ネットで話題…「新聞業界がこの先生きのこるには?」

SNSでちょっとした話題となっているのが、「新聞業界がこの先生きのこるためには」、というものです。「新聞は速報性ではもう絶対ネットにはかなわない。だから、新聞は速度を捨てて、裏取りをしっかりと行い、根拠を持ってネット・ニューズの検証を行うことに徹したらどうか」。ファクトチェック、裏取り、科学的検証―――。なかなかに、無慈悲な要求です。すべて、日本の新聞が苦手としていることばかりだからです。

今年も新聞業界で相次ぐ休刊

当ウェブサイトにて例年取り上げている話題のひとつが、一般社団法人日本新聞協会が毎年12月末ごろに発表する、新聞の部数に関するデータです。ここ最近、新聞部数は石ころが坂道を転がり落ちるかのごとく、毎年のように急減しているからです。

今年、つまり2024年10月1日時点のデータについては、現時点ではまだ公表されていないようですが、何となく部数がどうなっているか、想像がつきます。今年も、一部県での全国紙の配送停止や夕刊発行断念など、新聞業界の退勢を示す話題には事欠かなかったからです。

とりわけ夕刊については部数の落ち込みが激しく、夕刊部数は2022年に645万部でしたが(※後述する通り、これは「セット部数+夕刊単独部数」の合計です)、これがたった1年後の2023年には491万部と、一気に154万部減りました。減少率でいえば23.85%、つまり約4分の1です。

最近だと全国紙でも地域によっては夕刊を発行していないというケースは多く、また、昨年夕刊を事実上廃刊した北海道新聞、今年東京23区以外での夕刊発行を取り止めた東京新聞のように、ブロック紙でも夕刊発行を断念するケースが相次いでいます。

新聞部数はどうなる?

新聞部数はここ数年、減りがさらに加速している

ちなみに著者自身は過去の『日本新聞年鑑』を公立図書館で調べるなどし、1982年からの部数データを手元に所持しているのですが、2000年前後でデータのフォーマットが異なるため、これを比較可能にする目的で、「新聞の合計部数」という概念を使用しています。

日本新聞協会のデータは「合計」、「種類別(一般紙/スポーツ紙)」、「発行形態別(セット部数/朝刊単独部数/夕刊単独部数)」という区分で公表されているのですが、このうち「発行形態別」について、「セット部数」を朝刊1部、夕刊1部に分解し、それぞれの単独部数と合わせる、という加工をしているのです。

世の中のニューズサイト等でこの日本新聞協会のデータを使用した記事が掲載されるときは、「セット部数」を朝・夕刊に分解していないことが多いため(著者私見)、当ウェブサイトの記事で述べている部数データと合わないことがあるのは、そういう理由に基づくものです。

こうしたうんちくはともかくとして、1999年から2023年までのデータを使い、部数自体がどう推移していたかを3年刻みで示しておくと、図表1のとおり、最近になればなるほど部数の落ち込みが激しくなっていることが確認できます。

図表1 合計部数の増減(3年ごと)

(【出所】一般社団法人日本新聞協会データ【1999年以前に関しては『日本新聞年鑑2024年』、2000年以降に関しては『新聞の発行部数と世帯数の推移』】をもとに作成。なお、「合計部数」は朝夕刊セット部数を1部ではなく2部とカウントすることで求めている)

コロナ禍を別としても年間300万部近く減っている

少し冗長ですが、部数の増減を実数(1万部未満は四捨五入)で示しておくと、こんな具合です。

合計部数の増減
  • 1999年→02年…7222万部→7082万部(▲140万部、年換算*▲47万部)
  • 2002年→05年…7082万部→6968万部(▲114万部、年換算*▲38万部)
  • 2005年→08年…6968万部→6721万部(▲247万部、年換算*▲82万部)
  • 2008年→11年…6721万部→6158万部(▲563万部、年換算▲188万部)
  • 2011年→14年…6158万部→5672万部(▲486万部、年換算▲162万部)
  • 2014年→17年…5672万部→5183万部(▲489万部、年換算▲163万部)
  • 2017年→20年…5183万部→4234万部(▲948万部、年換算▲316万部)
  • 2020年→23年…4234万部→3305万部(▲930万部、年換算▲310万部)

(【出所】一般社団法人日本新聞協会データ【1999年以前に関しては『日本新聞年鑑2024年』、2000年以降に関しては『新聞の発行部数と世帯数の推移』】をもとに作成。なお、「合計部数」は朝夕刊セット部数を1部ではなく2部とカウントすることで求めている)

2017年から20年にかけてのタイミングでは3年間で948万部減りましたが、これはコロナ禍の2020年に、一気に389万部減った、という効果が大きかったものと思われます。2019年に4623万部だった部数が4234万部に減ったのです。減少率でいえばなんと8.41%でした。

減少「率」で見ると2023年は過去最大に!

ただ、1982年以降で見た部数の減り方自体は、2020年が最も大きかったのですが、減少「率」で見てみると、むしろ2023年が過去最大となっていることがわかります(図表2)。

図表2 新聞部数の前年比増減率

(【出所】一般社団法人日本新聞協会データ【1999年以前に関しては『日本新聞年鑑2024年』、2000年以降に関しては『新聞の発行部数と世帯数の推移』】をもとに作成。なお、「合計部数」は朝夕刊セット部数を1部ではなく2部とカウントすることで求めている)

母数が減れば、減少幅が同じであっても減少率に換算すれば大きくなりますので、これも当然のことかもしれませんが、いずれにせよ、なんとも印象的です。

部数が落ち込んでいるときに値上げする新聞業界

ただ、印象的なのはそれだけではありません。昨今の物価高の影響もあってか、新聞各社による購読料の値上げが相次いでいるのです。図表3のとおり、主要9紙(5つの全国紙・4つのブロック紙)のうち中日新聞を除くすべてが、昨年5月以降、値上げに踏み切っているか、値上げすると表明しているのです。。

図表3 主要全国紙、ブロック紙のうち中日新聞を除く
新聞セット価格朝刊単独
朝日新聞(2023年5月)4,400円→4,900円(+500円)3,500円→4,000円(+500円)
西日本新聞(2023年5月)4,400円→4,900円(+500円)3,400円→3,900円(+500円)
毎日新聞(2023年6月)4,300円→4,900円(+600円)3,400円→4,000円(+600円)
日本経済新聞(2023年7月)4,900円→5,500円(+800円)4,000円→4,800円(+800円)
産経新聞(2023年8月)4,400円→4,900円(+500円)3,400円→3,900円(+500円)
北海道新聞(2024年4月)4,400円→(2023年9月夕刊廃止)3,800円→4,300円(+500円)
東京新聞(2024年9月)3,700円→3,980円(+450円)2,950円→3,400円(+450円)
読売新聞(2025年1月)4,400円→4,800円(+400円)3,400円→3,800円(+400円)

(【出所】各社広告等)

財務分析の専門家という視点からは、これはこれでまた大変に印象的です。

一般的な企業だと、販売数量が落ち込んでいるタイミングで値上げをしたら、販売数量がさらに落ち込みそうだ、と判断しそうなものですが、どうも新聞業界はそうではないようなのです。

というよりも、新聞部数が年間100~200万部単位で減りだした2008年頃から何らかの手を打っていれば、新聞業界はここまでの苦境にさいなまされることはなかったのかもしれません。新聞業界がこの15年余り、本当に無為無策であるというのは、興味深い限りです。

「3000万部割れ」は時間の問題

さて、今年の部数データが公表されるにはまだ1~2週間の時間がかかると思われますが、2024年の部数はどうなるか、今から興味深いところです。今世紀に入って初の「3000万部割れ」が視野に入ってくるからです。

ちなみに2023年は前年比で373万部減少しましたが(減少率換算で10.14%です)、前年なみに373万部減少したとすれば、2024年10月時点の部数は2932万部と「3000万部割れ」、減少率換算で11%少々です。

もちろん、減少ペースは多少緩む可能性もあります。値上げラッシュは2023年の話であり、2024年は「値上げに伴う解約」の件数は、多少減るかもしれないからです。

ただ、そうだったとしても「3000万部割れ」は時間の問題でしょうし、すでにいくつかの地方紙でそうなっているように、早ければあと2~3年で、多くの社にとって、新聞部数は事業継続が不可能な水準にまで落ち込むのではないでしょうか。

新聞業界の未来

新聞業界がこの先生きのこるためには?

こうしたなかで、X(旧ツイッター)で最近、ちょっとした話題となっているのが、「新聞業界がこの先生きのこる方法」です(「この先生きのこる」と書いていますが、読み方は「このせんせいきのこる」ではなく「このさきいきのこる」です、念のため)。

とあるユーザーの方が、こんな趣旨のことをつぶやいたのです。

新聞は速報性ではもう絶対ネットにはかなわない。だから、新聞は速度を捨てて、裏取りをしっかりと行い、根拠を持ってネット・ニューズの検証を行うことに徹したらどうか」。

ファクトチェック、裏取り、科学的検証―――。

なかなかに、無慈悲な要求です。すべて、日本の新聞が苦手としていることばかりだからです。

約2年前の『日本のメディアは客観的事実軽視=国際的調査で裏付け』でも紹介しましたが、世界67ヵ国のジャーナリストらを対象に実施された調査では、日本のジャーナリストが散々な評価を得ているからです。

少し古い調査ですが、これによると日本のジャーナリストは諸外国のジャーナリストと比べ、「政治指導者の監視や精査」、「政治的決断に必要な情報の提供」、「政治的課題の設定」などを重視する一方、「物事をありのままに伝える」、「冷静な観察者である」などの評点が極端に低いことが明らかとなっています。

日本のジャーナリストは他国と比べ、「政治的指導者の監視や精査」、「政治的決断に必要な情報の提供」、「政治的課題の設定」という役割を特に重視している一方、「物事をありのままに伝える」「冷静な観察者である」という役割を軽視している。

さもありなん、といったところでしょうか。

ただ、それ以上に無慈悲なのが、このつぶやきに対する反応かもしれません。

日本の新聞社は自分たちにとって不利な情報を隠蔽するから無理じゃないの?

軽減税率の適用を受け、財務省の批判をしない時点で新聞の客観性は信頼ならない

新聞業界のファクトチェック、本当に残念な結果になってますね

…等々。

なかにはこんな反応もありました。

いっそのこと極端な思想に振り切って、そうした考えを支持してくれる層にターゲットを絞ってみては?

…。

あれ?

それってすでに一部の新聞がやっていることではないでしょうか?(笑)

専門性とクオリティを高めるしかない

というのは冗談として、「新聞業界がここから挽回するには、いったいどうすれば良いのか」という話題は、確かに真剣に悩むところです。

ただ、敢えて言えば、新聞業界は「原点」に帰るより方法がないという気がします。

経済学の世界では、各人がそれぞれの社会的役割を果たすことで報酬を獲得しているわけです。

たとえばトヨタ自動車はクリーンで安全で優れた自動車を世に送り出すことで報酬を得ていますし、任天堂は「世の中の人々を笑顔にすること」をコンセプトに面白く優れたゲームを世に送り出すことで報酬を得ています。

新聞社がこの社会にもたらすことができる付加価値とは、いったい何か。

それは、やはり「付加価値のある情報」に尽きるのだと思います。

正直、速報性ではもうテレビにもネットにも勝てませんので、テレビやネットでは手に入らない情報を提供する以外に方法はありません。

敢えてヒントを申し上げるとしたら、それは「専門性」と「クオリティ」ではないでしょうか?

専門性が高ければ、あるいはクオリティが高ければ、「カネを払ってでも読む」という人は、普通に増えるものです。

たとえば著者自身が実名で寄稿しているメディアはとある業界向けに専門性に特化していますが、紙媒体の契約は減少傾向にあるにせよ、電子版契約は順調に伸びているとのことです(ただし、おそらくは新聞協会加盟紙ではないため、その新聞の実名を出すのは止めておきます)。

また、著者自身の個人的事情で申し上げるならば、じつは新聞の電子版で一本、契約をしていたりもしますが、といっても残念ながらそれは日本の新聞ではなく、ウォール・ストリート・ジャーナル=WSJ=という米国のメディアです。

WSJの場合も報道が必ずしも常に公正だとは思えないこともありますが、それでもマーケット&ファイナンス欄が充実しているのに加え、たとえばロシア関連でときどき興味深いレポート記事が出てくることもあるため、サブスクを利用しているのです。

日本の新聞を取る気はない

ただ、あくまでも個人的事情で申し上げるならば、残念ながら日本の新聞に対して毎月数千円を支払うという財政的余力は、著者自身にはありません。所得税や社会保険料も高い今日この頃、貴重な手取りを、「税率8%の紙の束が届くサブスク」に費やす余力などないからです。

もちろん、電子版にしたって同じことです。

情報の速度でも深度でも正確性でも専門性でも多様性でも、少なくとも著者自身は日本の新聞に「お得感」を覚えないのです。

とはいえ異論はもちろん認めますので、もしも「新聞にはこんなメリットがある!」などというアイデアがあれば、読者コメント欄に書き込んでくださると幸いです。(ただし、早めに書き込んで下さらないと新聞業界自体が消滅してしまうかもしれませんので、ご注意くださいますよう何卒よろしくお願い申し上げます)。

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