中国の制裁逆手?南鳥島揚泥成功…資源国化も現実に?
松本洋平文部科学相は1日、南鳥島EEZ水深約6000メートルからのレアアース泥の揚泥に成功したと公表しました。中国が日本に対し、長年チラつかせてきた、「レアアースを禁輸する(かもしれない)」という脅しが、逆に日本の海洋資源開発心を刺激し、一転、日本を資源大国の地位に押し上げる可能性が出てきた格好です。中国にとっては皮肉というほかないでしょう。
目次
産業面の日中結合の非対称性
脱中国は行うに難しだが…日中は非対称的
先日の『台湾が3位に再浮上:日中貿易は日本上位の垂直統合型』でも取り上げましたが、財務省税関が先週までに公表した『普通貿易統計』のデータを眺めていると、中国は2025年を通じ、引き続き日本にとって最大の貿易相手国であることが判明しました。
こうした実態を眺めていると、日本にとって「脱中国」は「言うに易し、行うに難し」という大きな課題であることは間違いありません。
ただ、改めて指摘しておきますが、品目別に分解していくと、「中国にとっての日本」と、「日本にとっての中国」は、少しその重要度が異なっている―――すなわち、非対称的である―――ことは間違いありません。
たとえば、2025年を通じた日本から中国への輸出金額の合計は18兆7781億円でしたが、その内訳をみていくと、「モノを作るためのモノ」―――中間素材や生産装置など―――が非常に多いことが印象的です(例外といえば自動車くらいでしょうか)。
とりわけ、▼半導体製造装置が1兆9108億円(対中輸出額全体の10.18%)、▼半導体等電子部品が1兆3236億円(対中輸出額全体の7.05%)―――などで、ほかにも大カテゴリーでいえば化学製品3兆4774億円(18.52%)、原料別製品2兆0218億円(10.77%)も目につきます。
つまり、産業面でいえば、日本は中国と垂直統合していて、日本から中国に産業用の必須の製品を輸出している、という関係なのです。
日本の中国からの輸入品は最終製品が多い
これに対し、2025年を通じた日本の中国からの輸入金額の合計は26兆6952億円でしたが、その内訳は、日本の対中輸出品とは対照的に、最終製品が非常に多いという特徴があります。
具体的にはトップ品目に「通信機」(3兆3397億円、中国からの輸入額全体の12.51%)が挙がっていますが、これはおそらくスマートフォンのことでしょう。中華製スマホはもちろんのこと、中国に組み立て工場があるスマートフォンであれば、いちおうは「中国から輸入している」ことになるからです。
また、「事務用機器」(2兆8249億円、全体の10.58%)はPC(ノート、デスクトップなど)であろうと考えられますし、「音響・映像機器(含部品)」(1兆0964億円、全体の4.11%)はテレビやモニター、デジタルサイネージなどであろうと考えられます。
さらに「家庭用電気機器」(6598億円、全体の2.47%)はいわゆる家電類であり、大カテゴリーの「雑製品」(5兆6309億円、全体の21.09%)も、品目を分解していくと、衣類、玩具、雑貨などの雑製品で占められていることがよくわかります。
もちろん、「脱中国」なんて主張、聞こえは良いものの、今すぐスマホ、PC、テレビ、家電、衣類、雑貨などの輸入を全面ストップしろ、なんて言い出したら、それはそれで非現実的な話ですし、日本の物流も大混乱を来してしまうはずです。
川上工程vs川下工程:混乱の度合いがまったく違う
ただ、仮に―――あくまでも「仮に」、ですが―――中国からの輸入がある日いきなり完全にストップしたとしたら、いったいどうなるでしょうか。
じつは、日本の経済、産業、金融などは、中国からの輸入が完全にストップしたとしても、(混乱はしますが)いきなりストップすることはありません。電力は日本国内で賄われていますし、エネルギーは中国よりも資源国から入ってきますし、産業に必要な部品なども中国以外で代替が可能だったりします。
これに対し、日本からの中国への輸出がストップしたら、半導体製造装置などのメンテナンスが停止するなどし、中国の産業・経済全体がいきなりストップする可能性があります。なぜなら、日本は産業のより「上流」、「川上工程」を握っていて、中国は産業のより「下流」、「川下工程」を担っているからです。
早い話が日本を起点とする産業のサプライチェーンが存在し、とくに費用が掛かる最終的な組み立て工程の部分を中国に委ねている、という構造だと思っていただくとわかりやすいかもしれません。
もちろん、現実のサプライチェーンは一社、あるいは一連結グループ内で完結するほどには単純ではありませんが(たとえば日本の製造業が完全に現地資本の企業に製造装置を販売している、などのケースもあるでしょう)、ただ、「産業の上流・下流」の構造は、大雑把には存在しているのです。
専門知識のないメディアの問題点も…
日中の産業構造を論じるうえでは、こうした日中双方の非対称性があるという点を念頭に置かないと、結論を盛大に誤ってしまうかもしれません。
新聞、テレビといったオールドメディアの情報を眺めていると、日中が「お互いにとって重要だ」、といった言い方をするコンテンツも散見されるわけですが、これなど記事を書いている新聞記者、テレビ番組を作っている制作者らが経済や産業に関する専門知識を持たないがゆえに出てくる誤解なのでしょう。
くどいようですが、当ウェブサイトでも何度も指摘している通り、日中双方の物流が停止すれば、日中双方に大きな混乱が生じることは間違いありません(その意味で、著者としては「中国何するものぞ」とばかりに日中断交を願うのは大きな間違いだと考えています)。
ただ、その生じる混乱の深さや影響の度合いは日本と中国で天と地ほどに違っていて、日本経済には致命的な打撃は生じない一方、中国経済の側には致命的な打撃が生じる可能性が非常に高い、という点には注意が必要なのです。
レアアース問題をめぐる重要な進展
影響が生じる分野がレアアース(希土類)など
さて、以上を踏まえつつも、日中交流が停滞した場合には、日本経済にも大きな影響が生じ得る分野がある、という点についても指摘しておく必要があります。
それが、レアアース(希土類元素)です。
一般にレアアースは17種類の元素(スカンジウム、イットリウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウム)を指し、磁石、発光材料、触媒などに使われます(※)。
(※【出所】元素の種類については経産省『レアーアース対策』など、希土類の使途については株式会社三和鍍金ウェブサイト『メッキライブラリ』等参照)
一方で、レアメタルは一般にレアアースよりも広い概念で、レアアースに加えて「リチウムやコバルト、ニッケルなど、電子機器やエネルギー関連の技術に用いられる様々な非鉄金属」(※出所は『メッキライブラリ』等)から構成され、レアアースを含めずに31種類から構成されているそうです。
金額的にはさほど大きくないにせよ、中国がシェアの多くを握っている品目も多く、したがって、仮にこれらの供給が全面ストップしようものなら、日本の産業への影響が非常に大きいことは間違いありません。
ただし、逆にいえばこのレアアースやレアメタル類は、中国が握っている数少ない「日本の生命線」です。
また、中国がレアアースなどの輸出に強みを持っている理由は、中国がコスト(物量、価格、納期、環境、人権など)を無視し、これらの品目の安定した供給源を演じて来たからです。
じっさい、レアアースやレアメタル類はべつに中国だけに偏在しているわけではなく、コスト競争力の観点から中国に勝てないがために、中国以外の国が生産から撤退してしまった、といった側面も強いことは間違いありません。
だからこそ、逆にそこそこのコストを負担すれば、中・長期的にはレアアースやレアメタルの中国脱却は十分に可能なのである、という言い方もできるでしょう(※もっとも、「コストを負担すれば脱中国は可能であり、コストを負担してでも脱中国を進めるべき」、は、レアアース以外にも成り立つ話ですが。)
国産レアアースが「切り札にならない」?
さて、こうしたなかで思い出しておきたいのが、『中国脱却は「できるかどうか」ではなく「必要がある」』でも取り上げた、「とある話題」です。
これは、ウェブ評論サイト『ダイヤモンドオンライン』が配信した、「国産レアアースは脱中国の切り札とならない」、と主張する記事です。
残念ですが「国産レアアース」は切り札になりません…日本が脱中国を実現できない“身も蓋もない理由”
―――2026/01/18 06:30付 ダイヤモンドオンラインより
やや乱雑に要約すると、①南鳥島の資源開発には中国の妨害が予想されること、②6000メートルの深海からレアアース泥を採取するに際して技術的な課題があること、③日本が必要としているレアアースのすべてが南鳥島レアアース泥に含まれているわけではないこと―――、がその理由だそうです。
そのうえで記事の中ではこんな記述も出て来ます。
「南鳥島の資源の役割はあくまで中国への依存度を下げるための役目にとどまると考えるのが妥当なラインだ」。
これに対しては正直、「それがどうしたというのでしょうか?」、という感想が出て来そうになります。
記事のなかで指摘されている3要因のうち、①はともかく、②と③は当初から指摘されていたことですし、日本にとっても南鳥島レアアース開発はオプションのひとつに過ぎないからです。
現実には、わが国におけるレアアース・レアメタルの脱中国の動きは2011年頃から精力的に行われてきており(※たとえば先ほど「出所」で紹介した経産省リンクも「平成23年度=2011年度=事業」です)、日本政府も日本企業も、南鳥島レアアース開発「だけ」に期待しているわけではありません。
さっそく朗報が出て来た!
ただ、このレアアース開発についても、なにやら朗報があるようです。
【速報!】
本日、文部科学省が所管する海洋開発研究機構(JAMSTEC)の探査船「ちきゅう」を用いて、水深6,000mからレアアース泥を揚泥することに成功したと一報がありました。
本内容について、2/3(火)にJAMSTECからプレスリリース予定とのことですが、まずは一報です! pic.twitter.com/CivsSmaEQ5— 松本洋平 (@matsumoto_yohei) February 1, 2026
松本洋平文部科学相は1日、自身のXを更新し、国立研究開発法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)が先月から取り組んでいる、南鳥島EEZ水深約6000メートルからのレアアース泥の揚泥に成功したと公表しました。
松本氏によるとJAMSTECからの公式発表は2月3日(火)を予定しているそうですが、いずれにせよ、第一報としてはなかなかに素晴らしい話題です。
現時点では不確定要素も多いが…
もちろん、現時点の情報だと、そのレアアース泥に含まれているであろう資源や採算ベースに乗るかどうか、商業採掘が可能かどうか、可能な場合はそれがいつから始まるか、南鳥島レアアース泥で賄える具体的な素材はなにか、実用できるのか、といった詳細はまだわかりません。
おそらく先ほどのダイヤモンド記事にもある通り、今回のレアアース泥には日本企業にとって必要となるすべての元素が含まれているわけではないでしょうし、したがって、今回のレアアース開発をもって日本が抱えるすべての問題が完全解決したと見るのは性急です。
ただ、深海6000メートルからのレアアース採掘が実用化された場合には、日本近海に眠るさまざまな天然資源(具体的には前参議院議員で兵庫8区からの衆院選出馬中の青山繁晴氏がしきりに推すメタンハイドレードなど)の開発にも弾みがかかる可能性があります。
日本が資源国に転じる!?
可能性の議論だけでいえば、日本が資源の輸出国に転じるかもしれません。
いずれにせよ、JAMSTECの資源開発は高市早苗総理大臣が就任するよりもはるかに以前から取り組みがなされてきたものではありますが、中国の対日制裁措置としてのレアアース禁輸懸念が存在するなかでは、まさに朗報と断じざるを得ませんが、それだけではありません。
中国が日本に対し、長年チラつかせてきた、「レアアースを禁輸する(かもしれない)」という脅しが、逆に日本の海洋資源開発心を刺激し、一転、日本を資源大国の地位に押し上げる可能性が出てきたというのは、皮肉というほかないでしょう。せっかくの中国の措置も、完全に逆効果、というわけです。
このように考えていくと、中国が日本に対し強硬な措置を講じれば講じるほど、むしろ日本にとっては状況がさらに良くなっていくのかもしれない、などと思う次第です。
本文は以上です。
金融評論家。フォロー自由。雑誌等の執筆依頼も受けています。 X(旧ツイッター) にて日々情報を発信中。 Amazon アソシエイトとして適格販売により収入を得ています。 著書①数字でみる「強い」日本経済 著書②韓国がなくても日本経済は問題ない日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
そんな日韓関係論を巡って、素晴らしい書籍が出てきた。鈴置高史氏著『韓国消滅』(https://t.co/PKOiMb9a7T)。
日韓関係問題に関心がある人だけでなく、日本人全てに読んでほしい良著。
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この結果でさらなる高市氏へのネガキャンが加速するのではないですかね。
企業にとっては、多少高くても安定供給される方が重要です。そのため、いざという時のは(今は可能性ですが)代替手段があるというのは、安心感が違います。
心配なのは、某国が採掘の邪魔に来ることです。
昔、「ゴルゴ13」に、そんな話がありました。
黄金の国ジパングふたたびとか石見銀山おかわりとか
レア物じゃない本当の貴金属だともっと嬉しい
似非国際分業論者がこの国をダメにして来た。
山林を荒らさず水を汚さず中長期の国家安寧を図ることは国政を司るものの絶体善。
ボーリングなどこの種の分野は全くの素人につき、素人なりの知識で推察するに、仮に試掘に用いるシャフトの単位長が100mあったとしても計60本の直列接続。剛体で製作したシャフト状のパイプであってもこれだけ長ければ柔体のバネ同様に撓み、シャフトの自重で結合部は離間しようとするだろうし、シャフトを捻っても素直にトルクは先端に伝わらずどう制御するの?。。。。って思ってしまいます。
原油採掘で確立した技術の応用発展なのだろうと推察しますが、新規開発課題も多かった事でしょう。成果おめでとうございます。
現時点は先行開発段階であり、実用化に向けてはこの先も諸々の課題が山積している(やってみてはじめてわかる課題も多いはず)事でしょう。
実用化に向けて今後も宜しくお願いいたします。
あれだけ「トランプ関税で自動車業界に打撃!」と連呼する傍ら、「(対中依存度の高い)電気自動車への移行は喫緊の課題だ!」と叫び続けていたダブスタマスゴミ。最低限、中国が完全民主化するか、レアアースフリー技術が実用化するまでは西側諸国で電気自動車が主流になることは絶対にないことぐらい素人にだって分かります。
見方を変えれば、日本に自前の資源開発を促す中国の懸命の努力がようやく実現するかも知れないという事ですね。
隣の半島の国と違って、日本には嫌がらせが通用しないと言うことを思い知らせる成果ですね。何としても商業化に漕ぎ着けて頂きたいと思います。
日本国内の、中国様がお怒りだの方々にはご愁傷様の言葉をお送りさせて頂きます。
・中国からのレアアース供給は政治的に絶対に安定しない事が明白になった。
・国産レアアースが漸進。
・しかし一気に解決するには不十分。
・リンク先>「そうなると現実策としては中国からの供給をどう安定させるかのほうが、政策としては重要でしょう。」
いや、だから安定しないんだってば。ナニコレ。
「解決しない問題があるんだ、どうしよう。」
「そうだなぁ、解決すれば良いんじゃない?」
……なんつー問答だ。さすがダイアモンドオンライン。
>ゆっくりと海面下で計画を進める程度に
慣用句では”水面下”じゃないんですかね。海底開発とかけてらっしゃる?もうなんつーか色々とダイアモンドクオリティ。
ウチみたいな自営農家には縁は無いとはいえ、何かあっても経営戦略コンサルをこの著者に頼むことはまず無さそうです。
>この日本政府の方針で、西側諸国のレアアース問題は解決するのでしょうか?
>南鳥島のレアアース泥だけでは西側諸国が必要とするレアアースすべてはまかなえないのです。
「この日本政府の方針で」
のっけから設定がおかしいんですよね。少しググっただけでも出てきますが・・・
経産省:鉱物政策を巡る状況について P.11
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/seizo_sangyo/mining/pdf/001_03_00.pdf
日本政府の方針は経済安保の広い文脈の一部にあって、別に海底開発だけの単発に絞ったものではないんですよね。さすがにそんな浅はかではないと思います。
どこかの藁人形が「日本政府の方針は海底開発だけだ」と言ってるんでしょうかね。(藁)
そんな、ゼロか百かみたいな単純な話ではなく程度問題で、中国依存度が下がればその分中国のカードの有効性が失われる、そんなもんだと思いますけどね。
依存度を下げる手段の一つとして、海底採掘の技術開発も着実に進めていく。それに尽きると思います。
それにしても1980年代に「中東有石油、中国有稀土」の名言を述べ希土類を国家重点開発資源に挙げた鄧小平主席の先見の明はすごい。長年の開発の成果でトランプ大統領を黙らせた外交カードにできたのは敵ながらあっぱれ。(今に見ておれ)
翻って東大の研究チームによる2012〜2013年の海底堆積物調査で南鳥島沖の推定埋蔵量1600万トンのレアアース泥、特に貴重な重希土類(イットリウム、テルビウム、ディスプロシウム)を陸上高品質鉱床の20倍程の濃度で含有。
これら重希土類は中国が全世界の供給を99〜100%と独占しているので、日本が南鳥島レアアースの商業化に成功すれば中国の戦略武器、外交カードの核心の重希土類の独占供給に風穴を開けることが期待できる。
中国も馬鹿ではないので、脅威と認定すれば何をするか分からない。有望と分かったら守りを固める必要がある思うが…
南鳥島のレアアースの採掘の経緯は、こちらのHPにリニューアルされています。以前のものは、もう無いようです。
https://utf.u-tokyo.ac.jp/project/pjt124
今回の試掘の成功を受け、声が小さくなりましたが、エアーリフト方式の概念もなく、6000mでは無理に決まっている、などの意見もありました。
少し調べれば、すぐに出てくる情報なのですが(笑)
旧ページは多少詳しかったので、リニューアルされたのは少し残念です。
メタンハイドレートも掘って欲しい物です。
早く日韓大陸棚協定の終了を宣言して エネルギー大国を目指そう。日本無敵になりますよ。