北朝鮮の核・ICBM脅威高まるなかでの米韓間の齟齬
韓国メディアに相次いで「朝鮮半島和平プロセスの破綻」を指摘する意見が掲載されました。ただ、そんなプロセス自体がこれまでに機能していたという認識自体が正しくありません。「朝鮮戦争終戦宣言」などを巡っても、もともと韓国の独り相撲だったところが、北朝鮮の核・ICBM実験再開の脅威が出たことに加え、米韓の齟齬が目立ってきたからです。
あと3ヵ月少々の文在寅政権の「負の遺産」
韓国の文在寅(ぶん・ざいいん)政権に一貫した政策目標があったのだとしたら、それは「大韓民国を北朝鮮に献上すること」ではないかと思います。文在寅氏の決して合理的とはいえない行動も、そのように考えると、すんなりと合点がいく部分が多々あるからです。
ただ、その文在寅政権も、あと3ヵ月少々で終わってしまいます。韓国の目から見て、この5年弱の文在寅政権が残したものは、正直、「負の遺産」と呼ぶにふさわしいのではないかという気がしてなりません。
自称元徴用工判決、火器管制レーダー照射事件などを契機に、日本との関係も壊れましたし、合同軍事演習がいくつか中止に追い込まれるなど、米韓関係もかなり悪化しました。かといって、中韓関係や南北関係が良好かといえば、そういうわけでもありません。
こうしたなか、文在寅氏が最近、最も力を入れてきた項目のひとつが、朝鮮半島和平プロセスの一環としての、「朝鮮戦争終戦宣言」でしょう。これなど、さしたる「遺産」がない文在寅政権が「遺産」のひとつにするためのものだとは思います。
しかし、正直、これも韓国の「独り相撲」の様相を呈しています(『「独り相撲」で勝手に盛り上がる「朝鮮戦争終戦宣言」』等参照)。
いや、もう少し正確にいえば、その「終戦宣言」の当事国である北朝鮮自体、非核化にも応じていないどころか年初から何発もミサイルを発射しているという状況であり、終戦宣言からは程遠いのが実情でしょう。
ハンギョレ新聞が「和平プロセス、水泡に帰すか」
おそらく文在寅政権はこのまま「時間切れ」となる可能性が極めて高いのではないか、などと思う今日この頃ですが、こうしたなか、韓国の「左派メディア」とされる『ハンギョレ新聞』(日本語版)には今朝、こんな記事が掲載されていました。
朝鮮半島和平プロセス、水泡に帰すか…文大統領にも「反転カード」なし
―――2022-01-21 08:30付 ハンギョレ新聞日本語版より
ハンギョレ新聞は、北朝鮮が20日に核実験やICBM発射を再開する可能性を示唆したことなどを巡り、文在寅政権の成果として掲げてきた「朝鮮半島平和プロセス」が「水泡に帰すのではないかと懸念する雰囲気」が感じられる、などと指摘しています。
具体的には、韓国大統領府の行為関係者が「最近の北朝鮮の一連の動向を綿密に注意深く検討している」、「今後の状況展開の可能性に備え、関連国と緊密に協議していく」などと述べたものの、北朝鮮の声明に言及をしなかった、というものです。
これに関連し、ハンギョレ新聞は次のように指摘します。
「大統領府内では、文在寅政権が力を注いできた『朝鮮半島平和プロセス』全体が揺らぎうると憂慮する声も少なくない」。
というよりも、最初からそんなものが機能していたと考えること自体、少し無理があるように思えてなりません。
おそらく次の政権にも引き継がれる齟齬
ただ、これが「文在寅政権の失敗」に終われば、まだ良いのですが、どうもそういうわけにはいかなそうにも思えてなりません。というのも、韓国メディア『中央日報』(日本語版)には今朝、こんな記事が掲載されていたからです。
韓米同盟、最近北ミサイル挑発にすれ違い…北朝鮮、隙を狙って「割り打ち」
―――2022.01.21 07:06付 中央日報日本語版より
中央日報によると、北朝鮮の核・ICBM実験再開の脅威に対し、本来ならば米韓が一致して対処しなければならないにも関わらず、「韓米政府の対応はすれ違いの様相を呈している」と指摘します。
というのも、ごく最近、米国務省と韓国外交部のあいだで行われた複数回の高官級協議において、「北朝鮮に対するメッセージは明確に異なっていた」というのです。具体的には、次の指摘でしょう。
「バイデン政府は最近の北朝鮮の相次ぐミサイル発射について『挑発(Provocation)』を越えて『攻撃(attack)』と規定して追加制裁に入ったのに比べて、韓国政府は『遺憾』と『懸念』だけを繰り返している」。
中央日報によると、北朝鮮の「安保理決議違反」、「糾弾(condemn)」する、といった表現は米国の資料にしか登場しておらず、韓国側の資料には出て来ない、などの状況にあるのだそうであり、実際、北朝鮮の狙いも「韓米間の隙を狙って同盟の協調を不安定にさせようとする側面がある」と指摘します。
そのうえで、「韓国政府が終戦宣言を推進する名分はさらに弱まった」と指摘したうえで、文在寅政権が推進してきた朝鮮半島平和プロセスも「韓米間の異見だけを確認したままで」、「北朝鮮の高強度挑発再開というみすぼらしい結末を迎えることになる懸念」が高まった、と結論付けています。
そして、こうした米韓間の齟齬については、おそらくは次の政権においても引き継がれるのではないかと思います。
ある意味では自業自得
ただ、こうした状況を眺めると、まさに米戦略国際問題研究所(CSIS)のシニアアドバイザーでもあるエドワード・ルトワック氏は9年前に執筆した『自滅する中国』(日本語版は芙蓉書房出版、2013年7月24日第1刷発行、翻訳者は奥山真司氏)のなかで述べた、次の内容を思い出してしまいます。
「2011年12月14日には『従軍慰安婦』を表現する上品ぶった韓国人少女の像が日本大使館の向かい側で除幕された。<中略>これは韓国に全く脅威をもたらさない国を最も苛立たせるような行為であった。<中略>戦略面で現実逃避に走るのは<中略>、国際政治に携わる実務家たちの力や、同盟国としての影響力を損なうものだ。さらにいえば、これによって実際に脅威をもたらしている国に威嚇されやすくなってしまうのだ」。
現実の脅威に対しては目を背け、まったく脅威でも何でもないものを「脅威だ」と言い張るのは、無責任を通り越して危険な行為でもある、というのがルトワック氏の警告でしょう。
もちろん、文在寅政権下で米国や日本が韓国に対する信頼感を喪失するのが加速したのは間違いないとは思いますが、それと同時に、結局のところ、韓国は民主主義国家であり、文在寅氏自身を韓国国民が選んだという事実についても忘れてはなりません。
韓国の次の大統領が誰になったにせよ、少なくとも日韓関係、米韓関係については、大きく変わることはないのではないかと思う次第です。
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
そんな日韓関係論を巡って、素晴らしい書籍が出てきた。鈴置高史氏著『韓国消滅』(https://t.co/PKOiMb9a7T)。
日韓関係問題に関心がある人だけでなく、日本人全てに読んでほしい良著。
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自称元徴用工問題、自称元慰安婦問題、火器管制レーダー照射、天皇陛下侮辱、旭日旗侮辱…。韓国によるわが国に対する不法行為は留まるところを知りませんが、こうしたなか、「韓国の不法行為に基づく責任を、法的・経済的・政治的に追及する手段」を真面目に考察してみました。類書のない議論をお楽しみください。 |
【おしらせ】人生で9冊目の出版をしました
日本経済の姿について、客観的な数字で読んでみました。結論からいえば、日本は財政危機の状況にはありません。むしろ日本が必要としているのは大幅な減税と財政出動、そして国債の大幅な増発です。日本経済復活を考えるうえでの議論のたたき台として、ぜひとも本書をご活用賜りますと幸いです。 |
北朝鮮は、瀬戸際外交を強めているのでしょう。
日本を超える弾道ミサイル実験や核実験したら、アメリカは実力行使すれば良いと思います。
間違い無くICBMを高度化すればアメリカは攻撃します。
アメリカは正義の国なのです。
刃向かう物は許しません。
当然中国への根回しもするでしょう。
日本への被災も当然考えられますので日米共同での攻撃となるでしょう
だんな様,アメリカの実力行使は良いのですが,問題は,アメリカが北朝鮮に対して実力行使した時に日本国内で何が起こるかですね.日本は半島籍の在日永住者をアンタッチャブルな存在として腫れ物の如く扱い,その結果として朝鮮総連という対日スパイ組織を野放し同然で放置し続けている訳ですから.
朝鮮総連が公安警察の監視対象であっても,全ての在日朝鮮籍の行動を四六時中監視するのは不可能ですし,ましてや彼らがインターネットや携帯電話でどのような情報を交換しているかを完全に把握できるはずもない訳で.
そういう意味では,我が国は既に何万人あるいは何十万人もの「草」を北朝鮮によって種まきされ既に根付かされてしまっているのです.
直接的な対人テロはともかくとしても,北朝鮮有事となれば,アメリカ側の弱点としてガードの甘い日本社会が狙われ,社会インフラへの破壊活動の一つや二つは実行されてしまい東京か大阪か名古屋あたりの都市機能がマヒする事態も起こり得る(そして直接的な対人テロではなくとも都市機能マヒの結果として本来ならば死なずに済むはずの日本国民が何人も死ぬことも十分に有り得る)と我々日本国民は覚悟しておくべきですね.
日本の大衆に恐怖を覚えさせてアメリカによる対北軍事制裁への非協力の機運を日本国内で盛り上げさせ,対北制裁で在日米軍基地を使わせない(在日米軍が半島に出動するには日本政府の了承が必要)ように,恐怖によって日本社会を誘導しようとするでしょうね.
だんな様はアメリカによる対北実力行使があった際には北の工作員による社会インフラ破壊活動によって日本の大都市の都市機能がマヒする(そしてその結果として例えば電力網の破壊…ハードキル=物理的破壊かソフトキル=ハッキングかどちらになるかは知りませんが…によって少なからぬ病人が必要な治療を受けられずに死ぬ等の)事態になることも既に想定済ですか?
私個人はその事態も已むを得ないと考えていますけれどね.
そのぐらいのことがなければ,日本国内に張り巡らされた北の工作員網を強制除去することは不可能ですから.そして工作員網が張り巡らされ北が望む時に日本の社会インフラを破壊できる体制が続く限り,日本は永久に北に急所を掴まれているも同然ですから.
(問題は,日本人の腰抜けな国民性からして,そのぐらいのことが起こっても北の工作員網を強制除去できない可能性があるという点です.何しろ毒ガスを撒くというどこから見ても文句なく「無差別大量殺人を狙っての組織的テロ」を行ったオウム真理教に対してさえ破防法の適用を避けたぐらいヘタレなのが我々日本人の国民性ですから)
冥王星さま
深くお考えのようです。
有りうる話だと思います。
先に撃ち込まれるよりは、マシかな。
日本が変わる機会になるなら、仕方ないと思います。
だんな様
ミサイル撃ったり核実験したくらいじゃアメリカは武力行使しないと思います。
北もわざわざアメリカに武力行使の口実を与えるほどの事はしないでしょう。
ICBMに搭載できるくらい核弾頭を小型化するのと、その核弾頭搭載型ICBMを撃てる原潜を保有するまでは、おとなしく時間稼ぎに徹するんじゃないですかね。
ウクライナ情勢もなんだか怪しくなってる状況で、今のアメリカがロシアと北朝鮮の二正面作戦をやるとも思えません。
こんばんは。
今回の見出しに使われている米韓国旗の写真が気になってしょうがないです。
と言いますのは、これ、星条旗も太極旗も左向きなんですが「韓国の方がアメリカより上」って意味になりませんかね?
随分前ですが、日韓W杯の韓国トルコ戦後の時にスタジアムに太極旗が上、トルコ国旗が下に並んでたことがあって「何で上下にするの?左右に並べるべきじゃないのかな」って思ったんですよ。しかも勝ったのトルコでしたよね。
確かに国旗を左右に並べると嵩張りますが、それでもこの並びはちょっと、な気がします。
毎度毎度本題とは関係ないかもですが、妙に気になって、本題と微妙にリンクしている気がしたもので、書き込ませていただきました。
アメリカには北朝鮮の大陸間弾道飛翔体は大きな脅威だが
韓国にとっては北朝鮮が大陸間弾道飛翔体を持とうが持つまいが、脅威度に変わりがない。つまり、韓国人にはどうでも良いこと
そのギャップはあって当然であり
「アメリカと同じ感覚を共有すべき」というアメリカの要求こそが無理筋
こう言うと「つまり、韓国にとっては北朝鮮はお友達という意味ですね」とほぼ全員が解釈するかもしれないが
そういう政治的意味ではなく、物理的意味において、大陸間弾道飛翔体は韓国の脅威ではない
簡単な話だが、そんな大袈裟なものを使わなくても、北朝鮮は韓国の首都を火の海にできるってこと
むしろ、韓国が親北なのは決して政治主導ではなく、物理に引っ張られての生理現象の可能性の方が高いかもしれない