本日は、少し時間が取れたので、戦略研究科で米国・戦略国際問題研究所(CSIS)の元上級顧問でもあるエドワード・ルトワック氏が4年前に著した「自滅する中国」に関して、ポイントを絞った解説と、現在の国際情勢における応用の仕方について考察してみたいと思います。

※本文はお知らせの後に続きます。

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    ここからが本文です。

    読書録:CSIS元上級顧問の中国論

    当ウェブサイトでは、しばしば、米国・戦略国際問題研究所(CSIS)の元上級顧問のエドワード・ルトワック氏が執筆した書籍について紹介する機会があります。私自身、アメブロや楽天ブログといった「無料ブログサービス」を使っていた頃から、ルトワック氏の書籍を自らのウェブサイトで紹介してきたのですが、本日は改めて、これらの書籍のうち、やや古い「自滅する中国」の方を紹介したいと思います。ところで、ルトワック氏の代表的な二つの書籍を比べると、ルトワック氏の経歴の記載はやや異なっています。そこで、記載が異なる部分については、より新しい「中国4.0」の方の記載を優先しておきます。

    エドワード・ルトワック(Edward N. Luttwak)氏は戦略国際問題研究所(CSIS)の上級顧問で、「中国4.0」の方によれば、「元」とついていますから、おそらく現在は退職になられているのでしょう。イタリアや英軍で教育を受け、ロンドン大学(LSE)で経済学の学位取得後、アメリカのジョンズ・ホプキンス大学で1975年に博士号を取得し、同年、国防省長官府に任用されたとのことです。

    両著ともに翻訳は奥山真司氏です。奥山氏はカナダのブリティッシュ・コロンビア大学を卒業。英国レディング大学大学院博士課程を修了し、戦略学博士(Ph.D)を取得されています。「中国4.0」の奥付によれば、現在は国際地政学研究所上級研究員だそうですが、両著ともに大変わかりやすい日本語で解説されており、非常に有用な書籍に仕上がっています。

    「中国4.0」の方は、後日、紹介したいと思いますが、本日はより古い「自滅する中国」の方を取り上げてみましょう。

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    なお、本日取り上げる書籍についてのアマゾンのリンクです。興味があればどうぞ。

    ただし、当ブログを読んだからといって、興味もないのにわざわざクリックをしていただく必要はありません。

    「自滅する中国」レビュー

    さて、書籍には著作権があるので、内容を丸ごと引用することはできません。しかし、これらの書籍を読んで、私自身が何を考え、何を感じたのかを記すことに問題はないはずです。そこで、ここからは「読後レビュー」という観点から、私なりの感想を綴って参りたいと思います。

    本日は、まず「自滅する中国」の方です。

    これは、2013年7月に刊行された書籍であり、原著 “The Rise of China vs. the Logic of Strategy”はその約9か月前の2012年11月に刊行されているようです。私自身、何回か書籍を出版したことがあるのですが、たとえ「翻訳」であったとしても、わずか9か月後に日本語版が出版されるというのは凄いことだと思います。というのも、書籍になるためには、原稿を執筆し、第1校を出版社に提出してから最低でも半年の期間が必要だからです。奥山氏の翻訳力には脱帽です。

    ただし、原著が出版された時期が2012年11月であるということは、この書籍に記載されている内容のうち、日本に関する部分は、どんなに新しくても野田政権の話までしか載せられません。そして、実際に「自滅する中国」で触れられている日本に関する下り(第14章、173~193ページに相当)の記述は、その大部分が鳩山政権か菅政権のものであり、安倍政権が5年目に突入しようとしている現時点と比べると、やや記載が古いことは否めません。また、中国やオーストラリア、インドネシア、フィリピン、あるいは韓国などでも、この書籍が出版されて以降、政権交代が(場合によっては複数回)発生しています。したがって、国際社会の現状が、部分的に、この書籍で触れられている内容と変わってしまっている可能性には注意が必要です。

    ただ、それでも私がこの書籍を読んで参考になると思う部分は多々あります。というのも、この書籍のテーマが「中国は世界帝国になろうとしているが、それは無理だ」という主張で一貫しているからです。つまり、中国の周辺国が、中国に対して付き従おうとしているのか、それとも離反しようとしているのかについては本質的な問題ではなく、

    台頭する国は、「パワーが台頭している」という事実そのものから、パワーを失ってしまうことになる(P6前文より)

    という点にルトワック氏の主張が凝縮されているからです。

    なお、ルトワック氏の原著は、どちらかというと「中華文明圏」に疎い欧米人読者向けに執筆されているためでしょうか、前半部分は我々日本人にとってなじみのある中国の歴史や中国政府の様々な行動に力点が置かれていることもあり、比較的「飛ばし読み」で良いかと思います。しかし、「第6章 中国の強国化とそれにたいする世界の反応」あたり以降は、視点が新鮮で、非常に参考になります。たとえば、

    「人民解放軍の海軍艦艇が答礼を行う代わりに火器管制レーダー照射を行ってくる」(同P79)

    といった下りには、ぎょっとする日本人読者も多いでしょう。今年6月17日にも、尖閣周辺海域上空で中国の人民解放軍の戦闘機が自衛隊機に対し攻撃動作を仕掛け(いわゆるロック・オン)、自衛隊機がフレアを発射してロック・オンから離脱されたという事件が発生したばかりです(※日本政府はこれを否定しているようですが、詳しい経緯は日経ビジネスオンラインにジャーナリストの福島香織氏が寄稿したレポートにまとめられています)。ルトワック氏は、2012年11月段階で、中国人民解放軍がこうした危険な行為を「答礼代わりに」行っていると指摘していたのです。

    中国がこのような狼藉行為を働く理由は、中国が軍事的に強くなったと「国内向けに」宣伝するためなのでしょうか、それとも人民解放軍の司令官から末端レベルにまで外国に対して好戦的な意識が蔓延しているためなのでしょうか?いずれにせよ、非常に危険な話です。

    既に民主党政権時代に「離中」していた日本

    「自滅する中国」から紹介したい論点はほかにも山ほどあるのですが、敢えて論点を「日本」と「朝鮮半島」に絞ってみましょう。まず、「日本」について、です。ルトワック氏が第14章で触れている日本は、だいたい2011年頃までの動きまでですが、今読んでも恐ろしいほどルトワック氏の予言が実現しているのに驚きます。

    ルトワック氏によると、中曽根康弘首相(在任:1982~87年)が比較的親中派だったという点にも触れつつ、2009年に民主党が政権を奪取した後で、小沢一郎・民主党幹事長(=当時)を中心に対中傾斜が加速した事実を指摘します。確かに「鳩山政権」は「小沢政権」とも揶揄されるほど、小沢幹事長の影響力が強かった政権でもあります。その小沢幹事長は、2009年12月に「143人にものぼる民主党議員」らを引き連れて「北京詣で」をし、習近平(しゅう・きんぺい)副主席(当時。現・国家主席)の天皇陛下への謁見を実現させるなど、「天皇陛下の政治利用」をしでかしたうえで、あの有名な「私は日本の人民解放軍の野戦司令官です」なる発言をしました。

    ルトワック氏はこれについて、

    • 長期政権であった自民党からの解放軍
    • 官僚政治からの解放軍
    • 米国からの解放軍

    という三つの意味合いがあると指摘(P176)していますが、これは言い得て妙でしょう。しかし、この「小沢政権」(※私の皮肉です)の急激な「中国傾斜」という流れも、ある事件をきっかけに、大きく変わってしまいます。それが、

    「2010年9月7日の尖閣沖における漁船の侵入」(P179)

    事件です。考えてみれば、ルトワック氏が指摘する通り、

    • 日系の商店にたいする暴動による破壊
    • 訪中していた日本人の企業役員の逮捕
    • 日本に対するレア・アースの輸出の禁止
    • 中国外交部による補償と謝罪を求める最大限に挑発的な要求

    など、「中国側の分別を欠いた反応」が発生。このことが、かえって我々のような一般の日本人の中国に対する態度が「永遠に変わってしまった」のです。いわば、ルトワック氏に言わせれば、日中関係(あるいは日本国民の対中関係)は、

    「友好訪問や善隣攻勢を使っても元に戻らなくなってしまった」(P180)

    のです。

    ルトワック氏は、民主党政権時代に日本の政治家(特に鳩山由紀夫・菅直人両元首相)らが日中関係において果たした役割について、ほとんど触れていません。むしろ、中国側の「分別を欠いた日本に対する挑発」が、日中関係を「不可逆的に」破壊したと指摘しているのであって、今日に続く日中関係の行き詰まりの原因を作ったのは完全に中国側である、ということです。そして、日本だけでなく、多くの周辺国が中国に反発し、(あのロシアでさえ)中国を警戒するようになったのです。いわば、「大国として台頭した中国」が、「偉大なる中華の復興」という野心を隠さなくなったことに伴う、当然の反応といえるでしょう。

    唯一の例外は韓国

    ルトワック氏は日本、オーストラリア、ベトナム、インドネシア、フィリピンなどの周辺国が一斉に中国から離れていくという現象を、客観的証拠をふんだんに使って見事に解き明かしてくれています。もちろん、中にはインドネシアやフィリピンのように、政権によってはケース・バイ・ケースで中国に融和的な姿勢を示したりするケースもあるようです。しかし、大きな流れとしては、周辺国の多くは中国を警戒し、中国との友好関係をやめ、中国から離れていく、というものであり、これは中国が現在の「偉大なる中華帝国の復興」という目標を捨てない限りは避けられないのです。

    しかし、こうした周辺国の中で、唯一の例外があります。それが韓国です。

    「自滅する中国」の中で韓国に触れられているのは「第16章」(P223~236)ですが、この章は、ほかならぬ韓国人たちに読ませたいほどの秀逸な議論が展開されています。特に、ルトワック氏は、韓国人の多くが「反日感情」、「反米感情」を抱くわりには、「反中感情」がほとんど見られないという事実に注目。さらに、韓国を軍事的に徴発して来る北朝鮮に対しては、

    「驚くべきことに、かなり大きな被害を受けた場合でも何も反応していない」(P227)

    と述べています。私の言葉で言い換えるならば、韓国には政府・国民を問わず、「敵」「味方」を正しく認識する能力が欠如していると言わざるを得ません。それだけではありません。ルトワック氏は、(中国を恐れてでしょうか、)2010年6月27日にダライ・ラマが日本の横浜グランド・インターコンチネンタル・ホテルで韓国の仏教僧と対話交流の場を持ったという事件を、

    「(ダライ・ラマに対する)韓国への渡航ビザの発給は再び拒絶された」「米韓同盟(略)には共通の「価値観」は含まれていない」(P232)

    と評しています。なかなか鋭い指摘ですね。そのうえで、韓国を論じるうえで最も重要な現象は、「日本との争いを欲する歪んだ熱意」です。たとえば、韓国は島根県竹島を「独島」(Dokdo)と呼称して不法占拠していますし、また、対馬(韓国語でDaema-do)に対する領有権も主張しています。北朝鮮という現実の脅威に対して何も対処しないばかりか、「戦略的に何も意味もない」日本との争いを欲する行動を、ルトワック氏は「韓国の安全保障の責任逃れ」(P233)だと糾弾しています。

    それだけではありません。

    「2011年12月14日には『従軍慰安婦』を表現する上品ぶった韓国人少女の像が日本大使館の向かい側で除幕された。(中略)これは韓国に全く脅威をもたらさない国を最も苛立たせるような行為であった。(中略)戦略面で現実逃避に走るのは(中略)、国際政治に携わる実務家たちの力や、同盟国としての影響力を損なうものだ。さらにいえば、これによって実際に脅威をもたらしている国に威嚇されやすくなってしまうのだ。」(同P234)

    としています。「慰安婦像」は「韓国に全く無害な国(=日本)を最も怒らせる行為」であり、「実際に脅威をもたらしている国(中国と北朝鮮のことか?)に威嚇されやすくなる」状況を自分で招いているのと同じだ、ということですね。とても参考になります。

    安倍政権になってからの4年

    ルトワック氏の書籍から4年が経過します。現在の安倍政権は、(少なくとも見かけ上は)韓国に対して融和的な様々な政策を仕掛けています。しかし、いつも議論している通り、安倍政権の対韓融和的な政策は、おそらく「日韓友好そのもの」を目的としたものではなく、「中国に対する牽制」を目的に、「中韓離間」の「手段」として位置付けられていると考えるべきでしょう(だからといって、私は韓国に対する融和的過ぎる政策には賛同しませんが…)。

    おそらく、中国の高圧的で理不尽な主張を見て、日本国民の大部分は、既に「日中友好」が単なる幻に過ぎないということを、理解しているに違いありません。また、こうしている間にも、「従軍慰安婦像」は世界中に増殖し続けていますが、そのような行為をすること自体が、日本国民の韓国そのもの(韓国政府・韓国国民)に対する感情を悪化させ、将来的には韓国の存続を危うくする行為であるといえます。

    いずれにせよ、日本国民の対中・対韓感情が著しく悪化した理由は、「極右の安倍政権が反中・嫌韓感情を煽っているから」ではなく、中韓の高圧的な振る舞いに対して一般の日本人が自然発生的に反発を感じた結果であることは間違いないといえるでしょう。

     

    ※本文は以上です。

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