日本円のシェア急落…「その他」過去最高に=外貨準備

日本円のシェアが急落しました。国際通貨基金(IMF)が3ヵ月に1回公表している『COFER』という統計によれば、世界の外貨準備に占める通貨のトップは米ドル、これにユーロが続きますが、ここ数年守っていた「3番手」の地位を英ポンドに奪われ、日本円が4位に転落したのです。ただし、動きから見れば、どこか特定の国が円高を受けて円で「利食い」をした可能性は濃厚です。その一方、人民元は引き続き鳴かず飛ばずですが…。

COFERとその最新統計

当ウェブサイトで最近、四半期に1回は取り上げる話題が、国際通貨基金(IMF)が公表する『COFER』と呼ばれる統計データに関する話題です。

COFERは英語の “Currency Composition of Official Foreign Exchange Reserves” を略したもので、日本の財務省や日本銀行による公式訳は見当たりません。

あえて意訳するならば、「世界の外貨準備高の通貨別公式統計」、とでも呼ぶべきなのかもしれませんが、当ウェブサイトでは『COFER』で統一しています。

さて、このCOFERの最新データ、つまり2025年3月末時点のものが、日本時間の9日深夜10時ごろに公表されています。

これによるとIMFに提供されたデータ上の外貨準備高の合計は12兆5370億ドルで、内訳が判明している部分はこのうち11兆6397億ドルであり、トップが米ドル、2番目がユーロ、3番目が英ポンドで、わが日本の通貨・円は4番目だったことが判明しました(図表1)。

図表1 世界各国の外貨準備通貨別構成(2025年3月時点)
通貨金額割合
内訳判明分11兆6397億ドル
 うち米ドル6兆7203億ドル57.74%
 うちユーロ2兆3346億ドル20.06%
 うち英ポンド6037億ドル5.19%
 うち日本円5991億ドル5.15%
 うち加ドル3061億ドル2.63%
 うち人民元2463億ドル2.12%
 うち豪ドル1677億ドル1.44%
 うちスイスフラン884億ドル0.76%
その他通貨5734億ドル4.93%
内訳不明分8973億ドル
合計12兆5370億ドル

(【出所】International Monetary Fund, Currency Composition of Official Foreign Exchange Reserves データをもとに作成。なお、「割合」は「内訳判明分」に対するその通貨のシェアを示している)

日本円はここ数年、英ポンドを上回り、3番目の通貨であり続けていたのですが、今回のデータでは再び4番手に落ちてしまいました。今回のCOFERの見どころとして、米ドル、日本円、人民元の3通貨を取り上げてみましょう。

米ドルは依然トップだが…6割を切る

まず、米ドルについては依然として、世界の外貨準備構成通貨としてはトップですが、そのシェアについてはジリジリと下がり続けていることにも注目しましょう(図表2)。

図表2 外貨準備に占める米ドルの金額と割合

(【出所】International Monetary Fund, Currency Composition of Official Foreign Exchange Reserves データをもとに作成)

COFERの四半期データが公開されている1999年3月分以降で見ると、米ドルの割合がピークを打ったのは2001年6月の72.70%で、その後はじりじりと低落傾向が続き、2020年12月に初めて60%を割り込み、2024年9月には57.3%と過去最低を更新しています。

2025年3月時点ではやや持ち直して57.7%となっていますが、いずれにせよ、外貨準備の世界では「脱ドル化」が少しずつ進展している格好です。

日本円が金額・シェアともに急落

その一方で、今回のCOFERで注目すべきは、日本円の金額・シェアの急落でしょう(図表3)。

図表3 外貨準備に占める日本円の金額【億ドル表示】と割合

(【出所】International Monetary Fund, Currency Composition of Official Foreign Exchange Reserves データをもとに作成)

COFERのデータを見ていると、通貨によってはときどき、不自然な増減が見られることもあるのですが、日本円に関しては2024年12月末時点で米ドル、ユーロに続く3番目の外貨準備通貨だったのが、いきなり急落しているのが印象的です。

このあたり、どこかの国の首相が「日本の財政はギリシャ以下」などと述べた(『石破氏トンデモ発言「日本の財政はギリシャより悪い」』等参照)ことが影響しているのか、などと思ってしまいます。

しかし、結論からいえば、この「ギリシャ以下」発言と円の外貨準備組入額の急落は、おそらくは関係がありません。どこかの国の首相の「ギリシャ」云々の発言は5月の話であり、このデータは3月末時点のものだからです。

この動きは「利食い」の可能性も

これについて、COFERでは詳細はわからないにせよ、動きからすれば、「どこか特定の国」が円資金を他国通貨に動かしたことが原因ではないでしょうか。図表4は、COFERの元データを国際決済銀行(BIS)の為替データで円に引き直したものです。

図表4 外貨準備に占める日本円(米ドル建てと円建て)

(【出所】International Monetary Fund, Currency Composition of Official Foreign Exchange Reserves データおよび The Bank for International Settlements, Bilateral exchange rates time series  データなどをもとに作成)

これで見ると、近年の円建ての外貨準備高は、米ドル表示したものについては増えたり減ったりしている反面、円表示したものについては一貫して増えていたのですが、この四半期に限定していえば円ベースでもドルベースでも急落しています。

一般にここまでシャープな落ち込みは、世界各国が同時に動いたというよりはむしろ、どこか豊富な外貨準備を持つ特定国が10兆円単位で一気に円資金を売って他通貨に乗り換えた可能性を示唆しています(10兆円と聞くと驚きますが、正直、国債市場や外為市場における10兆円は微々たるものです)。

というよりも、個人的には「円高になったので利食いをした」というだけの話ではないか、という感想を抱きますが、2025年6月末時点のCOFERで引き続き円が売られる動きがみられるかどうかには注目したいところです。

円が人民元に向かった兆候はない

では、円資金が売られ手向かったのはどこでしょうか?

「世界の通貨当局が外貨準備資金を米ドルや日本円から中国の人民元に移している」、といった言説、陰謀論系のウェブサイトだとありがちかもしれませんが、ためしに人民元についてグラフ化してみると、人民元建ての外貨準備が増えている兆候はありません(図表5)。

図表5 外貨準備に占める人民元の金額と割合

(【出所】International Monetary Fund, Currency Composition of Official Foreign Exchange Reserves データをもとに作成)

当ウェブサイトで繰り返し指摘してきたとおり、人民元建ての外貨準備高については2021年12月にピークを付け、それ以降は減少し、低迷しています。また、為替変動の要因を除外して人民元建てベースにしても同様に、「鳴かず飛ばず」が続いている状況です(図表6)。

図表6 外貨準備に占める人民元(米ドル建てと元建て)

(【出所】International Monetary Fund, Currency Composition of Official Foreign Exchange Reserves データおよび The Bank for International Settlements, Bilateral exchange rates time series  データなどをもとに作成)

想像するに、人民元建ての外貨準備が2012年12月でピークを付けたのは、純粋にロシア要因でしょう。

ロシアがウクライナ侵攻に備え、保有していた外貨準備を米ドルから他通貨や金などに替える動きの一環で、人民元に外貨準備を動かしたものの、その後戦争が長期化し、ロシアの元建て外貨準備が一進一退となっている、という仮説です。

また、ロシア要因以外で見ても、人民元建ての外貨準備高は意外なほど伸びていない、という言い方もできるかもしれません。

その他通貨のシェアが過去最大

その一方で気になるのがその他の通貨です(図表7)。

図表7 外貨準備に占めるその他の通貨の金額と割合

(【出所】International Monetary Fund, Currency Composition of Official Foreign Exchange Reserves データをもとに作成)

じつは、「その他」の割合が2025年3月において過去最大の4.9%をつけました。

グラフで2012年12月、16年12月にそれぞれ「その他」が急減している理由は、IMFの統計区分上、2012年12月以降豪ドルと加ドルが、16年12月以降人民元が、「その他」から切り出されたためですが、それ以降で見ても現在の「その他」の割合は過去最多です。

といっても、結局外貨準備の世界では米ドル、ユーロ、円、ポンドといった伝統的な通貨の人気が高く、その意味では「その他」が今後どこまで伸びてくるかについては未知数といえるかもしれませんが…。

本文は以上です。

金融評論家。フォロー自由。雑誌等の執筆依頼も受けています。 X(旧ツイッター) にて日々情報を発信中。 Amazon アソシエイトとして適格販売により収入を得ています。 著書①数字でみる「強い」日本経済 著書②韓国がなくても日本経済は問題ない

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読者コメント一覧

  1. 丸の内会計士 より:

    交渉せずに「負けてたまるか」では、日本円もシェアが下がりそう。世襲政治家は、交渉の意味がわからないのでは。ビジネスをやったことないのが、もろ出てる。日本は、人口減少で需要が縮小するのだから、100兆円ファンド(キャピタルコール)でアメリカに製造業を進出させるとか。トランプが喜びそうなことを言って、交渉すべき。「舐められてたまるか」では、ケンカになって交渉にならない。

    1. 匿名 より:

      その通りですね。一般的に価格交渉をするときに「当社は1円たりともまけません。」なんて言うと。「では、オタクとは取引を控えさせていただきます」って言われますよ。
      普通は色々条件をつけてお互いが納得いく形で決めていくのが一般的です。

  2. 匿名 より:

    イスラエルとイランの全面戦争の連想からくる有事のゴールド買ではないか。原資に有事に弱い円を使った。

  3. CRUSH より:

    初歩的な読み取りで恐縮ですが、

    米ドルと日本円)
    圧倒的に強いが長期的低落トレンド。
    グラフ右端にふたコブ。

    人民元)
    グラフ右端にひとコブ。下げ

    その他)
    グラフ右端にひとコブ。上げ

    ウクライナやイスラエルの戦争で、信用取引ではなくて現金前払いが増えてるのかな?
    くらいの感想です。

    蛇足)
    全体の外貨準備は右肩上がりなので、
    「財務省のコメントを聞いてみたいなあ」
    と思いますね。
    (ある国の外貨準備(債権)は、他の国の債務ですからね。)
    地球が財政破綻するぞ!(笑)

  4. 元雑用係 より:

    >「円高になったので利食いをした」というだけの話ではないか

    昨年のドル円は2コブ作って、急速な円安進行の当面の踊り場入り、もしくはピークアウトを示唆するものと思います。そう捉える投資家は多いのでは。
    外貨準備では運用益を狙う国もあるでしょうし、投資資金を外貨準備に組み込んでる国もあるようですから(隣の半島国とか)、円高で利食いした国がたくさん出てきても不思議はないですね。

    この統計では、マイナー通貨を持つ国が外貨準備を減らして自国通貨に戻した場合、外貨準備-その他に計上されるのか、もしくは統計から消えてなくなるのかよくわかりませんが、前者だとすると、
    多くのマイナー通貨国が円の外貨準備を利食いして別通貨に移したが、その先はドルユーロなどのメジャー通貨ではなくリスクの高い自国通貨以外のマイナー通貨だった、ということになるんでしょうか。
    統計にない以上はわかりませんが、「その他通貨」の中で特に伸びている通貨があるのかないのか、気になります。

    1. 元雑用係 より:

      >前者だとすると、
      後者だとすると、

      の間違いでした。

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