国際的な裁判手続が無法国家・ロシアの「外堀」埋める

ロシアの常任理事国解任議論のキッカケにできる…かも?

国連安保理の常任理事国でもあるロシアを国際社会が制裁するのは難しいというのが実情です。しかし、その「外堀」を埋める動きがいくつか出て来ました。ひとつは国際司法裁判所(ICJ)がロシアに対し、ウクライナでの軍事作戦の停止を命じたとする話題、もうひとつは国際刑事裁判所(ICC)がウクライナ事態を巡り、戦争犯罪や人道に対する罪などでの捜査を開始したとする話題です。

国際司法裁判所、ロシアに即時停戦を命令

国際司法裁判所(ICJ)は現地時間の16日、ロシアに対しウクライナからの即時停戦を命じる暫定的な命令を発したようです。

ALLEGATIONS OF GENOCIDE UNDER THE CONVENTION ON THE PREVENTION AND PUNISHMENT OF THE CRIME OF GENOCIDE (UKRAINE v. RUSSIAN FEDERATION)【※PDFファイル】

―――2022/03/16付 国際司法裁判所ウェブサイトより

リンク先のファイルはA4サイズで22ページに達する長文ですが、結論部分(17ページ)のうちの第81校には、次のような記述があるのが確認できます。

The Court considers that, with regard to the situation described above, the Russian Federation must, pending the final decision in the case, suspend the military operations that it commenced on 24 February 2022 in the territory of Ukraine. In addition, recalling the statement of the Permanent Representative of the Russian Federation to the United Nations that the “Donetsk People’s Republic” and the “Lugansk People’s Republic” had turned to the Russian Federation with a request to grant military support, the Court considers that the Russian Federation must also ensure that any military or irregular armed units which may be directed or supported by it, as well as any organizations and persons which may be subject to its control or direction, take no steps in furtherance of these military operations.

要約すると、次のような記述でしょう。

  • ロシア連邦は本裁判所の最終決定を待つ間、2022年2月24日にウクライナの領土で開始した軍事作戦を停止しなければならない
  • ロシア連邦はまた、ロシア連邦によって指示ないし支援される可能性のある軍事行動、あるいは不規則な武装部隊、その支配または指示の対象となる可能性のある組織および人が、これらの軍事作戦を促進するための措置を講じないようにする必要がある
【参考】オランダ・ハーグのICJ

(【出所】ICJ)

ICCでもロシアへの聴取の動き

これに加えて国際刑事裁判所(ICC)の方にも動きがあったようです。

ICC prosecutor issues official request to Russia to discuss situation in Ukraine

―――2022/03/17 08:39付 タス通信英語版より

ロシアのタス通信によると、ICCのカリム・カーン検察官は水曜、「ウクライナの状況について話し合うため」として、関連機関の代表者との会合をロシア政府に対し正式に要請したのだとか。

また、タス通信によると、ウクライナ自身はICCの正式メンバーではないものの、2013年11月21日以降、同国の領土で行われた可能性がある犯罪に関連し、ICCの管轄権を認めるよう求める2通の申請書を出した、などとしています。

このあたり、ロシア側がICCへの付託を拒絶しているようですが、その一方でウクライナ事態をICCに付託する国も増えているそうです。たとえば外務省の次のページによると、3月9日までに日本政府もウクライナ事態をICCに付託すると発表しています。

ウクライナの事態に関する国際刑事裁判所(ICC)への付託

―――2022/03/09付 外務省HPより

ICJやICCを通じたロシアへの圧力

もっとも、ロシアに対して何らかの判決が出たとしても、それを強制執行する力はありません。

たとえば、ロシアに即時停戦を命じたICJの判決にロシアが従わなかったとしても、ICJ自身がロシアに何らかの制裁を加えるということはできません。当たり前の話ですが、ICJが何らかの軍事力、警察力などを持っているわけではないからです。

ただ、一般にICJの決定には法的拘束力があります。もしもロシアが今回のICJの軍事作戦停止命令に従わず、戦闘を継続した場合は、国際的には、ロシアが「ICJの判決にも従わない無法国家」である、ということになりそうです。

これに加え、ICCでもウラジミル・プーチン大統領自身を訴追する動きなどが出てくれば、これ自体、ロシアに対する隠然たる圧力として機能しそうです。

ロシアが国連安保理の常任理事国であり、拒否権も持っているため、ロシアを国連安保理の制裁対象とすることが難しいという事情を踏まえるならば、ICJやICCなどを使い、こうやって一歩ずつ「外堀」を埋めていく作業も、地道ながらも重要ではないでしょうか。

なにより、ICJなどの判決を「形式的なもの」と見るべきではありません。うまく活用すれば、国際社会がさらなるステップを踏むうえでの大義名分となり得ます。

たとえば、「ロシアの国連常任理事国からの解任」といった議論を国際的な世論にしていくこともできるかもしれません(※もっとも、それが可能なのかどうかは現時点ではよくわかりませんが…)。

いずれにせよ、ウクライナの人々の無事を祈らざるを得ないと思う次第です。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. 引っ掛かったオタク より:

    無法者は無法っぷりを売りにしているトコロが間違いなく有るので、プーチンロシアも「無法国家」視されたトコロで”箔”がついたくらいの受け止めしかしないのではないかと
    あとは非プーチンと思われたいロシア人がどの程度の頭数居るのか?
    と…

  2. Sky より:

    世にある既得権益の最たるものは、この[国連安保理の常任理事国であり、拒否権も持っている]こと、それに重複する[核兵器保有国]であることと思います。世の中は強者にとって都合の良いルールで運用されるのが常ですが、国連の機能不全をきっかけに変革方向に舵をきって欲しいと願っています。

    1. 犬HK より:

      Skyさま

      いわゆる戦勝国が常任理事国となっている訳ですが、現ロシアは旧ソ連から、中国は中華民国からのスライドであり、特にロシアはそもそも常任理事国を名乗れるような国ではないと思います。

      長らく懸案であった機能不全も含め、確実に変革が起きると私はみています。

  3. 引きこもり中年 より:

    独断と偏見かもしれないと、お断りしてコメントさせていただきます。
    (というより、自分でも外れて欲しいので)
    ロシアは、「国際刑事裁判所も国際司法裁判所も間違うことがある」と言い出すでしょう。そうすれば、中国、フィリピンなど、(今回の判断が間違っているかを明言しないで)そのロシアの意見に同調する国が、多くあるのではないか。
    蛇足ですが、「他人がすれば不倫、自分がすれば純愛」というK国のような国が増えるのでしょうか。
    駄文にて失礼しました。

  4. 匿名ですみません より:

     アメリカがイラクに大量破壊兵器があるという情報を流し戦争した時代と
    今とでは情報の量も質もかなり違いますよね。今回のウクライナへの侵攻の
    大義名分もデタラメとバレバレのようですし。

     ロシアは只では済ませれないでしょう。そして世界秩序も変わるのでは
    ないでしょうか。

    1. バシラス・アンシラシスは土壌常在菌 より:

      元々ロシアのふろぱがんだが稚拙たというのもある

  5. より:

    ICCもICJも判断を強制的に執行する力を持っていません。今回のロシアによるウクライナ侵攻について、ICCやICJでどのような判断が下されようが、ロシアがそれを無視すれば、それ以上のことはできません。
    また、「国際世論の高まり」についても、それほど大きな期待は持っておりません。「国連改革」についても、そうなったら良いなぁとは思いますが、正直に言えばかなり悲観的です。所詮は既得権益クラブである国連において、常任理事国の解任・追放という「前例」を作ることに、ロシア以外の現常任理事国がどこまで乗ってくるか、かなり疑問です。
    現国連を解体・改組して、新しい組織を立ち上げるというのであれば、まだ可能性があるかもlしれないと思いますが。

  6. 門外漢 より:

    ソ連からロシアへの継承に手続き上の瑕疵がある。
    この理屈が通れば、中華民国から中華人民共和国への手続きも同様に難癖をつけられる訳で、中共を追い出すどころか台湾を常任理事国にもできます。
    そんなことをシューキンペーが認める筈もないので、ロシアの常任理事国追放には拒否権を発動するでしょうね。
    同様に中共追放にはロシアが拒否権発動。
    なので、両国まとめて瑕疵があるとして、同時追放でしょうか?

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