手遅れの中国政府:今さら「脱中国」に気づいても遅い
共同通信によると、中国当局が最近、日本に対するレアアースの輸出を複数許可したのだそうです。これについて共同通信は「日米欧がレアアース調達で中国依存脱却の動きを加速していること」を中国が「警戒」している、などと記述していますが、こうした記述が正しかったとしても、すでに手遅れです。なぜなら、脱中国はすでに日本社会、あるいは日本を含めた先進国のコンセンサスとなってしまったからです。
目次
中国レアアース輸出許可をどう見るか
本日は、衆議院議員総選挙の投票日です。
ですが、公選法の規定もあるため、選挙の話題に関しては、本日の夜8時まで沈黙を守りたいと考えています。
というわけで、本稿ではあえて選挙とはできるだけ関係のない話題として、こんな記事を取り上げておきます。
中国、規制後に対日輸出許可 レアアース調達で依存脱却警戒
―――2026/02/06 21:00付 Yahoo!ニュースより【共同通信配信】
共同通信の報道によれば、中国当局はレアアース(希土類)の対日輸出を複数許可したのだそうです。
レアアースといえば、先月、中国当局が日本に対する軍民両用品(いわゆるデュアルユース品目)の輸出を制限すると発表した際に、同時に輸出が制限される可能性があるとされていたものですが、もしこの共同の報道が正しければ、なかなかに意味深な話題です。
といっても、当ウェブサイトでは『ついに中国政府が禁断の対日セルフ経済制裁を発動か?』でいち早く指摘してきたとおり、中国の対日制裁措置は、中国にとってはセルフ制裁となり得るものです。なぜなら、中国の輸出制限措置自体、日本企業にとっては「サプライチェーンに中国を組み込むことのリスク」を意識させるからです。
もともと中国のレアアース規制はかなり重層的
ただし、共同通信の記事自体、若干、実態にそぐわない部分もあるかもしれません。
実際のところ、先月の中国政府の発表では、対日輸出制限品目に何が含まれているか、明らかにされていなかったからです。意外と知られていませんが、中国政府は日本に対し、「レアアースの輸出を一切禁止する」とは宣言していないのです。
というよりも、中国政府の輸出制限措置は、じつはかなり重層的です。
中国レアアース規制、「高市発言が引き金」の誤解 動き出した日米欧連携も視野に
―――2026/02/06付 日経ビジネスオンラインより
内閣官房参与で明星大学の教授を務めている細川昌彦氏によると、中国によるレアアースの輸出規制は、昨年4月から始まったものなのだそうであり、これはべつに高市早苗総理大臣による「台湾答弁」を契機に始まったものではないのだそうです。
というよりも、中国はそれでなくても気に入らないことがあるとすぐに経済を政治利用する国であり、たとえば2010年の尖閣沖漁船衝突事件や2012年の中国の反日デモなどのように、中国の都合で日本企業が不当な不利益を受けるという事態は頻発していたことを忘れてはなりません。
したがって、共同通信が報じた「中国が日本にレアアースの輸出を許可した」とする話題が事実であったとしても、それは日本がレアアースの―――いや、レアアースだけでなくあらゆる重要物資の―――調達先を多様化しなければならない、という点については、何も変わらないのです。
南鳥島レアアースが「コスト高」?
こうしたなかで、やはり気になるのは、レアアースを中国以外の国から調達した場合のコストを懸念する意見です。Xなどでは最近、こんな趣旨の発言も観察されるのです(発言者を晒す意図はないので、引用にあたって文言はわざと変えてあります)。
- レアアース泥を深海から引き上げることに成功しても、コスト的には中国産にはかなわない
- 中国といたずらに対立するのではなく、中国が日本へのレアアース輸出制限をし辛いような関係を構築していく方が現実的だ
- そのような関係は日中2国間だけでなく、多国間の外交の中で築いていくべきだ
これはおそらく、南鳥島のレアアース泥のことをさしているのだとは思いますが、いろいろと誤解に満ちた記述です。
まず、レアアース泥を深海から揚泥するのは世界的に見ても例がないことは事実ですし、現実問題、うまく商業ベースに乗っかったとしても、コストがどの程度かかるのかは見え辛いところです。その意味で、レアアース「だけ」で見たら、コスト的には中国産に勝てない、というのはあながち的外れとは言えません。
しかし、多くの場合、レアアースは製品にごく微量使用されるだけであり、極端な話、レアアースの価格が数倍になったとしても、製品全体の価格を数倍に押し上げる効果はありません。
また、南鳥島レアアース泥の場合、元素抽出の障害となる放射性物質などがほとんど含まれていないことが、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の2013年3月22日付『南鳥島周辺に高濃度レアアース埋蔵』でも明らかにされています。
こうした状況を考慮に入れると、揚泥だけでなく精錬工程まで含めた全体的なコストがどこまでかかるか、といった点を含め、あまり悲観的になる必要もありません。
日本にとっての意味は主要国との協調と海洋新資源開発
それどころか、中国という国が、ちょっとなにか政治的に気に食わないことに出くわすと、すぐに経済を政治利用する国であるという事実は、日本がこの国に重要な戦略物資の供給を握られることのリスクを意味します。
そして、それは日本だけの話ではありません。
おりしも、片山さつき財務大臣が重要鉱物の対中依存脱却に向けて、米国、欧州連合(EU)、英国、ドイツ、フランス、イタリア、カナダ、豪州、インド、メキシコなどと合意したこと(『中国の対日制裁発表からたった1週間で国際社会が団結』等参照)は、この中国の脅威が国際社会に広く共有されたことを意味します。
もちろん、今の今という時点で、南鳥島レアアース泥からの製錬が商業ベースでプロセスとして確立しているわけではありませんし、また、日本企業がレアアース、レアメタルを含めた重要鉱物の調達源多様化に動いていることは事実ですが、それがすべてのソリューションではありません。
実際には、南鳥島レアアース泥には放射性物質がないなどのアドバンテージに加え、ジスプロシウム(ハイブリッド車のモーターなどに使用されるレアアース)など「重レアアース」の含有量が高い可能性も指摘されているものの、17種類とされるすべての希土類が満遍なく含まれているというわけでもありません。
したがって、南鳥島レアアースが実用化されたところで、これ「だけ」で脱中国というプロジェクトを成し遂げられるというものではありません(というよりも、南鳥島レアアース自体がまだ実用化されていない点には注意が必要です)。
ただ、くどいようですが、日本が海洋資源開発に乗り出す意味は、レアアースだけではありません。
日本は領海と排他的経済水域(EEZ)を合わせると約447万平方キロメートル、つまり国土(約38万平方キロメートル)の約12倍で、世界第6位ともいわれる面積を誇ります。
当然、前参議院議員で兵庫8区からの衆院選出馬中の青山繁晴氏が強く推進してきた「メタンハイドレード」などのエネルギー資源も含め、豊富な海洋資源がほぼ手つかずの状態で眠っていると考えられており、南鳥島レアアース泥開発を機に、日本が資源大国化の道を歩む可能性もあります。
世界最大級の資本大国にして技術大国でもある日本が、同時に海洋資源大国として世界にその存在をとどろかせることにもなる―――。
これは、なかなかに凄い話です。
中国政府の往復ビンタが日本を目覚めさせてくれた
このように考えたら、中国政府の常軌を逸した行動の数々は、日本を目覚めさせるための往復ビンタのようなものだったのかもしれません。
中国政府の常軌を逸した行動の数々
- Xを使った日本人への脅し
- 日本向けの団体旅行の自粛
- 日本製のアニメの上映延期
- よくわからない会合の中止
- ロックコンサート公演中止
- 日本人歌手の歌中断→退場
- 自衛隊にFCレーダー照射
- パンダの貸与期限の不延長
- 北京の各国大使に日本批判
- 日本に対する輸出管理強化
- 総領事へのアグレマン遅延
(【出所】報道等をもとに作成)
また、先ほどの共同通信の記事では、中国がレアアースの対日輸出を許可したことを巡って、「中国が経済で日本に硬軟両様の揺さぶりをかけている」ものであり、「日米欧がレアアース調達で中国依存脱却の動きを加速していることを警戒」している、といった記述もあります。
しかし、もしもこの共同通信の報道が中国政府の狙いを正確に記述したものだったとしても、残念ながら現在の状況は、中国にとってはすでに手遅れです。「脱中国」はほぼ完全に、日本社会、あるいは日本を含めた西側諸国のコンセンサスと化してしまったからです。
すでに脱中国の動きは始まっていた
実際のところ、日本の企業社会は、「高市前」から脱中国の動きを粛々と進めています。
たとえば当ウェブサイトでもしばしば指摘している通り、中国に在留する日本人は2012年の約15万人をピークに減り続けており、2024年には10万人の大台を割り込み、直近・2025年10月時点ではこれが92,928人にまで減少しています(図表1)。
図表1 中国に在留する日本人
この減り方を見てみると、日本企業が少しずつ脱中国の動きを進めてきた様子が見て取れます。
中国在留日本人の内訳は、「永住者」(中国政府の許可を受けて中国に永住する日本人)よりも「長期滞在者」(いずれ日本に帰国すると見込まれる在留者)が圧倒的に多いという特徴がありますが、これは中国に暮らす日本人の多くが現地駐在員とその家族であるという可能性を強く示唆しています。
「永住者」に関してはむしろ少しずつ増えているのは少し気になりますが、その分、企業などの都合で中国に在留している人が減っていることは間違いありません。
また、この「2025年時点で中国に在留する92,928人」には、香港在住者とそれ以外の中国本土在留者がいるはずですが、外務省の元資料から香港滞在者数を拾い、「引き算」で中国本土在留者数を計算してみると、図表2のようなグラフが出来上がります。
図表2 中国に在留する日本人(本土+香港)
これで見ると、興味深いことに、香港在住者数はさほど変わっておらず、日本人が引き揚げているのはどちらかといえば中国本土からである、という実態も見えてきます。現時点で中国本土の在留者数は69,700人で、ピーク時の2012年の128,215人と比べ、半分強にまで減っているのです。
想像するに、この減り方は今後、加速していく可能性すらあります。
香港拠点については、税制その他の理由で、日本企業にとっては引き続き一定の魅力はあるのですが、さすがに中国本土については、ビジネスライクなお付き合いに限定されていくでしょうし、それすらも減少していく可能性が高そうです。
中国政府の劣化?選挙後にどうなる
ただ、それ以上に個人的に印象深いのは、中国政府が「一手先」を読めないほどに劣化していたことです。
まさかここまで後先考えずに行動しているというのは、個人的にはちょっと印象的すぎます。
いずれにせよ、本日、日本は衆議院議員総選挙を迎えます。
これに関する議席予想はある程度出来上がっていて、これについては本日夜8時以降に公開する予定ですが、ひとつだけ間違いないことがあるとすれば、日本の総選挙に対し、その結果次第では中国が本気で焦る可能性が高い、ということでしょう。
これについては機会を見て、総選挙後にまた別稿にて議論したいと思う次第です。
本文は以上です。
金融評論家。フォロー自由。雑誌等の執筆依頼も受けています。 X(旧ツイッター) にて日々情報を発信中。 Amazon アソシエイトとして適格販売により収入を得ています。 著書①数字でみる「強い」日本経済 著書②韓国がなくても日本経済は問題ない日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
そんな日韓関係論を巡って、素晴らしい書籍が出てきた。鈴置高史氏著『韓国消滅』(https://t.co/PKOiMb9a7T)。
日韓関係問題に関心がある人だけでなく、日本人全てに読んでほしい良著。
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今の中国はトップ構造が大混乱の状態にある。漏れ伝わって来る情報は相互に矛盾している。
上司の顔色を見ながら、どのように振舞うのが自身の利益になるのかを、生涯かけて身に付けて来た構成員たちは、今狼狽し、次とるべき「正しい行動」を察知できない。これが起きていることだと思います。選挙前に首相が言った言葉が生きて来る。武漢肺炎に始まった社会崩壊が新たな段階に達しているということです。パンダもいなくなったことだし、事態は本邦にチャンスです。
職場に置き換えると事態の性質がはっきり分かります。
「狼狽する上司」「決断できない上司」「間違える上司」「失敗する上司」
そんな職場で、手下は何を考えてどう行動すべきでしょうか。