ドイツで鉄道遅延が頻発…日本が無視できないその理由

日本を訪れた外国人観光客の多くが驚くのが日本の鉄道の定時性だそうですが、海外に目を転じてみると、ドイツの鉄道の運行が非常に杜撰で遅延率も非常に高いのだそうです。とくに先月はドイツで車両が汚れすぎて運行停止という前代未聞の珍事まで発行しています。ただ、ドイツで遅延率がとくに高い理由について、欧州鉄道フォトライターの橋爪智之氏は、とある理由を説明します。

外国人観光客を積極誘致すべきなのか

日本政府観光局(JNTO)から16日に公表された6月の訪日外国人は3,377,800人(※速報値)で、過去最大だった今年4月の3,909,128人と比べれば、やや落ち着いている状況といえるかもしれません(図表)。

図表 日本を訪問した外国人合計

(【出所】日本政府観光局『訪日外客統計』データをもとに作成)

正直、著者自身は観光産業について、労働集約的でもあるうえに外貨稼得という観点からは効率が悪すぎると考えている人間であり、観光業を積極振興する必要性は見いだせないとする持論を持っているため、現在の日本国の受入キャパを超えて観光客を受け入れることには反対です。

たとえば▼現行の出国税(日本人だろうが外国人だろうが一律で千円)を廃止したうえで▼外国人短期入国者のみを対象に1人あたり数万円レベルの入国税の導入、▼消費税等の免税措置の廃止、▼危険な公道カートの取締強化ないし非合法化―――などを提唱したいと考えている次第です。

外国人が驚く日本の鉄道の定時性

ただ、それと同時に、「外国人の目から見た日本」という視点は、なかなかに興味深いものでもあります。

とりわけ日本国内を旅行したことがある外国人が一様に絶賛するのは、日本という国の清潔さもさることながら、公共交通機関の充実ぶりと、その正確性です。

少し古い記事ですが、『日経クロステック』に約2年前、こんな記事が掲載されていました。

日本鉄道の強み「定時運行」を生かすISO規格が150周年の日に成立

―――2023.03.24付 日経クロステックより

執筆したのは木崎健太郎記者です。

記事によると、日本が強みを持つ鉄道運行の正確性に関し、2022年10月14日に鉄道運行に関する国際規格・ISO24675-1が制定されました(ちなみに同規格の正式名称は『鉄道分野-輸送計画のための運転時分計算-第1部:要求事項』だそうです)。

同規格は日本国内の鉄道事業者の海外展開などを狙いに、日本の鉄道総合技術研究所の鉄道国際規格センターが中心となり、列車の定時運行に関して「ほぼ世界一といえるノウハウや実績」をベースに、日本のやり方を先回りして国際標準規格化したものだとか。

日経クロステックの記事自体は有料会員限定版ですが、無料で読める1ページ目だけでも、鉄道好きにとってはなかなかに興味深い記述で溢れています(これらについては本稿では引用しません)。

ただ、日本の鉄道の定時運行率の高さはなかなかに驚異的であり、一説によると、わが国では「遅延」の定義も世界で最も厳しいらしく、日本では数分単位の遅れも「遅延」とみなされるのに対し、諸外国ではそれは遅延にカウントされないとの情報もあります。

ドイツでは「汚すぎて運行停止」

その一方で、海外に目を転じてみると、意外な国が鉄道運行で悪評を受けているようです。

ドイツ国営鉄道、車内「汚れすぎ」で急きょ運行停止

―――2025年6月13日 12:12付 AFPBB Newsより

AFPの6月13日付の記事によると、ドイツ国営の「ドイツ鉄道」(Deutsche Bahn, DB)で先月10日、ミュンヘンとハンブルクを結ぶ都市間列車の運行が、途中のバイエルン州ニュルンベルクで突如として打ち切られるという珍事が発生したそうです。

しかも、その理由が「車内が汚れすぎているから」、というものだったのだとか。

いちおう、DB側の説明を信じるならば、「列車は誤って清掃されないまま運行に投入され」た、というものだそうで、記事によるとDBは「極めて例外的な事例」としつつ、「今後同様のミスを防ぐために対策を講じていく」と釈明した、などと書かれています。

欧州鉄道フォトライター・橋爪氏の記事が面白い

しかし、さすがに運行が途中で打ち切られるのは異常ですが、調べてみると、どうやらドイツの鉄道事情は大変に悪いらしく、その証拠のひとつが、昨年8月に東洋経済オンラインに掲載された、欧州鉄道フォトライターの橋爪智之氏が執筆した記事かもしれません。

ダイヤ通りは6割、ドイツ鉄道「遅延」の深刻事情/「時間に正確」は印象だけ?ラテン系諸国は改善

―――2024/08/10 04:30付 東洋経済ONLINEより

全部で3000文字少々の記事ですが、「ドイツの鉄道がよく遅延する」一方でフランスやイタリアといった「ラテン系諸国では遅延率が改善している」という、一見すると私たち日本人の常識に反する事実が述べられており、鉄道に興味がある人でなくても、グイグイ引き込まれてしまう内容です。

記事を全文転載することは控えますが、要旨はこんな具合です。

  • ドイツの鉄道の遅延状況は年々悪化の一途をたどっている
  • 2022年における定時運行率は65.6%と隣国スイスの92.5%と比べると30ポイント近く下回っている
  • スイスでは近年、ドイツからの一部列車の直通運転列車を中止しているほどだ
  • これに対し「時間にルーズ」という印象が持たれがちなラテン系諸国の定時運行率は、意外と悪くない
  • フランスはおおむね80%以上、イタリアも2022年に78%、23年上期には80.2%に達している

…。

なんとも意外です。

問題のひとつは「古さ」

ただ、ドイツの鉄道の遅延状況について調べたら、橋爪氏以外にも複数のライターなどがその事実を指摘しているため、おそらく橋爪氏の記事で述べられている事実は間違いないのでしょう。

ではなぜ、このような遅延率なのでしょうか。

これについての橋爪氏の分析が、なかなかに鋭くて驚きます。それは、大きくわけて2つの事情があるのだそうです。

ひとつめは、ドイツにおける鉄道が1835年に開通して以来、190年もの歴史を有しており、総延長約3.3万㎞にも達している一方、橋や高架橋といった構造物に加え、線路配置や駅構内の構造などのインフラシステムが古すぎる、という点です。

イメージ的には、日本の在来線のシステム上で新幹線も一緒に走らせているようなものでしょうか。

ただ、日本の在来線は軌間が1,067㎜という「狭軌」が採用されており、新幹線は軌間1,435㎜の(日本でいうところの)「広軌」が採用されていますが、欧州は多くの国においてこの軌間1,435㎜が採用されているため、在来線と新幹線が同じ軌道を走っている事例が多いようです。

それに日本の場合、(秋田・山形新幹線などを除いて)最初から新幹線という高速鉄道システムを在来線と切り離して建設したため、新幹線と在来線の線路配置、駅構造、各種構造物は最初から別物ですが、欧州では両社が混在している、ということなのでしょう。

橋爪氏によるとこの3.3万㎞もの路線網のすべてをすぐに改善することは難しいのだそうですが、これも当然のことといえるかもしれません。

なお、橋爪氏の記事では触れられていませんが、似たような事例としてはニューヨーク市地下鉄が思い当たります。同市では信号が古く、長らく地下鉄の増発・高速化が実現していなかったようですが、こちらについては日本企業の協力などもあってか、システムの置き換えが徐々に進んでいるようです。

ドイツという国土の特徴の問題も

ただ、もうひとつの特徴は、なかなかに興味深い指摘です。

橋爪氏によると、フランスやイタリアと比べると、ドイツは中小規模の都市が面状に広がっており、こうした地理的特徴が遅延を招く要因なのだとか。

いわれてみれば、ドイツは政治の首都がベルリンであるほか、金融の中心地はフランクフルト、出版・言論などメディアの中心地はハンブルク、あるいは産業・金融・メディアなどが拠点を置くミュンヘン、といった具合に、たしかにさまざまな都市が面状に広がっています。

こうした特徴に照らせば、ドイツの都市間高速鉄道も面状に広がるネットワーク型とならざるを得ません。

橋爪氏はこう述べます。

「面状に広がる鉄道システムは、ある1カ所で工事が発生すると、その影響はあっという間に他の地域へと波及していく」。

これに対し、中央集権国家であるフランスの場合は、首都であるパリと各地方都市を放射状に結べば良く、地方都市間の「横のつながり」はさほど重視されていないため、こうしたドイツ式の遅延が生じにくい、という特徴があるようです。

また、イタリアの場合は国が細長く、長距離列車の路線網も南北間のものが中心で、フランス同様に洗浄の運行形態が基本であるため、同様にドイツ式の遅延はあまり生じません。

これを日本についてあてはめたら、基本的には国家の中枢機能が東京に一極集中しており、それを補完する大都市も、西には名古屋、京都、大阪、神戸、岡山、広島、北九州、博多、北には仙台、札幌、とほぼ一直線に並んでいます。

よって、新幹線も北海道・東北新幹線、東海道・山陽・九州新幹線という2つの幹線を通せば、それで日本の人口の多くがカバーできてしまいます(ほかにも東京・新潟を結ぶ上越新幹線、将来的に北陸経由で大阪まで開通するとされる北陸新幹線などがあります)。

これに加え、先ほども述べたとおり、日本は在来線とは全く別に新幹線を建設したため、一部の路線を除き、在来線と平面交差する地点はありません。

つまり、ドイツの鉄道はシステムの古さと地形の複雑さという2つの要因が遅延という形で噴出している、という言い方もできるのかもしれませんが、著者自身に言わせれば、国土に必要な近代化投資を怠ってきた結果ではないか、という気がしてなりません。

日本にとっても他人事ではない

もっとも、前者の理由に関しては、日本だって他人事ではありません。

現在は定時運行率が極めて高い国として評判が良いかもしれませんが、少子化により働き手不足が深刻化し、新幹線などの幹線鉄道を含めたインフラが老朽化してくれば、現在のドイツと同じような「頻繁に遅延が発生する社会」になってしまう可能性はゼロではないでしょう。

民間企業であるJR東海が建設を進めている中央リニア新幹線の開業予定時期が、一部政治家や官僚などの妨害もあって、当初の2027年から2034年以降に後倒しにされたことは本当に悔やむべき話でもありますが、いずれにせよ、国土強靭化のために必要な投資は必要だといえるでしょう。

本文は以上です。

金融評論家。フォロー自由。雑誌等の執筆依頼も受けています。 X(旧ツイッター) にて日々情報を発信中。 Amazon アソシエイトとして適格販売により収入を得ています。 著書①数字でみる「強い」日本経済 著書②韓国がなくても日本経済は問題ない

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読者コメント一覧

  1. KY より:

    新幹線ですが、リニアにおける静岡同様に、京都で延伸の足を引っ張る動きが見られますが。

  2. 丸の内会計士 より:

    残念ながらあらゆるモノが老朽化するということですね。老朽化することを前提に様々なことを客観的に考えなくてはということでしょうが、自身のことになると、難しいです。現在の延長で考えてしまいがちです。

  3. tai より:

    なお、(原発の全てを廃炉にし、風力発電、太陽発電等の再生エネルギーに変えた結果、ドイツの産業用の電力は世界一高くなった事で)8月29日には、7つの州の首相が、これ以上の産業崩壊を防ぐため、すでに世界一高水準となっているドイツの産業用電力料金について、今後数年間にわたり電気料金を抑制するよう政府に強く要請した。
    しかし、これに対する政府の対応はというと、賛成する緑の党、反対する自由民主党、そして態度を決めかねる社会民主党が党内で対立し、恒例の足並みの乱れが露呈している。
    このままでは、いかなる救済措置も手遅れになる可能性が高い。ドイツはもはや政府だけでなく、国家全体として機能不全に陥りつつある。

    かつて「ドイツの独り勝ち」と称された時代には、産業界が輸出で潤っていたものの、政府は内需拡大やインフラ整備に注力せず、そのツケが今まさに表面化している。道路、橋、鉄道などの老朽化が進行しており、8月30日にドイツ最大の都市政策シンクタンクであるDIFU(ドイツ都市研究所)が発表した試算によれば、これらのインフラを2030年までに修復するには3,720億ユーロが必要とされている。

    しかし、現在の財政状況では、政府のどこを探してもそんな資金は見当たらない。
    さらに事態を象徴するように、2024年9月11日には、ドレスデン市中心部の重要な橋が自然崩壊するという、信じがたい事故まで発生した。

    要するに、ドイツの今後の没落はすでに市場や国民の間でも織り込み済みである。
    端的に言えば、現政権はエネルギー政策に固執するあまり、結果としてドイツを意図的に「脱産業化」へと導いている。(川口マーン惠美著 『ドイツの失敗に学べ』をChatGPTでまとめたもの)。

    1. Sky より:

      私がドイツ人同僚から聞く内容と整合します。
      日本のマスコミ・メディアがドイツ上げ日本下げ報道をする毎に、ホンマ?と尋ねるのが恒例なのですが、その度にあ〜やっぱり。となりました。
      彼らの見立てでも、かつて蓄えた国富で生活水準が上がると、ネガティブフィードバックが作用し、左派活動や左派政権が活性化した。彼らは一見綺麗に見える主張でその国富を擦り減らした。
      左派活動が盛んな時期に中国経済の成長に乗って中国貿易に依存した独経済も伸びて一時期これが最適解にも見えたが、数年前には破綻した。露宇戦争は決定的打撃だった。
      ドイツがドル建てGDPで日本を抜いた時は既にドイツ経済はボロボロ、激しいインフレと、ドル円レートの変化によりが見かけ上ドイツGDPを押し上げた結果だった。ということでした。
      国富が増えるとネガティブフィードバックとして左派が増長。
      日本もあてはまると思いました。

  4. どみそ より:

    外国人旅行者が 仲間を乗せるため ドアを押さえて定刻発車を妨害する事例がしばしば発生しています。
    不心得者(日本人を含む)が 車内で騒いだり、発車を妨害することもある。
    こういうの どんどん警察案件にしないと 爆増しますよ。
    「迷惑行為」ではなく 「犯罪」。

  5. どみそ より:

    JAPAN RAIL PASSは 外国人ファーストの 典型。
    なぜ国内人は 利用できないの?
    差別じゃないの?

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