「円安で円が紙屑」の間違い…外貨準備で重用される円
「円安で日本円が紙くずになる」とか、「中国が金融の世界で覇権を握る」とか抜かしていらっしゃる皆さまに是非見ていただきたいデータがあるとしたら、それは国際通貨基金(IMF)の『COFER』と呼ばれる統計かもしれません。外貨準備の世界で米ドルの地位が下がっていることは事実ですが、日本円の地位が再び上昇しつつあるからです(人民元は鳴かず飛ばずですが)。
目次
IMFのCOFERとは?
当ウェブサイトは「読んでくださった方々の知的好奇心を刺激すること」を目的に、政治・経済などから日々選んだ話題をもとに記事をお届けすることを旨としているサイトですが、個人的にやはり気に入っている話題は、政府、中央銀行、国際機関等の統計データをもとにしたものです。
こうしたなかで、当ウェブサイトで四半期に1回程度の割合で取り上げる話題があるとしたら、そのひとつが、国際通貨基金(IMF)による『COFER』と呼ばれる統計です。
『COFER』は “Currency Composition of Official Foreign Exchange Reserves” の略語で、日本銀行や財務省などによる公式の和訳は見当たりませんが、敢えて日本語に意訳すれば、「外貨準備通貨別構成統計」、といったところではないかと思います。
これは、世界147ヵ国の通貨当局がIMFに対して報告している外貨準備の構成通貨を金額と構成割合で示したものですが、外貨準備の通貨構成別金額に関する国別の明細は公表されておらず、あくまでも全体の合計とその割合が示されているのみです。
ランキングトップは米ドルだが…
これについては昨年末までに最新のデータ(2025年9月末時点のもの)が公表されていますので、これについてさっそく、ランキング形式に加工しておきましょう(図表1)。
図表1 世界各国の外貨準備通貨別構成(2025年9月時点)
| 通貨 | 金額 | 割合 |
| 米ドル | 7兆4145億ドル | 56.92% |
| ユーロ | 2兆6480億ドル | 20.33% |
| 日本円 | 7578億ドル | 5.82% |
| 英ポンド | 5808億ドル | 4.46% |
| 加ドル | 3469億ドル | 2.66% |
| 豪ドル | 2681億ドル | 2.06% |
| 人民元 | 2513億ドル | 1.93% |
| スイスフラン | 232億ドル | 0.18% |
| その他通貨 | 7349億ドル | 5.64% |
| 合計 | 13兆0255億ドル | 100.00% |
(【出所】International Monetary Fund, Currency Composition of Official Foreign Exchange Reserves データをもとに作成)
これで見ると、外貨準備の世界で圧倒的なシェアを占めている通貨が米ドルであることがわかります。2025年9月末時点で7兆4145億ドル・56.92%と、米国だけで過半を占めています。
米ドルの割合は長期的に低落傾向…かといってユーロが伸びているわけでもない
ただ、それと同時にもうひとつ興味深いのが、米ドルが外貨準備全体に占める割合の長期的な低落傾向です。COFERの過去データをグラフ化してみると図表2の通り、世界の外貨準備に占める米ドルの割合は低下する一方なのです。
図表2 世界の外貨準備に占める米ドルの金額と割合
これによると、外貨準備に占める割合が過去最高だったのは2001年6月の71.4%でしたが、直近の2025年9月の56.9%は割合としては過去最低です。
では、米ドルの代わりに、いったいどの国の通貨が増えているのでしょうか。
真っ先に思いつく候補はユーロですが、そのユーロについては2025年9月時点の構成割合が20.3%となっているものの、この割合が過去と比べて顕著に高いとはいえません。ユーロは2009年9月に24.2%を占めて過去最高となったものの、その後は20%前後の水準で推移しているからです(図表3)。
図表3 世界の外貨準備に占めるユーロの金額と割合
日本円の地位は再び上昇傾向…円安なのに?
その一方で興味深いのが日本円です。
あまり知られていませんが、じつは日本円は外貨準備組入通貨としては世界3位の常連組であり、2000年9月には全世界の外貨準備の7.1%を占めていました。割合としては2025年9月末時点で5.8%ですが、金額としては7578億ドルと、過去2番目に多い水準です(図表4)。
図表4 世界の外貨準備に占める日本円の金額と割合
外貨準備という「通貨の信頼が最も要求される」分野で円が3番目の地位を占めているというのも面白いところですね。「円安が進んで日本の通貨は世界で信用を失い、紙屑化する」、などと抜かしていらっしゃる「悪い円安」論者の皆さんは、たいていの場合、統計を見ていないようです。
単純に、円安になればその分、円という安全通貨が「お買い得」となり、世界各国の通貨当局者がここぞとばかりに円を買い入れている、ということに過ぎないのではないかと思います。
人民元は鳴かず飛ばず
さて、ドル、ユーロ、円という「3大通貨」の状況を確認したついでに、もうひとつ、面白い通貨を取り上げておきましょう。中国の通貨・人民元です。端的にいえば、鳴かず飛ばずの状況です(図表5)。
図表5 世界の外貨準備に占める人民元の金額と割合
人民元のデータは2016年12月分以降しかありませんが、この短い期間のデータだけでも、さまざまなことがわかります。
人民元建ての外貨準備が過去最大となったのは2021年12月末で、世界の外貨準備のじつに2.9%を占め、金額では3683億ドルに達しましたが、不思議なことに、それ以降、人民元建ての外貨準備は金額、割合ともに減少し続けています。
少し勘の良い方ならお気づきかもしれませんが、2021年12月末の急増は、おそらくはロシア要因でしょう。ロシアがウクライナ侵攻を前に、凍結される可能性が高い米ドルから、凍結される心配が低い人民元へと、アロケーションをせっせと変更した可能性が高いのです。
(※ちなみにロシアの外貨準備に関しては、ほかにもいくつか興味深い論点があるのですが、これらに関しては機会を見て、また別稿で紹介するかもしれません。)
いずれにせよ、欧米などでは「これからは金融の世界でも中国の地位が向上していくに違いない」といった能天気な希望的観測に関する能書きを垂れる人もいますが、現実のデータではそうなっていないことがよくわかるのではないでしょうか。
「その他」の増え方が気になる…
さて、人民元の話題はこのくらいにして、米ドルの割合が長期低落傾向にあることについては、改めて指摘しておく必要があります。
こうしたなか、個人的に気になっているのが、「その他通貨」、つまり図表1に掲載した8通貨(米ドル、ユーロ、日本円、英ポンド、加ドル、豪ドル、人民元、スイスフラン)以外の通貨の割合です。これをグラフ化したものが、図表6です。
図表6 世界の外貨準備に占めるその他通貨の金額と割合
これによると「その他の通貨」は2025年9月時点で5.6%と過去最高に達しています。2012年9月の割合が7.2%だったのは、統計上、同年12月から豪ドルと加ドルが「その他通貨」から切り離されたからであり、また、2016年12月に落ち込んでいるのは人民元が「その他通貨」から切り離されたからです。
ということは、事実上、現時点の「その他通貨」の割合は過去最大だ、ということです。
個人的には、どの通貨がここに含まれているのかが気になります(まさかウォンとか?)。
これは単なる憶測ですが、「その他通貨」に含まれているもののなかで有力なのはニュージーランド・ドル、北欧通貨(デンマーク・クローネなど)、南アフリカ・ランドなどに加え、もしかしたら東南アジアの有力国(シンガポール、タイ、マレーシアあたり?)の通貨かもしれません。
これについてはもしかするとIMFが今年あたり、「その他通貨」から1~2個の通貨を切り出す可能性がありますが、期待して待ちたいと思う次第です。
本文は以上です。
金融評論家。フォロー自由。雑誌等の執筆依頼も受けています。 X(旧ツイッター) にて日々情報を発信中。 Amazon アソシエイトとして適格販売により収入を得ています。 著書①数字でみる「強い」日本経済 著書②韓国がなくても日本経済は問題ない日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
そんな日韓関係論を巡って、素晴らしい書籍が出てきた。鈴置高史氏著『韓国消滅』(https://t.co/PKOiMb9a7T)。
日韓関係問題に関心がある人だけでなく、日本人全てに読んでほしい良著。
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毎度、ばかばかしいお話を。
○○(好きな人物名をいれてください):「高市早苗総理での円安で、円は紙くずになる」
総理が他なら大丈夫なのですね。
悪い円安論者は、「円の信認」なるものを特定の方向からしか見ていないということでしょうか。
「円が弱くなった」と、もっともらしく嘆いている人もいますが、為替レートは別に勝ち負けではないと思いますが。
今年も楽しみに拝読させていただきます。
中国を逆上させる程度の軍事力はあって、外交の手段として武力を行使することがない日本ですから、これから日本円での外貨準備はもっとシェアアップするかもしれません。
人民元なんて習近平主席の逆鱗に触れたら理由なしで凍結された上に軍事侵攻されそうだし、米国はトランプ大統領のうちは超法規的に何でもしてくる可能性があります。米国のベネズエラ攻撃は軍事侵攻というより警察力の行使っぽいですが武力行使には違いありません。似たような代替通貨は日本円、英ポンド、加ドルなんでしょうが、そうなるとやっぱり日本円になりますよね。
「悪い円安論」や「アベノミクスは失敗した」と言っている人達は、その殆どが「財政規律派」だったり「増税論者」だったりします。
彼らは面白いことに「無駄な予算」即ち「公金チューチュー」には殆ど触れることはありません。
本来なら減税と共に無駄な支出や利権を潰していき、不正が発覚すれば、当事者や当該組織を摘発するのが筋だと思うのですが、それすら言わないのです。
もしかして、その界隈の人物や組織と何だかの繋がりがあるのでしょうかね。
大体、円安批判する勢力は円高批判しますし、利上げ批判するし利下げ批判する、
手段として政治利用してるだけなんですよね。
為替レートだけでいうなら、長期トレンドで一貫して下げ続けていて、同じだけの期間を経常収支も赤字垂れ流してきた
アメリカ合衆国のドル
こそ世界で一番信用されてない通貨ということになりますが、そういう個別の説明はしはりませんな。
日本円の場合だけ、
日本円についてだけ、
もうダメだあ~~!と叫ぶ。
ジムロジャースが、自分が売り抜けしたい銘柄だけ「これは買いだっ!」と雑誌にホメまくるみたいなもんですかねえ。
ワハハと笑うネタですよねコレ。
>(まさかウォンとか?)。
まさかの”北朝鮮ウォン”とかでしょうか?
韓国の外貨準備高は”取得簿価”ですしね。
KIC(韓国投資公社)の内情や如何に?