債「権」や株式で運用する日本基金(仮)構想の問題点

とある政党が「日本基金(仮)」なる構想をぶち上げたそうですが、ナンセンスそのものです。そもそもアセット・アロケーションの世界で、「債券(さいけん)」と書くべきところを「債権(さいけん)」などと書いてしまっている時点で違和感がありますし、外貨準備はその名の通り外貨資金ですので、これを外貨のままで運用するのか、それとも円転するのか、為替リスクをどう管理するか、などについては謎です。ただ、それ以上に疑問なのは、GPIFの資金の利用です。

選挙運動とならないように…

選挙期間が始まったので、事前の約束どおり、本日以降、当ウェブサイトでは個別具体的な政党名・候補者名などを挙げての選挙論評は可能な限り控えることにします。

いちおう、公選法上は「選挙運動」、つまり特定の政党や候補者への投票や不投票を呼び掛ける行為は(成人であれば)誰でもできるはずですが、当ウェブサイトはやはり「政治活動サイト」ではなく「評論サイト」でありたいと考えており、したがって、少なくとも選挙期間中は、個別名を出すことは控えるつもりです。

ただ、選挙期間中だからといって、現実の政策における問題点を一切無視するというのは筋が違う話ですし、むしろ政治から少し距離を置ける分だけ、客観的に現状認識を深められる好機といえるのではないか、とすら思う次第です。

さて、それはともかくとして、選挙期間入りしたこともあってか、XなどのSNSでは、やはり従前にもまして、「税社保問題」を議論する人が増えてきた気がします。

日本が税金や社会保険料などのかたちで、あるいはNHK受信料や再エネ賦課金など「税と名乗らぬ税」の仕組みを悪用しながら、税金をあまりにも取り過ぎているという論点は、著者自身が石に噛り付いてでも当ウェブサイトを継続しようとする大きなモチベーションになっていたりもします。

「日本基金(仮)」なる構想

こうしたなかで、選挙期間が始まってしまったため、具体的な政党名については控えますが、とある政党から「日本基金(仮)」なる構想が出てきているようです。

これは、政府や日本銀行などが保有している金融資産(約500兆円だそうです)を「債、株式、その他」(※原文ママ)に一元的に運用して運用益を確保し、その一部をそれぞれの主体に支払い、残り(たとえば約5兆円)を政府予算とする、といったものです。

数値はあくまでも仮ですが、500兆円を外貨準備やGPIFから一定の利率で借り入れ、それらを一定以上の利回り(たとえば4%)で運用し、借り入れるときのそれぞれの主体(外貨準備なら財務省、年金資金なら厚労省)に金利を支払うとしましょう。

日本基金(仮)
  • 外貨準備から200兆円相当の資金を金利2%で借り入れる
  • GPIFから400兆円相当の資金を金利3%で借り入れる
  • 合計して総額600兆円相当の資金を金利4%で運用する
  • 1年間の運用益が24兆円上がる
  • そのうち外貨準備に4兆円、GPIFに12兆円を支払う
  • 残額の8兆円を一般財源として国庫に繰り入れる

(【注記】利回りはすべて仮定)

この設例だと総額600兆円を目論見通り4%の利回りで運用できた場合には24兆円の運用益が残ります(報道だと「500兆円」、こちらの設例だと「600兆円」と金額が微妙に異なっていますが、金額も利回りも、あくまでも仮定です)。

外貨準備に支払うのは200兆円の2%に相当する4兆円、GPIFに支払うのは400兆円の3%に相当する12兆円ですので、残りの部分を一般会計に組み入れることとすれば、年間8兆円の財源が生まれ、減税余地が生じることになる、といった理屈です。

債券を債「権」と書く時点で…

この構想の、いったい何がどう問題なのでしょうか。

そもそもアセット・アロケーションの世界で、「債(さいけん)」と書くべきところを「債(さいけん)」などと書いてしまっている時点で「素人感満載」ですし、また、外貨準備はその名の通り外貨資金ですので、これを外貨のままで運用するのか、それとも円転するのか、為替リスクをどう管理するか、などについては謎です。

ただ、それ以上にツッコミどころがたくさんあるのが、なぜそれだけの資産を「日本基金(仮)」とやらがうまく運営できるという前提を置いているのか、です。

正直、著者自身も財務省が保有している200兆円前後にも達する外貨準備は現在の日本にとって不要であると考えており、当ウェブサイトでは過去に、この200兆円については時価で日本銀行に移管したうえで、日本銀行の政府口座に200兆円の円資金を振り込むべきだと述べたこともあります。

政府は「国の借金がたくさんあって大変だ」というのであれば、外貨準備を日銀移管したことで生じる巨額の円資金を債務償還に充てるべきでしょう(※もちろん、現実にその必要はありませんが)。

資金の目的外流用では?

ただ、それ以上に問題なのは、その資金の「出所」です。

たとえば、外貨準備については、もともとは旧大蔵省・財務省が市場で円建ての国庫短期証券(TDB)を発行し(つまり市場でおカネ=円資金を借り)て、円高を防ぐための為替介入(おもにドル買い・円売り)を行い続けた結果積み上がったものであり、もとをただせば(財務省語でいう)「国の借金」です。

また、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が運用する約400兆円の資金の出所の大部分は、厚生労働省がおもにサラリーマン(とその雇用者である民間企業など)からかき集めた厚生年金保険料が原資であり、基本的にはサラリーマンのための厚生年金です。

このように考えたら、外貨準備や厚生年金などからおカネを「借りて」、そのおカネを「債」や株式などで運用し、その余りを一般財源に組み入れるという発想自体が極めてナンセンスだとわかります。明らかな目的外流用だからです。

だいいち、その「日本基金」とやらが運用に失敗したら、誰がどう責任を取るつもりなのでしょうか?

先ほどの設例だとかき集めた600兆円を4%の利回りで運用しなければ24兆円の運用益が生じませんが、設例上は外貨準備に4兆円(=200兆円×2%)の、GPIFに12兆円(=400兆円×3%)の、それぞれ金利を支払わなければなりません。

仮に600兆円の運用利回りが1%に留まり、運用益が6兆円だった場合は、外貨準備に4兆円、GPIFに12兆円を支払うと、10兆円の赤字となります。年間の消費税収約25兆円(令和7年予算ベース)の40%相当額が運用損になってしまう計算です。

基金設立よりも減税するのがスジ

こんな目的外流用をするくらいなら、もっと違うアプローチを考えるのが自然です。

普段から当ウェブサイトにてお伝えしていますが、正攻法はあくまでも減税であり、財源を国民に返すことです。日本は社会主義国家ではなく、あくまでも自由主義国家なのですから、財源の使途を決めるのは個別の個人・企業であり、国家ではありません。

ましてや自分で起業したことすらない官僚ごときに、資源の最適配分を考えられるわけがありません(学歴エリートが常に正しい判断をするというのなら、ソ連があんなに惨めに崩壊したことの説明がつきません)。

なお、これもくどいようですが、当ウェブサイトでは現在の年金、医療、介護といった社会保障全般について、現在の受給者を既得権益者だと批判する目的で執筆しているものではありません。

あくまでも「今の若者から強奪した異常に高い健康保険料を、今の老人が9割引医療で片端から浪費していく」、「給付と負担のバランスが世代により明らかにおかしい年金制度」など、現在のような制度は「持続不可能だ」と述べているに過ぎないのです。

もっと端的にいえば、「今の老人は過去に払った以上の恩恵を受けている」、ということです。

あるべき社保改革

なお、最後にちょっとだけ余談です。

社会保障問題について言及したついでに指摘しておきますが、いわゆる「団塊の世代」は人口のボリュームゾーンであり、この大量の「団塊の世代」がいっせいに年金や後期高齢者医療などを受給し始めたら、現在の社会保障制度自体がパンクすることは火を見るよりも明らかでしょう。

したがって、これに対するソリューションは、「払った以上の過剰な恩恵を受けることをやめさせる」以外にありません。

おそらく国民のコンセンサス的に、ギリギリ許容できる解決策としては、▼厚生年金は解散して余剰資金を現在の加入者に返金し、現在の受給者に対しては経過措置として国債を発行して年金支給を続ける、▼後期高齢者医療制度は応急措置的に一律3~5割負担化する―――、といったところでしょう。

ただし、これは制度の破綻を防ぐための応急措置に過ぎません。もう少し長い目で見たら、もっと踏み込んだ改革が必要です。

国民年金

老後(あるいは遺族、障害時)の最低限の生活保障。給付水準は本人の払込額に連動する(積立方式)

厚生年金

現行の「サラリーマン強制加入」型の厚生年金は廃止し、希望者のみ、完全積立方式での基金や民間年金保険などに加入するという選択肢を準備する

健康保険

高齢者に対する医療費はとりあえず8割引、9割引を直ちに廃止し、中期的に生年別組合方式に移行し同一年齢同士の支え合いとする

介護保険

健康保険を生年別組合方式に移行する際に介護保険も健康保険に統合することで発展的に解消する

なお、この論点については少し話が長くなるので、別稿に譲りたいと思います(おそらく近日中に掲載できると思います)ので、どうかご期待ください。

本文は以上です。

金融評論家。フォロー自由。雑誌等の執筆依頼も受けています。 X(旧ツイッター) にて日々情報を発信中。 Amazon アソシエイトとして適格販売により収入を得ています。 著書①数字でみる「強い」日本経済 著書②韓国がなくても日本経済は問題ない

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読者コメント一覧

  1. 匿名 より:

    ジャパンファンド
    気になっていた政策?だったので論考助かります!

  2. 引っ掛かったオタク より:

    まー“中道”の意味すら間違えとる痴れ者衆が無い知恵絞ってヒリ出したnext“埋蔵金”ナンデショ、知らんけど
    いくら“スケールメリット”有ろうが“投資”の意味すら理解デキテナイアホ極まっトルワ、知らんけど
    シレっと「穴が空いた場合の責任の所在と責任の取り方は?」とか尋く自称じぁあなりすとやこめんてえたあはおらんのけ?? 知らんけど
    相変わらず“内部留保”うるさいボケもわちゃわちゃゆーとるし、具体的な費目出して詳説してみせや中身無しが!! て知らんけど
    みたいな夢を見た気がしまする
    知らんけど

  3. のび太の魔界大冒険 より:

    とある政党の超電磁砲
    超電磁砲みたいに国家の借金を増やすという超科学的な政策ですね
    魔法と科学が交差する時、物語が始まる

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