利上げで急増する「営業利益<支払利息」の企業=韓国
またしても、韓国で「利息負担」に関する記事が出てきました。韓国の大企業500社のうち、インタレストカバレッジレシオが1倍を割り込んでいる企業が26社あり、これが中小企業だとさらに増えるだろう、という指摘です。また、韓国銀行は2020年時点でインタレストカバレッジレシオ1倍割れ企業が全体の4割だったとする報告を出しているそうですが、これがさらに増えている可能性はあります。
変動費・固定費分析
韓国で現在、金利の高止まりが企業業績に対し、少しずつ負担を与えているようです。その際の重要な論点のひとつが、先日の『金利高止まりの韓国、「限界企業」と不動産PFが信管』でも取り上げた「限界企業」にあります。
この「限界企業」とは、韓国メディア『中央日報』(日本語版)に掲載されていたもので、わかりやすくいえば、「営業利益が支払利息を下回っている」企業のことです。
事例はなんでも構いませんが、わかりやすいところで「パンメーカーのA社」というものを考えてみましょう。
A社は菓子パンなどを製造し、販売しているものとします。このとき、A社はパン工場を建設し、パンを製造するための設備を購入し、パンの材料を仕入れて来て、工場で働く人、パンを小売店に運搬する人などを雇い入れるために資金が必要です。
単純化のため、パン1個あたり200円、原材料費が50円と仮定すると、1個当たりの変動利益は150円です(※消費税等は考慮しません)。毎月パンを10万個売れば、月間の売上高は2000万円、変動利益は1500万円と計算できます。
A社はこの1500万円から、従業員に対する給料・賃金、工場・車両の減価償却費、本社事務所経費などを捻出しなければなりません。仮にこれらの経費が1000万円だと仮定すると、この企業にとっての営業利益は500万円です。
A社にとっての毎月のCVP
- 売上高…2000万円(@200×100,000)
- 変動費…*500万円(@*50×100,000)
- 固定費…1000万円
- 営業益…*500万円
金利負担が上昇すればどうなるか
ただ、A社はパン工場やパンの製造機械を投資するために、地元の信用金庫からおカネを借りているとしましょう。その金額は12億円、金利は2%だったとします。このとき、年間の支払利息は2400万円、これを月割りにすると200万円です。
営業利益から200万円を控除したら、この企業には300万円(年間だと3600万円)が残り、この企業はその利益から、さらに法人税・法人地方税・住民税・事業税などを負担します。
ところが、何らかの拍子に2%だった金利が5%に上昇してしまうとどうなるでしょうか。
12億円の借金に対し金利5%とすれば、年間の支払利息は6000万円、毎月500万円であり、A社にとっての営業利益500万円が利払だけで吹き飛ぶ計算です。もちろん、税金も払えませんし、従業員に給与・賃金などを支払うと、もうカツカツです。
では、金利が5%ではなく、10%に上昇したら…?
この場合、12億円の借金に対する年間支払利息は1.2億円であり、毎月600万円です。営業利益500万円を金利負担が上回ってしまうのです。
そうなると、この企業としては、経営努力でパンを売る個数を増やすのを別とすれば、パンの値上げ(@200→@250)をするか、経費を節減するか、それとも金利減免を信用金庫に依頼するか、などの対策をとる必要が出て来るでしょう。
値上げを間違うと事業継続すらままならなくなる
もっとも、パンを値上げした場合、今まで通り10万個売れ続けたならば、営業利益はたしかに1000万円に増えるはずですが、通常、値上げすると製品が売れなくなるという現象が生じます。経営学的な視点からすれば、売価を引き上げたり、原価を削ったりすると、たいていの場合、顧客は逃げていくのです。
もしも250円に値上げしたとしても、それにより売れる個数が7.5万個に減ってしまえば、営業利益は結局、500万円のままです。
韓国経済で発生していることは、どうやらそれだけではなさそうです。
インフレのため、原材料費が上昇しているのです。
先ほどの事例だと200円のパンの原価は50円でしたが、これが100円に上昇すれば、値上げをしなかったとしたら、売上高は2000万円のままですが、変動利益は1500万円から1000万円に減り、ここから固定費1000万円を控除すれば、営業利益はゼロになってしまいます。
そうなると、もう事業継続すらままならなくなります。
上場企業の増収・減益
こうした状況を説明しているという意味で、興味深い記事がほかにもありました。『亜洲経済』(日本語版)に掲載されていた、こんな記事です。
コスピ上場企業、1000ウォン分売って46ウォン利益···昨年の営業利益15%減
―――2023-04-04 18:04:00付 亜洲経済日本語版より
亜洲経済によると、韓国取引所と韓国上場会社協議会が4日、韓国のコスピ上場企業604社(金融業などを除く)の2022年12月連結決算を分析したところ、売上高は2814兆9183億ウォンと21.34%増加したのに対し、営業利益は159兆4124億ウォンと14.7%減少したのだそうです。
いわば、典型的な「増収・減益」です。
これについて亜洲経済は、「高金利・高物価・高為替」という「3高」が企業業績に悪影響を与えたと指摘。とりわけサムスン電子と韓国電力が全体の業績を悪化させた、としています。
また、「上場企業が1000ウォン分の製品を売れば、原価・人件費などを除いて稼いだおカネは56ウォン」、という説明も出てきますが、これは営業利益率が5.66%、純利益率が4.67%と、それぞれ前年より2.4ポイント、2.18ポイント下がったことを意味しています。
さらには、コスピ上場企業からサムスン電子や韓国電力を除外しても、やはり同様に、営業利益、純利益ともに減少した、などとしています。
インタレストカバレッジレシオ1倍割れ企業続出か
こうしたなかで、韓国メディア『中央日報』(日本語版)にもやはり、「高金利・景気低迷」による利子負担という話題が出ていました。
貸出金利高騰するのに営業利益は減少…韓国企業26社が稼ぎで利子も払えず
―――2023.04.12 08:50付 中央日報日本語版より
中央日報によると企業分析研究所の「リーダーズインデックス」が11日、大企業500社のうちインタレストカバレッジレシオが1に満たない企業が26社に達するとする分析結果を公表したのだそうで、中央日報は「稼いだ金で利子も返せない脆弱企業がさらに増えかねないとの懸念が出ている」と述べます。
ちなみにインタレストカバレッジレシオとは「営業利益を利子費用で割った値」で、さきほどのA社の事例だと、営業利益500万円を支払利息200万円で割れば2.5、支払利息が500万円に上昇すれば1.0と計算できます。
そのうえで、中央日報はこんなことも述べます。
「分析対象を全企業に増やすと脆弱企業の数はもっと増える。企業規模が小さいほど利子償還能力が弱くなるためだ」。
中央日報によると、韓国銀行が2520社を分析した結果、インタレストカバレッジレシオ1割れの企業は、2020年時点で39.7%の1001社だったそうですが、「昨年から基準金利上昇に利子負担が本格的に増えた点を考慮すれば脆弱企業の数は最近これよりさらに増えた可能性が大きい」と指摘します。
その意味では、韓国銀行に対してはますます「利下げ圧力」が高まって来ることは間違いありません。
ただし、韓国銀行が利下げをすれば、今度は韓国から通貨流出が生じ、通貨危機に発展しかねません。ここ数日、韓国ウォンの相場は1ドル=1320ウォン前後が続いていますが、これも微妙な状況といえるかもしれません。
いずれにせよ、日本の隣国で経済が変調をきたしているなかで、私たち日本国民としては、「韓国が危機のときに惜しげもなく外貨を貸してくれる友人」が韓国に出現することをお祈りするくらいのことはしても良いのかもしれない、などと思う次第です。
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
そんな日韓関係論を巡って、素晴らしい書籍が出てきた。鈴置高史氏著『韓国消滅』(https://t.co/PKOiMb9a7T)。
日韓関係問題に関心がある人だけでなく、日本人全てに読んでほしい良著。
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【おしらせ】人生で9冊目の出版をしました
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素朴な感想ですけど、日本は、他の国のことより、自国内のゾンビ企業のことを考えるべきではないでしょうか。
引きこもり中年様
日本の銀行は甘く無いです。ちなみに三のつくメガバンク。
僕の経験で、長年勤めて会社辞め収入ゼロになったので、住宅ローンを毎月安く、支払い期限長く出来ないか相談したら門前払いでしたwもちろんや未払い無し。
幸いにもその後安定収入にも恵まれ他行に借り換えし、完済出来ましたが、借り換えしたらすぐ
三のつくメガバンクから、もう一度我が銀行に借り換えして下さいと何度も電話がww
日本の銀行は過去の不良債権の経験があり半島みたいに甘く無いので、潰れるべき会社はとっくに無くなってると思います。
「利益がある≠キャッシュがある」ではない。
キャッシュが尽きれば営業利益云々など言ってられず、カネを求めて走り回ることになる。
日本もあまり人のこと言えた状況じゃないかも。今年からコロナ対策の「ゼロゼロ融資」の返済が始まる企業が多いですが、少なくない会社が返済のめどが立っていないゾンビ企業です。借り換えとかで先送りしようとしているみたいですけど、先送りはしょせん先送りですからね。どうなることやら。
ゼロゼロ融資が始まった頃でも、「潰れるべき企業を延命させるだけなのではないか?」という批判がありました。おそらくですが、政府はそのようなケースが十分ありうることを承知した上で、「潰れるべきでない企業」を幅広く支援するため、ゼロゼロ融資制度を始めたのだろうと思います。
その意味では、返済が始まることによって、本来潰れているべきだった企業が潰れるというのは、正しい方向性であるとも言えます。ただし、現状では、「潰れるべきでない企業」だったはずの企業の内で、業界、業種、あるいは地域によっては、潰れてしまう企業が出ることは避けられないでしょうね。地銀や信金信組がどの程度まで踏ん張れるかが問われるのかもしれません。メガバンクと税務署が血も涙もないというのは、全世界共通の話だと思います。