業界支える配達員の高齢化に直面する新聞の厳しい現実

タレントの山田邦子さんが「テレビはつまらなくなった」と嘆いているそうですが、そんなテレビ業界のみならず、新聞業界を含めたマスメディア(あるいは「オールドメディア」)全体の苦境を示す指標は最近、事欠かないように思えます。こうしたなかで本稿でもうひとつ注目しておきたいのが、新聞業界は最近、新聞配達員を確保するのが難しくなっている、という指摘です。

オールドメディアの苦境は利権の崩壊

新聞部数の激減、若年層を中心とするテレビ視聴時間の減少、マスコミ4媒体広告費の減少―――。

世の中で、新聞、テレビを中心とするマスメディア(当ウェブサイトの用語でいうところの「オールドメディア」)の退潮を示す証拠はいくつかあり、これらの一部については、当ウェブサイトでもこれまで随時紹介してきたとおりです(これらについては今後も随時取り上げていく予定です)。

ただ、これらの現象について、その原因をどう考えるかを巡っては、人によっても意見に相違があるようです。

これについて、当ウェブサイトなりの現時点の仮説を示すならば、「ネットの出現でマスコミの既得権益が奪われたこと」に尽きると思います。

ひと昔前なら、新聞、テレビの社会的影響力は大変に大きかったのですが、裏を返せば、こうした新聞社、テレビ局の地位の高さは、マスメディア業界の「中の人たち」にとって、「俺たちは凄いんだ」、「俺たちは偉いんだ」、といった歪んだ特権意識をもたらしていたのかもしれません。

そして、古今東西、傲慢になった人たちは、必ず、自身の傲慢により滅亡の道を歩みます。

当ウェブサイトでもときどき取り上げる「利権の3大法則」ではありませんが、利権を持っている人たちは、自分たちが持っている利権が「あって当たり前」のものだと考えるようになり、それをさらに維持・拡大しようとするものの、その過程で人々の反発を喰らって衰亡していくのです。

【参考】利権の3大法則
  • 利権の第1法則…利権は理不尽な仕組みである。
  • 利権の第2法則…利権は外から壊すのが難しい。
  • 利権の第3法則…利権は怠惰や強欲で自壊する。

©新宿会計士の政治経済評論

まさに、新聞はもう完全に衰退期に入りましたし、テレビも新聞業界の後を追いかけていて、遠くない未来に衰退期に突入することは、おそらく間違いないというのが著者自身の仮説でもあるのです。

山田邦子さんがテレビを「つまらない、夢がない」

さて、こうしたなかで『スポニチアネックス』が14日夜、ちょっと気になる記事を配信しました。

山田邦子 長寿番組が次々と終了…昨今のテレビ業界に私見「とってもつまらない。とっても夢がない」 

―――2024/10/14 21:52付 Yahoo!ニュースより【スポニチアネックス配信】

記事によるとお笑いタレントの山田邦子さんが14日放送の『アベマプライム』に出演し、最近のテレビ番組について、次のように述べたのだそうです。

大体さ、話ズレるかもだけど年齢の高い人達の番組を切りましたよね?随分。これからは若い人が見るんだからとか言って、かなり人気のある歌番組とか恒例のものをずいぶん強制的に終わらせられた」。

山田さんのこの発言は、長寿番組が次々と終了していることに関する指摘なのだそうですが、これに関連して山田さんは、こうも述べたのだとか。

結構恨んでます。とってもつまらない。とっても夢がない」。

「つまらない」、「夢がない」のは山田さんなりの感想でしょうし、「結構恨んでる」というのも山田さんの感情でしょう。ただ、それと同時に長年、テレビ業界で人気タレントとして活躍して来た山田さんの言だけあって、そこそこ実感がこもっているように思えるのは、気のせいではないでしょう。

これについては『Yahoo!ニュース』の読者コメント欄も盛り上がっているようですが、著者自身に言わせれば、「インターネットで良質なコンテンツが増えて来て、相対的にテレビ番組の質が低く見えているだけではないか」、という気がしてなりません。

いずれにせよ、現在、映像や動画を楽しむための手段は地上波テレビだけでなく、YouTube、Netflix、Huluなど、有料・無料含めさまざまなサービスが存在しており、消費者の立場としては、テレビは数多くある選択肢のうちのひとつに過ぎなくなっている、という点については、もうだれの目にも明らかな事実でしょう。

新聞業界の苦境はさらに明白に

ただ、(著者自身の主観も交えて申し上げれば、)テレビ業界は「若者離れ」「視聴者離れ」が始まったばかりであり、おそらくまだ経営には相応の余裕があるものと思われます。実際、在京民放各社の決算を眺めていても、まだまだ経営が逼迫しているという状況にはありません。

しかし、新聞業界に関しては、間違いなく、少なくない会社が経営危機の状況にあります。

先週の『ふるさと融資から垣間見える新聞業界と官僚の癒着構造』などを含め、何度か当ウェブサイトで取り上げている通り、少なくない地方紙が「ふるさと融資」という実質的な公的助成制度に頼っていることが確認できるのですが、話はそれだけではありません。

夕刊フジの休刊が象徴する新聞業界の苦境…夕刊消滅か』などでも指摘したとおり、おそらく夕刊紙はごく近い将来―――下手をするとあと2、3年以内―――に、ことごとく消滅してしまう可能性が生じているのです。

この点、新聞に限らず、一般に産業が産業として持続するためには、ある程度の規模が必要ですが、夕刊から撤退する社が相次げば、その地域において配達網自体を維持することができなくなるのです。これが、『夕刊は「櫛の歯が欠けるように」消滅に向かっている?』などで指摘した、「櫛の歯」理論です。

現代ビジネス「80代が新聞配達をする地方の現実」

そして、こうした「櫛の歯」理論の正しさを間接的に証明するような記事も出てきました。

ウェブ評論サイト『現代ビジネス』が15日に配信したこんな記事がそれです。

80代が新聞配達をする「地方の現実」…新聞が届かなくなる日がやってくるのか

―――2024/10/15 06:55付 Yahoo!ニュースより【現代ビジネス配信】

この記事はリクルートワークス研究所の研究員でアナリストの坂本貴志氏が上梓した新刊『ほんとうの日本経済 データが示す「これから起こること」』から一部を抜粋したものだそうです。

記事で取り上げられているのは、『高齢化する新聞配達員』と題した節です。

坂本氏は記事で、とある地方の新聞配達などを手掛ける会社の事例を紹介します。同社の主力事業は新聞配達で、地元紙に加え朝日、日経、日刊スポーツなどさまざまな新聞を配達しているのだそうですが、坂本氏は同社のこんな証言を紹介します。

新聞を取る人は時代とともに少しずつ減ってきています。ただ、弊社ではいまでも市内を中心に1万数千部を配達していまして、近年は人手不足で配達がしきれなくなってきています」。

だいたい毎日1000部ほどは配達担当でない従業員が手分けをして配っています。慢性的な人手不足に悩まされていますが、特にコロナ直前の2010年代後半あたりから、ますます厳しくなっている印象があります」。

著者自身も経験がありますが、新聞配達は過酷な労働です。雨の日も風の日も、休まずに新聞を人海戦術で各家庭に送り届けなければならないからです。これについて坂本氏は、同社関係者のこんな発言も取り上げています。

配達スタッフも徐々に高齢になっていて、最近では、朝突然、『体調が悪い』とか、冬には『転んだ』、といった連絡が入ることが頻繁にあり、どんどん配達員が離脱しています」。

ちょっと、この記述には驚きます。

そもそも新聞配達は、ある程度若いか、それともある程度の体力がある人でなければ務まらない仕事です。

それなのに、坂本氏によると新聞購読者自体は「インターネットの普及などから<略>急速に減少している」のだそうですが、「それにもかかわらず従業員の負荷は減っていない」と指摘します。

新聞配達のビジネスは広域での配達エリアが決まっているため、配達の密度が増すほど効率が高まる。つまり、配達員の業務負荷は配達量の減少に比例して減少するわけではないのである」。

つまり、坂本氏の説明を突き詰めていくと、近い将来、読売新聞の販売店が朝日新聞を配る(あるいはその逆に、朝日新聞の販売店が読売新聞を配る)という事態も生じ得る、ということではないでしょうか。

すでにビジネスモデルは限界?

ちなみにくだんの会社では、年々従業員の確保が難しくなっているため、従業員の報酬水準を引き上げざるを得ない状況になっているそうですが、その反面、新聞配達では十分な利益の確保が難しくなってきており、さらに配達スタッフの高齢化も深刻な問題と化しているようです。

正直、ビジネスモデルとしてすでに破綻が見えているのではないでしょうか。

記事では後半で、新聞配達業界が外国人インターンなどの労働力を当て込んでいる、などとする記述も確認できるのですが、円安が長期化するなかでいつまでも豊富な外国人労働力に頼れるというものでもないでしょう。

いずれにせよ、「新聞の部数が今後、どこまで減るか」という論点もさることながら、刷り上がった新聞を人海戦術で物理的に全国津々浦々に送り届けるというビジネス自体が限界に達していることに関しては間違いなさそうです。

こうした観点からは、単に新聞部数や新聞広告費といったデータを追いかけるだけでなく、労働力の限界という論点もまた、新聞業界の先行きを予測するうえでのひとつの重要なファクターとなることはまちがいないと思う次第です。

本文は以上です。

読者コメント欄はこのあとに続きます。当ウェブサイトは読者コメントも読みごたえがありますので、ぜひ、ご一読ください。なお、現在、「ランキング」に参加しています。「知的好奇心を刺激される記事だ」と思った方はランキングバナーをクリックしてください。

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読者コメント一覧

  1. 引きこもり中年 より:

    毎度、ばかばかしいお話を。
    新聞;「新聞を読むほうも、配るほうも高齢者なのだから、今日の新聞を明後日までに、手渡しで配ろう。生存確認にもなるし」
    まさか。

  2. はにわファクトリー より:

    当方が住んでいる地域では読売夕刊は超高齢女性がやっています。
    ベンリィ号に乗っています。
     「(おばあちゃん)がんばっているねー」(門前で誰かが称賛)
     「がんばっているよぉー」(快活な返事)
    読者の無知無理解を小ばかにする新聞社編集部はこんな現実を理解できていないのです。

    1. 引きこもり中年 より:

      その超高齢女性が夕刊配達に来なかったら、死んだことになるのでしょうか。

    2. はにわファクトリー より:

      こんな映画タイトルを思いつきました。
       死ぬのは奴ら(新聞社)だ

  3. いねむり猫 より:

    米国では、自販機で売られたりしているところもあるので、日本で配達人がなくなっても困らないと思います。
    日本には、コンビニもあるのでほしいときに買うことができます。
    只、テレビの放送する内容の薄いのはNHK・民放に関わらず改善しないとインターネットに替られてしまうと思います。

  4. 伊江太 より:

    「新しい酒は新しい革袋に盛れ」って格言がありますが。

    >コンテンツ促進法(正称「コンテンツの創造、保護及び活用の促進に関する法律」平成16年法律第81号)はコンテンツ産業を「人間の創造的活動により生み出されるもののうち、教養又は娯楽の範囲に属するもの」と定義している。ゲームソフトやアニメ・漫画の制作会社、映画配給会社、動画配信会社、音楽やスポーツのライブ運営会社、放送局、出版・新聞社、広告代理店などが該当する。(日本大百科全書(ニッポニカ)より)

    この中で、「放送局」「新聞社」と言ったら、コンテンツ産業というより、むしろ装置産業と言った方が実体にちかのではないでしょうか? そしてそれは、もはや新しい酒(コンテンツ)を盛るに適した革袋(可塑性)たり得なくなっているのではないか?

    山田邦子氏の言は、「古ぼけた蓄音機で聴くならSP盤レコードが一番よ」と言っているように聞こえます。

    それだって、あんまり再生しすぎたら、すり減って雑音だらけになっちゃうよ(笑)。

  5. 高齢化社会 より:

    新聞取扱所にアルバイトで勤めています。
    確かに当方の販売所も配達員の高齢化が顕著です。
    70台、80台はザラにおります。段々と認知症も出てくるので、不配(配り忘れ)するケースも増えています。
    また、配達員の退職した後、次の人材補充もなかなか思う様に行きません。待遇が悪いので応募者がおりません。これから益々販売所の経営が難しくなるでしょう。

    1. はにわファクトリー より:

      「新聞記者は労働搾取をなぜ報じないのか
       労働基準監督署へ通報せよ」

      声なき世論が日々高まっていると。

  6. sqsq より:

    >「結構恨んでます。とってもつまらない。とっても夢がない」。

    山田邦子さん、業界の人だからこの程度の感想なんでしょうね。
    「とってもつまらない」なんていうレベルじゃないね。
    見てる人は「他にやることないし、タダだし」テレビでもみるか。
    作る方は「どうせ誰も観てないからこんなんでいいか」
    スポンサーは「コマーシャルさえ流せばいいよ」
    テレビ局は「電波料と広告費もらえれば内容なんかどうでも」

  7. sqsq より:

    新聞配達、昔は小中学生の仕事だったんだけどね。

    1. しおん より:

      僕のあだ名を知ってるかい、朝刊太郎と云うんだぜ~♪ですね。

      1. sqsq より:

        Wikiで調べると「新聞少年」のあと「牛乳少年」という歌もリリースしてるみたい。
        私の記憶では牛乳配達は重くて小中学生の手には負えなかったように覚えているが。

      2. セクシー〇〇 より:

         報道のお仕事ですね。かっこいい。
        私も40年以上前ですが中学2年から高校卒業まで新聞配達してました。
        私の地域では販売店は殆どの新聞を扱っていました。
        なので配達する家を覚えるだけではなく、どの家が読売、あの家は朝日とか
        覚えなくてはなりませんでした。
        販売店では各配達者の為に配達順に並べてくれる人が居て並べた後に広告を
        挟む人が居て。これは今も変わらないと思います。

         で、寝ぼけて一軒スキップしたりすると最後に一部余ってたりして。
        ああ。後戻り。いまだに夢を見ることがあります。

         いろんな新聞がありました。電波新聞とか農業新聞とか。

         今はネットがありますが、ご高齢の方の収入やご健康の為になれば
        それはそれで良いのではないでしょうか。

    2. 引きこもり中年 より:

      昔:新聞配達は小中学生の仕事
      今;新聞配達は高齢者の仕事
      ということでしょうか。

  8. 匿名 より:

    現在失業中、新聞配達で僅かながら収入を繋いでいますが、人と話さなくて済むので精神やってる人間からするとすごく快適な仕事です。
    ただ、それでもこの仕事に将来性はないとはっきり断言できます。末端の販売店で働く人間のためにも、新聞社は将来を見越した事業のあり方をきちんと説明すべきです。

    1. はにわファクトリー より:

      「持続可能な職場像、事業像を見せよ
       こんなときだけだんまりか
       逃げるな新聞記者」

      声なき世論が日々高まっていると。

  9. 匿名 より:

    昭和バブルの頃、3K職場は人手不足でしたね。
    あの頃、現地でも優秀な韓国人・中国人が日本の新聞配達員してました、
    臨時配達会社からの供給・斡旋があったからです。
    令和の現在、現地で優秀なベトナム人、インドネシア人、
    果たして新聞配達を選ぶのか?(漢字が読めない?)
    臨配会社ももう存在していないのではないでしょうか
    夏祭りのあと、祇園精舎の鐘がなるですね、カネがない

    配達員が認知症、読者も認知症、記者も認知症、新聞社も認知症・・・最後は、安楽死か、突然死か、税金チューチューか・・・

    1. はにわファクトリー より:

      「横柄職業集団
       行き着く果ては失敗産業」

      声なき世論が日々高まっていると。

  10. せろり より:

    実家の近くの配達店では地元有力新聞と大手新聞の二社の配達をされています。規約的にはどうか分かりませんが、いずれ全部の新聞の契約~お届けを取り扱う日がくるかもしれません。その方が理にかなってる気もします。また毎朝お届けできる機能性や集金力を活かして新たなビジネスモデルが生まれるかもしれないですよね。

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