誤った予測もとに「年収の壁」引き上げに抵抗する知事
いわゆる「年収103万円の壁」問題は、「国民民主党vs自公政権」、という表面的な姿だけでなく、じつは「国民vs抵抗勢力(財務省、総務省、厚労省、マスコミなど)」、という大きな構図があるのではないでしょうか。この期に及んで全国知事からは「減収分の穴埋め財源」という話が出ているのだそうですが、その「減収」自体、(おそらくは)計算が誤っているからです。
目次
国民民主党が唱える年収103万円の壁問題は「財源問題」ではない!
国民民主党が唱える「年収103万円の壁」引き上げを巡っては、連日、メディアに取り上げられています。
ただ、メディア側の主張を見ていると、どうもその取り上げられ方に微妙な変化が見られます。
「財源」、「富裕層を優遇するな」、「玉木(雄一郎・国民民主党代表)の不倫問題を許すな」、といった具合に、論点を次々と変えながら攻撃が続いているものの、やはり国民の圧倒的な支持があるためでしょうか、どうも攻撃が国民世論を動かすに至っていないのが実情ではないかと思います。
というよりも、一連の騒動を受けて、財務省や総務省だけでなく、マスメディアも「計算ができない人たち」であることが明らかになってきたといえるのではないでしょうか。フロー面から見てもストック面から見ても、日本は増税を必要としていないだけでなく、むしろ減税を必要としていることは明らかだからです。
たとえばストック面から見ると、『減税が焦点となるなか改めて見ておきたい資金循環構造』でも指摘したとおり、日本国内には巨額の資金剰余が発生しており、余りまくった資金が日本国内で使われずに、外国向けの投資として流出しているほどです。
また、フロー面で見ると、日本の財政派毎年、税金を使いきっておらず、『じつは財務官僚は数字に弱い?毎年巨額の剰余金を計上』でも指摘したとおり、そもそも論として日本の財政(一般会計)は、毎年、巨額の剰余金を計上しています。
財務省のインチキぶりも続々露呈
さらには当ウェブサイトで随分と指摘してきたとおり、財務省はいわゆる「ワニの口」というインチキグラフを作成しています(図表1)。
図表1 ワニの口
(【出所】財務省キッズコーナー『ファイナンスらんど』)
この「ワニの口」、簡単にいえば、歳出(支出)が税収を大きく上回っている、などと説くものですが、歳出側に国債の元本償還が含まれているのに対し、歳入(収入)側には国債の借換などが含まれていないという、典型的な詐欺グラフです。
もしも歳出側に国債償還支出を含めるならば、歳入側にも国債の発行や借換などによる収入を含めなければおかしいですし、また、歳入側に国債発行収入を含めないのであれば、歳出側についても同様に、国債償還支出を含めてはなりません。
ちなみに財務省のウソはこれだけではなく、たとえば「法人税を減税したら設備投資も人件費も増えなかった」、などとする趣旨の報告(『秒でバレるウソをつく財務省…それを指摘しない新聞社』等参照)を見ても、事実とまったく違う内容を平気で政府に報告するというのは、本当に深刻です。
いずれにせよ、国民民主党が主張し始めた「年収の壁上限引き上げ」は、「言い出しっぺ」は国民民主党かもしれませんが、著者自身がみたところ、すでに国民民主党だけの問題ではなくなりつつあります。
国民民主党がこの壁の引き上げに成功すれば(あるいは自公両党の抵抗などで失敗に終われば)、来夏の参院選でも同党は大きく躍進できる(かもしれない)一方、国民民主党が妙な妥協をすれば、国民の怒りは財務省だけでなく、国民民主党にも向かいかねません。
その意味で、本件は国民民主党にとり、一種の「諸刃の剣」状態となっているのです。
最大野党・立憲民主党の残念な対応
逆にいえば、最大野党である立憲民主党にとっては、良い意味で「変節」し、年収の壁問題解決に向けて主導権を取り始めれば、同党が国民民主党に代わって政局の主導権を握ることができるかもしれない、ということでもあります。
国民民主党が支持を大きく伸ばしている反面、立憲民主党の支持が伸び悩んでいるなか、これに関連し、ウェブ評論サイト『アエラドット』が26日に配信した記事ではこんなことが記載されています。
「野田代表は、首相経験者でもあり、玉木代表とは格が違う。<中略>少数与党という弱い立場にあり、また、元々誠実な政治姿勢で知られる石破首相との間で、誠意を持って協議をすれば、国民のためになる多くの政策変更を勝ち取ることができるのではないだろうか」。
存在感が薄い「立憲・野田氏」が「国民・玉木氏」から主導権を奪う方法 企業・団体献金廃止と“もうひとつ”の意外な秘策
―――2024/11/26 06:32付 Yahoo!ニュースより【AERA.dot配信】
この文章自体には心から賛同せざるを得ないのですが、大変残念ながら、その「具体的な提案」の部分に関しては、正直、本稿で取り上げるべき価値がある部分が見当たらないため、これ以上の引用は控えたいと思います(ご興味があれば直接お読みください)。
いずれにせよ、「年収の壁」問題を巡る立憲民主党の対応自体、まことに残念なものと言わざるを得ません。
先日の『立憲民主党と国民民主党の明暗分ける「年収の壁」対策』などでも指摘しましたが、立憲民主党が提唱している「年収の壁」対策は、年金・健保加入に伴い生じる負担増を給付する、という、何とも中途半端でややこしい制度だからです(図表2)。
図表2 立憲民主党の給付案(イメージ)
(【出所】立憲民主党ウェブサイト『「130万円の壁」等を給付で埋める「就労支援給付制度の導入に関する法律案」を再提出』を参考に作成)
正直、これで日本の圧倒的多数を占める中間層の支持が得られると思っているのだとしたら、立憲民主党の認識も、ずいぶんと甘いと言わざるを得ません。
知事会からは「4兆円減収に財源を示せ」の声も
その一方で、あくまでも著者自身の見解ですが、国民民主党は国民民主党で、「103万円の壁」問題を巡って、粛々と対応をすれば良いのではないかと思っているのですが、これに関連し、産経ニュースが25日夜、こんな記事を掲載しています。
全国知事会と国民民主「103万円の壁」で火花 地方に不安…4兆円減収「財源手当てを」
―――2024/11/25 23:01付 産経ニュースより
産経によると、25日に首相官邸で開かれた政府主催の全国都道府県知事会議で、全国知事会の村井嘉浩会長(宮城県知事)が石破茂首相に対し、国民民主党が主導する減税策「103万円の壁」の引き上げへの懸念を示したのだそうです。
なんでも国、地方で年約7.6兆円の減収に「なるとされ」、これに関し「地方側の不安はぬぐえていない」、というのが産経の指摘です。
ただ、この「7.6兆円の減収」とする試算値が独り歩きしているフシがありますが、ちょっと待っていただきたいと思います。『総務省が試算の「税収減」は乗数効果を無視していた!』でも指摘しましたが、この「7.6兆円減収」の根拠は、どうやら極めて雑な計算式であるという可能性が高いからです。
総務省が参議院の会派「NHKから国民を守る党」所属の浜田聡参議院議員の事務所に示した説明によれば、これは現在の基礎控除の制度(国税48万円、地方税43万円)で減収となっているとされている金額を1万円あたりで割り、単純にそれを75倍しただけの代物だからです。
乗数効果を一切無視しているわけですから、「雑な計算」というよりも、「間違った計算」です。
産経によると集まった知事らはこの「103万円の壁」問題で「減収分の財源も恒久的に手当てすべき」(村井氏)、「財源は国がちゃんと考えろ」(鳥取県の平井伸治知事)など、鋭い批判の声が飛んだようですが、これも理解に苦しみます。
都道府県知事という要職にある以上は、減税に伴う経済波及効果が地域経済を活性化させるという側面を無視するのはむしろ無責任だからです。
さらにいえば、一部では「年収の壁」問題を巡り、国税と地方税で基礎控除の額を大きく変えるなどの構想も出ているようですが、むしろ税制の複雑怪奇化を招くという意味では、望ましくありません。
本当の敵は抵抗勢力
いずれにせよ、年収の壁問題は、財務省(所得税)だけでなく、総務省(住民税)、厚生労働省(社会保険料、国民年金保険料など)を含めた霞ヶ関全体、さらにはそれらを「報道」の力で側面支援するオールドメディアが「抵抗勢力」と化しているのではないかと思います。
しかし、利権に拘泥する霞ヶ関に理はありませんし、このネット時代、報道の力がいつまでも無理を押し通し続けることはできないはずです。
こうした観点からは、今回の年収の壁問題は、「国民民主党vs自公政権」、という表面的な姿だけでなく、じつは「国民vs抵抗勢力(財務省、総務省、厚労省、マスコミなど)」、という大きな構図があるのではないか、などと思う次第です。
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
そんな日韓関係論を巡って、素晴らしい書籍が出てきた。鈴置高史氏著『韓国消滅』(https://t.co/PKOiMb9a7T)。
日韓関係問題に関心がある人だけでなく、日本人全てに読んでほしい良著。
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今般知事会が「税収が減る」と騒いでいるのですが、東京都以外は地方交付税交付金を交付サレテいたと思うので、“減った”分は地方交付税交付金が増額されて道府県の予算に穴が開くようなコトにはナランのではナイデスカ?
臨財債が増えるっ! ミタイナ苦情ナンですか??
ぶっちゃけボク5歳にも解るよう教えてタモレ???
立憲民主党の案は、複雑な税制を更に複雑にするものでしかありませんし、抜け道探しなどの不正を招く結果になるのではと思います。
また、取って配るという権限拡大を目論む公務員にとっても大変ありがたい提案だと思います。
党勢に陰りが見える立憲民主党とっては、最低賃金という大変分かりやすい基準に基づく国民民主党案の実現を後押しすることが、党勢挽回に大変効果的な選択だと思うのですが。
まあ、立憲民主党の支持者が、税金を払っていない人と公務員であることがよく分かる主張ではありますが。
立憲民主党はこのまま衰退の道を選ぶのでしょうか?
個人的には衰退の道を選んで頂きたいと思っていますが。
全国には40人を超える都道府県知事がいらっしゃいます。
都道府県知事の複数が同様の発言をしている、ということは、即ち、都道府県知事に税務省担当官が同様の情報をレクチャーしたのでしょう。
素朴な疑問ですが、税務省担当官がレクチャーしたのであろう資料を明るく開示した都道府県知事がどうして一人もいないのでしょうか?(開示した人はいるかもしれませんが確認できず)
仮に開示をキツく禁止された極秘資料であるのでしたら、それはそれで「何で極秘なの?」って話しですし、
開示を禁止されてないのだとしたら、それはそれで「何で誰も開示しないの? 税務省に首根っこを押さえられてるの?」って話しに思えます。