朝日新聞社、値上げで増収も経費増大で営業損益圧迫か
株式会社朝日新聞社の中間決算から浮かび上がるのは、新聞業界の苦境です。同社は新聞の値上げの影響もあってか、単体売上高は前年同期比で伸びたのですが、部数が落ち込んだこと、原価が上がったことなどの影響で粗利は思うほど伸びず、それどころか販管費が前年同期比で大きく増えてしまったため、営業利益は85%も落ち込んでしまいました。営業赤字スレスレです。
目次
そろそろ12月…新聞部数が公表される時期
早いもので、11月も今日でおしまい。明日からは12月、すなわち師走(しはす)を迎えます。
こうしたなか、昨日の『民放テレビ局中間決算、スポンサー離れの影響が鮮明に』では、民放のうちの在京5局、在阪1局の各親会社(ホールディングCo)に関する連結セグメント開示をベースに、どの社も放送事業が苦戦しているという話題を取り上げました。
ただ、テレビ局の場合は、まだ比較的、経営に余裕があることは間違いありません。
実際、主要局のなかでも昨日取り上げた6局に関しては、フジテレビ(単体)と朝日放送(単体)が営業赤字だったことを除けば、いずれもテレビ事業の営業損益自体は(減益だったにせよ)黒字を維持しているからです。
しかし、テレビと並んでオールドメディアの筆頭格である新聞は、どうでしょうか。
12月といえば例年、一般社団法人日本新聞協会が『新聞の発行部数と世帯数の推移』というページで、その年の10月1日時点における新聞発行部数に関するデータを公表します。
過去5年分のトレンドが続くならば、昨年、つまり2022年10月1日時点から起算して、夕刊は7.68年以内に、朝刊は13.98年以内に、それぞれ部数がゼロになる、という試算結果が出ています(『新聞朝刊の寿命は13.98年?』、『新聞夕刊は7.68年以内に消滅』等参照)。
新聞はあと十数年で消滅する!?
改めてグラフ化しておくと、図表1のとおりです。
図表1 新聞部数の推移(実績値と予測値)
(【出所】一般社団法人日本新聞協会『新聞の発行部数と世帯数の推移』データをもとに作成。「朝刊部数」は元データの「セット部数」と「朝刊単独部数」の、「夕刊部数」は元データの「セット部数」と「夕刊単独部数」の、それぞれ合計。なお、「予測値」は2017年から22年までの5年間の平均減少部数が今後も続くと仮定した場合の部数推移)
新聞部数、ずいぶんと急激な落ち込みが続いていることがわかります。
値上げラッシュ
ただ、今年に関してはそれだけでなく、また別の要因も予想されます。それが、新聞の相次ぐ値上げです。最近だと主要全国紙・ブロック紙・地方紙などにおいて、値上げや夕刊廃止などの動きが相次いでいる(図表2)のです。
図表2 おもな新聞の値上げ一覧
(【出所】『文化通信』の『購読料改定』タブや各紙ウェブサイトの発表などをもとに作成)
あくまでも一般論を述べるなら、ある製品・サービスが売れなくなっているタイミングで値上げをするのは悪手中の悪手であるとされます。
今回の主要紙の値上げが新聞業界にとって吉と出るか、凶と出るか――。
株式会社朝日新聞社の中間決算短信
その影響を読むうえでひとつの手がかりがあるとしたら、新聞社の中でも数少ない、詳細な決算を公表している株式会社朝日新聞社です。
株式会社テレビ朝日ホールディングスや朝日放送グループホールディングス株式会社は29日夜までに、「親会社等の中間決算に関するお知らせ」と題したPDF資料を公表しています。
親会社等の中間決算に関するお知らせ【※PDF】
―――2023/11/29付 株式会社テレビ朝日ホールディングスHPより
親会社等の決算に関するお知らせ【※PDF】
―――2023/11/29付 朝日放送グループホールディングス株式会社HPより
これが、なかなかに興味深いのです。
現時点で公表されているのはまだ決算短信レベルの情報であり、また、中間決算ということもあり、年度末の決算に含まれる平均部数や人件費などの詳細データは現時点では未公表なのですが、それでも売上高、売上原価、営業損益だけでも、同社の状況をある程度推測することはできます。
本稿で使用するデータは、(連結ではなく)単体決算の売上高、売上原価、販管費です(図表3)。
図表3 株式会社朝日新聞社・財務諸表項目
財務諸表項目 | 22年9月期 | 23年9月期 | 増減 |
単体・売上高 | 902.4億円 | 905.2億円 | +2.8億円 |
単体・売上原価 | 674.4億円 | 673.4億円 | ▲1.0億円 |
単体・売上総利益 | 228.0億円 | 231.8億円 | +3.8億円 |
単体・販管費 | 211.8億円 | 229.4億円 | +17.7億円 |
単体・営業利益 | 16.2億円 | 2.4億円 | ▲13.8億円 |
(【出所】株式会社テレビ朝日ホールディングス『親会社等の中間決算に関するお知らせ』P14をもとに作成)
部数減なのに売上増…おそらくは値上げの影響
なぜ単体のデータを使うのかといえば、株式会社朝日新聞社の単体決算は純粋に新聞事業の売上高がメインで反映されていると考えられるからです。つまり、単体の売上高を使うことで、間接的に、新聞事業がどうなっているかを推理することができるのです。
ここで、まず売上高が前年同期比プラスになっているという事実に注目したいと思います。
じつは、以前の『部数減の朝日新聞、デジタル有料会員数も減少に転じる』でも指摘したとおり、株式会社朝日新聞社が10月に公表した「朝日新聞メディア指標」によれば、朝刊部数は22年12月末で383.8万部、23年3月末で376.1万部、23年9月時点で357.3万部、と減少が続いているのです(図表4)。
図表4 朝日新聞メディア指標の一部
時点 | 朝刊部数 | 朝デジ有料会員 | 合計 |
2022年12月 | 383.8万 | 30.5万 | 414.3万 |
2023年3月 | 376.1万 | 30.5万 | 406.6万 |
2023年9月 | 357.3万 | 30.3万 | 387.6万 |
(【出所】株式会社朝日新聞社・コーポレートサイトの報道発表をもとに著者作成。なお、「朝刊部数」はABC部数を意味する)
少し時点が異なりますが、便宜上、22年9月末の単体売上高902.4億円を22年12月末の部数383.8万部で割ると、1部あたり・1ヵ月あたり売上高は3,919円、と出てきます。現実には9月末でもう少し部数があったでしょうから、1部あたり・1ヵ月あたり売上高は3,800~3,900円程度です。
しかし、2023年9月に関しては、単体売上高905.2億円を357.3万部で割ると、1部当たり・1ヵ月当たり売上高は4,222円へと、約300円ほど増えます。
おそらく、1部あたり・1ヵ月あたり500円の値上げが功を奏した格好でしょう。
売上原価も販管費も増えた!
ただ、ここで疑問なのは、値上げ幅が500円なのに、売上単価は300円ほどしか改善していない点でしょう。想像するに、広告売上が苦戦し、広告単価が下がったことで、せっかくの値上げの効果を部分的に相殺してしまったという可能性は考えられます。
問題は、それだけではありません。
一方で、売上原価については674.4億円から673.4億円へと約1億円減りましたが、1部あたり・1ヵ月あたりで見ると、製造コストは2,929円から3,141円へと、約200円上昇しています。用紙代やエネルギー価格の高騰の影響も出ているのかもしれません。
いずれにせよ、売上総利益が上昇しているのは、新聞の値上げによるものであろうと考えられるのですが、せっかくの値上げの効果を部数減や原価上昇が相殺してしまっている格好だといえるでしょう。
しかし、それ以上に興味深いのは、販管費の急激な膨張です。
22年9月期に211.8億円だった販管費は、23年9月期に229.4億円へと17.7億円も増えました。売上高がたった2.8億円しか増えていないのに、経費が著しく増えてしまったのです。結果的に、前期は16.2億円だった営業利益が、今期はなんと13.8億円も減り、わずか2.4億円(!)です。
このままもう少し経費が増えれば、あるいはもう少し部数が減れば、新聞事業は再び営業赤字に陥ってしまうことでしょう。その意味で、新聞事業はまさに綱渡り状態、といったところでしょうか。
ビジネスモデルはすでに破綻している
以上は最大手の一角を占める株式会社朝日新聞社の事例ですが、同社ですら新聞事業の不採算ぶりに悪戦苦闘しているさまが見受けられるわけです。経営体力がなく、数年前に減資して税務上の中小法人化した某新聞社を例に挙げるまでもなく、新聞業界はどこも大変でしょう。
考えてみれば、印刷した瞬間から情報が陳腐化する「紙媒体」を、日々、莫大な地球温暖化ガスを撒き散らしながら人海戦術で全国各地に送り届けるというビジネスモデル自体、すでに破綻し、過去のものとなっているのです。本来、情報をネットに乗せれば、その分のコストがいっさいかからないわけですから。
いずれにせよ、株式会社朝日新聞社の単体決算は、引き続き「新聞業界が置かれている苦境」という情報を否定するようなものは見つからず、むしろ新聞業界が急速な衰退に向かっているという予測を裏付けた格好ではないかと思う次第です。
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
そんな日韓関係論を巡って、素晴らしい書籍が出てきた。鈴置高史氏著『韓国消滅』(https://t.co/PKOiMb9a7T)。
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分かり易い説明ですね。
多分、500円の値上げで5年程は黒字決算が出来ると思っていたのでしょう。5年間の間、部数減は続くが、それに応じたリストラもやっていけばいいので。所が、円安による急激な物価上昇で、売上原価と販管費が想定外の事として、上昇してしまった。それで、営業利益は、2.4億円と言うあるかないかと言う額になってしまった。これでは、来年度以降は赤字が続くのは必定です。物価上昇も続くでしょう。
今まで以上にリストラも厳しくやるでしょうし、取材費も削減しなければならないでしょう。さて、取材費削減となると今まで以上に作文記事が増える?
そうすると、それを見抜いた購読者が更に離れて行く。購読者離れが更に加速する?
それにしても、こんな記事を毎日読んでいる読者が、今も350万人もいるとは!?
>円安による急激な物価上昇で、売上原価と販管費が想定外の事として、上昇してしまった。
新聞社が、「悪い円安」をことさら謳いたくなる所以(自分本位)なのかもですね。
「新聞社が、「悪い円安」をことさら謳いたくなる所以(自分本位)」
御意。おっしゃる通りです。
なんだって世の中のせい。新聞記者のやつあたりはますますひどくなりそうです。読者様という発想は彼らにはないのです。
毎度、ばかばかしいお話しを。
朝日新聞:「原価上昇と販管費増加のため、また値上げします」
鉄板ネタとして、何回、使えるかな。
販管費の増加で思い当たるのは「5類移行」で取材自粛が解けて動き回るようになったからじゃないかな?
であれば今後もこの水準が続くということか。
値上げが経営改善につながる企業と繋がらない企業があります。
例えば、値上げで顧客が減っても労働環境が改善して新規雇入れしなくても良くなるなら値上げは効果的です。
しかし、新聞社の場合値上げで部数減少したから、記者の数を減らしたりはできませんし、労働環境はかわりません。
また部数減少は広告費減少をまねきます。
部数の少ない新聞に広告効果があるとは思えません。
さらに、値上げで新聞購読をやめた客が、新聞がなくとも困らないことに気が付きます。
これは、衰退産業によくみられる現象です。
衰退産業とはつまり あってもなくても困らない産業で よりよいサービスの代替産業があるということです。
衰退産業の値上げは悪手です。
マスコミの青息吐息レポートシリーズですね。(笑)
朝日って22年3月期で単体で販管費6割減とか尋常じゃないリストラやってましたよね。
その反動もあるんじゃないですか?
帳簿イジってるうちに少しは販管費分を増やす余地がでてきたからとか。