無免県議に静岡県議会の３つの「全会派」が辞職勧告へ

本稿では、「例の無免許運転県議」のその後について、ちょっとした話題を紹介しておきます。報道によると静岡県議会の全会派は25日、無免許運転が発覚した中山真珠県議を巡り、所属会派への説明と警察の事情聴取で話した内容に食い違いがあることが判明したなどとして、同氏に対する辞任勧告を全会一致で可決する方針で合意したというのです。

例の無免許運転県議

最近、国会議員や地方議会議員を巡る不祥事などが報じられることが増えているように思えますが、本稿は例の「無免許運転県議」に関する続報を取り上げておきます。『静岡県「無免許県議」に「新たな無免許疑惑」が浮上か』でも触れた、例の「無免許運転県議」を巡り、新たな展開が生じたようだからです。

問題の人物は、今年４月の統一地方選で、「最年少で」静岡県議に当選した中山真珠氏です。

これまでの報道等によると中山氏は８月４日午後３時ごろ、運転免許が失効しているにも関わらず、自家用車を運転していたことが判明しました。

無免許運転は道路交通法第64条第１項に違反する行為であり、また、同法第117条の２の２の規定により、３年以下の懲役か50万円以下の罰金に処されることがあります。

もしも懲役刑に処せられた場合は、執行猶予が付かない限り、公選法の規定に基づき失職しますが、逆にいえば、今回の件では中山氏も懲役刑（実刑判決）を喰らわない限りは、県議として居座ることができてしまう、というわけです。

居座るつもり満々

実際、中山氏は、所属会派・政党などから離脱しつつも、本人がＸ（旧・ツイッター）で「お許しいただけるのであれば＜中略＞一層仕事に邁進することで償わせていただきたい」、などと述べていることからもわかるとおり、県議職に留まるつもりなのでしょう。

この点、「お許しいただく」もなにも、現状、中山氏を強制的に「辞めさせる」ことは難しいので、本人があくまでも居座るつもりならば、任期いっぱい居座られてしまう、というわけです。

もちろん、静岡県といえば今年６月、川勝平太知事に対する不信任案が１票差で否決されたことでも知られています（静岡県ウェブサイト『県議会令和５年６月定例会における審議結果』参照）。

このため、近いうちに中山氏が「失職」してしまう可能性がまったくゼロであるとは限らりません。今後、もしも県議会で再び川勝氏の不信任案が上程され、可決された場合、川勝氏側は対抗措置として、議会を解散することができるからです。

これが地方自治法第178条に定める「不信任決議案」と「議会の解散」という論点です。

手続の流れとしてはこんな具合です。

• 議会側が県知事に対する不信任を議決する（３分の２以上の議員が出席し、出席議員の４分の３以上の賛成が必要。地方自治法第178条第１項・第３項）
• 知事側は10日以内に議会を解散することができる（同第１項後段）が、解散後初めて召集された議会が再び不信任を議決した場合、県知事は失職する。この場合は同第２項・第３項の規定に基づき、３分の２以上の議員が出席し、出席議員の過半数の賛成でＯＫ
• 知事側が議会を解散しなかった場合も、県知事は失職する（同第２項）

前回の不信任案が否決されているという事実を思い出しておくと、ごく近いうちに再び不信任案が上程される、という可能性がどこまであるのかは、よくわかりません。

中山氏の議席が重要である理由

ただ、この不信任案、前回はたった１票差で否決されていますので（賛成50対反対18）、もしも「次回」の不信任案のときまでに中山氏が県議を自発的に辞職し、補選で「反川勝派」が当選したならば、各県議の投票行動が変わらなければ賛成51対反対17となり、ちょうど75％、つまり「４分の３」で可決されます。

そして、これまで理不尽にリニア新幹線建設工事を妨害し続けて来た川勝氏が失職すれば、工事が一気に進む可能性が出てきますので、じつは中山氏が辞職すれば、日本の国益に寄与する可能性が出て来る、というわけです。

（※ただし、中山氏の選挙区・静岡市清水区は定数が４名であり、同選挙区で現時点において欠員は出ておらず、中山氏が辞職したとしても欠員は１名に過ぎないため、補選がただちに行われるわけではありません。したがって、この場合は知事に対する不信任案は可決されないか可能性が高いです。）

「全会派が辞職勧告」

もっとも、この中山氏を巡って、もうひとつ、興味深い動きも出てきました。

「虚偽説明は重い」無免許運転の中山県議　全会派が辞職勧告決議案提出へ　所属会派に警察と違う説明　静岡

―――2023/08/25 18:49付　Yahoo!ニュースより【テレビ静岡NEWS配信】

テレビ静岡の報道によると、どうやら県議会は「全会派が」中山氏に対し辞職を求めるようなのです。

具体的には、中山氏への対応を協議する県議会の代表者会議で、「９月の議会で全会派が辞職勧告決議案を提出する方針で一致」した、などとしています。

なぜこんなことになったのかといえば、無免許運転だけでなく、「所属会派への説明と警察の事情聴取で話した内容に食い違いがあることが判明」したためなのだとか（※ちなみに会派は自民党、「ふじのくに県民クラブ」、公明党の３者しかありません。ほかは無所属であり、日本共産党も静岡県議会の議席はゼロです）。。

そのうえでテレビ静岡は、県議会は「９月１日に議会運営委員会を開き、辞職勧告決議案の具体的な内容について協議する方針」、などとしています。

ただし、この「辞職勧告」は一般に、法的国葬力がありません。あくまでも県議会として自発的な辞職を本人に促すなどの目的でなされるものであり、本人がこれに従わなくても何も問題はありません。結局、県議会がどこまでやるつもりなのかはわかりませんが、辞職勧告に意味があるかは不明です。

ちなみに地方議会によるもっと強い処分としては、除名があります。

この除名処分は地方自治法第135条第１項第４号に規定されるもので、３分の２以上の議員が出席し、４分の３以上の同意を得れば可決できます（同第３項、ただし、その除名された者が再び当選した場合、同第136条のきていにより、県議会はその議員を拒むことができません）。

このように考えていくと、地方議会の話題でも、ケースによっては私たち日本国民全体の利益に関わることがあるため、注目に値するのかもしれません。