立憲民主党が石破茂政権の延命に加担したらどうなるか
「対決より解決」は国民民主党のキャッチフレーズのようなものでしたが、これを最大野党である立憲民主党の野田佳彦代表が使ったときには、XなどSNSではちょっとした話題となったようです。ただ、立憲民主党は最大野党ではあるものの、政党支持率で見たら国民民主、参政の両党に劣後し4番手となることが増えてきました。こうしたなかで、国民から信を失いつつある自民党・石破政権の延命に加担することは、立憲民主党にとって本当に良いことなのでしょうか?
目次
最大野党の存在意義
一般論ですが、議会制民主主義の国では、最大野党とは「政権与党が信を失ったときに、いつでも政権を担い得る存在」を意味するはずです。
現在の日本では自民党が最大政党であり、これに公明党が加わるかたちで連立政権が形成されていますが(※自民単独だと長らく参院側で過半数を喪失しています)、もしも国民がこの自公政権に「NO」を突き付けたときには、その時点の最大野党が政権与党の座を獲得する可能性が高いのです。
実際、2007年の参議院議員通常選挙では、安倍晋三総理大臣率いる自民党が大敗を喫し、当時の最大野党だった民主党が参院第1党に躍り出ましたし、その2年後の2009年の衆議院議員総選挙では、麻生太郎総理大臣率いる自民党がやはり大敗を喫し、民主党が政権を獲得しました。
この一連の政権交代劇が日本のためになったのかどうか、という点については、あえて触れません。
ここで重要なことは、「政権交代を有権者が選んだら、その時点の最大野党が政権の座に就く可能性が非常に高い」、という一般原則です。
小選挙区では政権交代が生じやすい
そのうえ、日本の選挙制度、とくに衆議院議員総選挙においては、政権交代が発生しやすいよう、「小選挙区比例代表並立制」というものが採用されています。
2009年衆院選のケースでいえば、民主党は308議席と当時の議席定数(480議席)の3分の2近くを獲得して圧勝しており、これに対して自民党は119議席しか獲得できずに惨敗しています。つまり、自民と民主の議席数には3倍近い差がついた格好です。
なぜここまで極端な差がつくのかといえば、衆院の場合は小選挙区、つまり「その選挙区で勝ち残れる候補者は1人しかいない」という仕組みが採用されていて、定数480議席のうち300議席がこの小選挙区に配分されていたからです(現在は定数465議席に対し小選挙区は289議席)。
日本の場合はほかにも比例代表に議席が配分されていますが、配分されている議席は小選挙区と比べて少なく(当時は180議席、現在は176議席)、多くの場合、小選挙区側で生じた議席数の大きな差を埋めることはできません。
実際、2009年のときは、小選挙区で民主党が獲得した票は3348万票であり、自民党の2730万票と比べて617万票しか差がついていませんでした。それなのに、小選挙区で獲得した議席は民主党が221議席だったのに対し、自民党は64議席に過ぎなかったのです。
2009年の小選挙区における得票差
- 民主党…33,475,335票⇒221議席
- 自民党…27,301,982票⇒*64議席
- 差引き…*6,173,353票⇒157議席
諸外国でも政権交代を促す選挙制度は存在する
もちろん、この仕組みが不平等だ、とする指摘もあります。
2009年のときのように、ちょっとした得票の差が獲得議席に大きな差をもたらすからです。
ただ、小選挙区という仕組みは、政権交代を生じやすくするという狙いがあるとされ、この選挙制度をわが国は30年近く使ってきたわけであり、また、諸外国でも先進国を中心に、小選挙区制度は広く採用されています。
さらに、過去のギリシャのように、第1党になった場合は議会(一院制、300議席)においてその第1党に50議席が追加配分される、といったシステムを採用していたケースもあるなど、最大政党を大きく優遇することですなわち、政権交代を促進する選挙制度は、べつにおかしなものではありません。
こうした観点からは、最大野党は、「いつ政権交代が生じても大丈夫」、あるいは「いまの与党を政権から放逐し、自分たちこそが政権を担う」という気概や責任があって然るべきなのです。
立憲民主党はむしろ昨年衆院選で得票を減らした
ただ、現在の日本における最大野党に、こうした気概や責任はあるのでしょうか?
日本の最大野党といえば立憲民主党ですが、同党は2017年の結党以来、8年の歴史を持っています(※ただし、厳密には2020年に一度解散し、新しく同じ名称の政党が結党されているため、法人格は継続していませんが、ここでは「実質論」で議論します)。
しかし、少なくとも同党が結党以来、政権を担ったことは一度もありません。
自民党が石破茂首相の「ズッコケ」により大敗を喫した昨年秋の衆院選においてすら、最大政党になることはできませんでした。
立憲民主党は2021年選挙と比べ獲得議席数を52議席ほど増やしたのですが(自民党は68議席減らしています)、内訳で見ると比例では5議席しか増やしておらず、増えた主因は小選挙区の47議席です。
しかも、得票数で見ると、小選挙区で立憲民主党はむしろ147万票も得票を減らしているのです。前回選挙と比べ得票が減っているのに議席が増えるというのもおかしな話ですが、小選挙区でライバル政党である自民党が676万票減らしたため、立憲民主党が相対的に議席を増やしたにに過ぎません。
今年の参院選では参政党や国民民主党が全国的に得票を伸ばしている現象が確認できましたので、次回衆院選では両党が選挙協力を行ったうえで、全国各地の小選挙区で候補を立てまくれば、自民、立憲民主両党からゴッソリと票を奪うことも夢ではありません(両党が選挙協力をするかどうかは別ですが)。
すなわち、現在の国内政治シーンにおける特徴は、「弱い自民党」であると同時に「弱い立憲民主党」でもあるのです。
支持率でも4番手に!?
そのうえ注目すべきは、メディアの政党支持率でしょう。
『自民党が再生する「唯一の方法」』などでも紹介したとおり、いくつかのメディアが実施する世論調査でも、政党支持率はだいたい自民党がトップで2番目と3番目に参政党と国民民主党(※両党の順序は入れ替わることがあります)、そして立憲民主党はだいたい4番手です。
政党支持率 JNN(8/2~8/3)
- 自民…20.4%(▲0.4)
- 参政…10.2%(+4.0)
- 国民…*8.7%(+2.8)
- 立民…*6.9%(+0.6)
- 公明…*4.0%(+0.1)
- れ新…*3.1%(▲0.1)
- 維新…*2.7%(▲1.4)
- 共産…*2.1%(+0.4)
- 保守…*1.8%(+0.7)
- 未来…*1.6%
- 社民…*0.3%(▲0.5)
政党支持率 時事通信(8/8~8/11)
- 自民…15.7%(▲0.7)
- 参政…*7.6%(+2.9)
- 国民…*6.8%(+3.7)
- 立民…*5.5%(+0.0)
- 公明…*3.7%(+0.6)
- 維新…*2.4%(+0.9)
- 共産…*1.8%(+0.2)
- 保守…*1.6%(+0.5)
- れ新…*1.5%(▲0.6)
- 未来…*0.6%
- 社民…*0.5%(+0.2)
憲政において「最大野党」とは、「いつでも政権交代が生じ得る」なかで、「最も政権に近い政党」であるはずなのですが、(調査対象が高齢者にかなり偏っているという疑いがある世論調査においてさえ)少なくとも支持率で2位を保てていないのが現状です。
対決より解決?
こうしたなかで、立憲民主党の動きとして注目すべきものがあるとしたら、これかもしれません。
立民代表、解決路線へ傾斜 新興勢力伸長に焦り 実績作り、危ういかじ取り
―――2025/08/18 07:02付 Yahoo!ニュースより【時事通信配信】
時事通信が18日に配信した記事によると、立憲民主党の野田佳彦代表が、「政策で一致点を探る解決路線へ傾斜しつつある」のだそうです。その証拠として時事通信が引用するのが、野田代表の8日の記者会見における、こんな発言です。
「『対決より解決』のすごいチャンスだ」。
余談ですが、この「対決より解決」は国民民主党のキーフレーズのひとつですが、XなどSNSでは「立憲民主党が国民民主党を真似た」として、ちょっとした話題になっていたりもします。
それはともかくとして、時事通信は立憲民主党の最近の動きとして、同党が提唱する「給付付き税額控除」を巡って自民党との政調会長レベルでの接触があったと指摘。企業・団体献金の見直しを巡っては「党首会談を視野」に入れている状況だとしています。
このあたり、最大野党に期待される役割は「与党が有権者の信を失ったときに自分たちが与党になる」ことだと考えるならば、対決路線よりも対話により是々非々で解決を図るのは当たり前の話ですが、こうした「当たり前の行動」を取ることで他の野党からも批判される、というのも、なんだか不思議な話です。
年金流用法に続き石破政権の延命に加担する
ただし、立憲民主党は先月の参院選でも伸び悩んだことは事実であり、これについてはおそらく、「非自民」イコール「立憲民主党」、という時代が終わりを告げたという、非常に大きな地殻変動が存在することは間違いありません。
立憲民主党は例の「年金流用法案」により、おそらくは非常に多くの現役層からの強い反発を食らったのではないかと個人的に考えているのですが(選挙結果や世論調査結果もそれを裏付けています)、問題はおそらくそれだけではありません。
「対決より解決」を旗印に、有権者からの信を失っているはずの石破政権の延命に加担していると見られれば、次の選挙では「自民党に代わる第1党」どころか「4番手への転落」、「最大野党の地位返上」といった憂き目に遭う可能性もゼロではないでしょう。
「最大野党であること」という強みを失ったときに、立憲民主党が存続できるのか―――。
興味は尽きないところです。
本文は以上です。
金融評論家。フォロー自由。雑誌等の執筆依頼も受けています。 X(旧ツイッター) にて日々情報を発信中。 Amazon アソシエイトとして適格販売により収入を得ています。 著書①数字でみる「強い」日本経済 著書②韓国がなくても日本経済は問題ない日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
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岸田政権の時まではあれだけ審議をサボったり、内閣他の不信任案を乱発しておいて(しかもその時も度々対話云々と言ってました)、今になって「対決より対話」と言ったところで発言がブレまくりの立憲の戯れ言を誰が信じるのでしょう。既に年金改悪に荷担しておいて有権者に媚びるなど、厚かましさも底無しです。一方で石破内閣に不信任案を提出しなかった事で先鋭化した支持者からは反発が出るなど、ブレまくりの発言で立憲は自らの首を絞めてますね。このまま石破内閣にすり寄れば、待っているのは大幅な議席減と野党第一党からの完全転落でしょうね。
昔、昔、あるところに、地方の労働者や地●公務員の助けを受け、さらにオールドメディアを味方に、政権交代を成し遂げた党がありました。
その党は、政権を取った途端、オールドメディアを除いて、助けた者たちを後ろから斬り捨てました。
数年後、彼らは、悪夢だったとその時のことを忘れました。
斬り捨てられた者たちの傷跡は、まだ残っているというのに。
衆議院選挙を早く実施してほしい。
どうしようもない今の状況を打破するには、より右傾化した、タカ派的で、非財務省派の議員に増えてもらうべき。
媚中議員不要。
それに、与党と野党の党首がお友達同士というのは、危なすぎる。
将来が暗くなるだけ。
最悪のシナリオ「増税大連立政権」ができないのは、ひとえに衆議院が小選挙区制で、候補者の調整がつかないからです。衆議院が小選挙区制でよかった。
安倍総理366日(一次)
麻生総理358日
菅総理ⓢ384日
・
・
石破総理322日(現在)
生産性のない居座りは、ロスタイムの消化ではなく、タイムロスの生成に過ぎない。
タイムカードを手に持ちて、打刻のときを待つかの如き愚行ですね。(給与ドロやん)
・・・・・
>立憲民主党が石破茂政権の延命に加担したらどうなるか
連立でもしようものなら、自身のやらかしに甘い、新左党(シン・サトウ)の誕生ですね。
みえた! 党首が傷口を舐めあう未来!! その名も『日本グラニュー党!!!』・・。
もしくは、C国におもねる「近平党(こんぺいとう)」とか・・!
m(_ _)m
毎度、ばかばかしいお話を。
石破総理:「総理在任期間は、第一次安倍総理を超えるまで、総理を辞めんぞ」
まさか、最初からそれが目的?
石破茂が自民党総裁を退いても、岸田派石破派と立憲民主党が組んで総理続投させそう。左翼にとって都合のいい内閣だし。
しめしめ。弱い自民党こそ、われわれ野党が望んできたものだ。
朝日新聞によると、「世論調査で石破総理続投の支持が高いのは、判官びいきで、元安倍派を叩いているからではないか」とのことです。ということは、石破総理続投になったら、石破総理への判官びいきもなくなる、ということになりますね。
発行部数が落ちている朝日新聞は、前より国民への影響力(?)が落ちてきているのに、朝日新聞内部では、昔と同じ影響力があることになっているのでしょう。
朝日でも斜陽とは…
自転逆回しで昔日の栄光だけを観ているンやろナァ
自民党前倒し総裁選で、石破総理退陣になると決めつけているのではないでしょうか。石破総裁再選の可能性も、あるのではないでしょうか。(なにしろ、世論調査では、石破続投が支持されていますから)
立憲民主党と言えば
1,紙の保険証を残す
2,外国人参政権の導入
これだけで誰のための政治をするのかが良く分かります
ああ恐ろしい。
日本が壊れる