介護は他人事ではない!
本日のテーマは「介護」です。日経ビジネスオンラインでも最も秀逸な連載シリーズを題材に、高齢化社会とともに身近な問題となりつつある「介護」について、考える切り口を提供したいと思います。
介護は他人事ですか?
日経ビジネスで最も秀逸な連載シリーズ
最近、私が注目している連載シリーズがあります。それは、「日経ビジネスオンライン(NBO)」に掲載される、『介護生活敗戦記』とするシリーズです。
介護生活敗戦記(日経ビジネスオンラインより)
執筆者はノンフィクション作家にして科学技術ジャーナリストの松浦晋也(まつうら・しんや)さんで、プロフィールページには「宇宙開発、コンピューター・通信、交通論などの分野で取材・執筆活動を行っている」とあります。しかし、このシリーズは松浦氏の専門分野である「科学技術」ではなく、専門分野ではない「介護」です。
松浦氏は専門である科学技術分野での文章にはクオリティが高いと定評があるようですが、こちらの介護シリーズ、非常に参考になる良文です。現時点の最新の記事は、つぎのとおりです。
認知症で過食の母、「空腹だ」と台所を荒らす(2017年6月15日付 日経ビジネスオンラインより)
タイトルにもある「高齢者の過食」とは、脳細胞が萎縮することで「満腹中枢」が正常に働かなくなることで、異常なまでに食欲を感じる症状だそうです。
「ある日の夕方、帰宅すると、台所が信じられないほどとっちらかっていた。/買い置きしていた冷凍食品の封が切られ、そこここに放置されて溶けかけている。ガスコンロには水を張ったフライパンが乗せてあり、冷凍餃子が放り込まれていた。/年初に料理ができなくなった時点で、用心のために常時ガスの元栓は閉め、トースターなども電源を抜いておくようにしていたので、火事などの大事には至らなかった。/かっとなって、母を詰問する。/「いったい何がしたいんですか、こんなことをして」/すると母は、「だって、お腹が空いてお腹が空いてたまらないのに、あんたがいないから、私がつくるしかないでしょ」という。」
とても深刻な状況です。なにより松浦さんにとっても、後片付けをする大変さに加え、長年一緒に暮らしたお母様に対し、思わず声を荒げてしまうのは精神的に辛いことでしょう。ただ、松浦さんの口調は、お母様に対する愛情に満ち溢れ、どこかユーモアも感じられます。
「古典的ギャグ「お爺ちゃん、もう御飯は食べたでしょ」の元ネタだが、実態はそんな悠長でも笑えるものでもない。/炊飯器のおひつを抱え込んで、しゃもじでむしゃむしゃ際限なく食べる様子は、まるで仏教絵に描かれる餓鬼そのもので悲しくなるものでした――などという体験談をヘルパーさんたちから聞いて、「そんなことになったら大変だ」と構えていたのだが、ついに症状が出てしまった。」
読者としては、こうした松浦さんの人柄に救われるという側面があるのです。
認知症との戦いは通販との戦い?
この「介護生活敗戦記」、今年の3月頃に始まり、今では10本以上の記事が公表されています。私は思わず、過去の記事まですべて遡って読んでしまったのですが、エピソードの中には私にも経験のあることがいくつか出てきました。そのうちの一つが、「通販」です。
その名は「通販」。認知症介護の予想外の敵(2017年3月23日付 日経ビジネスオンラインより)
私は、次の文章を読んで、非常に身につまされる思いがしました。
「時折、奇妙な宅配便が母に届いていることに気が付いたのは、2014年も押し迫った頃だった。その度に「これを払ってきて」とコンビニ用支払伝票を渡されるのである。最初は言われるままに支払っていたが、一体何を買っているのかが気になってきた。/確か2015年1月の末頃だったと記憶している。たまたま自分が宅急便を受け取った。いつも通り、開封せずに母に渡そうとしたが、中味を確認しようと思い直して開封してみた。/中に入っていたのは白髪染めと支払伝票だった。母は2カ月に1回程度美容院に通って白髪を染めていたが、なんだ自分でも白髪染めを買って間で染めていたのか……と、そこで気が付いた。この白髪染め、見た記憶がある。」
何と、お母様は2か月に1回、通販で白髪染めを買っていたのだそうです。しかも、使ってもいない白髪染めは、家じゅうのあちこちから大量に発見されたのだとか。
しかもお母様が通販の継続契約で買っていたのは、白髪染めだけではありません。
「関節痛に効くとかいう健康食品に目に良いとか言うサプリメント、アミノ酸たっぷりと宣伝する酢、滋養強壮抜群を売りにした鰻のカプセル錠、お肌の健康がどうのこうのの乳液に健康のためにどうたらこうたらのプロテイン粉末――」
…、と、使いもしない製品が「毎月の定期契約」として、山のように自宅に届いていたというのです。
しかも、解約しても解約しても、お母様がテレビ通販などで購入してしまうらしく、そのたびにお母様と
「一体あなたは何をやっているんですか!これは一杯余っているから契約を切ったでしょうが!」
「知らない。私そんなもの買っていない。余っているなんて知らない」
という怒鳴り合いになってしまうのだとか。松浦さんはその苦労を「掘った穴を埋め戻す作業」と形容していますが、いかに不毛で精神を消耗するものであるか、その苦労が察せられます。
そのうえで松浦さんは
「厳しいことを書く。認知症患者及び認知症予備軍の老人への通販商品の定期購入契約は、通販事業者にとって合法的な押し込み販売の手段になってはいないだろうか。」
と指摘しますが、この点については私も全く同感です。実は、親戚の高齢者宅で、まさに全く同じ問題が起きていたからです。
私の親戚の事例では、主に絵画雑誌などを売り付けられていたようですが、認知症を患ってしまえば、自分自身が契約したことすら忘れてしまうのです。その意味で、判断力の衰えた高齢者に対する通販は、新たな社会問題に違いありません。早急な法制度の整備が求められます。
介護と育児の最大の違い
私がこの「介護シリーズ」を読み始めたのには、もう一つ、大きな理由があります。それは、私が育児に携わっているからです。
もちろん、私は日中、仕事を持っているため、メインで子どもを育ててくれているのは育休中の妻ですが、それでも育児を妻に押し付けるわけにはいきません(といっても、事実上、妻に多大な負担を掛けてしまっているという意識はありますが…)。真夜中の授乳、着替え、あやしてもあやしても理由なくむずかる我が子…。日々、成長する我が子と接するのは人生の至上の喜びですが、それとともに大きな負担でもあります。
とくに、仕事が佳境に入っているときに、切り上げて家事や子供の世話をしなければならないのは、非常に大変です。
といっても、妻がメインで子供の面倒を見てくれるため、私などはまだまだ恵まれています。しかし、松浦さんは仕事を持ちながら、一人でお母様の面倒を見なければなりません。
予測的中も悲し、母との満州餃子作り/食事を巡るエトセトラ(2017年6月8日付 日経ビジネスオンラインより)
「想いでの満州餃子」をお母様と一緒に作るも、昨日はできていた餃子づくりが、今日はできなくなる―。仕事が佳境にあるときに切り上げなければならないもどかしさに加え、次第に衰えていくお母様を見てなすすべもない松浦さんの心中を思うと、やるせない思いになります。
つまり、育児とは「昨日はできなかったことが今日できるようになる」ことであり、介護とは「昨日はできたことが今日はできなくなること」です。その意味で、介護と育児は似て非なるものであり、同列に扱ってはなりません。
そのことに気付いた自分自身の不明を恥じたいと考えています。
高齢化社会独自の問題点とは?
本日は日経ビジネスオンラインの大人気シリーズから「介護」についての話題を紹介しましたが、実は、高齢化社会では、他にもいくつもの問題点があります。そのうち大きなものは「相続」です。
ご両親が亡くなってだれも住まなくなった家をどうすれば良いのか、田舎にある実家のお墓をどうすれば良いのか――。私自身は「金融規制」を専門とする公認会計士ですが、実は、個人的体験として「相続」を身近に体験してきた人間でもあります。このため、「実家の後片付け」というテーマは、私にとって関心の高いものの一つでもあります。
私はいま、ちょっとした仕事(企業会計の入門書やセミナー資料執筆など)を抱えていて、動きが取れないのですが、いずれ時間が取れれば、「高齢化社会独自の問題点」について調査し、記事(あるいは書籍)を執筆したいと考えています。
介護や相続は他人事だと思っている人にこそ、問題を知っていただきたい――。そう考えているのです。
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
そんな日韓関係論を巡って、素晴らしい書籍が出てきた。鈴置高史氏著『韓国消滅』(https://t.co/PKOiMb9a7T)。
日韓関係問題に関心がある人だけでなく、日本人全てに読んでほしい良著。
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私が、日経ビジネスオンラインの連載で欠かさず読んでいるのは、鈴置さんのコラムと山浦さんのコラムです。
なんか、興味をもつ点がそっくりで笑ってしまいました。
私の父も多分に漏れずアルツハイマー型の認知症で、介護が必要な状況(要介護3)です。
比較的進行は緩やかですが、最近は記憶の混濁が始まっています。
ただ、以下の点で私は恵まれています。
1)父自身が認知症であるを認識し受け入れている、
2)かつてはガンコで厳しい人だったが、今は素直に周囲に感謝ができている
3)母がまだ元気であり、父の世話をしてくれている
4)施設の空きがあり、自宅介護をしなくてすんでいる。
結果として山浦さんのようなキツい状況には陥っていませんが、母が何らかの
事故にでも会えば、たちまち似たような状況になるでしょう。
その意味で介護は他人事でないというのは全く同感です。