首都圏中古マンション価格高止まりで「発想転換」も?

今月も、首都圏の中古マンション市場の売買データが東日本レインズから公表されました。相変わらず首都圏の中古マンション価格は全体的な上昇が続いているのですが、その傾向は東京都心3区で特に顕著であり、また、それ以外の都区部でもやはり価格上昇が激しいといえます。このままでは23区内で子育てをするのも難しくなりそうですが、本当にそれでよいのでしょうか。もっとも、多摩地区や埼玉、千葉、神奈川の各県などに目を向けると、比較的リーズナブルな物件が見つかるかもしれませんし、賃貸という方法もないではありませんが。

中古マンション市場を考える

東日本レインズの売買データ

最近、ほぼ毎月のように当ウェブサイトにて取り上げている話題のひとつが、公益財団法人東日本不動産流通機構(東日本レインズ)が公表する首都圏のマンション市場に関するデータです。

この点、「マンション市場」といっても売買と賃貸の二種類がありますが、東日本レインズが毎月公表しているのは中古マンション売買動向のデータであり、賃貸データについては公表頻度が3ヵ月に1度であるなど多少のタイムラグがあります。

先月は7-9月期の賃貸市場のデータも公表されたため、『都心ファミリー物件が億ションに:港区賃料は2割上昇』では、売買動向と賃貸動向を同時に取り上げましたが、賃貸動向のデータが公表されない月は、基本的には売買動向のみを取り上げています。

さて、それはともかくとして、最近の首都圏の中古マンション市場では、都心部を中心に価格の上昇が続いている反面、埼玉、千葉、神奈川の3県や、東京都内でも都心から離れた地域だと、価格上昇が一段落しているという傾向が確認できます。

こうしたなか、東日本レインズは11日、2025年10月分の売買動向に関する最新版レポートを公開していますので、さっそくこれを入手し、売買成約データのうち平米単価のみを抜き出してその動向を確認してみましょう。

ここで平米単価に注目する理由は、これが中古マンション市場の状況を把握するうえで、最も手っ取り早いデータだからです。

もちろん、実際の不動産価格は「平米単価×平米数」で決まるものではなく、築年数であったり、駅からの近さであったり、日照であったり、あるいは幹線道路からの距離(騒音など)、スーパーや学校やコンビニなどの施設の状況、マンションの管理状態など、さまざまなファクターで決定されます。

著者自身もとある地域で不動産売買を何度かやったことがありますが、やはり売買をやると、「その値段には相応の理由がある」ということに気づく次第です(ついでに余談ですが、物件価格は平米数にキレイに比例するわけでもないようです)。

なお、本稿では不動産市場の状況を大雑把に把握することを目的に、こうした個別性についてはある程度無視し、とりあえず平米単価だけで議論している、という点についてはご承知おきください。

首都圏中古マンション市場は引き続き高止まりも…

以上を踏まえて作成した全体のサマリーが図表1です。

図表1 地区別中古マンション平米単価(成約ベース)
地区2025年10月前年同月比前月比
首都圏85.35万円+10.19万円(+13.56%)+0.17万円(+0.20%)
東京都121.06万円+16.42万円(+15.69%)+2.60万円(+2.19%)
 都心3区236.01万円+38.90万円(+19.74%)+1.15万円(+0.49%)
 城東地区101.48万円+16.59万円(+19.54%)▲0.34万円(▲0.33%)
 城南地区125.85万円+17.74万円(+16.41%)+1.87万円(+1.51%)
 城西地区158.6万円+12.38万円(+8.47%)+1.89万円(+1.21%)
 城北地区103.97万円+14.07万円(+15.65%)+0.59万円(+0.57%)
 多摩地区56.6万円+0.80万円(+1.43%)▲2.03万円(▲3.46%)
埼玉県42.91万円▲0.92万円(▲2.10%)▲1.86万円(▲4.15%)
千葉県40.75万円+1.43万円(+3.64%)+0.47万円(+1.17%)
神奈川県59.37万円+3.00万円(+5.32%)+0.57万円(+0.97%)

(【出所】公益財団法人東日本不動産流通機構『レインズデータライブラリー2025年』データをもとに作成)

これでわかるとおり、首都圏では埼玉県を除くほとんどの地域で前年同月比で平米単価は上昇していて、前月比で見ても、とくに東京都区部に関しては城東地区を除いていずれも上昇しています。

東京都の状況

東京都は地域ごとに見ると温度差が大きい

ただ、現実の不動産市場を地区別に分けてみると、かなりの温度差があることも事実です。

ここで、東京都内については基本的に、次の6つの地域に分けて統計が取られています。

  • 都心3区…千代田区、中央区、港区
  • 城東地区…台東区、江東区、江戸川区、墨田区、葛飾区、足立区、荒川区
  • 城南地区…品川区、大田区、目黒区、世田谷区
  • 城西地区…新宿区、渋谷区、杉並区、中野区
  • 城北地区…文京区、豊島区、北区、板橋区、練馬区
  • 多摩地区…都区部・島嶼部以外

この区域分けが中古マンション市場を把握する上で妥当なのかどうかという問題はあります。

たとえば一般に不動産市場では「都心」は千代田区、中央区、港区に加えて新宿区や渋谷区、文教区あたりを含めることが多いようですし(いわゆる「都心6区」)、逆に渋谷・新宿・文京の3区を除いて江東区、台東区、墨田区の3区を含めた地域を「新都心6区」に分類するケースもあるようです。

しかし、実際に図表1からもわかるとおり、都心3区は平米単価が都内でもずば抜けて高く、これを新宿区と渋谷区が含まれている「城西地区」が追いかける形となっており、また、江東・台東・墨田3区が含まれる城東地区は、むしろ都区部では最も単価が低いことに気づきます。

いや、だからこそ高層マンション(いわゆるタワマン)が城東地区に林立しているのかもしれませんが…。

さて、東京を6つの地区に分けた場合のそれぞれの成約状況(平米単価)データを並べておくと、興味深いことが見えてきます(図表2)。

都心3区は平米単価236万円だがやや足踏み状態に

まずは都心3区ですが、2025年10月の平米単価は236.01万円と、相変わらず頭ひとつ抜けている格好ですが、価格推移をグラフ化してみると、若干足踏み状態にあります。

図表2-1 都心3区

都心3区の平米単価、過去最高だった2025年5月は240.93万円であり、集計に用いた2008年1月以降で見て過去最低だった2012年11月の69.03万円と比べると、13年間で平米単価はじつに3.4倍となった格好です。

ただし、ここ半年に関していえば、平米単価は230万円台で安定しています。

外国人による投機資金が尽きたのか、それとも新規物件の供給が一段落したのかは、現時点では断言できませんが、ただ、それでも平米単価230万円台ということは、単純計算で、単身者用物件として一般的な20平米台の物件が4600万円以上だということです。

ファミリー層向けの物件といえば、最低でも50平米以上は欲しいところですが、そのような物件は都心3区では「億ション」と化している格好であり、いずれにせよ私たち庶民の多くにとっての都心物件は「高根の花」状態であるといえるでしょう。

城東地区は一本調子で上昇が続く:平米単価100万円定着か?

その一方で、城東地区に関しては、平米単価は一本調子で上がり続けています。

図表2-2 城東地区

城東地区はつい今年の8月まで、都区部では唯一平米単価100万円を超えていなかったのですが、9月に史上初めて100万円台を突破し、10月も前月比でやや下がったものの、やはり100万円台を維持しています。過去最低だった2009年5月に39.37万円で買っておけば、約2.5倍になった、という計算です。

ということは、単純計算して、単身者用の20平米程度の物件も2000万円台、ファミリー層向けの物件も50平米台で5000万円台、という計算です。なかなかに驚きますが、城東地区の平米単価が上昇し続けているのも、やはり都区内では比較的交通の便が良く、比較的リーズナブルだからでしょうか?

住宅地として人気の城南地区だが…

さて、その一方で東京都内では住宅地として比較的人気が高いのが城南地区ですが、やはり価格は上昇傾向にあるにせよ、都心3区や城東地区ほどではありません。

図表2-3 城南地区

もちろん、値上がり率は大したもので、2008年1月以降のデータで見て過去最低だった2009年4月だと平米単価は55.94万円でしたが、現在では平米あたり125万円を超えているため、やはり底値で拾った人にとっては不動産価格は2.3倍程度になっている、という計算です。

ただ、底値と比べ3倍以上になった都心地区などと比べると、値上がりのペースは緩やかです。

もっとも、(これはあくまでも個人的印象ですが)城南地区は品川区や世田谷区、目黒区、大田区という住宅地で構成されており、これらの地域はマンションよりも一戸建ての供給量も多いため、一戸建てを含めた不動産市場という意味では、もう少し価格帯は上がる可能性はあるでしょう。

都心3区に準じて高騰が続く城西地区

さて、「都心の定義」でも出て来た城西地区については、とくに近年は月ごとの上がり下がりが激しくなりつつも、総じて価格の上昇傾向が続いており、平米単価も158.6万円と都心3区ほどではないにせよ一般庶民には手が出づらい価格帯です。

図表2-4 城西地区

データが存在する2008年以降で見て過去最低だったのが2011年12月の57.49万円ですので、もしこの時点で不動産を取得していれば、価格はじつに2.76倍になった、という計算です。20平米の物件でも3000万円を超えてしまいますし、70平米で「億ション」になってしまいます。

ただ、個人的にはこの図表を見て、逆の違和感を覚えています。

城西地区のとある地区(詳しい地区は伏せます)のチラシなどを眺めていると、平米単価「だけ」で見たら都心3区と大して変わらない水準にあるからです。50平米程度でも築浅など条件が良い物件であれば1億円を突破する事例もあります。

やはり物件の「奪い合い」のような状況が生じつつあるのかもしれません。

城北地区は「都区部では」控え目

さて、都区部でいえば城北地区は城東地区と並んで平米単価は比較的低めであり、値上がり率も他の地域と比べて若干控え目です。

図表2-5 城北地区

直近の2025年10月は103.97万円と過去最高を更新しており、データが存在する中で比べて過去最低だった2009年6月時点の44.63万円と比べれば2.3倍に上昇していますので、やはり価格上昇が激しいことに間違いはありませんが、それでも都心3区や城西などと比べると「控え目」です。

ただ、「控え目」といっても今年7月に平米単価が史上初めて100万円を超え、その後は100万円台で推移していることからもわかるとおり、やはり東京都区部の住宅が一般庶民にとって手が届きづらいものとなっていることは間違いありません。

多摩地区は手が届きやすい価格帯

以上、東京都23区内だと中古マンションの平米単価は平均100万円を超えてしまっており、このままだと23区内で子育てをする人が減少していくという可能性もあります。はたしてこの価格高騰を放置して良いのか、政策論が深まることが必要ではないでしょうか。

もっとも、東京都下でも23区とはまた違った様相を呈しているのが多摩地区、つまり東京都下の市町村(※島嶼部を除く)です。

図表2-6 多摩地区

多摩地区は2024年1月に58.89万円と過去最高を記録したものの、それ以降、平米単価は50万円台で推移しており、都区部と比べれば明らかにお求めやすい水準です。また、データが存在する2008年以降で見て、過去最低だった2009年5月の31.94万円と比べ、上昇率は1.77倍に留まっています。

もちろん、この水準でもなかなかのお値段ですが、それでもファミリー向けの50平米程度の物件であれば3000万円台で、100平米程度の物件も6000万円台で手に入るという計算です(※あくまでも「計算上は」、という話です)。

お住まいを東京都下にこだわるのなら、都区部ではなく多摩地区を検討する価値がある、というのは、このあたりにも理由があるのかもしれません。とくに沿線によっては都心部まで電車で30分前後で到着できるケースもありますし、都区部には少ない大型ショッピングセンターなどの便利な施設も存在するからです。

とりわけ子育て世帯にとっては、東京都心部ではちょっとした生活用品(家具、DIY用品、ベビー服、子ども服など)が手に入り辛いという経験をすることも多いでしょうから、同じ値段で広い物件が手に入るうえに暮らしやすい多摩地区は狙い目なのかもしれません。

東京都とそれ以外の違い

東京都全体の傾向

以上は東京都内の話でしたが、首都圏全体は、いったいどういう状況なのでしょうか(図表3)。

まず、東京都に関しては、全体として見たら一本調子で上昇し続けています。

図表3-1 東京都

データが存在する2008年以降の最低値が2012年11月の48.08万円、最高値が直近・2025年10月の121.06万円で、東京の中古マンション価格は平均してこの13年でざっと2.5倍に上昇した計算です(※ただし、これは図表2で見た各地区の数値の平均値であり、地域差も大きいです)。

そうなると、東京都内ではなかなか生活がし辛い、という言い方もできますが、そこで注目点が埼玉、千葉、神奈川の周辺3県です。うまく地域を選べば、東京都内からの通勤圏内にある物件を、都内よりもお得に入手できるかもしれません。

埼玉県は多摩地区よりリーズナブル

まず埼玉県ですが、直近・2025年10月において平米単価42.91万円で、データが存在するなかでの最低値、つまり2009年7月の22.26万円と比べると2倍近くになっているものの、価格上昇ペースは東京都と比べて明らかにマイルドです。

図表3-2 埼玉県

埼玉県は2022年ごろまで価格上昇が続いていましたが、そこからの上昇が明らかに緩やかになり、むしろ横ばい、という状況です。平米単価42.91万円、ということは、50平米程度の物件が2000万円台、100平米程度の物件が4000万円台、ということです(あくまでも「計算上は」、ですが)。

東京都下の多摩地区よりもさらにリーズナブルですし、東京で働いている人であっても、場所を選べば東京都内の職場まで電車で一本で通勤できるうえ、最近だといくつかの路線が複々線化や線形改良などでスピードアップも実現しているようですので、これも選択肢のひとつでしょう。

千葉県も同様の傾向

同様の傾向は、千葉県にも認められます。

図表3-3 千葉県

千葉県もまた、データが存在するなかで過去最低だった2012年5月の21.50万円と比べ、過去最高だった2024年9月の42.44万円は約1.9倍という計算ですが、その千葉県は若干の価格の乱高下もありつつも、直近の2025年10月時点でも平米単価40.75万円と、都下よりもかなり安いです。

埼玉県のケースと同様、50平米で2000万円台、100平米で4000万円台という計算です(※くどいようですが、あくまでも「計算上は」、です)。

神奈川県は多摩地区なみだがまだ手が届く

一方、神奈川県になると、周辺県のなかでも少し価格帯が上がります。

図表3-4 神奈川県

神奈川県は平米単価でみて60万円を超えたことはなく、また、データがあるなかで過去最低だった2009年6月の33.70万円と比べ、過去最高だった2025年7月の59.66万円は1.76倍程度と価格上昇率も低めですが、それでも東京都の多摩地区と比べて価格帯はほぼ同じです。

50平米台だと3000万円前後、100平米だと6000万円前後という計算ですが、鉄道路線が充実しており、また、郊外型のショッピングセンターなども多いと考えられることから、暮らしやすさと通勤の利便性を兼ね備えた地域だといえます。

もちろん、多摩地区、埼玉、千葉、神奈川といっても広いので、利便性の高い場所とそうでない場所で価格にずいぶんと差があることは間違いありませんが、そうだとしても、平均した平米単価が100万円を超えている東京都区部などと比べれば、(とくに子育て世帯にとっては)十分魅力的です。

所有すべきか借りるべきか

ただ、これも当ウェブサイトにて普段から述べている内容ですが、不動産は「所有すること」に必ずしも拘る必要がない、という論点もあります。

冷静に考えて、平均的な子育ての期間は人生のなかでも20年弱であり、とくに子供部屋などを作らなければならないのは小学1年生から高校3年生までの12年間に限定される、という考え方もあります(大学受験に失敗して浪人する、といったシナリオを考えなければ、ですが)。

こうした前提を置いたうえで、子供が2人いて、年齢差が2歳だとすれば、2人分の子供部屋が必要な年数は10年間です(上の子が就学した時点で下の子は未就学ですし、下の子が高校2年生になった時点で上の子は高校を卒業しているはずです)。

そこで、狭い物件を所有しつつ、2人の子供が同時に就学している期間の10年間限定で便利な場所に広めの物件(LDK+夫婦の寝室+子供部屋2つ)を借り、自己の所有物件はその期間、定期借家で賃貸にでも出す、といった考え方です。

つまり、4人家族でありながらも3人家族用の40平米程度の物件を買っておけば、それを投資用物件兼自己居住用物件にできます(上のお子さんは大学進学に合わせて1人暮らしする、という目論みもあります)。

この程度の物件であれば、子どもが2人とも独立し、夫婦2人暮らしとなれば、無駄に広い物件を持て余すこともありません。

もちろん、上記は単なる考え方の一例にすぎませんが、物件価格が上昇し過ぎたなかで、あるいは政府が税金や社保を取り過ぎているなかで、私たち庶民としても自衛策を講じることを考えなければなりません。

不動産価格に関するデータも、こうしたことを考えるきっかけのひとつではないかと思うのですが、いかがでしょうか?

本文は以上です。

金融評論家。フォロー自由。雑誌等の執筆依頼も受けています。 X(旧ツイッター) にて日々情報を発信中。 Amazon アソシエイトとして適格販売により収入を得ています。 著書①数字でみる「強い」日本経済 著書②韓国がなくても日本経済は問題ない

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読者コメント一覧

  1. 丸の内会計士 より:

    中古マンションのValuationですが、取壊し費用や建替え費用が中古マンション価格には入っていないのでは。知り合いが都心のマンションを売りに出しているのですが、まだ売れていません。大手不動産会社に1億円超で売りに出しましょうというアドバイスを受けて、大手不動産サイトで販売しています。
    築40年程度なので、取壊し費用や建替え費用をどうするのか気になります。
    仮に所有してしまうと、建替えの際にどうなるのか。
    私の考えとしては、東京近郊に土地付き一戸建てで次世代に引き継ぐのが無難かなと思っています。

    1. 丸の内会計士 より:

      マンションの相場を維持するために、私の子会社aと私の子会社bの間で中古マンションの取引を実施、一億円の取引実績。このマンションの一室の相場は、一億円。このような取引でマンション相場を維持している可能性もあります。
      純然たる第三者間の取引で出来高も多い場合は、客観性のある価格になりますが、マンション相場を維持するための取引で価格を維持している場合は、本当の実勢価格が不明という可能性もあります。

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