「首相交代させれば問題解決」?そう単純な話でもない

共同通信によると自民党の西田昌司参議院議員は12日、参院議員総会(※報道陣に非公開)の場で、「今の体制では(今夏の)参院選を戦えない」として、石破茂首相の交代を要求したのだそうです。たしかに、石破首相は故・安倍晋三総理大臣の時代に自民党を熱心に支持していたであろう勤労層を敵に回すような言動も多いわけですから、こうした首相更迭論が出るのも仕方ありません。ただ、自民党が一部支持層からの信頼を失ったなか、首相を交代させればそれで問題が解決する、というわけではないこともまた事実です。

政治家や政党は、可能な限り、多面的に評価すべき

今朝の『「参院選後の改悪」確実?見透かされる稚拙な石破首相』、正直なことを申し上げると、記事として執筆はしたものの、ちょっと公開するのを一瞬ためらったことも事実です。

というのも、著者自身は政治家の資質などを批評するに際し、可能な限り、「この政治家はダメ」、「この政党はダメ」、などと決めつけたくないと考えているからです。

もちろん、わが国は自由・民主主義社会ですから、あとえ相手が人物であったとしても、それが政治家である限りは、人格含め広範囲に批評することが許されています(※といっても、野党政治家の一部は、政治批評を「人格攻撃」、「誹謗中傷」などと位置づけ、訴訟をチラつかせて対抗しているようですが…)。

しかし、いくら「自由・民主主義社会では権力者への批判が許される」からといって、多面的な視点を持たず、評論の世界で一方的にこき下ろすだけなのは、あまりバランスが取れた態度とはいえません(※自戒を込めて、そう申し上げておきます)。

勤労層を敵に回す石破政権、客観的にみて稚拙

ただ、それでもやはり、今朝の記事を公開したことは、間違っていなかったと考えています。

客観的に確認できるさまざまな情報を集めたうえで総合的に検証してみると、石破茂首相、あるいは現在の自民党「石破茂体制」は、やり方があまりにも稚拙すぎるからです。あるいは勤労層を敵に回している、と指摘した方が正確でしょうか?

当ウェブサイトでは常々指摘している通り、日本という国は、官僚が法律やさまざまな政省令・規則・命令などを決めて行政を動かしており、良い意味でも悪い意味でも官僚社会です。誰が政権を取っても社会が安定していますし、(一部の分野を除いて)法律で社会の透明性が確保されているからです。

ただ、「官僚が強い」ということは、政治家側もちゃんと官僚に対抗できるような、最低限の資質、とりわけ実務能力が必要です。

ここでいう実務能力とは、たとえば、自分自身が担当する行政分野に関する根拠法や政省令、それらの規制が生じてきた歴史的経緯に関する最低限の知識はもちろんのこと、国内外のさまざまな事例を調査するリサーチ能力であったり、他省庁と折衝する能力であったり、といった全般的な能力を意味します。

国会議員の基礎体力、と呼んでも良いでしょう。

ということは、どんな国会議員であっても、最低限、ITのスキルに加えて六法(憲法、民法、刑法など)の法学の知識、経済学や会計学の知識(金融政策と財政政策の違いなど)、現在の日本が置かれている諸課題などに関する基礎知識を持っていなければなりません。

そのうえで、政治家は国民が日々、何を考え、何を懸念していて、その不安を払拭するには何が必要か、常に考えなければなりません。

アベノミクスとFOIPで現役層の支持を掴んだ安倍総理

故・安倍晋三総理大臣が、そうでした。

安倍総理が史上最長の在任日数を記録したのも、安倍総理が率いた自民党が大型国政選で6回連続して大勝するなど、国民からの圧倒的支持があったからであり、(著者私見ですが)その最も基本に据えられていたのが「アベノミクス」と「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」でした。

安倍総理も残念ながら、2度に及ぶ消費増税を止めることはできませんでしたが、2回目の増税については当初予定の2015年10月から2019年10月に4年間延期することに成功しましたし、日本銀行総裁に黒田東彦氏を据え、異次元金融緩和で失業率を引き下げ、雇用を劇的に改善させました。

著者自身、アベノミクスについては「財政政策が中途半端なものになり、金融政策一本足打法となった」と考えているものの、また、コロナ禍などの事態もあったものの、それでも有効求人倍率が全国的に一時、1倍を大きく超えるなどし、日本がデフレから脱却しつつあることは間違いありません。

これも、安倍総理が(おそらくは)官僚以外にブレーンを置き、とりわけ財務官僚あたりが垂れ流してきた「日本は財政危機だ」、「増税で財政再建が必要だ」、などとする戯言をある程度抑え込み、官僚をうまく使いこなしてきたことが大きな要因でしょう。

そんな安倍総理は、国内的に経済の心配を取り除き、「地球儀を俯瞰する外交」で日米同盟をかつてない高みに引き上げるとともに、日米豪印「クアッド」の枠組みを含め、FOIPを提唱したわけですから、やはり稀代の政治家であったことは間違いありません。

今の石破政権は、まるで財務省政権

そんな安倍総理と今の石破首相を比べるのは酷ですが、それでも私たち日本国民の安全保障と経済がかかっているわけですから、私たち日本国民の側も、当然、注文すべきことは注文する権利があるはずです。

とりわけ財政において、石破首相の対応があまりにも稚拙すぎるのは困り物です。

とりわけ国民民主党が求めている「年収の壁の178万円への引き上げ」が結局「4枚の新たな壁」となってしまった問題もさることながら、現役層の命を奪う高額療養費問題、現役勤労層から財産を奪う厚年料率引き上げ問題などへの対応も稚拙そのものです。

これだとまるで「財務省政権」といわれても文句は言えません。

安倍政権時代に自民党を熱心に支持していた勤労層は、基本的に財務省の立場と相いれない層である、とする著者私見が正しければ、石破政権が財務省・厚労省などの言い分にべったりであること自体、こうした「自民党を熱心に支持していた勤労層」の期待を裏切る行為でもあります。

なるほど、各種メディアの世論調査で、若年層を中心に国民民主党が支持を強く伸ばし、自民党を凌駕(りょうが)するケースが出ているのも頷ける結果です。

くどいようですが、著者自身は国民民主党が「自民党に代わり政権を担うべき素晴らしい政党」である、などとはまったく思っていませんし、むしろ内外に課題が山積するなか、自公両党が衆参で過半数割れしたり、最悪自民党が下野したりすることが、国益に適(かな)うとはまったく考えていません。

あくまでも国民民主党が掲げる「手取りを増やす」、「消費税を下げる」などの対策が経済学的に正しいと考えているだけであり、国民民主党の公約の中にも、金融所得課税の強化や3号被保険者の見直しなど、怪しいものはたくさんあります。

しかし、それでも石破茂首相の言動があまりにも稚拙で、また、国民から大きな批判を浴びた高額療養費上限引き上げの延期を巡っても、参院選が終わって自公がなんとか現状を維持できたならば、きっと手を付けるに違いない、などと多くの国民が見透かしているのではないでしょうか。

事実、Xなどを見ていると、数年前は自民党を熱心に支持していたと思しきアカウントからも、「高額療養費引き上げや厚年の流用、厚年掛け金の上限引上げに反対する人は自民党を勝たせてはならない」、などといった主張が出ている始末です。

こうした主張をする人たちについて、「あなたがたは数年前、自民党を支持していたはずなのに、なぜ前言を翻して自民党落選運動をしているのか」、などと問い詰めたい気持ちを持つ人もいるかもしれませんが、著者自身はこれもやむを得ない変化だと考えています。

「受けることばかりやると国滅ぶ」?不必要なことばかりやるくせに…

少なくとも石破首相が安倍総理と違って国民経済の最大化をまったく考えていないことは明らかだからです。

ちなみにその石破首相は10日、自民党の党大会で、「受けることばかりやっていると国は亡びる」と述べた、などと報じられています。

「受けることばかりやると国滅ぶ」 自民党会合で首相強調

―――2025年3月10日 14:30付 日本経済新聞電子版より

しかし、石破首相が押し切ろうとした(そして失敗した)高額療養費の大幅な引き上げは、「必要なこと」ではありません。現役層が難病を患った場合、医療費負担に耐えられなくなり治療を諦めるという事例が出てくることが十分に想定されるためです。

石破首相が勤労層から支持されない理由も、こうした言行の不一致などにもあるのかもしれません。

自民党・西田参議院議員が首相更迭論

さて、こうしたなかで、石破茂首相が有権者、とりわけこれまで自民党を熱心に支持していたであろう勤労層の期待を裏切り、勤労層から自民党がそっぽを向くという事態が懸念される、というのは、これまでに当ウェブサイトにて取り上げてきた通りです。

ただ、これについては自民党内の危機感も相当に高まっているらしく、共同通信は12日、こんな記事を配信しています。

自民・西田昌司氏、首相交代要求 議員総会で「参院選戦えない」

―――2025/03/12 10:52付 Yahoo!ニュースより【共同通信配信】

共同通信によると自民党の西田昌司参議院議員が12日、参議院議員総会(※報道陣に非公開)のなかで、石破首相を交代させ、新たなリーダーを選びなおすべきと発言したのだそうです。「出席者が明らかにした」のだとか。

また、同じく自民党の青山繁晴参議院議員はニッポン放送のラジオ番組で、高額療養費を巡る石破首相の方針転換を巡り、「一定の政治責任を取らざるを得ない」と指摘したのだそうです。

青山氏は2022年の全国比例当選組であり、今夏の参院選での改選対象者ではありませんが、西田氏は京都府選出で直近は2019年の選挙で選ばれているため、今夏の参院選がちょうど改選期です。

想像するに、西田氏は支持者からも相当に厳しい言葉を投げかけられているのではないでしょうか。

この点、たしかに昨年秋の衆院選で、自民党は石破茂体制のもとで選挙を戦い、単独過半数を失うという大敗を喫しています。その意味では、西田氏がいうとおり、石破茂体制に対してはすでに「国民の審判は出ている」のです。

自民党議員を中心に、石破茂首相の退陣を求める声が出てくるのは当然の話でしょう。

交代すればすべて解決なのか?「高市総理」に期待できるのか?

ただ、話はそこまで単純ではありません。

昨年9月の自民党総裁選で石破茂氏は党員票第1位だった高市早苗氏を抑え、堂々の当選を決めているわけですから、石破茂体制は過半数の自民党国会議員が望んだものでもある、ということです。

もし自民党議員が「選挙で勝てないから」という理由で「石破おろし」を画策したとしても、有権者に根付いてしまった自民党への不信感が、首相が代わったくらいで払拭できるというものでもありません。

「ウルトラC」がひとつあるとしたら、予算成立直後あたりで石破首相が辞任し、高市早苗氏あたりが総理に選ばれ、その「高市総理」が国民民主党と急遽、「年収の壁」案についての再協議実施を支持し、国民民主案を丸呑みする―――などかもしれません。

現在の自民党の党内力学に照らし、残念ながら、その可能性は現時点で決して高くないでしょう。

それに、国民民主党案を呑めば呑んだで、有権者側は、「自民党に多数を与えるのではなく、国民民主党にキャスティングボートを握らせておこう」と判断するかもしれず、もしそうなった場合は自民党が参院選で敗北するのも避けられず、「高市総理」は敗戦責任のみを追及されることになるかもしれません。

もちろん、自民党がいまのまま、減税や社会保障負担減少などに頑なに応じない姿勢を崩さなければ、現役層からの支持が失速し、最悪の場合、参院選での大敗と過半数割れも視野に入ってきます(自公過半数割れの可能性は現時点でそこまで高いわけではありませんが…)。

このように考えたら、自民党から石破首相更迭論が出てくるのは当然ともいえる反面、自体がそこまで単純でもないこともまた間違いないといえるでしょう。

はたして自民党はこの難局をどう打開するのでしょうか、あるいは打開できずに沈むのでしょうか。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. DEEPBLUE より:

    石破政権も確かに愚劣ですが、財務省べったりなその政策の大半は岸田前政権からの延長線上ですからね。
    最近では石破首相に全ての責任を押し付けて岸田前首相が復権しようという流れもあるようで。諸悪の元凶は岸田氏なので首相が代わろうが、この人をどうにかしないとどうもなりません。

  2. Masuo より:

    > 今の石破政権は、まるで財務省政権

    真の敵は財務省でしたね。岸破は財務省の傀儡のようです。

    自民党倒しても、自民党以外の野党が政権を取っても日本はよくならないでしょう。
    今の財務省を解体しない限りはそう思います。

    ただ、まぁ今の自民党は民主主義の破壊を企てる、左翼売国政権だと思うので、今の執行部が続く限り自民党は支持できないです。やはり一度、選挙で負けて執行部はガラリと変わってもらう必要がありそうです。ただ、負けすぎるとまたあの悪夢の再来かと思うと難しいですね。。。

    みんな選挙に行ってほしいです。

    1. シロー より:

      後藤田(正晴元官房長官時の)五訓の一つである「省益を忘れ 国益を思え」こんな想いの政治家や官僚は誰かいないのかなあ。

  3. 一之介 より:

    >「受けることばかりやると国滅ぶ」?
    下品で無脳な石破ガラクタ内閣が国を滅ぼすのだと思いますよ。
    13人でしたっけ?今まで使い物にならないような人物を初入閣させたの?
    所謂売れ残り在庫一斉セールですかね。この連中が石破さんを支持したのでしょうね。
    だめだコリャ‼️

    1. セクシー○○ より:

      >下品で無脳な…
      同意します。どなた様か、「みっとも内閣」と言ってました。

  4. 匿名 より:

    いしばを

  5. KA より:

    石破を総裁に選んだジミンですからね、、、
    次もマスコミが言う人気者に乗って小泉や河野がなる可能性もありますから
    総理が代わればいいとは言えないの確かです。

  6. カズ より:

    ふーん。
    マスコミ・左派に受けることばかり言ってたから、言行不一致なのにね・・。
    ・・・・・
    (中国の兵法書「六韜(りくとう)」の一節なんですって)

    交渉の為に隣国から使者が来て、もしその者が有能ならば何一つ与えず返せ。
    交渉の為に隣国から使者が来て、もしその者が無能ならば大いに与え歓待せよ。
    さすれば、隣国では無能な者が重用され、有能な者が失脚する。
    そしてやがては滅ぶ

    マスコミ・左派による恣意的な「石破氏の持ち上げ」に踊らされた自民党議員。
    自己研鑽を怠り、新聞やテレビばかり見てるから、本質が見えなくなるのかと。

    *後悔ではなく反省を求めます。

    1. はにわファクトリー より:

      >使者が来て、もしその者が無能ならば大いに与え歓待せよ

      これは先の石破トランプ会談が米政権と外務省担当部局の合同謀議、すなわち褒め殺し接待だったことを示唆していますね。

  7. foo より:

    「受けることばかりやると国滅ぶ」
    なにやら大仰な物言いですが、ザイム真理教団だけに受けが良いのですから、
    確かに、国は滅びますね。

    正確には、日本国民の減少が加速する中で、徴税の為に異なる日本国民が日々生産されている
    日本ではない、異なる日本が出来上がりつつあるということですから、滅びの時を迎えるのは
    もう少し先になるようです。
    いずれにしても嘗ては世界地図に「日本」という国はあったが、と、過去の事として語られるようになります。

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