鈴置論考で読む「韓国原潜保有」

韓国が原子力潜水艦を持つかもしれません。先日、ドナルド・J・トランプ米大統領が自身のSNSにそうした内容を投稿したからです。ただ、これに関し、「韓国観察者」の鈴置高史氏が執筆した解説を読んでみると、「韓国が自国で原潜を建造し、燃料である高濃縮ウランを手に入れる」という話では、どうやらなさそうです。というよりも、「韓国のカネで米国に投資させる」というだけの話ではないかと思えてなりません。

高市総理のAPEC参加

先日、高市早苗総理大臣はAPEC(アジア太平洋協力会議)に参加するために韓国を訪問しました。

これについてはすでに首相官邸の公式Xアカウントが概要を公表するなどしているため、内容を読んだという人も多いでしょう。

総理に就任してまだ2週間そこそこしか経過していないにも関わらず、いきなりのASEAN/米大統領訪日/APEC、と、なんとも凄い忙しさです。

ただ、それ以上に興味深いのは、首相官邸・自民党広報のウェブサイトや公式Xアカウントなどを眺めていると、それだけで少なくとも政府の動きについては大所がだいたいわかるようになっている、というしかけです。

新聞、テレビを中心とする本邦のマスメディアは、これまで、「大事な情報を隠す」、「政府首脳らの発言の一部を切り取りする」などの手法で、ともすれば政治家の動きを歪めて伝えるかの動きを取ることもありましたが、「サナエダイレクト」や「自民党ダイレクト」が、こうしたメディアの手法を封殺しつつあることは間違いありません。

なぜ李在明氏は反日を大々的に打ち出さないのか

もっとも、政府の動きについては正直、一次情報の部分は政府公式の情報発信で十分であろうと思われるのですが、やはりそれらを読み解いて詳しく解説してくれるという専門家の存在は、重要です。

とりわけ個人的にやや違和感があったのは、李在明(り・ざいめい)大統領が高市総理との会談で、歴史認識、とりわけ自称元慰安婦問題や自称元徴用工問題などを持ち出し、過去の反省や謝罪を求めた、といった話題は目にしなかったことです。

韓国といえばすぐに歴史を持ち出し、反省や謝罪を要求してきていたはずなのに、いったい何ごとなのか。

もちろん、高市総理が就任したばかりというタイミングで、李在明氏もまだ本気で反日を全開にしていないだけ、といった解釈も成り立たないではないのですが、それにしても拍子抜けしてしまいます。

こうした疑問を覚えたときに、「専門家」という立場からきちんと解説してくれる人は重要です。

ただ、新聞、テレビなどのオールドメディアによく見かける自称「専門家」の解説については、基本的にはアテにならないものが多く(※著者の私見です)、その意味では日本のメディアの役割とはいったい何なのか、疑問に思ってしまう次第です。

鈴置論考に答えがすでに書いてあった!

しかし、こうした日本の言論空間において、著者が深く信頼する論者も何人かいます。

そのひとりが「韓国観察者」と名乗る鈴置高史氏です。

「韓国観察者」をカッコつきで示しているのには理由があって、鈴置氏ご本人がそう名乗っていることがひとつめですが、それだけではありません。普段から当ウェブサイトにて指摘している通り、鈴置氏の論考は、韓国を観察しているようでありながら、韓国という鏡に映った私たちの国・日本を映していることが多いからです。

その意味で、鈴置氏の正しい肩書は、「日本観察者」ではないか、などと思うのはここだけの話です。

実際、鈴置氏はその「韓国」という鏡を通して、さりげなく(確信犯で?)石破茂・前首相ら政治家の評価を行っていたことは、ここで指摘しておいて良い事実でしょう。

鈴置論考で読む…韓国が脇の堅い高市総理を嫌がる理由』などでも取り上げましたが、鈴置氏は日韓関係の処理を巡り、石破氏のことを、かねてから「脇が甘い」政治家だと指摘し続けてきました(あるいは岸田文雄・元首相も、もしかしたら鈴置論考的な基準でいえば、「脇が甘い」政治家なのかもしれません)。

ただ、著者自身に言わせれば、韓国との関係で足元をすくわれる政治家など、財務省を含めた官僚機構や新聞・テレビなどのマスメディアと伍していくことは困難であり、その意味では、鈴置氏がさりげなく指摘した「脇の甘さ」という政治家の評価軸は、じつに適切なものだと解さざるを得ないのです。

先ほど指摘した疑問点、つまりなぜ李在明氏は現時点において、高市総理に対し、高圧的に反省や謝罪を求めたりしてこなかったのかについても、先月9日付の鈴置論考を読めば、ちゃんと答えが書いてあります。

タカイチに李在明がケンカを売れない3つの理由 「極右政権誕生」に歯がみはするけれど――鈴置高史氏が読む

―――2025年10月09日付 デイリー新潮『鈴置高史 半島を読む』より

これを読んで「予習」していた人は、今回の高市総理訪韓でも特段の違和感を覚えなかったのではないかと思う次第です。

韓国が原潜保有!いったいなぜ…!?

さて、私たち日本人が鈴置論考を読むことの重要性については、正直、いくら指摘しても指摘のし過ぎではないと思います。

そして、その鈴置論考の重要性がわかる論考が、またしても出て来ました。

トランプから「原潜保有」を許された韓国 宿願だが…浮かれていられない“2つの障害”

―――2025年11月04日付 デイリー新潮『鈴置高史 半島を読む』より

タイトルからして異形に見える記事です。

「韓国が原潜を持つかもしれない」、などと唐突にいわれると、困惑することしきりです。

原子力潜水艦は多くの場合、核保有国が所有していて、食料が続く限り連続して潜航できるという特徴があります。また、その名の通り燃料はウランで、90%の高濃縮ウランなら原潜が退役するまで燃料交換が不要で、20%未満の濃縮ウランでも10年間は交換しなくて良い、などとされているそうです。

当然、空気の入れ替えなどでときどきは浮上しなければならないディーゼルエンジン艦などと異なり、水面下に潜む原潜は位置の特定が一般に困難とされ、原潜が核を積み込んで潜水しているともなれば、自国が核攻撃されたらただちにその潜伏中の原潜が報復攻撃できるため、それ自体が抑止力です。

もちろん、韓国が欲しがっているのは「原潜」であって(表向きは)「核兵器」ではありません。

鈴置氏はドナルド・J・トランプ米大統領が韓国に対し、韓国時間の10月30日朝になって、唐突に韓国が原潜を持つことを容認したという事実にスポットライトを当てるのですが、これだけで見ると、米国が韓国に(低濃縮ウラン型とはいえ)原潜保有を容認したかにも見えてしまいます。

韓国のカネでドックを整備する、という話では?

ただ、鈴置氏の凄いところは、その続きです。

トランプ氏は自身のSNSで韓国が原潜を所有することを認める発言を行ったのですが、その十数分後には、それを(韓国の国内ではなく)米国内にある造船所で造らせる旨述べた、というのです(その造船所は韓国企業が昨年買収したものではありますが、所在地は米国です)。

これが意味するところは何なのか―――。

もちろん、米国内に所在するとはいえ、韓国系の造船所で原潜を作らせるのであれば、間接的にはその技術が韓国に伝わるという可能性はあります(米国政府がそれを認めるかどうかは別として)。

ただ、鈴置論考の真骨頂は、そこから先の深いファクトチェックにあります。

そもそもトランプ氏が言及した造船所には「潜水艦を造るためのドックがない」、「新設するだけで数年はかかる」うえに「熟練工も不足している」という状況です。

ここから鈴置氏が導き出したのは、そもそも現在の米国で造船能力そのものが立て直しの必要性に迫られていて、中国と対峙するうえでも造船能力の増強が必要である、という状況です。なんのことはない、韓国に供与する原潜を建造するためのドックを、おそらくは韓国の資金で整備する、という話です。

そして、これを中国が素直に認めるのかどうかはまた別問題でしょう。実際、中国は「韓国の原潜保有構想」に対し、すでに対抗策を講じ始めています(その具体的内容については鈴置論考で直接ご確認ください)。

こうした韓国の原潜保有というタイミングで、わが国では奇跡的に、保守の高市早苗政権が発足したわけです。

高市政権の基盤となった自維両党の政策合意には「次世代動力の潜水艦の保有を推進する」と明記されているなか、鈴置氏によると韓国では「日本が本気になって原潜の建造に取り組めば10年かからない」などと見られているのだそうですが、まさにこれが韓国の焦りにもつながっているのかもしれません。

鈴置論考の価値が高まる

もちろん、ビジネスマンのトランプ氏のことですから、韓国が原潜を持つことの意味をちゃんと理解していないという可能性もゼロではないでしょうが、それにしてもいかにもトランプ氏が考えそうな発想であることもまた間違いありません。

いずれにせよ、この鈴置論考でわかることは、多くの場合は公開情報をもとにしつつ、積み上げた緻密な取材やファクトチェックと分析に基づいて、韓国・李在明政権などが考えていることを推察していく圧倒的な議論構築力でしょう。

当ウェブサイトでも鈴置論考を一生懸命に真似てみようと試みたこともありますが、残念ながら、クオリティ的には似ても似つかない代物が出来上がるのが関の山であり、その意味では鈴置論考に学ぶところはあまりにも多いのが実情であることは間違いありません。

いずれにせよ、新聞、テレビなどのオールドメディアの役割が低下していくなかで、鈴置論考の価値や意義はまったく変わらないどころか、むしろそのOSINT的手法の重要性は増すばかりだと思う次第です。

本文は以上です。

金融評論家。フォロー自由。雑誌等の執筆依頼も受けています。 X(旧ツイッター) にて日々情報を発信中。 Amazon アソシエイトとして適格販売により収入を得ています。 著書①数字でみる「強い」日本経済 著書②韓国がなくても日本経済は問題ない

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読者コメント一覧

  1. KY より:

    >韓国が原潜保有<正に「何とかに何とか」ですね。例えitの話であってもおぞましい事。つい最近も他国の潜水艦を改造するのに「船体を輪切りにして再溶接」した為に事故らせたばかりですから。通常動力の潜水艦ですらこの様ですから、原潜で放射能漏れ事故が起きても「ケンチョナヨ」で済ませるのかも。((((゜д゜;))))。

    1. KY より:

      ×it ○if

  2. naga より:

    ネットメディアによれば李大統領の言い方は原潜を売って欲しいなどでなく核燃料を提供して欲しいという言い方でした。多分潜水艦用の原子炉推進ユニット(でしょうか)を供給してもらって本体は自国で作ることを考えていたのではないでしょうか。それが、韓国資本とは言え、米国で元米国資本の会社で作るならガッカリでしょうが、とにかく原潜を持てるなら良しとしようということでしょうか。
    韓国の軍事は実質的に対日本ですからどう対応するか戦略を考えねばなりませんね。

  3. 引っ掛かったオタク より:

    まーフツーに考えたら排他的経済水域広過ぎる日本こそ“アシが速く”“アシが長い”フネが必須なンすがネ
    しっかし駆逐艦の駆動系もマトモにヤレン造船技術レベルで原潜とは…トリム角ついたら浸水すンぢゃね??
    サスガニ通常動力ヤレとンならソレは無いか…
    知らんけど

  4. 農民 より:

    韓国の彼岸…じゃなかった悲願リスト 安全保障編

    ・二度と日本による韓半島侵略を許さない:無駄な心配
    ・空母保有:使い道が無く無駄
    ・原潜保有:使い道が無く無駄
    ・南北統一:無駄なので誰も実行に向かわない

     無駄無駄無駄無駄ってDIO様もビックリだよ。
     でもまぁ頑張ってほしいものです。経済的に危険水域にある国が、金食い虫の空母・原潜を保有し、敵対する必要の無い隣国に敵対しつつ、圧倒的に経済規模が小さく疲弊しきった地域を板挟みの対立超大国らと摺合せもせずに併合という、俺達には出来ないことを平然とやってのけてしまったら、一体どうなってしまうのか。

    1. 引っ掛かったオタク より:

      空母の運用は“?”っスけど弾道or巡航ミサイル潜と“北”の核弾頭が揃うと季違いだけにオソロシおまんナ、知らんけど
      ガチにヤブレカブレんなったら連中以外には“脈絡無い”先制核攻撃とかぶっ放して来そう、知らんけど

      光子力研究デモ早乙女研デモええからオカルトバリア早う???

    2. 七味 より:

      農民様

      >原潜保有:使い道が無く無駄

      果たしてそうでしょうか?
      例えば日韓漁業協定の再締結に進展がなければ、その海域で原潜を沈没させて漁場としての利用が出来なくさせる
      みたいな使い方を考えているのではないでしょうか?

    3. 農民 より:

       真っ当な使い道じゃなくてヤケクソ自爆戦法大喜利になっちゃうのドウシテ……

  5. DEEPBLUE より:

    本丸は日本へ向けた核武装でしょう。トランプはワシントンまで届かなければ好きにしろってスタンスだからね1期から。

  6. 匿名 より:

    フィラデルフィア造船所を有するハンファオーシャンは反中政策に加担したってことで中国の制裁対象になってるけど、どうなるんだろ? (`ハ´#)

  7. ななし より:

    海上自衛隊が保有する「たいげい型」は米戦術原潜「シーウルフ級」の模倣艦(原子炉からAIPへの置き換え)なんですよね。初号艦と2号艦は艦内部品もアメ製コピーを徹底してる。らいげい以降はSLBMの搭載システムの模倣、おそらく6~8番艦あたりから日本オリジナルのSLBMが試験運用かな?
    アメリカも我が国に戦略級原潜を持たせる気はないようだけど、戦術級は国内生産を黙認するようですね。それが高市首相のあの言葉になっていると関係者は認識しております。

  8. 元雑用係 より:

    韓国原潜のニュースが最初に流れたときから胡散臭さを感じていましたが・・・まあいつもの同床異夢ということで。今後のプロセスの最中に立ち消えでしょうね。それより李在明の任期が先に来そう。

    李在明がおとなしいのは、まだ反日のデメリットが大きいからじゃないですかね。いよいよ政権の継続が厳しくなれば、やってくれるのではないかと期待しています。
    まーただ、文在寅も最後までおとなしめでしたから、そんな未来もあるかもしれません。GSOMIAのように騒いでも勝ちきれない出来事が増えました。
    米国は冷たいし、日本が簡単に謝らなくなったので。

    前大統領と違って現大統領は韓国左派の中では極々少数派だそうで、大統領退任後の身の安全確保が今ひとつなのだそうです。タマネギ男に恩赦を出したのも他派への恩売りだと言われています。
    その辺がらみが反日実現への勝ち筋(?)かな?

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