新聞業界に迫る「突然死リスク」
最近、テレビ業界ではCM差し止めラッシュなどが強く意識されているようですが、やはり個人的には、今後5~10年間における「大倒産ラッシュ」の本命は、新聞業界だと思います。なにせ、新聞業界は部数の減少が続いていることもさることながら、新聞経営陣らが本当に無為無策だからです。新聞は紙媒体からウェブ媒体に移行するチャンスが少なくとも過去に何回かあったにも関わらず、新聞社の経営陣は、本当に無為無策だったのではないでしょうか。
目次
メディア利権と新聞
オールドメディアの崩壊は新聞業界の崩壊から?
当ウェブサイトではかなり以前から、インターネットの発達につれて新聞・テレビを中心とするマスメディア(あるいは「オールドメディア」)の社会的影響力が後退し、その支配力が急落するであろう、と予想してきました(詳しくは昨年の『【総論】腐敗トライアングル崩壊はメディアから始まる』などもご参照ください)。
ただ、ウェブ評論家の限界として、「やがてオールドメディアの社会的影響力は急落するだろう」、などと偉そうに述べたとしても、その「具体的な時期」、つまり「何年何月何日における新聞の実売部数がどうなる、テレビの視聴時間数がどうなる」、などとする情報を正確に言い当てることはできません。
あくまでも「そういう方向性にある」、といえるだけです。
しかし、その正確な時期を言い当てることはできませんが、おおよその目安ならば示せます。
新聞部数は減り続けている
たとえば一般社団法人日本新聞協会は毎年、その年の10月における新聞の部数のデータを公表しているのですが(ただし朝・夕刊のセット契約については「セット部数」として公表されています)、これをもとに、朝刊・夕刊の合計部数を再計算してみたものが、次のグラフ(図表1)です。
図表1 合計部数の増減(3年ごと)
(【出所】一般社団法人日本新聞協会データ【1999年以前に関しては『日本新聞年鑑2024年』、2000年以降に関しては『新聞の発行部数と世帯数の推移』】をもとに作成。なお、「合計」は朝夕刊セット部数を2部とカウントしたもの)
図表でもわかりますが、新聞部数は1996年には7271万部を数えましたが、これがなんと、2024年には3053万部、すなわち最盛期と比べてざっと4割強に減ってしまったのです。
減少率で示すと…?
しかも、部数の減少は最近になればなるほど激しくなるという傾向が認められます。図表2は新聞部数の前年比増減率を示したものです。
図表2 新聞部数の前年比増減率
(【出所】一般社団法人日本新聞協会データ【1999年以前に関しては『日本新聞年鑑2024年』、2000年以降に関しては『新聞の発行部数と世帯数の推移』】をもとに作成。なお、「合計」は朝夕刊セット部数を2部とカウントしたもの)
これによると直近、つまり2024年は前年比で7.61%の落ち込みであり、2023年の3305万部と比べて減少部数は251万部で、じつは、ここ7年で最も減少ペースが鈍いといえます。
2020年はコロナ禍、2023年は「新聞値上げラッシュ」で、それぞれとくに落ち込みが大きかったのですが、2024年の落ち込みは、これらと比べればまだずいぶんとマシだった、ということですが、それにしても251万部も落ち込んでいるのに「最近と比べればまだマシ」、というのも凄い話です。
なぜ新聞業界は高コストなのか
高コストな新聞業界
仮に新聞部数がこのまま毎年200~300万部ずつ落ち込んでいけば、新聞業界は間違いなく、あと10年前後でこの世から姿を消しますが、それだけではありません。そもそも新聞事業自体が成り立たなくなるタイミングが、もっとかなり前のタイミングでやってきます。
新聞事業というのはずいぶんとコストがかかる業態だからです。
記事原稿をせっせとかき集めてくる新聞記者やふんぞり返って社説やコラム記事などを書く編集委員のみなさま、役員のみなさまなどの人件費、それらの皆様が使う旅費交通費や接待交際費はもちろんのこと、黒塗りのハイヤーの維持管理費なども相当なものでしょうが、それだけではありません。
書きあがった記事を印刷するためには輪転機などの高価な設備が必要ですし、自社で輪転機を持っていない場合は輪転機を持っている他社への印刷の委託費、地さらに刷り上がった新聞を(球温暖化ガスをまき散らしながら)人海戦術で各地に送り届ける人件費やガソリン代も必要です。
いまやネット上に無数に存在するウェブ評論サイト、ブログサイトといったウェブ上のプラットフォームだと、この「印刷」「地球温暖化ガスをまき散らしながらの人海戦術での配達」というプロセスが発生しないため、コスト競争力で勝てるわけなどありません。
新聞の原価率は70%超
これを、もう少し詳しく見ていきましょう。
以前、某大手新聞社の有報を使用した分析では、新聞1部あたりの月間の売上高を4,260円とすると、売上原価が3,106円(うち材料費が516円、労務費が834円、経費が1,756円)で、新聞1部あたりの粗利が1,153円程度だ、とする話題を取り上げたことがあります。
これを改めて図示すると図表3のような具合です。
図表3 新聞1部あたりの売上高・売上原価分析
項目 | 単価 | 売上に対する割合 |
売上高 | 4,260円 | 100.00% |
売上原価 | 3,106円 | 72.91% |
うち材料費 | 516円 | 12.11% |
うち労務費 | 834円 | 19.58% |
うち経費 | 1,756円 | 41.22% |
粗利 | 1,153円 | 27.07% |
(【出所】とある新聞社の2024年3月期有報を参考に作成)
原価率72,91%(!)というのも凄いですが、冷静に考えたら、材料費(516円)、労務費(834円)のうちの工場人件費、経費(1,756円)のうちの印刷費など、新聞を「紙に刷る」ことのコストが新聞社経営をかなり圧迫しているわけです。
その正確な割合は不明ですが、想像するに、売上原価3,106円のうちのおそらく半額前後は「物理的な新聞紙」を作るためのコストであり、逆にいえば、米WSJなどのように電子契約に誘導することに成功すれば、新聞社もコストを大幅に圧縮し収益性を著しく改善できるはずなのです。
新聞業界は驚くほど無為無策だった!
ところが、そのチャンス、2000年代初頭や2010年代、最近だと2020年のコロナ禍のころなど、何度か訪れたのですが、新聞業界はまったく対応しようとしませんでした。
驚くほど無為無策だった、というべきでしょうか。
2000年代といえばITブームのころで、インターネットの普及に乗じ、たとえば米紙などに倣い、「新聞契約をしていれば、インターネット上で無制限に記事を読める」などのサービスを提供する貴重なチャンスだったのですが、日本のほとんどの新聞は、そうしたサービスに手を出しませんでした。
続いて2010年代といえば、PCに続きスマートフォン、タブレットなどが普及し始めた時期で、英米などのメディアは大々的にウェブ版のマーケティングを開始していたのですが、日本だと日経電子版が創設されたのがちょうどこのあたりの時期です。
ただ、日本だと電子版を大々的に開始したのが日経くらいなもので、あとは日経と朝日新聞、読売新聞の3社が共同で2008年から新聞社説の読み比べサイト『新s(あらたにす)』を開始したものの、こちらは2012年にサービスを終了しています。
さらに、コロナ禍の2020年ごろといえば、もうネット回線はかなり全国に普及していた時期でもあるため、たとえば新聞社が主導し、iPadなどのタブレットをベースにした新聞閲覧専用の端末を各家庭に無料で配布するなどしていれば、もしかしたら新聞契約はここまで落ち込まなかったかもしれません。
日本経済新聞社のように電子戦略である程度成功した社もないわけではないのですが、あるいは読売新聞社のようにあえて値上げを1年遅らせるなどした事例もないではないのですが、残念ながら、大部分の新聞社はただなすがまま、部数が落ちるのを、指をくわえて眺めていただけではないでしょうか。
ちなみに電子契約については、朝日新聞が公表している「朝日新聞メディア指標」に基づけば、「朝デジ有料会員数」は2024年9月末時点で30.3万件と、半年前と比べ0.3万件減るなど、あまり芳しい状況ではないようです(『新聞部数減少続くも電子契約増えず=朝日メディア指標』等参照)。
最大手の一角を占める朝日新聞でさえこういう状況ですので、他社に関しては推して知るべし、でしょう(※なお、読売新聞の場合はそもそも「電子版のみの契約」というものが存在しないようであり、「朝デジ有料会員数」に相当する概念があるのかどうかは不明です)。
というよりも、朝日新聞や日経新聞といった大手ならともかく、あるいは産経新聞のように一種独自の路線を歩んでいるメディアならともかく、その他の多くの地方紙などの場合だと、読者を電子版契約にうまく誘導できているとは言い難いのが実情ではないでしょうか。
自力での輪転機更新すらままならない新聞業界
いずれにせよ、新聞事業は輪転機などの大型設備を含めた典型的な「固定費産業」です。
とくに輪転機は、現在の新聞社の経営体力に照らして、そう簡単に導入できるものではありません。
たとえば、昨年も総務省の外郭団体である「ふるさと財団」(おそらく事実上の「総務省の天下り団体」でしょう)が運営する「ふるさと融資」という低利融資事業で琉球新報社が輪転機を更新した、とする話題がありました(『ふるさと融資から垣間見える新聞業界と官僚の癒着構造』等参照)。
普段舌鋒鋭く自民党政権を批判しているはずの新聞社が、なぜかめったなことでは官僚を批判しない理由が、案外、官僚と新聞社が事実上癒着しているからだ、とする当ウェブサイトの仮説も、案外、正鵠(せいこく)を射ているのかもしれません。
しかし、固定費が高いということは、それだけ事業破綻するリスクが高い業種、ということでもあります。
たとえば新聞事業で1部あたり年間売上高を5万円、年間変動費用(印刷費、紙代、インク代など)を4万円と仮定すれば、新聞1部あたりの年間変動利益は1万円と算出できます。
このとき、年間の固定費が100億円だったとすれば、この新聞社は新聞を100万部発行しなければ、固定費すら回収できなくなって倒産してしまいます。
もちろん、ここで紙媒体の発行をやめて電子版に一本化すれば、固定費が一気に節約できるうえ、変動費用も節約でき、変動利益率も改善するため、新聞社の経営は一気に楽になるのですが、それはおそらく期待できません。先ほどから申し上げている通り、新聞社の経営陣は無為無策だからです。
いずれにせよ、「このままのペースで新聞部数が減り続ければ、いずれ新聞部数はゼロになる」、というのは、あくまでもグラフ上の話であり、現実問題としてはその「ゼロになる点」よりもかなり手前のところで、固定費が賄えなくなって倒産してしまうのです。
余談ですが、このあたりの事情については、昨日の『フジメディアの経営を不動産だけで支えることは不可能』でも触れた「テレビ局の収益構造」とも大変良く似ています。テレビ局も原価率が極めて高く、あまり儲からないビジネスだからです。
しかも、広告だけでなく読者からの購読料収入も期待できる新聞社とは異なり、民放テレビ局の場合はCM収入にかなりの割合を依存しており、株式会社フジ・メディア・ホールディングスのケースでいえば、売上高の少なくとも半額前後はCM収入であろうと考えられます。
ということは、現在のようにテレビ局の不祥事(疑惑)によりCMが一斉に止められるという事態が生じると、費用は出ていくのに売上が止まってしまう、といった事態が生じ得るのです。
その意味で「突然死リスク」は新聞社よりもむしろテレビ局のほうが高いのかもしれませんね。
新聞というビジネス自体が終わった
さて、なぜここまで新聞が部数を減らしているのかといえば、新聞の媒体そのものとしての物理的な限界(記事の検索ができない、過去の記事を保存するのに物理的な場所が必要、読むと手にインクが付く、写真や文字を拡大することができない、情報が印刷されてから届くまで遅い…等々)だけが理由ではありません。
新聞というビジネス自体が、もう終わってしまったからです。
そもそも、ネットの普及と発展により、新聞に掲載されている記事そのものが、「面白くない」、「偏っている」、「情報として信頼できない」、「役に立たない」などとする評価を受けるようになったからではないでしょうか。
これに対し、ネットの世界では、情報の「タテ検索」(同じ話題を時系列で調べること)と「ヨコ検索」(同じ話題をメディア横断的に調べること)が簡単にできてしまいます。
この点、ネット上には妙な陰謀論サイトであったり、疑似科学サイトであったり、あるいは明らかなフェイクブログ(たとえばロシアフレンズ系など)であったり、といったいい加減な情報サイトもあります。
しかし、そうしたサイトも、私たち読者の側が「ネットの情報には不正確なものもある」という点に注意して眺めれば済む話ですし、むしろ多様なサイトがもたらす多様な視点により、一面的で偏った新聞の情報を補うことができるわけです。
新聞事業の突然死リスク
というよりも、新聞(やテレビ)のように、情報の質と比べて取っている対価が高すぎるメディアは、やはり、この自由経済競争原理のなかで、生き延びていくこと自体が難しくなるでしょう。
もちろん、過去の習慣で新聞を読み続けている人はいますが、先ほどから申し上げている通り、すべては事業の持続可能性という論点であり、新聞を読む人が社会全体で一定数を割り込むと、新聞事業自体が急激に縮小し始めます。
事業としての存続可能部数を割り込んだら、その瞬間、事業継続が不可能になってしまうわけです。
これが、新聞事業の突然死です。
最近だとテレビCMの差し止めラッシュなどもあり、テレビ局経営の脆弱さを意識することも多いかもしれませんが、やはり個人的には、今後5~10年の「大倒産ラッシュの本命」は、やはり新聞業界ではないかと思うのですが、いかがでしょうか?
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
そんな日韓関係論を巡って、素晴らしい書籍が出てきた。鈴置高史氏著『韓国消滅』(https://t.co/PKOiMb9a7T)。
日韓関係問題に関心がある人だけでなく、日本人全てに読んでほしい良著。
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(例えるなら時代が石炭から石油に代わったみたいな?)