失望の「骨太方針」…賃上げアプローチの間違いとは?
今年の「骨太方針」は、「財源なき減税を否定し、賃上げから始まる経済成長」、という代物。正直、残念でなりません。現在の政権、増税や負担増は光の速さで決めるくせに、税社保の引き下げは徹底的に渋るのですから、なかなかに意味がわかりません。今夏の参院選で、果たして有権者は現政権にいかなる判断をくだすのでしょうか?
目次
実質的な負担は人件費の3分の1を超えることも!
当ウェブサイトでこれまで何度となく強調してきましたが、現在の日本は税金や社会保険料を取り過ぎています。
所得税が累進課税で重くのしかかってくるのに加え、税率が低い区分でも住民税は一律10%、このほかに社会保険料(厚年、健康保険、雇用保険などに加え、40歳以上の場合は介護保険も)などが徴収されるため、額面年収に対し、少なくとも20%前後の負荷がかかってきます。
しかも、話はそれにとどまりません。
じつは、あなたが会社で働いている場合、社会保険料は会社が同額以上を負担しています。
現実的なところでいえば、たとえば年収480万円の人の場合、(40歳以上だと仮定すれば)社会保険料で74万円、所得税や住民税などで35万円を引かれていますが、それだけではありません。じつは会社があなたのために負担している金額には社保の会社負担分78万円も含まれるからです。
このため、「年収480万円」ならば、「その会社が支払う人件費」は558万円であり、その従業員に渡る手取りはたった371万円で、なんと人件費全体の3分の1を超える約187万円が、税金や社会保険料として取られてしまっているわけです(図表1)。
図表1 会社が支払った人件費は何に浪費されているのか(年収480万円の場合)
減税反対派の支離滅裂な言い分
しかも、もろもろの税金(消費税やガソリン税など)、あるいは「税と名乗らない税金」―――たとえば、再エネ賦課金やNHK受信料など―――が異常に多いというのも、現在の日本の特徴です。
正直、厚年保険や再エネ賦課金、NHK受信料などは、支払う意味があるのか、真剣に疑わしい費目でもあります。それらを支払うことで、日本経済に対し、いったいどういうメリットがあるというのでしょうか。正直、よくわかりません。
ただ、「現在の日本は税金や社会保険料を取り過ぎだから、それらを軽減してはどうか?」、などというと、決まってなにやらよくわからない反論が来ます。
減税反対派などの言い分の例
- ①国の借金はGDPの倍で危機的
- ②国の借金は国民あたり一千万円
- ③国の借金は全額税金で返すべき
- ④日本は毎年財政赤字で減税不可
- ⑤減税には複雑な制度変更が必要
- ⑥著名学者も減税に反対している
- ⑦一度下げたら上げるのが難しい
- ⑧減税は増税した先人に対し失礼
- ⑨減税が決まると買い控えが発生
- ⑩現場の値札付替えの作業が大変
©新宿会計士の政治経済評論
これらの減税反対派の言い分、あまりに支離滅裂な⑥以降に関してはともかくとして、少なくとも①~⑤については、これまで当ウェブサイトにおいて何度となく繰り返してきた通り、スタンダードな経済学の知見からは、ほぼ論破されつくしていると思います。
ダイエットでカロリー減らすのに「代替カロリーは?」
ただし、これらについては手を変え品を変え、新たな言い分(ないし屁理屈)が飛び出してくるため、いちどすべて見直したうえで、最新のデータなども使いながら(可能ならば参院選の前までに)、ひととおり順次反論しておきたいと思っています。
どうでも良いですが、「一度税率を下げたら再び上げるのが政治的に大変だ」、「苦労して増税してきた先人に対し減税は失礼だ」、は、「減税できない理由」ではなく、「何が何でも減税を避けたい」という無茶な思い込みそのものでしょう。
こうしたなかで、「減税するときには財源が必要だ」、などという言い分を見かけることもありますが、これもナンセンス極まりないものです。わかりやすくいえば、減税とは「官僚から財源を奪うこと」でもあるからです。
そういえば、以前、山手線の駅名を冠した怪しい自称会計士がXに、こんな趣旨の内容をポストしていました。
「人間ドックで太り過ぎと診断され『もっと運動して摂取カロリーを減らしなさい』と言われたのに、『食べる量を減らすなら、その分のカロリーはどこから摂取すれば良いのですか?』と反論する患者。ダイエットに代替カロリーは必要ない」。
財務官僚の傲慢さ
そういえば、「官庁の中の官庁」といえば財務省ですが、その財務省が「税収弾性値1.1」というウソをついてまでも全力で減税を拒絶する理由は、著者自身に言わせれば、「減税に応じてしまうと経済が回復してしまい、自分たちのこれまでの増税原理主義が間違っていたことがバレる」のを真剣に恐れているからでしょう。
その財務省は、国家のサイフの入口(国税庁)と出口(主計局)、サイフの中身(外為特会と財政投融資)を一手に支配しており、「予算」を通じ、実質的な並の国会議員を大きく上回る政治的な権力を手にしている存在でもあります。
実際、財務省を志望する学生に対し、現役財務官僚が書いた平成17年度版の財務省採用情報の記事が強烈です。
一緒にやらないか(平成17年度版財務省採用情報)
―――2012年11月3日付 国立国会図書館アーカイブより
とくに強烈なくだりを抜粋しておくと、こんな具合です(原文ママ)。
「また、年金問題に見られるように、将来世代の利益が代議制を通じては代表され難いこともある。そこで、我々が客観的な分析に基づいて政策主張し、合意形成に向けて説得に努めなくてはならない場面が多々出てくる。そして、実は多くの場合、その方向で成就する。勿論、消費税のように10年かかることもあるが」
意訳すれば、「民主主義に任せるのではなく、我々財務省が政策を立案して政治家を説得しなければならないことが多く、実際、我々が主張した政策が実現する」、「もちろん、消費税のように説得が難航し10年かかることもある」、といったところでしょう。
なんとも傲慢です。
この『一緒にやらないか』から見えてくる財務官僚の意識とは、結局、減税を求める人々の意識を「減税ポピュリズム」と切って捨て、自分たち財務官僚こそがこの日本国の方向性を決めていく真のエリートだ、といった空気であり、傲慢そのものです。
やはりこの人物がいうように、財務省には国家のサイフの入口と出口と財源が極端に集中しているため、その分、政策実現がしやすい、ということなのだと思います(それが民主主義国家の在り方として健全であるかどうかは別として)。
幻滅の骨太方針
さて、こうした文脈から、とうてい容認できない話題があるとしたら、政府の「骨太方針」でしょう。
経済財政諮問会議
―――2025/06/06付 首相官邸HPより
石破茂首相は先週金曜日に開催された経済財政諮問会議で、今年版のいわゆる「骨太方針」の原案を巡り、次のように述べました。
「賃上げこそが成長戦略の要です。手取り増は『減税よりも賃上げ』との基本的考え方のもと、減税政策によって手取りを増やすのではなく、賃上げによって手取りが増えるようにいたします」
…。
なんとも残念な話です。
石破首相を筆頭に、政府関係者があまりにも経済学の知識を持たなすぎる―――。
これは、本当に不幸な話です。正直、政府が高すぎる税・社会保険料をそのままにして、企業に賃上げを要請したところで、従業員の手取りは大して増えません。
では実際の賃上げ効果は?
そのことを実証するために、現在の制度に基づいて、「減税しないで賃上げする」政策の愚劣さを、「数字で」検証しておきましょう。ここでは人件費が800万円の場合と900万円の場合を考えてみます(図表2)。
図表2-1 人件費800万円の場合の手取り
図表2-2 人件費900万円の場合の手取り
人件費800万円といっても、手取りは大したことがありません。社保の会社負担分が111万円引かれ、額面年収は689万円に減ってしまうからですが、それだけではありません。社保の本人負担分が106万円、所得税や住民税などの諸税が65万円引かれ、本人の手取りはたった517万円です。
しかし、この状態から企業がこの人に支払う人件費を100万円増額した場合は、もっと驚く現象が生じます。
企業が払う人件費は900万円に、社保会社負担分125万円を引いた残額が額面775万円に、それぞれたしかに増えるのですが、今度は社保本人分が120万円引かれるだけでなく、所得税や住民税などの負担が85万円に一気に増えるため、手取りは570万円しか残りません。
頑張って賃上げしても税社保にゴッソリ持って行かれる現状
すなわち、人件費800万円の時の手取りは517万円ですが、これを900万円に引き上げても手取りは570万円。企業が人件費を100万円増やしたはずなのに、驚くことに、従業員の手取りは53万円しか増えないのです(図表3)。
図表3 企業が人件費を800万円から900万円に増やした場合
(【試算の前提】図表1と同じ)
なんとも面妖な仕組みですね。
正直、著者自身としては、今まさに喫緊の課題が減税だと考えているわけですが、残念ながら、政府がやっていることはこれらと真逆の動きばかりです。先日は社会保険料引き上げの強行採決で年収798万円(※賞与なしベース)以上の人々に対する年金保険料の増額が決まったばかりでもあります。
減税については徹底的に渋るのに、増税は光の速さで決めてしまう―――。
なんとも不思議な政権です。
とりあえず今夏の参院選でどうなるかが気になるところではありますが、少なくともオールドメディアの支配を脱しつつある賢明な日本国民が現在の政権にいかなる審判を下すかについては注目したいと思う次第です。
本文は以上です。
金融評論家。フォロー自由。雑誌等の執筆依頼も受けています。 X(旧ツイッター) にて日々情報を発信中。 Amazon アソシエイトとして適格販売により収入を得ています。 著書①数字でみる「強い」日本経済 著書②韓国がなくても日本経済は問題ない日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
そんな日韓関係論を巡って、素晴らしい書籍が出てきた。鈴置高史氏著『韓国消滅』(https://t.co/PKOiMb9a7T)。
日韓関係問題に関心がある人だけでなく、日本人全てに読んでほしい良著。
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【おしらせ】人生で9冊目の出版をしました
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賃上げだけすると物価と税率が上がりますので例のスローガンは「増税から始まる経済成長」と言うのが実態に即しているのではないでしょうか。
うまい。
れいわ新選組の主張「消費税廃止」でさえもその後で「法人税の累進化、所得税の累進強化、金融資産課税の導入」と続けている。消費減税を国債発行で賄うと言うと「トラスショック」を覚悟するべき事案なのか、日本はその程度ではびくともしないと考えるのか。
トラスは減税(増税の延期?)を国債発行で賄うと言う政策を掲げてヘッジファンドによるポンド売り、国債売りを招いて責任を取って2か月弱で辞任。まだ国債増発やってないのに。
ヘッジファンドの見立ては「今のイギリスにそんな力はない、そんなことをすればポンドは下落するはず。ならば先回りしてカラ売りしてやれ」ということなのだろう。
私の見立ては「腐った床板は恐る恐る歩かなきゃいけないのにどしどしと歩いて踏み抜いた」
結局はれいわ新選組も「隠れ増税派」と言う事です。
法人税の累進化、所得税の累進強化、そして促進金融資産課税の導入と言う主張は、富裕層を憎み、格差是正の為に強制的に均一化を目指すという、如何にも極左らしい発想だと思います。
れいわ新選組らをはじめとする特定野党が一番無視しているのは、身内である極左勢力が絡むあらゆる無駄な利権でしょう。
これが日本の成長を阻害している訳ですし、減税が駄目で国債がダメだと言うのであれば、無駄な支出をさせているこの部分に手を付けるべきでしょう。
先ずはこの無駄な利権を徹底的に洗い出し、予算の大幅なカットや予算の執行停止などをする事、その上で様々な不正が発覚すれば、刑事事件として立件させる事でしょうね。
何人もの逮捕者が出るかもしれませんし、法人や組織の解散に到ると言う事になりますが、無駄に税金を使われるぐらいなら、この位のことをやってもいいのではないかと思います。
>失望の「骨太方針」…賃上げアプローチの間違いとは?
物価上昇の1.3倍時に要する賃上げは1.5倍。「税社保がピンハネ」するからだ。
最低賃金を過度に引き上げて、雇用を破壊した韓国の轍を踏んではいけない。
A.経済成長⇒人員不足⇒雇用増進⇒賃金上昇(正のプロセス)
B.賃金上昇⇒雇い止め⇒人員整理⇒経済停滞(負のプロセス)
企業活動を顧みない「川下からのアプローチ」には無理がある。
*****
賃上で国家の税収は骨太に!
煽りで企業の余力は骨抜に!
社会の行末は骨粗鬆症・・。
国民有権者のコレマデの国政選挙参加率を勘案しましても、ヨホド“ワンイシュー”化して煽りたくらンとコノ『骨太』への批判反対票で大勢動くとは残念ながら見えて来ませぬ
かといって今後既にハードルの上がった“国民的ワンイシュー”足り得るネタとも思えナイですし、コノネタ方面で「マシなゴミ拾い」目線に居た野党も別目線で下位にへ自沈せんとのムーブで“叩き合い”局面に参戦しちまいましたし…
“ナルホド”亡き(?)今、自民党も閣外や党内(現時点)負け組などが“マシなゴミ”アピールにオールドメディア露出増を図っとるげにアリマスし
ナンニセヨ投票箱閉めるまで?開票終わるまで?ドナイコナイワカランですわナ
知らんけど
> 賃上げによって手取りが増えるようにいたします
こいつら何言ってんだろ。
喧嘩を売ってるとしか思えない。
一見、労働者の賃金が増えるように、労働者の為を思った政策のように言っていますが、実はこれって賃金増やして税収、社会保険料を増収するための政策ですよね。国民は政府に「(政府が)身を切る改革をしろ」って言っているにも係わらず、更に政府は肥え太ろうとする提言をするとは、本当になめてるとしか言えないです。
経済財政諮問会議も読んでみましたが、金を使うことばっかりで、辟易します。不安をあおって「だから減税できないのよ」って詐欺師の手口がつらつらと書いてあるだけでした。今まで言われた通り納税してきたのに、なんで道路に穴が開くのよ。穴が開くのは100歩譲るとして、何で修繕できないのか。そいう事だと思います。
今回は売られた喧嘩は買おうと思います。
企業努力にタダ乗りする図表3は寒気がする。
両班か悪代官と呼ぶにふさわしい。
なんか自公が参議院選挙に向けての公約で、税収の上振れ分を原資として現金給付を検討している、なんてニュースがありますが・・・
これまでは、財政がギリシャ並みだ、とか、日本国債の評価がギリギリだ、とか、発言していたのだから、国債償還を進めます、とかの公約じゃないと一貫性が無いとかって感じないのかなぁ。
本当にセンスの無い奴らだ。
「お金をあげるから、どうか僕たちの支出には指一本触れないでくれたまえ。」
という感じに見えますね。
取ってから配るなら、そもそも取るな。
配るなら、何にどれだけ使っていて、その必要性とコスパはどれだけなのか?を報告しろ。
それだけの話なのにね。
そういえば石丸伸二と都民ファとの対談動画を見てたら、都民ファの公約に
「ワイズスペンディング」
てのがあるらしくて、笑ってしまいましたわ。
WBPC問題は、使途不明領収書なし行政訴訟受理案件ですが、これでどうやってワイズなのかフールなのかを計測検証できるというのやら。
農政の補助金にしても、とっさに説明ができないところがバカにされてるのにね。
1Lあたり25.1円のガソリン暫定税率を廃止すると、税収減は1.5兆円。
https://news.yahoo.co.jp/articles/7168bb4d301be3b59d70a074354b90e0a948557f
最初から取らない場合、年1.5兆円でガソリン1Lあたり25.1円引き下げることが出来ます。
一方、取って配ったガソリン価格抑制のための補助金は、2024年度は総額8兆1719億円とのこと。
https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/80d16ea5a1b98e33f9fb9d7e7f91cfb55ca4d12c
経済財政運営と改革の基本方針 2025にも、ワイズスペンディングという言葉が出て来ます。8兆円費やすなら133円以上の価格引き下げ効果を出して欲しいものです。
参院選挙が間もなく開始されるタイミングでこのような話しが出てくる現政権…。賃上げ起点では隣国の元大統領と同レベルです。
その結末を知らない訳ではないでしょうに。
何が何でも経済成長起点の好循環とはしたくないのでしょう。
現自民党執行役。自民党を滅亡させる為に自民党執行役になった。生命体の細胞が変異し増殖し生命体を死に至らす。癌細胞ですかね?この連中。
歴史はどう評価するのでしょうか。
ところで。今回の記事の挿絵。
容姿について発言すべきではないですが、キモい。
自民党総裁になってかなり時間が経ったのですが、
決して慣れない。
キモいものはやっぱりキモい。
自民党以外に投票して意志を示すしか無いですかね。