史上初…名目GDP600兆円台

ついに史上初めて、名目GDPが600兆円の大台に乗せました。内閣府が15日に発表した第一次速報によると、2024年4~6月期の名目GDPは607.9兆円で、前年度比+4.9%という成長を記録しました。実質ベースでのGDP成長率はまだまだ低調ですが、それでもインフレ期に実質ベースが名目ベースに後れを取るのは自然な現象です。

「GDPは世界4位に転落」…それがどうした!?

2023年といえば、日本はドル建てGDPでドイツに抜かれて「世界4位」に転落したことが大いに騒がれました。「悪い円安」論を唱える人たちは、これについては「日本がずいぶんと貧しくなった」と喧伝していますし、また、海外旅行に出かけたときに日本が貧しくなったことを実感する、などとする言い分が多いことも事実でしょう。

ただ、これについては『名目GDPの日独逆転でも日本経済はまったく心配ない』でも指摘したとおり、正直、まったく問題ありません。日本国民の圧倒的多数は、べつに米ドルで給料をもらっているわけでもなければ、米ドルで生活しているわけでもないからです。

というよりも、この手の「悪い円安」論や、「ドル建てGDP日独逆転は問題だ」とする言い分を唱えている人たちを見ていて、どうも経済学や金融論の初歩的な知識すら怪しい人が多い、という点については非常に気になるところです。

数値的な裏付けを欠いた「悪い円安」論

余談ですが、そもそも論ですが、「円高にも円安にも、それぞれメリットやデメリットがある」、「デメリット、メリットのどちらが大きく出るかは、その国の経済が置かれた環境などに応じて異なる」、「それらはその国の現在の状況を可能な限り客観的に」というのは、経済学の基本中の基本です。

しかし、非常に残念ながら、「悪い円安」論者の皆さまは、多くの場合、こうした「数値による検証」というプロセスをすっ飛ばします。この手の主張をする人から出て来るのはたいていの場合、「私が見た・聞いたところでは」、だの、「私の経験では」、だのといった、「第三者が検証できない論拠」だったりするのです。

この点、もちろん、なにかを議論する際には、この手の「自分自身の体験や伝聞」を論拠にしてはならない、という話ではありません。そこに何らかの新たな気づきがあれば、それはそれで儲けものだからです。

ただ、非常に残念なことに、こうした「各人の体験に基づく主張」というものは、たいていの場合、「新たな気付き」はありません。

「現在の日本経済の状況に照らせば、総合的に見て、円安は日本経済に良い影響をもたらす」とする当ウェブサイトの主張については、残念ながら、「悪い円安」論者からの理論的で有効な反論というものは、見られないのです。

円安の少なくとも3つのメリット

さて、余談ついでに、円安には、少なくとも次の3つのメリットがあることを振り返っておきましょう。

ひとつめは、輸出競争力の向上。

ふたつめは、輸入代替効果の発生。

そしてみっつめが、資産効果です。

とりわけ3番目の資産効果は、円安が進行すれば、直ちにそのメリットが生じます。外貨建ての投資を円建てで為替評価すれば為替評価益が生じますし、また、外貨建てで発生する受取利息配当金の円換算額も膨張します。

そして、日本は対外純資産国であり、外貨建ての債務はほとんど負っていないことから、この資産効果はかなり大きなプラス効果を日本にもたらしているのです。

これに加えて、輸出競争力や輸入代替効果は、若干のタイムラグを伴いますが、それでも円安が長期化すれば、間違いなく日本経済にプラスの影響をもたらして来ます。円安のデメリットである「輸入価格の押し上げ」についても、長期的には相殺されます。

一部メディアは「円安で輸入品価格が押し上げられている」などとしきりに主張しますが(しかもそれを主張している人は、たいていの場合、経済の素人ですが)、「円安が日本経済にいかなる影響をもたらすか」については、少し長い目で見てみるのが良いのではないかと思います。

ついにGDPが600兆円台に!

さて、こうしたなかで、本日取り上げておきたい話題のひとつが、これです。

2024年4~6月期四半期別GDP速報 (1次速報値)

―――2024/08/15付 内閣府経済社会総合研究所 国民経済計算部HPより

最新の四半期別GDP速報

―――内閣府HPより

内閣府は15日、2024年第2四半期(4~6月期)のGDPを公表しました。

これによると、GDPは名目値607.9兆円、実質値558.6兆円で、成長率(年換算)は名目が4.9%、実質が0.8%で、とりわけ名目GDPが史上初の600兆円の大台を達成しました。グラフ化すると図表のとおりです。

図表 日本のGDP(季節調整)

(【出所】内閣府データをもとに作成)

実質GDPの成長率が低いのは気になるところですが、それでもリーマン・ショック直後の2009年3月における名目GDP(492兆円)と比べれば、100兆円以上増えた計算でもあります。

このあたり、とくにインフレ期には、実質値の成長が名目値に遅れるのはよく知られた現象ですが、いずれにせよ、名目ベースでようやく600兆円の大台を記録したことは、日本経済にとっては非常に良い兆候ではないかと思う次第です。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. sqsq より:

    今朝のストックボイス(TokyoMXの株番組)の中で総人口ではなく「生産年齢」あたりのGDP成長率では日本はG7中トップというのを聞いて調べてみた。

    >1人当たりGDPは「ますます誤った印象を与える指標」
    だそうだ。

    https://mainichi.jp/articles/20240118/org/00m/020/008000d

  2. 経済まったく無知爺 より:

    GDPってなーに?、GDPをググると「商品やサービスの付加価値の総額を表す。計算式は、国民の消費金額+国内企業の投資額の合計+政府が使った金額+輸出額-輸入額となる」と書いてある。
    輸出額と輸入額は相手国の額を足し算すれば分かるが、消費金額・投資金額・政府が使った金額は他国が分かる訳がないので自己申告である。又、イタリア・フランスのように密輸・麻薬・売春等の地下経済をGDPに含めている国もあれば、まともな統計をとってるとは思えない中国、ロシア、韓国等もある。こんな自己申告の数値に順位を付けても……、国内ハッタリ総生産(GHDP)では。

    1. 元雑用係 より:

      過去の読者投稿でも指摘されたのを思い出しました。

      【読者投稿】韓国GDP粉飾疑惑を2008SNAで検証する
      https://shinjukuacc.com/20190707-01/

      GDP算出は国際的なガイドラインはあっても詳細は各国で決めるし真面目な国もあれば過大に積もうとする国もあり、他国の数字との大小比較はあまり意味がないようですね。

    2. はにわファクトリー より:

      G … ぐろす
      H … はったり
      D … ドメスティック
      P … プロダクト
      報道出版業が真に重用するライタースキルとは GHDP である。新聞編集部の見出し付け係にぴったり。これがあれば転職にも困らない。

  3. 匿名 より:

    税収史上最高待ったなし。給料が上がっているのに生活が楽にならないと思っている人は、国の借金とやらを返済しているからだと思い直せば気が楽になりますよ。国の借金が減っていないのなら財務省何やってんのと怒りをぶつければいいと思います。

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