共通点がなさすぎる「BRICS」が「拡大」を検討か
BRICSというのも、見事に共通点がない国の集合体です。もともとBRICはゴールドマン・サックスのエコノミストだったジム・オニール氏が2001年に提唱したものですが、これに南アフリカを加えて「BRICS」となり、現在に至ります。しかし、人口、面積、一人当たりGDP、通貨の通用度など、「数字」で見ると、見事なほどに共通点がありません。そんなBRICSを巡り、共通通貨創設に加え、「加盟国拡大」まで議論されているというのですから、驚きです。
目次
BRICSという造語
「BRIC」、あるいは「BRICS」という用語があります。
もともと「BRIC」または「BRICsは、ゴールドマン・サックスのエコノミストだったジム・オニール氏が2001年11月のレポートで、「ブラジル、ロシア、インド、中国」を意味するものとして使用して以来、一般に「将来有望な4つの新興市場諸国」という意味で、人口に膾炙。
のちに南アフリカ(S)を付け加え、(おそらくは複数形の)「s」を大文字に替えた「BRICS」となり、これが今日に至ります。
そして、2009年にはBRIC4ヵ国が集まった第1回のサミット(首脳会合)がロシア・エカテリンブルクで開催され、第3回目のサミットからはS、すなわち南アフリカが加わり正式に「BRICS」サミットが発足し、昨年までで都合14回の会合が開催されているそうです。
まさに彼ら自身も、自分たちを「これから発展する国」に位置付けているようであり、ずいぶんと勇ましいことです。
人口と面積を比べてみたら…?
ただ、そんな彼らには大変申し訳ないのですが、このBRICS、共通点があまりにもなさすぎます。
敢えてBRIC4ヵ国の共通点を挙げるならば「国土が広いこと」、「人口が多いこと」かもしれませんが、ここに南アフリカが加わってくると、必ずしもそうとは限りません(図表1)。
図表1 BRICSの人口と面積
国 | 人口(2022年) | 面積(2021年) |
ブラジル | 2億1530万人(7位) | 851万㎢(5位) |
ロシア | 1億4470万人(9位) | 1710万㎢(1位) |
インド | 14億1720万人(2位) | 329万㎢(7位) |
中国 | 14億2590万人(1位) | 960万㎢(4位) |
南アフリカ | 5990百万人(24位) | 122万㎢(24位) |
合計と世界シェア | 32億6300万人(40.91%) | 3972万㎢(29.14%) |
(【出所】総務省統計局『世界の統計2023』第2章データをもとに著者作成。なお、面積には海外領土等を含まない)
たとえばBRIC4ヵ国については、人口(2022年)では中国が1位、インドが2位を占めるほか、ブラジルが7位、ロシアが9位にそれぞれ入りますが、南アフリカの人口は1億人に満たず、ランキングも24位に留まります。
これに加え、面積ではロシアが1位、中国が4位、ブラジルが5位、インドが7位ですが、南アフリカはロシアの10分の1以下であり、世界ランキングも24位だそうです(※なお、ここでいうランキングは各国の海外領を勘案せず、総務省統計から直接作成しているため、『ウィキペディア』などの数値とは異なる可能性があります)。
経済規模でも共通点が見当たらない
また、経済規模もさまざまです。
GDP(※2020年時点)の規模で見ると、中国は日本を遥かに凌駕し、すでに世界第2位の経済大国ですが、やはり南アフリカは人口が少ないためか、経済規模としては中国の49分の1(!)という小ささです。1人あたりGDPの規模も大きくばらけています(図表2)。
図表2 BRICSの経済規模
国 | GDP(2020年) | 1人あたりGDP |
ブラジル | 1兆4447億ドル(12位) | 6,776ドル |
ロシア | 1兆4835億ドル(11位) | 10,189ドル |
インド | 2兆6647億ドル(6位) | 1,908ドル |
中国 | 14兆7228億ドル(2位) | 10,333ドル |
南アフリカ | 3021億ドル(41位) | 5,138ドル |
合計/世界シェア/平均 | 20兆6179億ドル(24.16%) | 6,366ドル |
(【出所】総務省統計局『世界の統計2023』第2章・第3章データをもとに著者作成)
地理、言語、宗教、政治体制、そして人種的な共通点のなさ
このBRICS諸国の「共通性のなさ」は、それだけではありません。
地図を広げてみると、BRICSのうち「RIC」はユーラシア大陸ですが、「B」は南アメリカ大陸、「S」はアフリカ大陸であり、地理的にも共通点はありません。
また、言語ではブラジルがポルトガル語等、ロシアがロシア語等、南アフリカがオランダ語系のアフリカーンス語や英語などを用いているほか、インドはヒンディ語やベンガル語、ウルドゥー語などが用いられているらしく、中国も北京語や上海語、広東語など、多くの言葉が用いられていますが、それらに共通点はほとんどありません。
さらに、宗教でいえば、ブラジルではカトリックが多く、ロシアは正教系のキリスト教、インドはヒンドゥー教やイスラム教など、中国は仏教、道教などに加え、イスラム教なども信じられているようです(もっとも、中国の宗教は「共産主義」なのかもしれませんが…)。
もちろん、政治体制で見ても、インド・ブラジル・南アフリカはいちおう民主主義が機能しているとされる一方で、事実上の中国共産党一党独裁の中国、事実上のウラジミル・プーチン個人の独裁体制のロシアのように、強権的な国家も存在します。
BRICS通貨は国際的に通用するのか?
そして、極めつけは、通貨でしょう。
『「有害通貨」呼びも…西側通貨シェアは6割超=ロシア』などでも紹介したとおり、国際的な決済システムを運営しているSWIFTがほぼ毎月のように公表している『RMBトラッカー』と呼ばれるレポートがあるのですが、2023年6月時点の国際送金通貨ランキングが図表3のとおりでした。
図表3 2023年6月時点の決済通貨シェアとランキング(左がユーロ圏込み、右がユーロ圏除外)
(【出所】SWIFT『RMBトラッカー』レポートをもとに著者作成。黄色マーカーがG7、青マーカーがG7以外のG20の通貨を意味する)
ランキングはユーロ圏を含めたもの、ユーロ圏を除外したものが作成されているのですが、どちらのデータで見ても、中国の通貨・人民元が上位に、南アフリカランドが辛うじて20位圏内に入っているものの、ルーブルは現在、姿を消し、ブラジルレアルとインドルピーに至っては過去に登場したことすらありません。
地理的にも歴史的にも共通点がなく、経済発展段階も文化も言語も人種も異なり、それどころか金融の世界では、一部の国を除いてほぼ存在感がない――。
それが、BRICSの実情でしょう。
正直、BRICSの「S」は、資源国で金融制度が外国と比べ多少進んでいるという点はあるにせよ、人口、面積などで見て「大国」とは言い難いわけですし、また、G20の一角を占め、ブラジルよりも人口の多いインドネシアがBRICSに入っていないなど、国の選定にはなにかと疑義が残ります。
そして、このBRICSが共通通貨創設を目指している、などとする話題も聞こえてきますが、その非現実性についてはすでに『BRICS共通通貨はG7に対抗できっこない「空論」』などでも指摘したとおりです。BRICSのなかに金融大国もなく、ユーロやCFAフランなどと異なり、地理的共通点もないからです。
BRICS拡大が議論される…?
こうしたなかで、時事通信のこんな報道が目に留まりました。
BRICS拡大議論へ 加盟国には温度差―22日から首脳会議
―――2023年08月21日20時29分付 時事通信より
これは、22日から24日までの日程で、南アフリカ・ヨハネスブルクで開催される「第15回BRICSサミット」について取り上げた記事ですが、記事自体は(なぜか)北京発です。
時事通信によると、今回のサミットでは「加盟国拡大」などが議論される見通しだそうであり、「欧米主導の国際秩序に対抗する狙い」から、とりわけ中露が加盟国拡大に「前のめり」だ、と指摘しています。
ちなみに記事によれば、BRICへの加盟にはイラン、サウジアラビア、アルゼンチン、インドネシアなど「40カ国以上が関心を示している」のだそうであり、なかでも「圧倒的な経済力を持つ中国とつながる枠組は、新興・途上国には魅力的」、などとしています。
なにより価値観を共有していない
もっとも、現在でさえ共通項がほとんどない5ヵ国が集まって、なにか意味を成しているものなのかはよくわかりません。このあたり、たとえばG7と比べれば、その決定的に欠落しているのは、まさに「価値観」だからです。
G7の場合は「自由、民主主義、法の支配、人権」といった普遍的価値を共有する先進国が集まっている、という共通点があり、1975年にG5(イタリア首相が押し掛けたため急遽G6に変更)の第1回サミットが行われて以降、現在に至るまで続いています(のちにカナダを加えてG7に)。
また、このG7にはロシアを加えてG8となっていたこともありましたが、結局、ロシアは2014年のウクライナ・クリミア半島併合によりG8から追放され、現在では再びG7に戻っています。
このG7に豪州など基本的価値を共有する国を追加して再び「G8」にする、といった構想もないわけではありませんが、少なくとも日本政府はG7拡大論には後ろ向きであるとされています。逆にこれくらいの共通点がなければ国際的な会議体としては機能し得ないものなのかもしれません。
いずれにせよ、BRICSを拡大するとして、それがBRICKSにでもなるのかはわかりませんが、好きにすればよいのではないか、などと思う次第です。
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
そんな日韓関係論を巡って、素晴らしい書籍が出てきた。鈴置高史氏著『韓国消滅』(https://t.co/PKOiMb9a7T)。
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単に人民元決済圏であるのならば、BRICS+アルファも無きにしも非ずなのかもですが、
通貨統合の観点で考えるのであれば「ユーラシア圏、かつ人民元の影響力の大きそうな国」で論じた方が実現性が高そうに思えます。
具体的には、トルコ・ロシア・イラン・中国・コリア(南北)ですね。
通貨名は「TRICK(騙し)」がふさわしいのではないのでしょうか?
痛貨だし・・。
座布団3枚! さしあげたい!
ご反応いただきありがとうございました。
BRICS諸国の共通点は①米国主導の世界秩序には同調しない②西欧型の価値観のみに固執しない、というだけでしょう。従って、まとまって行動することはありえない。
メンバーの拡大にも、インドは反対と伝えられています。
まあメンバーを増やせば、影響力は増大したように見えるけれど、意思結集の困難度が増加しますよね。
参加国の誰も言っていないのに「事実上のG8」とかほざいているおバカな国も、あるようですが、一般論としても個別国の議論としても、メンバーの拡大は慎重にした方がいいでしょう。
>①米国主導の世界秩序には同調しない②西欧型の価値観のみに固執しない
これ上手にまとめています。
BRICSサミットの名前は立派でも
オフ会か飲み会程度の結束力しか感じないです
もはや、韓国は戦時中のロシアにすら負けGDP13位に転落し、これからどんどん衰退する国なのにね笑
ちなみに、日本に経済成長率も敗北し始めることがすでに増えてきてますし、これからも増えるでしょう。
同意。
それぞれ、自分の都合を押し通したいだけなので、
統一行動がとれないんだよなぁ。
関税の撤廃だけでも、かなりのインパクトがあるはずなんだけど、
人口が多すぎて、難しいのが現実でしょう。
BRICSを何らかの実質的な枠組みと言えるのかはさておき。中国が実質的な頭目となっていて、一帯一路とAIIBが上手く進展しない、また一部西側諸国の加盟を(無理に)取り付けた割にはインドはじめ各地に軋轢も生じさせた事への補完に過ぎないのかなという感です。とってつけたような泥縄的対策に過ぎないから、あやふやな条件、あやふやな枠組み、あやふやな見通しになっているのかと。
Kとしては、大した捧げ物もリスクも不要で中華圏の上席としてデカイつらができそう、あわよくば半導体政策の不調をどうにかできるかもとか?
素朴な疑問ですでど、もしゴールドマンサックスが、新BRICSとして、新たな4か国を選らび、かつ、それが広がったら、今のBRICSという概念はなくなるのでしょうか。また、同じくゴールドマンサックスが、今のBRICSのメンバーを変更したら、どうなるのでしょうか。
毎度、ばかばかしいお話しを。
ゴールドマンサックス(?):「儲けるために、BRICSに代わる新しい用語をつくろう」
ありそうだな。
私が子供の頃、教科書に韓国とか台湾とかアジアの新興工業国をまとめてナントカとか言ってました。もう忘れてしまいました。ブリックスもそうなるかと思います。今度は格付け会社が新しい国を見つけて、ゴロ合わせをするでしょうね。
○⬜︎_=3 ブリっクッサ
BRICSの共通点:腐敗
腐敗認識指数:南アフリカ67位、ブラジル69位、インド85位、中国100位、ロシア136位
ちなみに日本は15位。
南アフリカは今はBRICS中トップだが、どんどん悪くなっていきいずれジンバブエ(156位)に近くなるだろう。
共通点のないのが『共通点』
それが『BRICS』
安保でも無く経済でも無ければ、何が目的のグループなのでしょうか。既にAIIBやら上海ナンとか機構とか作ってるのに、日本のG7やTPP、ADBが羨ましくて真似事をしているだけにしか見えません。晩餐会開いて会議開いて写真撮って、G7批難宣言出して終わり。そんな合議体でしょう。
またぞろオールドメディアが、日本も拡大ブリックスに加盟せよ、バスに乗り遅れるな!キャンペーンを始める予感。
自分が親分のつもりの国は子分が増えるのが嬉しいんでしょうかね。
独裁制か寡頭制かの思いの違いはあるかもですが。
そうでない国はメンバーが増えれば自分の存在感が薄まるだけでしかないですし。
G20 without G7サロンになるだけでは。
>BRICSを拡大するとして、それがBRICKSにでもなるのかはわかりませんが、
BRICS→BRICKs
ウ~ン、「K」一文字を加えると、なんか強固さが増した感がありますね。
蝙蝠の定住場所としてはちょうど良いかも。
だけど、日干しレンガ積み上げただけの建物って、
地震に極度に弱いんだよな(笑)。
「ブリカス」と空目してしまいました(苦笑)。
加盟国拡大に前のめりの中露は、自民党に対抗するために野党連携を呼びかけている立憲民主党みたいですね。
反G7だけが目的で、何を目指しているのかさっぱり分かりませんね。
中国が主導的立場でなにか実のある、ものが在ったのか?自国の権益を拡大には一生懸命でも、共助の精神がないから、マトモな国は参加しない。14億の市場は魅力的でも、先進国企業の撤退の嵐で先行きの雲行きは怪しい。AIIBをみれば一目瞭然だ。借りたら最後、スリランカの様に港はとられ、どんな災難が待ってるかわからん。TPPのような、鉄の規律があるようには見えない。BRICS?纏まるとはおもえないなぁ、、
同床異夢という4字熟語がぴったりくる状況かな。
BRICsという枠組自体、投資銀行が(自分たちの)
ビジネスをやりやすくするためにでっちあげたものにしか思えませんね。
購買力平価と同じようなものだと思います。
リスクの高い新興国に投資する案件が増えれば、利益を抜く機会も増えるのでしょうがね。
そんなしょーもないもので政治的な枠組みを作るとかバカなんでしょうか?