日本企業のステルス中国撤退は高市前から加速していた

中国の対日輸出管理強化という話題で「脱中国」が大きな話題となっているフシがありますが、日本企業の中国からのステルス撤退という動きが、「高市政権前」から続いていたことについては、改めて指摘しておく価値があります。改めて外務省の統計を確認しておくと、日本の中国に対する「関わり方」が見えてくるからであり、また、企業などが駐在員を密かに減員している可能性が濃厚です。

予測可能性がなくなってきた中国の行動

何だか最近、興味深いのは、日中関係です。

ついに中国政府が禁断の対日セルフ経済制裁を発動か?』でも速報的に取り上げたとおり、中国政府が日本に対する輸出管理の強化を発表したことは、長い目で見て明らかに中国のためになりません。日本の中国離れが加速していくだけのことだからです。

あくまでも報道等によれば、中国が対日輸出管理を強化するのは軍民両用(いわゆるデュアルユース)品目とされているものの、その具体的な品目名は非公開です。

要するに、中国政府の一存で、「(気に入らないから)この品目の輸出を止めま~す」、「(何となく日本にダメージがありそうだから)この品目の輸出を止めま~す」、といった、恣意的な輸出制限ができてしまうのだ、ということです。

著者自身も民間人ですからよくわかりますが、多くの企業経営者が嫌うのは、「予測可能性」がないという状態です。肝心の部品が入荷しない(あるいはいつ入荷するかわからない)という状況になれば、それこそ最悪、生産計画を立てることすらできません。

つまり、中国から原料を仕入れている企業にとっては、(その原料の確保に動こうとするのはもちろんですが、)「今後は可能な限り、中国をサプライチェーンから外す」という動きに出るであろうことは想像に難くありません。現状だと予測可能性がないからです。

なかなかに壮観な中国の対日制裁措置

もちろん、それも単純ではありません。昨今の産業界では、複数の企業がさまざまな製品(材料)を生産しており、とりわけ自動車などのケースだと、ひとつの製品を作るためにも多くの部品が必要ですので、おそらくメーカーとしても中国リスクの洗い出しは急務でしょう。

想像するに、サプライヤーに対しても中国リスクの調査依頼が発せられているのではないでしょうか。

ただ、中国政府がこういう「予測不可能な行動」を取ると宣言したことは、中国自身の首を絞める行為であり、まさに「セルフ経済制裁」そのものであることは間違いありません。

そして、今回の「セルフ経済制裁」措置も含め、中国がこれまで日本に対して講じた「対抗措置」を列挙してみると、なかなかに壮観です。

正直、日本にとって「短期的な」打撃を与えることができるものもあるのですが(たとえば輸出管理強化など)、本当の意味で「これは困る!」というような項目は、ほとんどないからです。

中国が日本に対して講じた「対抗措置」の例
  • Xを使った日本人への脅し
  • 日本向けの団体旅行の自粛
  • 日本製のアニメの上映延期
  • よくわからない会合の中止
  • ロックコンサート公演中止
  • 日本人歌手の歌中断→退場
  • 自衛隊にFCレーダー照射
  • パンダの貸与期限の不延長
  • 北京の各国大使に日本批判
  • 日本に対する輸出管理強化

(【出所】報道等をもとに作成)

というか、何度となく指摘している通り、どれも対日対抗措置としては弱いか、まったく効果がないか、あるいは最悪、中国自身に打撃をもたらしているものばかりです(とくにSNSを使った日本に対する脅しの効果については『ついに中国政府が禁断の対日セルフ経済制裁を発動か?』等参照)。

まさか本当にそれをやるとは…

あまり言いたくないのですが、著者としてもまさか中国政府がここまで頭の悪い人たちだとは思ってもいませんでした。

これまで当ウェブサイトでは、なかば冗談めかして、「今までの中国の対日措置は無意味なものばかりだった」、「中国側に残っているのは、もっと『踏み込んだ』制裁しかない」としたうえで、そのひとつにレアアース輸出規制を挙げてきたのですが、まさか本当にそれを講じてくるとも思っていなかったからです。

中国が持っている「カード」(?)の例
  • 対日軍事的威嚇行動
  • ビザ免除措置の廃止
  • 邦人の嫌がらせ拘束
  • レアアース輸出制限
  • 税関の輸入手続遅延

(【出所】一部報道などを加工)

(※なお、これらのうちの「邦人に対する拘束」については、ここ数年でいくつかの事案がすでに生じていますし、また、税関の通関手続の遅延などについても、もしかしたらこれから発生するかもしれません。)

これらの措置、「カード」と書きましたが、現実にはカードでも何でもありません。

中国がこれらをやれば、日本企業にとっては否応なく中国リスクを意識せざるを得なくなりますし、また、企業の体株主説明責任の観点からも、中国に進出している日本企業は、そのことについて合理的な説明を求められるようになるでしょう。

短期的には日本に対し、それなりの打撃を与えることができるかもしれませんが、中・長期的には、やはり中国にとってのセルフ制裁です。

中韓接近

余談ですが、最近の印象的な事象があるとしたら、そのひとつは、中韓接近かもしれません。

李在明(り・ざいめい)韓国大統領は1月5日、訪問先の中国で習近平(しゅう・きんぺい)国家主席と会い、贈られたシャオミの携帯で喜々として写真を撮り、それをXにアップロードしています。

これもまた象徴的なワンショットでしょう。

日中関係が完全に冷え込むなかで、習近平氏にとっては韓国を「うまく取り込んだ」(?)格好です。

余談ですが、この米国がベネズエラ攻撃を行った直後というタイミングでの大統領の訪中、韓国自身にとってはまさに最悪の選択だったと後世の歴史家が振り返ることになるかもしれません。米韓同盟の終焉がさらに近づいてしまった可能性はあるからです。

(※この点については韓国専門家の方の見解が待ち遠しいところですね。)

中国在留日本人数

さて、韓国の件はともかくとして、改めて指摘しておきたいのが、日本企業の中国からの「ステルス撤退」という動きです。

ついに中国政府が禁断の対日セルフ経済制裁を発動か?』では、中国に在留する日本人の推移に関する図表(図表1)を紹介しました。

図表1 中国に在留する日本人

(【出所】外務省『海外在留邦人数調査統計』データをもとに作成)

これは、外務省が毎年12月ごろに公表する、その年の10月時点における日本人の海外在住者に関するレポート『海外在留邦人数調査統計』を加工したものです。

さりげなくスルーしてしまったのですが、じつはこの図表、昨年12月25日に外務省が発表した、2025年10月1日時点における海外在留邦人の最新データも反映されたものです。ついでに1位から10位までのデータも紹介しておきます(図表2)。

図表2 海外在留日本人(2025年10月1日時点)
国・地域合計永住者長期滞在者
1位:米国416,380233,475182,905
2位:オーストラリア105,56665,08540,481
3位:中国92,9286,57786,351
4位:カナダ75,31651,56923,747
5位:タイ72,1132,73369,380
6位:英国62,27029,95532,315
7位:ブラジル49,03744,4614,576
8位:ドイツ44,64819,02625,622
9位:韓国44,47117,22927,242
10位:フランス36,02315,66220,361
その他299,418102,714196,704
合計1,298,170588,486709,684

(【出所】外務省『海外在留邦人数調査統計』・2025年10月1日版データをもとに作成)

これによるとトップは米国で40万人超、2番目が豪州で10万人少々、そして中国は9万人少々で第3位です。

もともと中国は「一時的な滞在者」が多かった

ただ、内訳で「永住者」「長期滞在者」とありますが、この比率で見たら、中国は「長期滞在者」が86,351人、つまり在留邦人92,928のうち、じつに92.92%を占めているのです。

これが日本の中国に対する「関わり方」の、大きな特徴といえます。

外務省の定義によると、「永住者」とは「現に在留する国(地域)に期限を定めずに居住している邦人」のことであり、また、「長期滞在者」とは「現に在留する国(地域)に期限を定めて居住している邦人」、つまりいずれ帰国する人のことです。

中国在留邦人が毎年減っているのも、中国への長期滞在者が毎年結構な割合で減少していることが影響しているのです(※「永住者」に関してはむしろ少しずつ増えています)。

一般に「長期滞在者」は企業の都合でその国に赴任している駐在員やその家族などである、というケースが多いと考えられますが(私見)、こうした理解が正しければ、長期滞在者の減少は、企業が派遣する中国駐在員が減っているという、間接的な証拠でしょう。

とりわけここ5年に限定していえば、長期滞在者は2万人以上減っており、2021年に104,096人だった長期滞在者は2022年に97,926人と、2005年以来18年ぶりに10万人の大台を割り込み、2025年には86,351人と、2004年の97,877人という水準を割り込んだのです。

これ、じつは大変に重要な変化ではないでしょうか。

この統計が10月1日時点のものであるという点

しかも、もっと大きなポイントは、この統計が10月1日時点のものである、というてんでしょう。

中国が日本に対する非難のトーンを強める直接の原因となったのが、高市早苗総理大臣による昨年11月7日の台湾答弁だったと考えられますが、10月1日時点ではまだ石破茂・前首相が在任しており、高市氏は総理どころか自民党総裁にすら就任していませんでした。

その時点ですらこの状況だったわけですから、下手をするとこれから中国在住日本人の落ち込みがさらに加速的していく可能性も考えられます。

日本企業に対する対中投資リスクを中国が自分で高めているわけですから、これも仕方がない話ですが…。

この点、もちろん、現実の企業の投資行動はシンプルではありません。

中国が「そういう国」であることを理解したうえで、割り切って中国とお付き合いすると決めている企業も多いでしょうし、また、現に中国に進出している企業には更新投資だって必要ですから、対中投資残高は今後もじりじりつ増え続けていく可能性はあります。

しかし、今からいきなり中国に新規進出する日本企業がそこまで増えるとは考え辛いところですし、現にサプライチェーンに中国を組み入れている企業にとっては、やはり中国リスクのコントロールが喫緊の課題であることは間違いありません。

いずれにせよ、今回の中国の輸出管理強化という動きを眺めていると、そこから見えてくるのは「中国の手詰まり」という状況にほかなりません。正直、中国はもっと賢い国なのかと個人的には思っていた時期もありましたが、現実の中国の行動を見ていると、残念ながらその行動は賢明であるとは言い難いのです。

そして、日本企業の「脱中国」の行動が本格化するのは、ほぼ間違いないところだとは思いますが、その動き(正確には「ステルス撤退」というべきでしょうか?)が高市政権以前からすでに始まっていたことについては、改めて指摘しておく価値があることは間違いないでしょう。

本文は以上です。

金融評論家。フォロー自由。雑誌等の執筆依頼も受けています。 X(旧ツイッター) にて日々情報を発信中。 Amazon アソシエイトとして適格販売により収入を得ています。 著書①数字でみる「強い」日本経済 著書②韓国がなくても日本経済は問題ない

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読者コメント一覧

  1. はにわファクトリー より:

    半導体製造重要資材の輸入制限に踏み切ったようです。
    目算があるはずなのですが、彼らの真意というかおつむのロジックを見極める必要があります。2周回ってドジを踏むのは誰かということです。

    1. 引きこもり中年 より:

      毎度、ばかばかしいお話を。
      中国:「日本は半導体製造重要資材を献上しろ」
      まさか。

    2. 元雑用係 より:

      これのことだとすると、厳密にはまだ「やるかも!」の段階でしょうかね。

      中国、日本産の半導体用ガスを不当廉売調査 輸出規制「正当で合法」
      https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM077OM0X00C26A1000000/

      先日の輸出規制も実際止まった話が全く聞こえてこないので、やらないか、やるとしても大規模じゃなくてちょろちょろ狙い撃ちかとも思えますが、規制の実効性(高市発言撤回)は得られず、事業者から見た不確実性増大による調達先切替圧力が高まって(以下略)。

      中国が怒ってみせるほどにジリ貧を感じる今日この頃です。

  2. 引きこもり中年 より:

    そのうちオールドメディアが「高市総理の台湾有事答弁で、日本企業が中国から撤退せざるをえなくなった」と書くでしょう。(ステルス中国撤退は、撤退とは認めないのでしょう)

    1. 引きこもり中年 より:

      >https://www.youtube.com/watch?v=ayR3VU8LQZ8
      北村晴男参議院議員が「習近平国家主席 信じていた韓国に突然、裏切られる」という動画をあげていました。公の立場にある人の発言なので、大きいのではないでしょうか。

    2. 引きこもり中年 より:

      毎度、ばかばかしいお話を。
      韓国:「韓国にパンダがやってきます。日本のパンダ好きな皆さん。韓国にパンダを見に来ませんか(これで、日本からの観光客が増える)」
      まさか。

      1. 引きこもり中年 より:

        「パンダが再び日本にやってくるように中国と交渉する」ということが、次の選挙での(立憲あたりの)公約になるのではないでしょうか。

  3. Sky より:

    今回説明されている中国からの撤収はご指摘の通りかなり前からの流れですが、6年前のCOVID‐19渦下でのサプライチェーンの混乱が決定的だったように感じています。しかもその時の経験がその後に起こった米中貿易関税や今回のような事象に対する予行演習になったのでしょう。
    今後も中国国内に収益を上げる市場があれば事業は継続するでしょうが、サプライチェーンは独立させる方向となると予想します。

  4. 農民 より:

     子どもが巣立ってしばらくのある日突然、離婚話をもちかけられる。
    「お前、なんだそんな唐突に!何があったっていうんだ!?」
    「全然唐突じゃないです。若い頃から積もり積もって、最近になってもう限界を越えたの。」

     件の「岡田質問」から約1ヶ月。そんな速さで中国からの撤退を検討即実行できる企業などありえないですし、そんな簡単に脱出を許す国でもありませんしね。とっくに検討されていて、機を伺っていたところに口実を与えられただけ。

     さて、東アジアの緊張の指標として、アメリカの原潜(空母ではない)の動向で判断してきましたが。いつも態度を曖昧にして(下心はモロバレで)ムチを打たれてから渋々行動していた韓国が、大統領がアレなせいもあるにしてもこうも旗幟を鮮明にする実に珍しい状況。信用ならぬ国の動向を信用ならぬ国の動向で判断できそうという。例の法則の発動やいかに。

  5. 庭師 より:

    アメリカに連行の上、訴追されたマドゥロ氏は習近平氏からHuaweiのスマホを贈られていたそうです。
    今回、李在明大統領は同じく習近平氏からシャオミのスマホを贈られた、と。

    一部ネットでは「デススマホ」と呼ばれているとか。

  6. naga より:

    李在明氏は醜菌閉氏からもらったスマホを使い続けるのでしょうか? 中獄に色々筒抜けになるようになっているのは間違いないと思われますが。

    1. 裏縦貫線 より:

      「使っていない」ことも筒抜けになる以上は、使わない訳にはいかないでしょうね。

  7. 引きこもり中年 より:

    毎度、ばかばかしいお話を。
    中国;「菅直人総理なら、すぐに降伏していた。それに引き換え高市早苗総理は」
    立憲:「だから我々が政権を取らなくてはならない。そのためにも、国民の感情をコントロールしなければ」
    つながったな。
    蛇足ですが、兵法に「敵国の優秀な将はけなせ。無能な将は褒めよ」とあります。ということは、高市早苗総理は優秀で、では無能は誰でしょうか。

  8. 団塊の世代の現役親父 より:

    中国から撤退する日本企業が増えているのは結構なのですが、依然として、撤退していない日本企業は、どの位あるのでしょうか?トヨタは?

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