尖閣諸島周辺海域で、公船を含む中国船舶の活動が活発化。8月5日から9日にかけて、未曽有の大規模な侵入事件も発生しています。尖閣諸島の問題については、左派メディアらが「いっそのこと、尖閣諸島の領有権を返上し、中国に割譲してはどうか?」「日本が憲法改正などの議論で中国を刺激しているのが問題だから、憲法改正議論を封印すべきだ」といった議論を行う一方、右派の間では「今すぐ武力で強制的に中国の公船を排除すべきだ」といった議論も見えます。しかし、いずれの議論も間違っています。私はこれを、「国防意識を振興する絶好のチャンス」と見て、「事態が悪化しないように管理しつつも積極的に放置する」ことを提案したいと思います。

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    ここからが本文です。

    尖閣公船侵入事件はひと段落だが…

    わが国固有の領土である沖縄県の尖閣諸島に対し、中国が領有権を主張しており、尖閣諸島の周辺海域、あるいは領海に、たびたび中国公船が侵入しています。中国は近年、尖閣諸島周辺海域に公船を積極的に派遣するなどしており、この海域における日中の緊張が高まっています。

    こうした中、8月5日から9日にかけて、大量の中国公船・中国漁船が領海に侵入。また、8月11日早朝には、中国漁船がギリシャ船籍の大型貨物船と衝突し、中国漁船の乗組員を日本の海上保安本部が救助するなどの「椿事」も発生しています。この大規模な「侵入事件」、現段階では船舶の大部分が領海外に出たため、とりあえずは「ひと段落」した格好です。

    この事件について、外務省は一昨日、「尖閣諸島周辺海域における中国公船及び中国漁船の活動状況について」とする文書を公表しています。文書の冒頭では、

    「約200~300隻の漁船が尖閣諸島周辺の接続水域で操業するなかで、最大15隻という多数の中国公船も同じ海域に集結し、中国漁船に続いて領海侵入を繰り返すといった事象が確認されたのは今回が初めてである。」

    と記載されていますが、これを読むと、改めて今回の事態の「異例さ」が際立っていることがわかります。日本の領海を、「海警」と名乗る中国の公船が堂々と出入りする事態は、「異常事態」以外の何でもありません。

    では、なぜ今回、中国がこれほど積極的に、「日本を挑発」する行為に出ているのでしょうか?考えてみれば、これは非常に不自然なことです。というのも、中国当局による「狙い」がよく見えないからです。もちろん、わかりやすい説明としては、「中国当局が日本を牽制するためだ」、という者があります。実際、「安倍政権が内閣改造により、『右派』と目される稲田朋美氏を防衛大臣に起用したことを受けて、中国当局がこれに『抗議・牽制する』(あるいは『試す』)意味合いもある」、といった報道もあります(たとえば次の記事)。

    中国公船による尖閣諸島周辺の領海侵入 稲田朋美防衛相への挑発行為か(2016年8月8日 17時12分付 ライブドアニュースより/ZAKZAK配信)

    しかし、考えてみれば、中国当局が現段階で、日本を挑発して、何かのメリットがあるとでもいうのでしょうか?私はそうは思いません。冷静に考えるならば、現在の中国が置かれている環境は、非常に厳しいからです。

    今年7月12日にオランダ・ハーグにある常設仲裁裁判所(Permanent Court of Arbitration, PCA)は、フィリピンが中国を相手取った国際訴訟で中国の全面敗訴判決を下しました。この訴訟は、以前、当ブログでも紹介したとおり、フィリピンが中国の南シナ海における活動の違法性を国際社会に訴えたものであり、結果はフィリピン側の全面勝訴でした。

    ところで、フィリピンでは6月30日に、「親中派」と目されていたロドリゴ・ドゥテルテ大統領が就任しました。同大統領は、本来、親中派であるはずなのに、PCA判決を受け、就任後に早速、「中国とは交渉しない」と明言しています。

    比大統領「中国と交渉しない」=南シナ海領有権、譲歩せず(2016/07/20-00:12付 時事通信より)

    いわば、東シナ海や南シナ海で、強引に領有権を主張し、周辺国のすべてを敵に回すような姿勢が、周辺国の強い反発を買っている格好です。こうした状況で、いたずらに日本を敵に回すような行為を行うことが、果たして中国の国益につながるのか、大いに疑問です。日本は中国にとって、フィリピンやインドネシア、ベトナムなどとは桁違いの海軍力を保持していますし、しかも日本領である尖閣諸島に上陸すれば、日米同盟を通じて世界最大の海軍国である米国の対中攻撃の口実を与えかねません。中国の当局者に「冷静な判断力」があれば、このように日本を挑発することなど、考えられないというのが、私自身の「違和感」の正体なのです。

    尖閣侵入事件は「中国内の事情」

    少し古い記事ですが、日経ビジネスオンラインに、ジャーナリストの福島香織氏が、参考になる記事を寄稿しています。

    尖閣に迫る嵐、「終戦の日」の中国に備えよ(2016年8月10日付 日経ビジネスオンラインより)

    私が「参考になる」と思う下りは、次の通りです。

    「党内部の情報にそれなりに精通している中国人知識人ですら、習近平政権は不確定要素、不安定要素が多すぎて、何をするかわからない、と評する。なぜ、今のタイミングかというのは、はっきりとはわからないが、南シナ海の情勢との兼ね合いのほか、習近平の軍権掌握が思いのほか難航しているということではないだろうか。」

    (リンク先記事の3ページ目から抜粋)

    つまり、福島氏の見立てを私の言葉で書き換えると、「習近平(しゅう・きんぺい)中国国家主席の権力掌握ができておらず、中国公船の相次ぐ領海侵入の理由は、日本を挑発するためというよりはむしろ軍が習近平政権を振り回している可能性がある」、ということです。この意味で、私は福島氏の記事に、一定の説明力があると見ています。

    ※もっとも、福島氏は「8月15日に中国人民解放軍が尖閣諸島に上陸するかもしれない」などと指摘しています。この指摘が「杞憂」に終わって良かったですが、中国公船の領海侵入は今後も続くでしょうから、油断は禁物です。

    いずれにせよ、現在のタイミングで中国公船の大規模な尖閣侵入が発生した理由は、「中国が日本を牽制するため」などではなく、「中国の国内事情である」とする説明の方が、すっきりしています。私は、今回の一連の事件についても、「あくまでも中国の国内事情が原因だ」とする説を取りたいと考えています。

    中国の「暴発リスク」に備える

    では、「中国による相次ぐ侵入事件を受け、日本としては何をしなければならないか」(あるいは「何をしてはならないか」)に関して、私自身の見解を改めて紹介しておきます。日本の「右派」「左派」の人々に「どうするのが良いのか」と尋ねると、たいていの場合、次の3つの解決策が出てきます。

    • (1)尖閣諸島の領有権を放棄し、日中関係の改善を急ぐ。
    • (2)尖閣諸島の領有権問題を棚上げし、日中関係の改善を急ぐ。
    • (3)尖閣諸島の領有権問題の存在をあくまでも認めず、侵入した中国公船を撃沈するなど、武力での排除も辞さない。

    上記(1)の解決策は、マス・メディアでいえば朝日新聞・毎日新聞・東京新聞、あるいは「沖縄タイムス」や「琉球新報」、政党でいえば共産党や民進党あたりが主張しそうな解決策です。一方、「バランス重視型」(あるいは事なかれ主義)の論者であれば、上記(2)の解決策を好むのではないかと思います。また、インターネット上の保守的な論者(いわゆる「ネトウヨ」)が好むのは、もしかしたら(3)の解決策かもしれません。

    しかし、今回の事態に関していえば、上記(1)~(3)のすべてが間違っています。正しくは、

    • (4)事態が悪化しないように管理しつつ、中国船舶の領海侵入の頻発を敢えて放置する。

    ということです。

    これを考える前提として重要なのは、一連の事件の「原因」です。中国公船の領海侵入の原因を、「習近平政権の日本に対する牽制」と見るのか、「中国の国内事情にある」と見るのかにより、対処方法が異なってきます(図表)。

    図表 原因をどちらにあると見るべきか
    原因 考え方 対処法
    日本に原因があるとする見方 「尖閣の領有権をわざわざ主張する」などして中国を「刺激」したため、中国が日本を牽制する目的で中国公船が日本領海に侵入したもの 日本はできるだけ中国を刺激せず、穏便に対処すべきだ
    中国に原因があるとする見方 今回の侵入事件は、日本に対する牽制というよりはむしろ、中国による政権内部の権力対立などの国内要因がある 日本としては事態が悪化しないように管理する以外に、積極的に動かない

    左派メディアや左派政治家らは、得てして、「日本が中国を刺激しなくても、中国が国内事情で日本を侵略する可能性がある」という点を、完全に無視しています。仮に今回の中国公船の侵入事件が、日本にも原因があるということであれば、やはり我々も「自重」しなければなりません。しかし、今回の一連の事件については、全責任が中国側にあると見るべきであり、必然的に、日本の対処方法は決まってきます。

    私は今回の事態を、中国の内部事情によるものだと見ています。ということは、日本が何をしても(あるいは何をしなくても)、再び中国公船の大規模な領海侵入が発生しかねない、ということです。具体的には、日米同盟が「揺らぐ」タイミングである米大統領選の時期を見て、中国が日本に対する攻撃を仕掛ける可能性があるでしょう。

    ただ、いくらリスクがあるからといって、日本の方から、「中国の公船を積極的に攻撃しに行く」という行動は控えるべきです。あくまでも日本は先制攻撃を行わず、事態を把握し、管理する以外に方法はありません。その意味で、現在の安倍政権による尖閣問題のマネジメントは、ほぼパーフェクトに近いと言って良いでしょう(それにしては対韓外交は極めて稚拙ですが…)。

    それに、中国の領海侵入の常態化は、実は日本にとっても良い効果があります。一つは、日本国内の無責任な左派メディア・左派政治家・左派活動家らの主張を、木端微塵に打ち砕く効果です。「SEALDs」を名乗る無責任な学生団体が、タイコやドラを叩いて国会前で「安全保障関連法案」に反対したことは記憶に新しい点ですが、「護憲主義」を掲げていても、目の前にある「中国の侵略リスク」には無意味であることを、日本国民に知らせてくれる効果があるのです。

    いずれにせよ、「中国の公船の領海侵入」については「事態が悪化しないように管理しながら積極的に放置する」一方、国内の防衛体制の整備を怠ってはなりません。具体的には、「国権の発動たる戦争」を禁じた日本国憲法第9条第2項を放置していると、自衛戦争すらできないという不都合があります。また、厳密に言えば自衛隊の存在は「憲法違反」です。憲法の欠陥は、いずれ是正されなければなりません。

    安倍政権には、「中国による侵略リスク」という国難を、憲法第9条第2項の欠陥を除去するというチャンスに、ぜひ、活かしてほしいと思います。

    ※本文は以上です。

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