自立公財「4党」大連立構想と付随するリスクシナリオ

西田昌司、青山繁晴両参議院議員の発言が、ネット空間ではそこそこの波紋を広げています。とくに石破茂首相の交代を公然と要求した西田氏は、現在のままでは参院選を戦えないことをその理由に据えているそうです。ただ、その一方で自民、立憲民主、公明の3党大連立構想のうわさもあり(正確にはこれに財務省を加えた「4党連立」かもしれませんが)、立憲民主の党内で消費税減税に関する勉強会も立ち上がるなど、混乱の様相を呈していることもまた事実です。

西田昌司参議院議員の発言

昨日の『「首相交代させれば問題解決」?そう単純な話でもない』では、自民党の西田昌司参議院議員が12日、参院議員総会(※非公開)の場で、石破茂首相を交代させ、新たなリーダーを選びなおすべきと発言した、などとする共同通信の配信記事を紹介しました。

これがそのリンクです。

自民・西田昌司氏、首相交代要求 議員総会で「参院選戦えない」

―――2025/03/12 10:52付 Yahoo!ニュースより【共同通信配信】

この話題に関して昨日は、XなどのSNSでも「首相交代」などの単語がトレンドに上がるなどしたほか、共同通信以外のいくつかのメディアもほぼ同様の内容を報じているようですので、西田氏の発言自体がネット空間にそれなりの波紋を広げたことは間違いなさそうです。

青山繁晴参議院議員の発言

そして、この「石破首相責任論」が、一部ネット界隈でも非常に人気の高いことで知られる、青山繁晴参議院議員からも出てきています。

青山繁晴参院議員 石破首相の予算再修正「政局の始まり」「政治責任取らざるを得ない」

―――2025/03/12 13:41付 産経ニュースより

青山氏といえば、自民党内のグループ「日本の尊厳と国益を護る会」の会長を務めていることでも知られていますが、産経によるとその青山氏は12日朝、ニッポン放送のラジオ番組『飯田浩司のOK! Cozy up!』に出演し、石破首相について「政治責任を取らざるを得ない」などと指摘したというのです。

産経が報じた青山氏の発言は、こんな具合です。

  • (石破首相が高額療養費の負担上限額引き上げ凍結を表明し、令和7年度予算案が参院で再修正されることについて)政局の始まり。衆院で通った予算案を再修正するのは、現憲法下で初めて
  • (石破首相は)財務省の言うことを優先し過ぎている。(高額療養費がないと病気の人は)途中で命を諦めることになる。弱者の味方の石破首相なのに、『こんなお金のかかることは困る』という財政当局の言うことに耳を傾け、国民を見ていなかった

そのうえで青山氏は石破首相が「一定の政治責任を取らざるを得ない」、などと述べたそうですが、ここでいう「一定の政治責任」とは、やはり「進退」のことを念頭に置いているのではないでしょうか。

著者自身は青山氏とは何の面識もありませんし、発言の真意について直接尋ねることもできませんが、青山氏自身は昨年の衆院選直後の11月7日に開催された両院議員懇談会で、石破首相に補正予算成立後の辞任を公然と要求したと自身のブログで明らかにしています。

こうした青山氏の言動に照らすならば、青山氏としては石破首相に対し、「首相を辞めるべきだ」との考えを持っている可能性は高そうです。

首相を変えれば良い、というものでもない

もっとも、昨日も申し上げたとおり、当ウェブサイトとしては、「石破首相を交代させればそれで問題がすべて解決するのか」、「(保守層から人気が高い)高市早苗氏あたりを総理にすれば自民党は参院選を戦えるのか」、といった観点から、「必ずしもそうとは限らない」と考えています。

そもそも昨年9月の自民党総裁選で石破茂氏は党員票第1位だった高市早苗氏を抑え、堂々の当選を決めているわけですから、石破茂体制は過半の自民党国会議員が望んだものでもある、という言い方もできるからです。

このため、現在の自民党の党内力学に照らし、仮に石破首相が辞意を表明したとしても、残念ながら、従来の保守層が満足するような新総理が誕生するという可能性は、現時点で決して高いとはいえないでしょう。

それに、もし自民党議員が「選挙で勝てないから」という理由で「石破おろし」を画策したとしても、有権者に根付いてしまった自民党への不信感が、首相が代わったくらいで払拭できるというものでもありません。

一部保守層を中心に「高市総理待望論」が強いのは事実ですが、下手をすると、参院選直前に石破首相が身を引き、「高市総理」が実現した瞬間、自民党が参院選で惨敗し、「高市総理」は責任のみ取らされて潰される、といった可能性もあります。

こうした点に照らすと、自民党は石破首相のままで、昨年の衆院選に続き、今年の参院選という大型国政選挙を迎えざるを得ないし、それにより仮に惨敗となったとしても、それは自民党議員の選択の結果によるものとして甘受せざるを得ない、というのが、著者自身が考える「筋論」です。

西田氏や青山氏は自民党議員であり、昨年の総裁選でも(おそらくは)石破氏に投票していないでしょうから、ある意味では石破首相に辞任を迫る資格がないわけではないとも思われますが、これが石破氏に票を投じた議員であるならば、いまさら石破氏に辞任を迫るのもおかしな話です。

自身で票を投じたのであれば、石破氏の自民党総裁としての任期いっぱい、石破体制を全力で支えなければ筋が通りません。仮にそれが「自民党という船」を沈没させる結果になったとしても、です(ちなみに昨年の『自民党は「石破体制」を挙党一致でしっかり支えるべき』は、そういう観点から執筆した記事でもあります)。

「自立公財4党連立」という不穏な動き

ただし、石破政権を巡っては、やはり有権者の期待を裏切る不穏な動きを多く見せていることもまた事実です。

たとえばつい先日の『「自立公大連立」≒財務省政権を無能な働き者が画策か』でも述べたとおり、一部メディアは石破首相が2人の財務官僚を深く信頼しており、財務官僚が野田佳彦・立憲民主党代表との仲を取り持つ形で、「自立公」という「大連立政権」実現を画策している、などと報じています。

これについては「一部メディアの報道をどこまで信じるのか」、という問題はありますが、じつは著者自身、複数の情報筋から、どうもこうした「大連立構想」が存在するのは事実らしい、と聞いています。

というか、常識的に考えたらわかることですが、野田代表は故・安倍晋三総理大臣の前任の首相であり、民主党政権時代には(公約になかった)消費税等の増税法案を、民主・自民・公明の賛成多数で可決成立させている人物でもあります。

その意味では、石破現首相と野田元首相は「財務省に強く影響を受けた政治家」という共通点を持っており、その両者の関係を財務省が取り持とうとしたとしても、べつに不自然な話ではありません。

そして、「自民・立憲・公明・財務省4党連立政権」(おっと…)は、アベノミクスを完全に葬り去ることを目的に、手始めにさらなる増税に手を付ける、といったシナリオも見えてくるかもしれません。

とりわけ現在の立憲民主党は国会などでも存在感がなく、政党支持率で見たら勤労層・若年層・SNS層からは完全に嫌われてしまっているフシもありますが、党の浮揚を図るという意味では、政権入りすることは同党にとっても魅力に映るのかもしれません。

立憲民主党内では「消費減税勉強会」も?

もっとも、こうした「自立公財『4党』連立政権」構想も、そう単純でもないのかもしれません。

時事通信によると、立憲民主党では12日、衆参両院の有志議員約30人が出席し、消費税減税を柱とする税制改革を求める勉強会の初会合を開いたのだそうです。参院選への党公約への反映を目指しているのだそうです。

立民有志、消費税5%へ勉強会 参院選公約反映目指す

―――2025/03/12 19:03付 Yahoo!ニュースより【時事通信配信】

野田氏自身が首相時代に消費増税を成し遂げた人物であるという文脈に照らすと、野田代表の足元でこんな動きが出てくるのは皮肉な気がします。

時事通信によると勉強会の会長に就任した末松義規衆院議員は「『立民は増税派だ』というイメージがつくられ、ちょっとまずいというのが発想の起点だ」と説明したのだそうですが、「イメージ」もなにも、それは事実ではないでしょうか。

立憲民主党の昨年衆院選の公約集のどこを見ても、減税の文字はないからです。

ただ、立憲民主党が現状、若年層の支持を得られず、ライバル政党である自民党の苦戦が予想されるはずの今夏の参院選でも立憲民主党は浮揚できない可能性があることなどを踏まえると、やはり、同党内でも野田佳彦体制に対するそれなりの不安があることは間違いなさそうです。

石破首相の動き次第では政局も?

そうなると、状況次第では参院選前後で「自立公財4党連立政権」構想が持ち上がるなどしたタイミングで、沈む船から逃げ出すかのごとく、立憲民主党や日本維新の会、あるいは自民党からも、大規模な人材流出が生じる、といった可能性も否定できません。

この場合に離党者が受け皿として目指すのは国民民主党でしょうか?それとも新党結成なのでしょうか?

個人的に、自民党が分裂し、大政局からの政界大再編につながる、といった動きは、さすがに現在の日本にとって非常に好ましくないとも考えている次第ですが、それでもひとつのリスクシナリオとしては、こうした大連立構想を契機とした政界再編、といったところも可能性は考えておく価値があるかもしれません。

いずれにせよ、予算案の再修正という前代未聞の珍事のなか、石破首相自身がどう動くか、あるいはその結果によっては大きな政界再編の動きがあるのかどうか、といった点には、注目したいと思う次第です。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. カズ より:

    >あるいは自民党からも、大規模な人材流出が生じる、といった可能性も否定できません。

    保守派安定政権の実現も、党内政局に打ち勝ってこその賜物なのかと。
    党を割って出てしまうと、自民党の実務組織が使えなくなるからです。

    1. 匿名 より:

      だからもう終わってるんじゃないですかね。少なくともこの国の政治。左派に支配された自民なんて立憲と変わらんでしょ。立憲が目立たないも何も、やる事変わらないなら得意な批判も出来ないからでは?左派に支配されたマスコミなんて殆んど現政権批判しないでしょ。省益一番の財務省他、官僚サマと、中韓に支配されたマスコミ、野党、与党、儲かれば国民はどうでも良い経団連が今の政権支えてるんでしょ?青山さんも高市さんもしがらみで見切れないから。

  2. 元雑用係 より:

    自民党を出てしまった人々の末路がどうなるか、今の自民党議員はよく知ってると思います。
    権力闘争で勝って従わせなきゃダメなんですよね。

  3. はるちゃん より:

    自民党の反石破議員としては、党を割らずに、参議院選挙で与党過半数割れで石破内閣が崩壊し主導権を奪い返すというシナリオを想定していると思います。
    ただ、今回改選を迎える議員は自分が落選するかも知れないので、そんなシナリオにはとてもじゃ無いが乗れないと言う心境でしょうね。
    いずれにしても、取って配ると言う役人主導の政治はそろそろ終わりにしないと日本が持たない所まで来ています。
    自民党の方々が、取って配る政策が多くの国民から嫌悪されつつあると言う事に気付かないなら、反石破の議員が主導権を奪い返しても、自民党から離れつつある保守層が戻ってくる事は無いと思います。
    私もその一人です。

    1. 匿名 より:

      投票先は消去法しか無いんですよね。

    2. KN より:

      参院選前の敗戦処理は誰もやらんでしょうね。

  4. 農民 より:

    >『立民は増税派だ』というイメージがつくられ、ちょっとまずいというのが発想の起点だ
     結局は経済学のセオリーや試算などから政策を立てるのではなく、イメージで選挙を戦えるかしか考えていないというのを、少しは隠せば良いものを。
     山本太郎の消費税あたりもそうですが、ほとんどの政策案で間違っている連中が”たまたま正しい”政策を提起されると、賛成しづらいのです。上辺でしかなく理解はしていないので、せっかくのたまたま正しい方向性をすぐに捻じ曲げたり骨抜きにしたりします。やっとの思いで通った減税政策が、立憲が執行したために効果がロクに出ず、「財務省が正しかった」なんて話にもっていかれたら、日本国の浮揚はまた数十年先になるでしょう。
     かといって反対を表明してしまうと、有権者は減税には反対なのかなどと解釈されてしまう。

  5. Masuo より:

    石破は予算修正が致命的だったと思います。

    森山の鹿児島8000万円未登記状態のニュースが出たあたりで、「あぁ、石破降ろし始まるかな」って思ってました。だいたい税金(金銭)がらみのリークがあるときは、財務省に梯子を外された時と思ってます。

    もう政局は始まっていると思いますが、高市首相はまた早い。
    個人的には岸田の再登板でいいと思ってます。しっかりと現状の責任を岸田にとってほしい。

    1. はるちゃん より:

      高額医療費の件で財務省から見切られたのでしょうね。
      言う事を聞かなくなった首相は用済みという事ですね。
      財務省は、次の首相を誰にしようと思っているのでしょうか?

  6. 元雑用係 より:

    岸田前首相と麻生最高顧問 茂木前幹事長 意思疎通継続を確認
    https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250310/k10014745551000.html

    西田庄司氏の発言と同じ日のニュースだったかと思います。
    誰が総裁になっても今よりマシに感じる今日この頃。
    総裁選ではモテッキー氏が経済政策はまともなことを言ってた記憶があります。財務真理教の存在を認識して対策しているとも聞きました。
    瓢箪から駒とか出てこないかな。

  7. 普通の日本人 より:

    スパイ防止法を最優先で制定する
    これを掲げた政党が出て来てほしい
    これで不要な人間を洗い出し追放し日本を立て直してほしい

  8. 匿名 より:

    どこかのタイミングで、政界再編が起こらないと駄目な気はしますね。

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