訳した代物でしょう。もしかして、日本国憲法を「日本語訳」(!)した当時の担当者は、わざと日本語として不自然な部分を残すことで、将来の日本人に対し、「この憲法は撤廃しなければならないものである」ということを暗に伝えたかったのかもしれません。しかし、現実には日本国憲法の改正は行われておらず、小学校では現在進行形でこのような文章を子供たちに「刷り込まれている」状態にあります。これは非常に大きな問題であると言わざるを得ません。

    暗記するのは「聖典」

    私は「日本国憲法の暗記」については大きな問題だと考えています。しかし、私が問題だと思うのは「暗記教育」自体ではありません。というよりもむしろ、教育において「暗記」自体は非常に重要だと思います。

    掛け算の九九も当然として、かたかな、ヒラガナ、そしてできるだけ多くの漢字を正確に覚えておくと、それだけで人生は有利になります。また、私のように(かなり特殊な)「知的労働」に従事している人間としては、経済学、会計学、会社法、バーゼル規制などの規定をできるだけ多く頭に入れておかねばなりません。

    しかし、それと同時に、小学校、中学校という「基礎教育」の段階で暗記をさせるのであれば、「日本人として本当に重要なもの」に限るべきでしょう。余談ですが、小学校の音楽の教科書に国歌「君が代」を掲載するのは当然のことですが、小学校の音楽教師の中には、「君が代」のページにプリントを貼付させるという不届き者もいるようです。

    「ひらがな」「カタカナ」「漢字」は、時代に応じてそうそう変わるものではありません。また、キリスト教徒にとっての聖書、イスラム教徒にとってのクルアーンは、その内容が変わるものではありません。掛け算の九九に至っては、「十進法」が変わらない限り、絶対に変わることはありません。この「時代が変わっても内容が変わらないもの」を、幼児、あるいは小学生の時期などに教え込むのは重要です。

    しかし、日本国憲法は、決して「聖典」ではありません。むしろ、憲法前文にもしっかりと書かれている通り、これは「日本国民が定める法典」であって、時代に応じて変わるべきものです。それを、「憲法前文」や「憲法第9条」などを小学生の段階から「暗記」させるのは、極めて不適切です。

    憲法は「不磨の大典」ではない!

    余談ですが、日本国憲法自体、日本が連合国に対して無条件降伏したあとで、GHQが日本政府に対して「押し付けた」ものです。その意味では日本国憲法自体が「国際法違反」の存在であり、国家間の交戦権を一方的に禁止する憲法第9条第2項こそ、私は「殺人憲法」の名に値する代物だと考えています。

    先日もこのウェブサイトで議論したとおり、日本国憲法には大日本帝国憲法に存在しなかった「内閣」の規定が設けられていますし、国民主権、三権分立、表現の自由、法治主義など、重要な原則が多数、含まれています。その意味で、私は日本国憲法について、「欠陥は是正し、良いところはそのまま残す」べきだと考えています。

    ただ、小学校で「憲法前文」を丸暗記させるような教育慣行が常態化しているのは、いかにも問題です。なぜなら、国民の潜在意識に「日本国憲法(特に前文)は変えてはならないものだ」という誤った考え方を刷り込むことになるからです。これだと、大日本帝国憲法を「変えてはならない不磨の大典」とみなしていた戦前と大して差がありません。

    いずれにせよ、「日本国憲法があって日本国民が存在する」のではありません。「日本人が国家を作り、その国家が憲法を定める」のが正しい在り方です。その意味で、私はこれからも、「憲法は不磨の大典ではない」と言い続けていきたいと考えています。

    日本人にとっての「基本」とは?

    さて、日本は「無宗教国家だ」などと指摘されることがあります。日本国憲法第20条には、このように規定されています。

    • 信教の自由は、何人に対してもこれを保障する。いかなる宗教団体も、国から特権を受け、又は政治上の権力を行使してはならない。
    • 何人も、宗教上の行為、祝典、儀式又は行事に参加することを強制されない。
    • 国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない。

    つまり、国が、特定の宗教団体・宗教法人を優遇することは憲法上禁止されています(ただし「宗教法人」という「法人格」を取得した場合に一律に税制優遇することなどは禁止されていませんが…)。また、国民が特定の宗教上の行為、祝典、儀式、行事に参加することを強制されることはありませんし、小学校で「宗教教育」を行うことも禁止されています。

    外国だと、国によってはキリスト教・イスラム教、その他の宗教の教育を小学校で行っているようですが、日本ではそもそも、宗教教育自体が禁止されてしまっているのです。戦前であれば二宮尊徳像などが小学校に設置され、神社が事実上の国家宗教とされていた時期もありましたが、現在では、「宗教教育」にならないように特別に配慮されていると聞きます。

    ※ただし、私立学校が宗教教育を行うことは問題ありません(例えばミッション系の私学がキリスト教教育を行う、など)。

    では、「日本人としての基本」とは一体何なのでしょうか?

    日本人が「心の拠り所」とするものは古典

    先ほど、小学校が日本国憲法の前文を丸暗記させているという事例を紹介しましたが、これは、私に言わせれば、小学校教員にとって、「日本人にとっての心の拠り所」とする共通のものが「日本国憲法」だと思われる、ということだと思います。日本国憲法の不戦の誓いを素直に「素晴らしい」と考える人が小学校の教員に多いのか、それとも、「絶対に日本国憲法を変えさせないように、小学生に憲法を刷り込む」という「洗脳」まがいの行為を推進しようとしているためなのかはわかりません。

    しかし、上記で述べたとおり、憲法とは「不磨の大典」ではありません。法律は、時代とともに変えていかなければならないものであり、これを暗記させることには大きな問題があると言わざるを得ません。

    ただ、それと同時に、「日本人にとっての共通の心の拠り所」と呼べるものがあると、素晴らしいことだと思います。そして、その一つの例として、私は美しい日本語の古典を挙げたいと思います。

    実は、古典こそが小学校における「暗記教育」に最も向いています。「時代とともに変わるものではない」という点がその大きな理由ですが、それとともに、日本人が共通の「心の拠り所」とすることができるからです。

    古文自体、現在の日本語とは異なりますが、幼いころから古文に親しめば、日本人としての語感を自然に身に着けていくことができますし、何より日本人が大切にしてきた価値観に近付くことができます。

    賢者は歴史に学ぶ

    古典を学ぶのには重要な意味があります。それは、長年、大切に語り継がれ、読み継がれていた文章とは、極めて優れているものである、という点です。その意味でも私は、小学校からの英語教育をするよりも、むしろ古典教育を充実させることの方が重要だと考えています。どこの国でも、教養がある人は深い尊敬を受けます。そして、本質的な教養とは、「英語が話せるかどうか」などではなく、どこまで基本的な教育を受けてきているのかで決まります。月並みな言い方ですが、「読み書き、そろばん、そして古典」です。

    一例を挙げれば、最近、「へんてこな命名」の事例が散見されます。赤ちゃんに「金星」と書いて「まあず」と読ませるような、無教養で非常識な名前を付ける事例があります。しかし、こうした命名に対して700年前に苦言を呈した識者がいます。

    「人の名も、目慣れれぬ文字をつかんとする、益なきことなり/何事も、珍しきことを求め、異説を好むは、浅才(せんざい)の人の必ずあることなりとぞ」

    私の手により漢字仮名混じり文に変更していますが、これは随筆家の吉田兼好(本名・卜部兼好)さんが西暦1331年頃にまとめたとされる、通称「徒然草(つれづれぐさ)」116段に示されているものです。私の文責で現代語訳しておきますと:

    「命名に一般常識からかけ離れた文字を使用することは無益だ/常識はずれのオンリー・ワンを好むのは、学が浅い人間のすることだ」

    といったものでしょうか?現代人の行動が、700年前の知識人によって見透かされているようで、面白いですね。

    ゲーム感覚で覚える「小倉百人一首」

    私が全国の小学校で、是非導入して欲しい教育は、「小倉百人一首」です。正月の「かるた取り」遊びを経験された方も大勢いらっしゃると思いますが、これは、「五七五七七」の構造を取る歌を、「上の句」「下の句」に分け、「下の句」のみを「取り札」とするものです。

    「むすめふさほせ」と言えば、「最初の一文字を聞いただけで取り札が決まる」という句です。具体的には、

    • むらさめの つゆもまだひぬ まきのはに/きりたちのぼる あきのゆふぐれ
    • すみのゑの きしによるなみ よるさへや/ゆめのかよひぢ ひとめよくらむ
    • めぐりあひて みしやそれとも わかぬまに/くもかくれにし よはのつきかな
    • ふくからに あきのくさきの しをるれば/むべやまかぜを あらしといふらむ
    • さびしさに やどをたちいでて ながむれば/いづこもおなじ あきのゆふぐれ
    • ほととぎす なきつるかたを ながむれば/ただありあけの つきぞのこれる
    • せをはやみ いわにせかるる たきがはの/われてもすゑに あはむとぞおもふ

    ということです。この7つの句を「制覇」することが、百人一首をマスターするうえでの第一歩でしょう。

    私は中学生のころ、百人一首を丸暗記させられた記憶がありますが、今になって考えると、これは非常に良い経験だったと思います。また、大学生時代、あるいは独身時代には頻繁に海外に出かけていたのですが、その時にも、「ポケット版百人一首」を忍ばせて、飛行機に乗っている時間やバスの時間などに読み耽ったものです。

    迷ったら基本に戻る!

    私は、小学校、中学校、あるいは高等学校の教育は、いわば人生の「根幹」のようなものだと思います。もちろん、中には「日本国憲法丸暗記」のように、日本人の教育として、やや不適切だと私が考える項目も含まれています。しかし、国語・算数(数学)をはじめとする基礎理論は、社会に出た後でも指針として役に立つものです。

    加えて、私自身は公認会計士ですから、仕事で迷った時には「会計監査六法」(昔の監査小六法)に戻ることにしていますし、バーゼル規制についてはバーゼル銀行監督委員会(BCBS)が公表する「バーゼルⅢテキスト」「バーゼルⅡテキスト」などに戻って調べることもあります(※ただし英文で記載されており、かつ、専門用語満載なので、一般の方が気軽に読めるものでもありませんが…)。

    社会人であっても、「迷った時に戻るべき基本」があるのは非常に幸せなことだと思うのです。

    ※本文は以上です。

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