6月の輸出高も「台湾>韓国」:基調は定着するのか?

当ウェブサイトでは以前から、日本の貿易収支構造についての分析を続けており、拙著『数字でみる「強い」日本経済』や『韓国がなくても日本経済はまったく心配ない』などでも説明したとおり、基本的には「モノを作るためのモノ」に特化した経済である、と考えて来ました。こうしたなか、本稿では本日公表された6月の貿易統計をもとに、とりあえず輸出入総額などについての数値をざっと概観してみたいと思います。

日本の貿易構造は「モノを作るためのモノの輸出」

当ウェブサイトとしては、以前から日本の貿易収支構造について、こんな仮説を立てています。

  • わが国は従来、中国、韓国、台湾などに対し、「最終製品・完成品」よりも、「モノを作るためのモノ」(生産装置や中間素材など)を輸出して来た
  • コロナ禍の影響でPCなどのIT機器の需要が世界的に高まり、「世界の組み立て工場」である中国、韓国、台湾からの全世界に対し、半導体・PC類の輸出が増えている
  • これに伴い、日本からこれらの国々に対する半導体生産装置、半導体等電子部品、光学機器、有機素材などの資本財・半製品の輸出が増えている

これは、拙著『数字でみる「強い」日本経済』や『韓国がなくても日本経済はまったく心配ない』などでも取り上げた話題であり、また、その後の貿易統計などを見ていても、こうした傾向がハッキリと確認できる、というわけです。

待望の2021年6月分統計

こうしたなか、「待望(?)」の2021年6月分の貿易統計が出て来ました。

早速ですが、速報値ベースではあるものの、2021年6月分の相手国別の輸出額、輸入額、貿易額(=輸出額+輸入額)、貿易収支(輸出額-輸入額)を確認しておきましょう(図表1図表2)。

図表1 相手国別輸出入額(2021年6月)
相手国輸出額輸入額
1位:中国1兆5874億円1兆6359億円
2位:米国1兆3456億円7667億円
3位:台湾5073億円2917億円
4位:韓国4782億円2973億円
5位:タイ3089億円2410億円
6位:豪州1255億円4118億円
7位:ドイツ1976億円2213億円
8位:ベトナム1827億円2132億円
9位:香港3480億円107億円
10位:マレーシア1420億円1743億円
その他1兆9988億円2兆5741億円
合計7兆2220億円6兆8381億円

(【出所】『財務省貿易統計』より著者作成)

図表2 相手国別貿易額・貿易収支(2021年6月)
相手国貿易額貿易収支
1位:中国3兆2233億円▲486億円
2位:米国2兆1123億円+5789億円
3位:台湾7990億円+2157億円
4位:韓国7755億円+1809億円
5位:タイ5500億円+679億円
6位:豪州5373億円▲2863億円
7位:ドイツ4189億円▲237億円
8位:ベトナム3959億円▲304億円
9位:香港3587億円+3372億円
10位:マレーシア3163億円▲324億円
その他4兆5730億円▲5753億円
合計14兆0601億円+3840億円

(【出所】『財務省貿易統計』より著者作成)

中国に対する貿易赤字は縮小傾向、米中再逆転も?

日本にとっての最大の貿易相手国は、輸出、輸入ともに中国です。

中国との貿易においては、相変わらず輸出額が輸入額を下回っており、日本は中国に対して貿易赤字を計上し続けていますが、トレンドとして赤字幅が徐々に狭まって来ていることが伺えます(図表3、ただしグラフの軸の単位が「億円」ではなく「十億円」である点にご注意ください)。

図表3 対中輸出入額と対中貿易収支(金額単位:十億円)

(【出所】『普通貿易統計』より著者作成)

また、輸出相手国として1位の国は中国ですが、2位の国である米国と比較すると、コロナ禍の際に落ち込んだ米国向けの輸出が徐々に回復している傾向も見られます(図表4)。

図表4 対中輸出額と対米輸出額(金額単位:十億円)

(【出所】『普通貿易統計』より著者作成)

米国向けの輸出品目は、基本的には自動車などの最終製品が多いため、米国における自動車などの需要が回復してきた証拠と見るべきでしょうか。

定着するか?「台韓逆転」

そして、もうひとつのポイントは、輸出における「台韓逆転」です(図表5)。

図表5 対台輸出額と対韓輸出額(金額単位:十億円)

(【出所】『普通貿易統計』より著者作成)

じつは、日本からの台湾、韓国に対する貿易構造、品目別に見ると極めて類似しています(これについては『深まる日台関係:5月の合計貿易高も「台湾>韓国」に』で詳しく議論しています)。

つまり、統計的な事実だけで見れば、「ニッポン株式会社」の取引相手が、韓国から台湾に、徐々にシフトし始めていると述べても良いでしょう。

台湾と韓国は日本にとって、「3番目の輸出相手国」の地位を巡り、現在、「つばぜり合い」を続けている状況にありますが、今年に入ってからの両国に対する輸出額を比較しておくと、図表6のとおりです。

図表6 台湾と韓国に対する輸出額(2021年1月以降、金額単位:千円)
対韓輸出額対台輸出額
1月429,385,582414,027,620
2月424,236,398412,040,337
3月495,194,432490,873,157
4月517,428,011493,523,793
5月390,185,399452,042,948
6月478,197,892507,330,523
上半期合計2,734,627,7142,769,838,378

(【出所】『普通貿易統計』より著者作成。ただし、速報値を更新していない部分もあるため、財務省統計と整合していない可能性がある)

日本企業の「ビジネス上の判断」に注目したい

以上、2021年上半期に関していえば、日本の輸出相手国としては、台湾が韓国に僅差で競り勝った格好です。

ただし、こうした「台湾シフト」が一過性の要因なのか、それとも今後の傾向として定着するのかについては、現時点のデータをもとに判断することはまだ難しそうです。

もっとも、今朝の『「解決済み」の慰安婦問題、今さら何を協議するのか?』でも取り上げたとおり、定性面から「法的安定性」を巡って台湾と韓国を比較したときに、「政府が国同士の約束を守らない」、「裁判所が条約と国際法に反した違法判決を下す」という国にアドバンテージがあるとは思えません。

ビジネスの世界では、コスト、リスク、現地でのサプライチェーンなど、さまざまな面が考慮されますが、当然のことながら、自称元徴用工問題や自称元慰安婦問題もビジネスリスクとしては考慮すべき要因ではないでしょうか。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. だんな より:

    対韓国の輸出が減るかは分かりませんが、台湾への輸出は増えるように思いますので、台湾>韓国が定着するでしょう。
    韓国のマスコミのみならず、日本のマスコミでも、この手のニュースを見た覚えが有りませんね。
    ウリがボケてるせいニカ?
    それとも、誰も触りたく無いニカ?

  2. Sky より:

    電気モーター大手の日本電産は、電気自動車に必須のEVパワートレインの世界で飛躍すべく、鴻海と共に中国で大規模投資を計画しています。日本産業界の韓国デカップリングは進むかもしれませんが、安全保障上比べられないぐらい重要な中国デカップリングについては、今後もあまり期待出来ない気がします。鴻海だって中国から撤退する気はないでしょうし。

    1. 阿野煮鱒 より:

      日本電産(Nidec)は、昔から筋金入りの親中なのです。中国と心中する覚悟はできていると思います。

      一企業がどうなろうと知ったことではない… では済まされない、今後の基幹産業や、戦略物資を作っている会社が、国家観なく中国とズブズブになっているのは困ったものです。

      官主導で産業界を仕切ってきた古く悪しき霞ヶ関の因習、護送船団方式が妨げる自由闊達な経済発展… だったはずですが、産業界が自主的に動いた結果が日本の将来を危うくするかも、だと、痛し痒しですね。かつてのように霞ヶ関や永田町に民間企業をとやかく指図する力を与えても、別の弊害が出るだけだと思います。

      私には妙案が浮かびません。企業価値と国益を両立できるような経営判断ができる経営者が多数現れることを願うのみです。あるいは、霞ヶ関にできることは、利益を追求した結果が国益につながるような制度や法整備を整えることなのかもしれません。

      言うは易し、実現はそんなに簡単なことではないように思います。

      1. Sky より:

        阿野煮鱒さま
        鴻海やTSMCなど台湾産業界も中国とは心中するつもりだと思います。従って、日本の産業界の貿易先が韓国から台湾にシフトしても結局のところ中国からみれば大同小異に過ぎない、大勢に影響なし、というのが厳しい現実だと思っています。

    2. 門外漢 より:

      Sky 様
      中国は巨大市場がありますから企業としては放っておけません。また市場の近くで作るのが最近の流れですから、中国への投資は止められないと思います。
      ただしレッドサプライチェーンに対する疑念が強まってますから、中国からブルーチームへの輸出は細るので、その為の投資は当然無くなります。
      尤もこれはブルーサプライチェーンを確立するという米の本気度次第です。
      韓国は立場が違います。
      まず国内市場が小さいのでそれ目当てで進出するのは意味がありません。輸出工場としては技術的には台湾と、コスト面では東南アと競合しますからなかなか難しい。
      余程政府の補助があれば別ですが、先進国認定して貰ったので露骨な事はできない。
      これでレッドチーム判定でもされれば、中国の下請け以外の道はありませんが、中国が国内の工場と韓国の工場のどちらを優遇してくれるのって話です。
      そんなところへ誰が投資するんでしょうね?

  3. 大陸老人 より:

    韓国問題から台湾へのシフトは好ましいように思えますが、それでもあまり傾斜すると新たなリスクになります。日本からは中国にも生産手段を輸出しているので、中国が日本との貿易を遮断するようなことはない、いうなれば尖閣問題などを機に簡単に戦争になることはないと思いますが、それでも台湾が中国から攻撃されるようなことがあれば、台湾に傾斜しすぎるリスクは顕在化してくると思います。ますます日台と米の連携が大切になるし、台湾を守らなければならなくなります。日本にはその覚悟ができているのでしょうか。と言っても韓国はすでに敵みたいなものですから、韓国離れはいいのですが。

  4. 芽島津 より:

    基本的には「モノを作るためのモノ」に特化した経済である、と考えて来ました。

    ちょっと本題から外れますが、卓越した「モノを作るためのモノ」を製造するには「モノを作るノウハウ=日常的で継続した実務経験」が必要だと思うのです。
    例えば半導体微細加工工程用の工作機械を設計開発するには複雑、正確で厳密な手順と工程とそのクリーン・ルームの環境内で実際に経験して直接的なノウハウを得なければならないと思います。

    少なくとも長期的にはね。

    ある程度は頭の中で製作工程のシミュレーションが出来るでしょうが、シミュレーションそのものの正確さは定期的に実際の経験と照らし合わせて検証しなければ現実と乖離してしまう事がありますから。

    日本が「モノを作るためのモノ経済」で生き延びるためにはその土台である「モノを作る経済」を無視してはダメです。

    1. 門外漢 より:

      芽島津 様
      御尤も。
      日本はやはり「モノづくり国家」で行くしかないんでしょうね。

  5. 匿名 より:

    台湾の対中依存度は韓国より高かったけど今はどうなってるんだろ?

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