神戸LRT構想の長所…具体的路線を勝手に考えてみる

人口減少時代に新たな鉄道路線を作るのは「とんでもない」?いやいや。そんなことはありません。鉄道は少ない乗務員で大量の人員を定時反復輸送するのにこれ以上ないほど適した交通手段だからです。ただし、地下鉄の敷設にはコストがかかります。こうしたなかで、ふと思ったのですが、宇都宮で大成功したLRTをほかの都市―――たとえば神戸―――でも敷設すれば、ルートによってはかなり輸送効率が上がるのではないでしょうか。

鉄道路線は不要なのか?

都市部の新たな交通手段、などと聞くとやはり夢は広がります。

近年は「公共事業悪玉論」のせいでしょうか、新たな鉄道を敷設するとなれば、非難が殺到するフシがあります。とりわけ都心部や都市部に高規格な高速鉄道を敷設するなら、多くの場合は地下鉄とならざるを得ず、用地買収にコストがかかるほか、近年は建設費も高騰しているからです。

しかもこの少子化社会ですから、鉄道の輸送人員が減っていくと想定されるなか、新たな路線をどんどんと伸ばしても、採算が取れないだろうに、といった批判が出てくるわけです。

しかし、著者自身は以前から、鉄道路線の拡充は必要だと考えています。

そもそも鉄道は(規格にもよりますが)少ない乗務員で大量の旅客を効率的に定時反復輸送するのに向いており、バス、タクシーといった乗用車と比べると地球温暖化ガス排出量も少なく、むしろ少子化・生産年齢人口減少社会においては必要な交通手段です。

したがって、著者自身としては、「むしろ社会全体で生産力が残っているうちに、東京などの大都市圏の地下鉄はもっと増設した方が良いのではないか」、とすら考えている次第です。

神戸の新地下鉄構想、実現すれば移動効率が飛躍的に上がる

そして、こうした事情は東京だけではありません。

かなり以前の『空港・都心・新幹線を直結する鉄道路線は合理的=神戸』でも取り上げましたが、港都・神戸で空港、フェリーターミナル、在来線・私鉄ターミナル駅、そして新幹線駅を一本で結ぶ新たな地下鉄構想が提唱されたことがあります。

端的にいえば、現在の神戸市の財政状況などに照らし、こうした地下鉄路線を敷設するというのはあまり現実的なものではありません。

ただ、発想としては、非常に合理的です。この路線を作れば、陸、海、空の交通の要衝として、神戸の拠点性が飛躍的に向上するからです。

神戸は(近年人口は減少しているようですが)かつての「五大都市」の一角を占め、モダンでハイカラな街として知られてきました。ただ、そんな神戸も街の発展は限定的です。街を東西につなぐ鉄道網は充実しているのですが、南北方向の移動に弱いからです。

神戸は北を六甲山系、南を神戸港に挟まれ、市街地がヘビのように東西に細長く伸びているという特徴があり、主要路線――たとえばJR神戸線(東海道・山陽本線)、阪急神戸線、阪神本線、地下鉄山手線(やまてせん)、神戸高速東西線、山陽電鉄線など――は、いずれも東西方向に走っています。

これに対し、南北方向に走る路線は限られており、事実上の山岳鉄道である神戸電鉄線や、新幹線の新神戸駅の地下を通る市営地下鉄北神線(旧・北神急行線)などを除けば、南北方向の鉄道路線はほとんどありません。

こうした街が山と海に挟まれているという地形を克服すべく、神戸市は「山、海に行く」の合言葉で知られるとおり、山岳地域を削って土砂を海に運び、可住面積を増やそうとしてきました。その結果のひとつが人口島・ポートアイランドであり、その沖合に作られた神戸空港です。

コスト面からは難しそうだが…

そして、その神戸空港は直線距離で、三ノ宮駅からだと南東方向に約7㎞、新神戸駅からだと南東方向に約8㎞、それぞれ離れています。

ということは、このくらいの距離であれば、南北方向に移動する地下鉄新線を設けることに合理性がある、ということでもあります。

ただ、問題となるのは費用です。

現在提唱されている(らしい)構想によれば、ポートアイランドを通る鉄道は、大学が多い西側ルート、企業進出が期待される東側ルートの大きく2つが提案されているものの、三宮周辺は既存の地下鉄よりもさらに深い位置に駅を建設する必要があるとされます。

このあたりは正直、鶏と卵の関係でしょう。

新線が開通し、交通アクセスが改善すれば、産業用地の売却・賃貸・活用が加速するでしょうし、目論見通り沿線人口なども増えて利用者が増大するなどすれば、それにより採算も取れるはずです。

しかし、現時点で交通アクセス手段が限られているなかでは用地の活用も進みませんし、この状況で需要予測を行っても総事業費の元が取れる見込みがないため、事業化は断念されてしまいます。

民間企業であれば、総合的に採算性評価を行い、リスクを取って事業化を決断するところですが、今回の地下鉄構想は(おそらくは)市営事業であり、前世紀末から今世紀初にかけて第三セクターの経営破綻などが相次いだことを踏まえると、地方公共団体が「リスクを取る」のも難しいところです。

神戸市政策のPVにLRTの姿が…!

ただし、ここで個人的に、ちょっと興味深いと思う記事が出てきました。

どうなる?神戸の玄関駅、三宮「乗り換え激変」再開発の未来 市が描く「2030年代」の将来像にはLRTの姿も?

―――2025/03/05 04:32付 Yahoo!ニュースより【東洋経済オンラインより】

リンク先は、ウェブ評論サイト『東洋経済オンライン』が5日に配信した、神戸経済ニュース編集長の山本学氏が執筆した記事です。

記事自体は神戸の玄関駅である三宮で、乗り換え導線の大幅な改善などが期待できる新たなビル開発プロジェクトなどが進んでいる、とするものですが、神戸市のプロモーション動画に、次世代型路面電車(LRT)が登場したのだそうです。

実際、YouTubeにアップされている動画を見ると、動画の3:48の時点で、たしかに緑色のLRTっぽいものが走っているのが確認できます。

路線次第では利便性がとても上昇する:コスト浮かす工夫も可能

三宮駅が具体的にどんな姿を目指しているかについては、記事を直接読んでいただきたいと思いますが、やはり個人的に興味深いのは、LRTの具体的な路線です。

LRTといえば、すでに栃木県宇都宮市という「大成功事例」があるわけですが(『共産党が反対していた宇都宮LRT開業1年目の大成功』等参照)、LRTは地下鉄と比べ、建設費を大幅に圧縮できるというメリットがあります。

あくまでも「仮に」の議論ですが、神戸空港からポートアイランド、ポートターミナルを経由して三宮までは地上のLRT方式で建設し、三宮駅から新神戸駅の区間については地下鉄方式とすれば、「神戸地下鉄構想」と同じものができます(新神戸・三宮間は既存の山手線と別に敷設すると非効率かもしれませんが…)。

さらに、それも完全な新規路線とするのではなく、新開地駅まで伸びている神戸電鉄をそのまま兵庫駅に伸ばし、和田岬線とつなげたうえで、和田岬からポートアイランドまでの約2㎞をトンネルなどでつなげば、神戸空港、三宮、兵庫駅、新開地駅といった交通の要衝を効率的に結べるかもしれません。

この案だと、全面的に地価路線を敷設するのと比べれば、新たに敷設する区間も遥かに少なくて済みます(※ただし、この場合は神戸電鉄とJR山陽本線が狭軌であるため、LRTも狭軌で作る必要があるかもしれませんが…)。

ちなみに地下鉄と路面電車がつながっている、というのは、すでに京都市営地下鉄東西線と京阪電気鉄道京津線の直通運転、という事例があります。神戸電鉄にとってもまさかの三宮乗り入れが実現する格好ですし、悪い話ではないでしょう。

また、この案だと、人員を三宮方面だけでなく、兵庫駅や新開地駅にも分散させることができるうえ、兵庫からはJR山陽本線、新開地で山陽電車、湊川駅で地下鉄山手線にそれぞれ乗り換えられ、そのまま有馬温泉方面にもアクセスできます(理想を言えば神鉄が京都方面にも伸びていれば良いのかもしれませんが…)。

なによりインバウンド需要が増え、神戸空港が国際化するなかで、たとえば京都、大阪、姫路などの観光地に向かう外国人観光客が関空に加え神戸空港に殺到してくると、ただでさえ過密状態の既存のポートライナーだけでは対応が難しくなります。

いずれにせよ、神戸という街の交通機能が抜本的に強化されれば、ひいては西日本全体の国土軸が強化され、日本全体の物流、交通の効率改善にも非常に大きな意味があると思うのですが、いかがでしょうか?

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. はるちゃん より:

    ポートアイランドや六甲アイランドは、東京の台場のようにまわりと繋がっていませんので行き止まり感があって発展性がありません。
    三宮から神戸空港、そして神戸空港から和田岬経由でJR兵庫駅につなげれば、明石や姫路あたりから神戸空港へのアクセスもかなり良くなりますので、ポートアイランドと神戸市の西部の活性化が期待できます。
    私としては、京都の観光事情の改善もLRTの採用が必要ではないかと思っていまして、観光地間の足を輸送力のないバスに依存している限り改善は望めないと感じています。
    昔は京都市内を縦横に市電が走っていましたので、どこへ行くのも大変便利でした。京都にこれ以上地下鉄の路線は財政的にも無理ですし経済的にも無駄ですので、路面電車の復活が一番現実的な方法だと思います。バッテリーや燃料電池で走るLRTが開発可能なら、線路を敷設するだけで済むのではないでしょうか?

    1. 匿名 より:

      京都や神戸にLRTを敷くなら専用軌道は絶対死守です。
      半世紀前、京都の市電で通学していたのですが自動車の渋滞に巻き込まれて何度遅刻しかけたことか。
      まずはバス専用レーンから試してみてはどうでしょう。

  2. 匿名 より:

    >神戸は (中略) 主要路線――たとえばJR神戸線 (東海道・山陽本線)、阪急神戸線、阪神本線、地下鉄山手線 (やまてせん)、神戸高速東西線、山陽電鉄線など――は、いずれも東西方向に走っています。

    主要路線がいずれも南北方向に走っている大阪府堺市は、東西に走るLRTを作ろうとしたが、反対派が市長になって頓挫。しかしその市長は、堺市内を南北に走る路線の1つで、路面電車の阪堺電軌には10年間で50億円の財政支援。なにがなんだか。

    【堺のゆくえ 令和の市長選】(3) 東西交通 「堺鉄道」 浮き沈み – 産経ニュース
    https://www.sankei.com/article/20190607-M3H75GOQZZOKXAYSXVX35NCXKE/

    路面電車の阪堺線、大阪・堺市が50億円支援 10年間めど – 日本経済新聞
    https://www.nikkei.com/article/DGXNASJB3002Z_Q0A630C1LDA000/

    1. 引っ掛かったオタク より:

      “建て増しはせえへん”けど“雨漏りは直す”てだけちゃうの? 知らんけど

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