崩壊寸前の年金制度は「機能」に着目して再構築すべき

当ウェブサイトでは最近、「現役層の負担を軽減するためには、少なくとも年金国債を発行して厚生年金制度を廃止し、後期高齢者医療制度についても応急措置的に一律3割負担化が必要だ」と指摘しています。こうしたなか、自民党総裁選では給付付税額控除制度なども提唱されているようですが、一種の思考実験として、国民年金や健康保険などを発展的に解消して住民税均等割に含め、所得税・住民税についても大幅簡素化と大幅減税するなどを検討する価値があります。

年金制度の崩壊は必然

年金というネズミ講

当ウェブサイト冒頭では最近『イチ押し記事』一覧(現時点で5つ)を掲出しているのですが、これらの記事、主張の共通点は、「現在の日本では現役層の重すぎる負担で現在の高齢層の生活(年金、医療、介護)を支えている」、とするものです。

最近のイチ押し記事(現時点)

端的にいえば、これがネズミ講状態となってしまっています。

読者の皆さまもご存じの通り、ネズミ講とは一般に後から入る人がすでに入っている人に対して金銭を上納するシステムであり、ネズミ講は新たに加入する人がすでに恩恵を受けている人を上回っている限り機能しますが、新規会員がいなくなれば、やがてすぐに立ち行かなくなります。

このままだと、年金制度の崩壊は必然であり、不可避なのです。

年金賦課方式という詐欺方式

年金の賦課方式がわかりやすいでしょう。端的にいえば、詐欺方式そのものだからです。

現在の日本では、年金は基本的に「賦課方式」といわれる方法を採用していますが、これは現役層から徴収された保険料が(多少は年金積立金管理運用独立行政法人=GPIF=が運用しているにせよ)基本的にはそのまま現在の高齢者への給付に廻る仕組みです。

現在でもすでに、高齢者らへの給付を維持するために、現役のサラリーマン層は月収に対して9.15%の金額を「厚生年金保険料」と称して徴収されており、しかも被用者本人からわからないところで、「雇用主負担分」と称して9.15%を二重に支払わされています。

また、厚生年金保険料の上限は、現在は標準報酬月額65万円(つまり月額保険料は本人負担部分59,475円、雇用主負担分と合わせれば118,950円)ですが、これが数年後に月額75万年に引き上げられ、該当する人の月額保険料は本人68,625円、雇用主分と合わせて137,250円に増えます。

当ウェブサイトでは、「社会保険料」と呼ばれる者は事実上の税金(老人福祉税)だと考えている次第ですが、このような理解に基づけば、これは間違いなく「増税」です。なぜ増税せざるを得なくなったのかといえば、年金の水準を維持するために、現役層からさらに「賦課金」を奪う必要があるからです。

破綻を先送りするための弥縫策だけは必死

しかも、今回の厚生年金保険料値上げにもかかわらず、やはり年金財源は将来的に不足する見通しもあるため、保険料値上げの動きは問題の先送り(しかもほんの少しの先送り)に過ぎず、抜本的解決にはつながりません。

つまり、賦課方式というネズミ講が限界に達していることは明らかなのですが、残念ながら現在の石破茂政権や最大野党・立憲民主党がこの問題に正面から取り組んだ形跡はありません。いわば、年金制度の破綻を防ぐための弥縫策だけは必死なのです。

しかも、あろうことか、厚年保険料の積立金を国民年金加入者への年金支給に流用額を拡大する法案まで可決させています。

ちなみに当ウェブサイトの読者コメント欄などを眺めていると、現在の賦課方式がいかに優れているか(あるいは賦課方式がやむを得ないものであるか)とでも言いたいかのような屁理屈が定期的に寄せられますが、どれも詭弁であり、正直、まともに取り上げる価値すらありません。

そもそも年金は長生きリスクと強制貯蓄

くどいようですが、少なくとも一般に年金システムは積立方式により運営するのが鉄則です。

年金システムにはいくつかの目的があるのですが、著者自身の理解に基づけば、その最たるものは「長生きリスクへの対応」と「強制貯蓄」です。

人間は高齢化すれば働けなくなるとされますが、平均寿命以上に生きる人と平均寿命を迎える前に不幸にして亡くなってしまう人がいるなかで、長生きできなかった人から長生きした人に所得を移転させることで、社会全体を安定化させるという意味があります。

また、将来自分が何歳まで生きるかわからない場合に、人々は将来のことをあまり考えずに、今を楽しむためだけにおカネを使ってしまうかもしれず、そうならないためには本人の所得水準に応じて、なかば強制的におカネを取り上げて国が代わりに貯蓄・運用してあげて、将来それを年金として返してあげるという機能もあります。

年金の2つの機能
  • 長生きリスクへの対応
  • 国家による強制的貯蓄

そして、年金をこのようにとらえるならば、これらの役割を現在のわが国の年金制度(国民年金と厚生年金)が十分に担っているとはいえません。

まず、「長生きリスクへの対応」(長生きしなかった人から長生きした人への所得移転)という意味では、受給開始年齢が減非金年齢よりも大幅に低い65歳であるという時点で、制度として矛盾しています。

寿命が長くなり、多くの人が65歳を迎えるなか、現在の日本の年金は、「長生きリスクへの対処」という意味で、すでに完全に破綻しているのです。

限界費用と限界受給額の関係がおかしい

数学的に定義する年金の負担と給付

ただ、年金の2つの機能という側面で見ると、もうひとつの「国家による強制貯蓄」に関しては、これはもう完全に破綻していると断言せざるを得ません。『【千年安心】の年金に向けて日本は厚生年金を廃止せよ』でも指摘したとおり、日本の年金、とくに厚生年金については、明らかに払い損であるからです。

日本の厚生年金について、生涯で負担する保険料(便宜上「N」とします)と将来の受給額(便宜上「P」とします)には、ざっくりいうと、次の①、②式のような関係があります。

①式:N=0.183000×S×T

②式:P=0.005481×S×T+K(T)

ただし

  • N:生涯保険料(※なお、労使合計とする)
  • S:平均標準報酬月額(※なお、65万円を上回らない)
  • T:加入期間月数(2003年4月以降)
  • P:将来の年金受給見込額(年額)
  • K:基礎年金部分(加入期間Tに応じて決まり、報酬と無関係)

K(T)の部分については若干不正確ですが、標準報酬月額とは無関係に決定される部分であり、厚生年金の制度的欠陥(払った保険料と受け取る年金の割が合わないこと)を指摘するうえでは無関係ですので、ここでは無視していただいて構いません。

割引現在価値を無視しても回収するのに33年かかる

ここで指摘しておかねばならないのが、日本の年金制度は限界費用と限界受給額の関係がおかしい、という事実です。限界費用と限界受給額はそれぞれ①式と②式を平均標準報酬月額(S)で微分した導関数、、つまり次の③、④式で考察することができます。

③式:ΔN/ΔS=0.183000×T

④式:ΔP/ΔS=0.005481×T

③式の意味は、生涯支払う限界年金保険料は加入期間に18.3%を乗じた金額に等しくなるという、ごく当たり前のことを述べており、また、④式も限界受給年金額は加入期間に1000分の5.481を乗じた額に等しいという、これも法令に照らして当たり前のことを述べています。

しかし、この③式を④式で割ると、どうでしょうか(⑤式)。

⑤式:ΔN/ΔP=33.39年

この⑤式の意味は、あなたが支払った年金保険料(※労使込み)を将来受け取る年金で回収するために必要な年数を意味しています。早い話が、65歳から年金の受給を始めたときに、あなたは33.39年生きなければ、支払った保険料を回収することすらできない、という意味です。

しかも、この計算式には割引現在価値の概念が含まれていないため、割引現在価値を考慮したら、実質的な回収可能年数は(加入期間や想定割引率にもよりますが)50年を大きく上回るかもしれません。65歳で年金受給し始めて、115歳まで生きなければ元が取れない、というわけです。

なんだか、メチャクチャですね。

厚年保険料1万円で年金は年額300円しか増えない!

同様に、④式を③式で割った場合も、メチャクチャな数字が出て来ます(⑥式)。

⑥式:ΔP/ΔN=2.995%

この2.995%というのは、平たく言えば、報酬比例部分の還元率のことです。

あなたが保険料を払ったとしても、将来受け取る年金(報酬比例部分、年額)がその保険料に対して2.995%しか増えない、ということを意味しており、いわば、あなた(とあなたの雇用主)が1万円の保険料を支払っても年間300円しか返ってこない、ということです。

また、あなたが支払った保険料に割引現在価値の考え方が反映されていないという意味では、⑤式との関係とも同じことがいえますが、期待運用利回りを考慮すれば、厚生年金はさらに割に合わない、まさに詐欺的な制度そのものであることがわかります。

日本のように家計貯蓄率が高い国でこうした強制貯蓄に意味があるのか、といった疑問点もありますが、ただ、シンプルに日本の厚生年金制度は「国家による強制貯蓄」にすらなっていない、ということです。

また、ついでに指摘しておくと、国民年金については徴収した保険料に対し、給付額がまったく足りておらず、厚生年金からの資金の流用が常態化しています。徴収した保険料では年金支給額に足りないから、半額を税金から投入することとされているにも関わらず、です。

日本の年金制度の本質は「所得の再分配」

では、日本の年金制度、いったい何者なのでしょうか。

敢えて「詐欺」という用語を使わずに、最大限好意的に表現するならば、「所得の再分配」です。

厚生年金はサラリーマン(とその雇用者)から多額の保険料を徴収するわりに、ほんのちょっぴりしか還元されない一方で、自営業者を中心とする国民年金は月額約17,000円の保険料を20歳から60歳まで支払った場合、65歳以降に年額約83万円の年金が支給されます。

また、年金は世代間の所得移転でもあります。現在でいえば俗にいう「団塊の世代」以上の年代に対する現役層からの所得移転であるといえます。

したがって、(少なくとも現在の日本では)年金は「サラリーマンから自営業者への所得移転」であり、「現役層から団塊世代などへの所得移転」であるのです。

年金は所得移転である
  • 年金はサラリーマンから自営業者への所得移転である
  • 年金は現役層から団塊世代層以上への所得移転である

しかも、単なる所得移転ではありません。日本の年金制度とはサラリーマンから自営業者への、現役層から高齢層への所得移転であり、最大の問題点は、この所得移転自体が「貧富の格差の是正」にすらなっていない、という点です。

一般にわが国では現役層よりも高齢層の方が金融資産などの財産を多く保有しているとされますが、いわば、資産を持たない現役層が給料等の一部が強制徴収され、それが高齢層に強制的に移転する機能があるといえます。

また、サラリーマンが加入する厚生年金から自営業者らが加入する国民年金への所得移転も行われていますが、サラリーマンよりも自営業者の方が豊かである、というケースもあるにもかかわらず、自営業者は収入に比例して保険料を徴収されたりすることはありません。

日本の年金、まるでダメ…だから厚生年金を解体すべき

つまり、現在の日本の年金制度には、「貧富の是正になっていない」、「保険にすらなっていない」、「貯蓄にすらなっていない」という問題点があるのです。

日本の年金制度の問題点
  • 貧富是正になっていない
  • 保険にすらなっていない
  • 貯蓄にすらなっていない

要するに、日本の年金、まるでダメ、ということです。

これが、当ウェブサイトで繰り返し、日本の年金制度を解体しなければならなないと強調しているゆえんです。

ただし、年金制度をいきなり廃止すると、現時点で厚生年金を受給している人たちが生活に困りますし、すでに法に従い発生している年金受給権を奪うことはできません。

だからこそ、『資金循環的に数百兆円の年金国債で厚生年金廃止は可能』でも述べたとおり、著者自身は「年金国債」を発行して厚生年金制度そのものを解散すべきと考えているわけです。

先日のざっくりした計算では、現に厚生年金を受給している人たちに対し、生涯年金を支給するためにざっと320兆円、現役層への年金保険料の返還でざっと280兆円、合計で600兆円もあれば、年金制度が廃止可能だと申し上げました。

GPIFが現在運用している年金資金残高約400兆円あまりのうちの300兆円、政府が発行する年金国債約300兆円を合わせた600兆円を使えば、この厚生年金制度を清算するための600兆円という原資は十分に捻出できる計算です。

もちろん、著者自身の計算はざっくりしているため、100兆円単位の過不足は生じ得ますが、それでも「現在のGPIFの運用残高と年金国債で厚生年金を清算する」という発想自体は、決しておかしなものではありません。

もっとも、実務的には厚生年金解散・基金払い戻しで株式売却を行うと生じるであろう株式市場などへの混乱をどう回避するかがポイントとなるため、一気にGPIFを解散し一気に年金国債を発行することは非現実的と考えていますが、このあたりは要検討項目のひとつでしょう。

このため、厚生年金を解散し、各厚生年金加入者への要返還額を確定したうえで、その要返還額を原資としたうえで、積立方式による新たな報酬比例年金制度、あるいは公的貯蓄制度を設立しても良いかもしれません。

ただ、このあたりの制度設計などについて考察し始めると、議論が「年金問題」から外れてしまうため、いずれ機会があればどこかで触れることにし、本稿では詳細を割愛したいと思います。

ではどうすれば良いのか

「国民年金に一本化」はひとつのアイデア

いずれにせよ上述の通り、年金の本質は「老後の(最低限の)生活保障」にあるのだと考えるならば、それを現在の年金(国民年金と厚生年金)が担っているとは考え辛いところです。

現在の国民年金や厚生年金は不平等な所得移転(サラリーマン→自営業者、現役層→高齢者)であり、また、貯蓄制度でもなければ保険制度でもなく単なるネズミ講になり果てているからです。

ただ、それと同時に当ウェブサイトとしては、少なくとも厚生年金については早急に解散すべきと考えているわけですが、その一方で、国民年金までも解散するのは非現実的と考えています。さすがに原資が足りませんし、また、国民年金は厚生年金と異なり、そこそこ有利な払い戻しが受けられる制度でもあるからです。

もちろん、「有利な払い戻しが受けられる」の大きな原因は、年金が国庫から半分支払われるという(ある意味では詐欺的な)仕組みが用いられているためです。

問題は、国民年金それ自体では採算が取れず、税金の投入や厚生年金からの盗用でなんとかごまかして運用されていることであり、やはり負担と給付の再調整は必要です(とくに厚生年金を解散してしまうと国民年金は盗用すべき基金がなくなってしまいます)。

ただ、現実問題として、月額約17,000円という保険料水準ならば、(とくにサラリーマンにとっては)現在の労使合わせて月収の3割を奪っていく制度と比べて、保険料負担が劇的に軽くなるというメリットがあることも事実でしょう。

機能を絞って再構築すべき

そこで、いっそのこと国民年金については純粋に「最低限の老後の生活保障」を目的とする公的給付制度に作り変えてしまう、という発想は成り立つでしょう(もちろん、解散できる原資があるならば解散し、新たな積立年金制度に移行すべきという考えもないではありませが、これについて本稿ではとりあえず脇に置きます)。

先ほど、年金には一般に、「長生きリスクへの対応」、「国家による強制貯蓄」という2つの目的があると申し上げましたが、このうち「国家による強制貯蓄」という側面が強いのは厚生年金であり、「長生きリスクへの対応」という側面が強いのは国民年金です。

保険料が一律の国民年金については、「国家による強制貯蓄」という性質は薄まるからです。

また、現実問題として現在の日本の年金制度には「所得移転制度」という役割が含まれていることを踏まえると、現在の国民年金制度については大幅に制度を作り替え、国民一律の金額負担で「老後の最低限の生活保障」なども兼ねて、最低限の所得移転制度にしてしまうというのはひとつの発想です。

現在の年金制度の問題点をどう解消するか
  • 貧富是正になっていない→最低限の貧富是正機能を持たせる
  • 保険にすらなっていない→最低限の長生きリスク対応とする
  • 貯蓄にすらなっていない→公的貯蓄の機能を完全に削除する

保険料ではなく税金の均等割にしてしまう

具体的には、現在の所得税・住民税の制度を改造し、国民年金については住民税の均等割(現在だと年間4,000円+森林税1,000円)に埋め込む形で徴収し、国民年金自体を発展的に解消してしまう、という考え方はあるかもしれません。

つまり、「年金保険」と名乗るのをやめて、一種の「年金税」として、全員一律で徴収すれば良いのです。

なんなら健康保険料や介護保険料も所得と無関係に定額とし、住民税均等割に加算しても良いかもしれません(ただし、いわゆる「3号保険者」の問題をどうするか、などの整理も必要ですが、ここではとりあえず純粋に「制度設計」の問題を考えます)。

現在の国民年金保険料が毎月一律で約17,500円(=年額約21万円)、国民年金の年間保険料の最低額が64,100円(×世帯の加入者数)であることを思い出しておくと、自営業だろうがサラリーマンだろうが、年金と健保で合計して年額一律30万円程度を徴収すれば良いのではないでしょうか。

もちろん、サラリーマンの社会保険料(厚年保険料、健康保険料、介護保険料)とその会社負担分の徴収制度は廃止すべきです。

この点、所得税法には現在、社会保険料控除というものがありますので、国民年金・厚生年金を廃止したらなくなってしまう社会保険料控除に相当する金額は基礎控除の大幅引き上げで対処し、実質増税にならないように配慮しなければなりません。

ついでに税制の大幅簡素化を図るべき

ただ、それ以上に考えておかねばならないのは、税の設計の簡素化と税負担の大幅な軽減です。

たとえば所得税、復興税、住民税(所得割)の3税は、現在は7段階となっていて最高税率が55.945%にも達しています(図表1)。

図表1 所得税・復興税・住民税の現在の実質的な税率
課税所得所得税+復興税+住民税
1,000円~1,949,000円5%5.105%15.105%
1,950,000円~3,299,000円10%10.210%20.210%
3,300,000円~6,949,000円20%20.420%30.420%
6,950,000円~8,999,000円23%23.483%33.483%
9,000,000円~17,999,000円33%33.693%43.693%
18,000,000円~39,999,000円40%40.840%50.840%
40,000,000円~0円45%45.945%55.945%

(【出所】当ウェブサイト作成)

上記のような税率体系を、たとえば復興税を廃止し、所得税と住民税を一本化したうえで(住民税の均等割部分を除いて)、現在の7段階となっていて最高55.945%となっている合計税率についても3段階程度に簡素化したうえで大幅減税してみてはどうでしょうか。

たとえば課税所得500万円程度までは非課税とし、500万円以上・1000万円までは10%、1000万円以上・2000万円までは15%、それ以上は20%、と3段階くらいにすればシンプルです(図表2)。

図表2 所得税+住民税の簡素化案
課税所得所得割均等割
0~500万円0%30万円
500万円~1000万円10%30万円
1000万円~2000万円15%30万円
3000万円~20%30万円

もちろん、社保をなくす以上、課税所得の計算上、基礎控除の額で配慮が必要です。

また、均等割がすべて30万円ですが、これは純粋に、現在もすべての成人に義務付けられている国民年金や健保の保険料が均等割として乗っかるだけの話ですので、増税ではありません(※もちろん、社保控除がなくなる分も含め、基礎控除の額を現在よりも少なくとも200~300万円引き上げることが前提ですが…)。

そのうえで、たとえば65歳以上で年収が200万円に満たない人に対し、国民年金から最大年間100万円までの年金を支給することとし、その原資として、すべての人から徴収される均等割に加え、高額所得者の累進税収(1000万円以上の層の5%分、3000万円以上の層の10%分)を充てればよいと思います。

こうすることで、年金の「最低限の生活保障」と「最低限の富の再配分」の問題が解消します。

社会保障制度改革とセット

この図表2を見ると、「現在の一般会計でこの税率じゃ足りないのではないか?」、などと思う人もいるでしょうが、社会保障支出が年間100兆円を超えていること、その大きな原因が年金や老人医療費であることなどを踏まえると、このあたりの流れを透明化するだけで、収支バランスは大幅に改善します。

とくに『後期高齢者医療費2割負担化が注目に値する理由とは?』でも述べたとおり、後期高齢者医療費については少なくとも9割引医療をやめ、応急措置的に全員一律で現役並みの3割負担(場合によってはそれ以上の負担)とする措置の導入は急がれます。

(※なお、後期高齢者医療費については3割負担にするだけでは不十分であるとするのが当ウェブサイトにおける見解ですが、これについては『後期高齢者医療費2割負担化が注目に値する理由とは?』をご参照ください。)

いずれにせよ、税制は簡素であることが重要であり、また、社会制度改革は「着地点」を見ながら設計することが大切です。

せっかく自民党総裁選で「給付付税額控除」など、将来的な年金制度の設計変更につながる可能性もある構想も出てきているわけですから、「どのような社会保障が望ましいか」を思考実験しておくのは有意義な試みではないかと思うのですが、いかがでしょうか?

本文は以上です。

金融評論家。フォロー自由。雑誌等の執筆依頼も受けています。 X(旧ツイッター) にて日々情報を発信中。 Amazon アソシエイトとして適格販売により収入を得ています。 著書①数字でみる「強い」日本経済 著書②韓国がなくても日本経済は問題ない

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読者コメント一覧

  1. 時代遅れse より:

    日本の現状は為政者の統制が効かない強い官僚体制であるとすれば、年金制度も含めて現在を作り上げてきたのは旧態依然とした自民党や野党だろう。官僚は選挙による選別ができないから政治家がスケープゴートとしてトカゲの尻尾切りのごとく振るい落とされるだけで強い官僚制は崩れない。
    それをどうにかする方法は国民目線による国政のモニタリングおよび政官融合態勢の解消のために「キレイに見える」つまり癒着してないように見える政党を支持することになるだろう。
    新宿会計士さんの年金改革案は前者のモニタリングの一環として盛り上げるべきこと。
    後者については今起こっている自民党崩壊およびナショナリズムへの追い風だろう。安倍総理の時代の振り子が石破総理で反対側に振り切って再度高市総裁で挙党体制が作れれば官僚への統制がすこしはマシになるかもしれない。
    しかし、自民党内では左だ右だと争っているようだが、実際に分断されているように見えるのは、政官癒着体制+マスコミ(+後期高齢者)と、現役世代+SNSでのモニタリング。自民党という入れ物の中でどこまでできるのか、という疑問はある。

  2. 元雑用係 より:

    積立方式から賦課方式に移行した理由がオイルショックなどの過度の物価高騰がキッカケだったそうですから、今後仮に年金を積立方式に移行するとしても、オイルショック並みの物価高騰には耐えられない制度であるとの前提を国民と共有する必要があるのだと思います。絶対の安心など無いのだと。
    それでも、強制年金制度がなければ無年金者は増えそれらを生活保護で賄えば財政圧迫要因となるでしょうから、たとえ絶対の安心ではなくても強制年金制度は作るべきなのでしょうね。

    こんな議論をリードできる政治家が現れるかというと・・・

  3. 丸の内会計士 より:

    日本の年金制度は抜本的に改革すべきですが、自民党の総裁選の議論を聞いても、真面目に考えてないですね。アメリカへの80兆円の贈与についても総裁候補からのコメントなし。完全にスルーしています。自民党は信用できないですね。80兆円を融資や融資枠だと言って、誤魔化そうとしていますが、トランプのSPVに80兆円融資してもアメリカにも倒産法かあるので、倒産法を活用されてしまえば、日本は回収ゼロ円です。これでは80兆円の贈与でしょう。

  4. 農民 より:

     政治に関心を持った頃にはもうすでに年金の問題はあがっていました。昔からいつかはどうにもならなくなるとわかりきっていたものが、ドラスティックに解決を図ろうとすれば(直ちに着手してすら)600兆円もかかるほどまで先送りされ続けたというのも途轍もない話ですね。
     逆に言えば、コストの自然縮小があり得ない以上、「他に良い(ラクな)手はないか」などと言っていないで一刻も早くやらざるをえないように思えます。

    (ミスター年金とかいう方への罵詈雑言を書き連ねたら無駄に長くなったのでバッサリ消しました)

  5. 同業者 より:

    「住民税の均等割で徴収」は良いアイディアですね。
    シンプルですし、長年の徴収漏れの問題が解消されます。

  6. 匿名 より:

    障碍者年金と遺族年金の原資である事を忘れずに。

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