ロシア産ガス価格4分の1に暴落か?人民元決済制限も

西側諸国の制裁の影響もあり、ロシアが欧州・トルコ向けの4分の1の価格でイランにガスを売ろうとしている、とする話題が見えてきました。報道の信憑性という問題はあるかもしれませんが、事実なら、ロシアの苦境の一端を示すものといえるかもしれません。これに加えてもうひとつ、「ダーティー人民元」というパワーワードも見えてきました。

ウクライナ戦争は楽観視できない

ウクライナ戦争の先行きは、まだまだ予断を許すものではありません。

おもに西側諸国によるロシアに対する経済制裁が続いているにも関わらず、また、G7諸国が厳格な二次的制裁(セカンダリー・サンクション)を打ち出しているにも関わらず、さらにはウクライナに対し、西側諸国が軍事支援などを行っているにも関わらず、戦争は収束する気配を見せません。

ロシア自身が資源国であること、ロシア制裁に中国、インドなどが参加していないことなど、考えられる理由はいくつかあります。

しかし、事実としてウクライナ戦争が始まってから2年5ヵ月が経過しようとする2024年7月21日現在において、ロシア軍が占領したウクライナ領から撤退しているという事実もなければ、戦争犯罪容疑者であるロシア大統領・ウラジミル・プーチンが国際刑事裁判所(ICC)に逮捕されたという事実もありません。

ロシアによるウクライナへの軍事侵攻は明らかな国際法違反ですが、残念ながら、その無法国家であるロシアが、現在のところはまだ敗北していないのです。

そして、ごくたまに、ロシアに対する経済制裁が「効いていない」としつつ、「そんな経済制裁など意味がないから止めてしまうべき」、などと主張する人も出てきます(ぞくにいう「ロシア・フレンズ」)。

経済制裁の効果は見え辛いところだが…

ただ、こうした「ロシア・フレンズ」のみなさんの主張は論外として、現実問題として、現在行われている、西側諸国を中心とする経済制裁が効いているのかいないのかについては、たしかに見え辛いところがあります。目に見えて、ロシアが困窮しているフシはないからです。

たとえば以前の『現在のロシアは意外と豊か…経済制裁は効いているのか』でも取り上げたとおり、今年に入ってからロシアを観光で訪れた、とあるYouTuberの方(※リンクは敢えて示しません)によれば、とりあえず首都・モスクワや第二の都市・サンクトペテルブルクでは、日常生活物資に不足は生じていないそうです。

また、物価水準についても「日本人の感覚からすれば」全体的に安く、スーパーにも商品がたくさん並んでいるなど生活に余裕が見られる状況であり、治安も良好で、市民生活が立ち行かなくなっているという印象はないのだとか。

(※もちろん、外国人観光客にとっては主要ブランドでのクレジットカード決済ができなくなるなどの不便が生じているほか、マクド社やスタバ社、丸亀製麺など外資系のフードチェーンが軒並みロシアから撤退したため、モスクワ市民は西側諸国の食品から遠ざかってしまったようですが…。)

ただ、今回のロシアに関しては、経済制裁に関わらず、戦争が継続しているわけですが、一般論として、経済制裁がその相手国に打撃を与えないわけはありません。

とりわけロシアは天然資源(ガスなど)に依存した、典型的な「モノカルチャー経済」です(実際、ウクライナ戦争以前から、ロシアの通貨・ルーブルと石油価格には密接な相関関係があることが知られていました)。

ということは、ロシアが外国に売るLNGなどの価格が下落すれば、ロシアの戦争遂行能力にも間接的な打撃が生じることは期待できるかもしれません。

ロシア産ガスの価格は4分の1に!?

こうしたなかで、UAWIREというウェブサイトに18日付で掲載された記事が、興味深いところです。

Russia slashes gas prices for Iran after losing European market

―――2024/07/18 21:49付 UAWIREより

同サイトは18日付の記事で、ロシアがイラン向けの天然ガス販売価格を、欧州・トルコ向けと比べて「75%割引」で提供すること準備があると報じました。

といっても、情報源はロシア紙『コメルサント』だそうですが、ロシア・イラン両国は現在、ガスプロムがイラン向けに1日3億立方メートル、年間1,000~1,200億立方メートルのガスを供給する契約の可能性を議論しているのだそうです。

また、その際の価格は1,000立方メートル当たり約100ドルで、これはガスプロムの海外顧客全体で最低価格であり、欧州・トルコ市場における1,000立方メートル当たり約400ドルと比べて4分の1の水準だ、などとしています。

ちなみにこの1,000立方メートル当たり約100ドルは、中国向けのロシア産ガスの販売価格(1,000立方メートル当たり260ドル)と比べても半分以下の水準で、この「年間1,000~1,200億立法メートル」は、実質的に欧州顧客を失ったガスプロムの余剰ガスのほぼ全量に相当するのだとか。

ちなみに同メディアは「今年6月、トルコがロシアからのガス輸入を削減し、他国からの供給を増やし始めた」などとしており、この記事の内容が事実だとすれば、「欧州はロシア産ガスに深く依存しており、ロシアからの輸入を減らすことはできない」などとする、ごく一部のロシアフレンズにとっては、またもや都合の悪い事実でしょう。

ダーティー人民元というパワーワード

ちなみに同サイトではほかにも、なかなかに面白い記事が掲載されています。

たとえば、これでしょう。

Russia faces major trade disruption as Chinese banks reject Yuan payments

―――2024/07/20 11:00付 UAWIREより

この記事では、『ザ・モスクワ・タイムズ』紙の報道を引用する格好で、「ロシアが中国からの輸入品を決済する際、ロシア国内で購入された人民元で支払おうとしても、中国の銀行から断られる事態が増えている」、などと報じています。

すなわち「市場関係者」によると、6月以降、国境を越えた決済において「クリーン人民元」と「ダーティ人民元」という新たな用語が登場したのだとか。

ここで「クリーン人民元」は海外で購入された通貨を、「ダーティ人民元」はロシア国内の証券取引所やインターバンク市場を通じて購入された通貨を指すのだそうで、とりわけこの「ダーティ」の取り扱いは「煩雑なものとなっている」のだそうです。

これは、米国財務省が6月12日にモスクワ証券取引所に制裁を課した(『ウクライナ支援…G7がロシアに対する二次的制裁強化』等参照)ことと関連しているのだとか。

というのも、この措置以降、ロシアからの資金を受け入れる中国の銀行数が大幅に減少したからだそうです。

このあたり、「西側諸国の金融制裁も人民元決済には無関係だ」、などと述べていた人もいましたが、現実には、中国の銀行も米国など西側諸国で事業を営んでいるため(たとえば中国のいくつかの銀行は東京にも支店を置いています)、西側諸国の制裁には準拠しなければなりません。

同サイトでは、ロシア国内で人民元を入手するのは「以前から困難だった」としていますが、モスクワ証券取引所などを経由して中国に送金する方法などが完全に頓挫するなどしたほか、いわゆる「逆流」―――輸出業者の口座に入金された人民元を輸入決済に利用すること―――もますます複雑化しているそうです。

逆に、中国はルーブル決済を受け入れていないケースも多く、受け入れたとしても、「法外な換算レート」が適用されることも増えている、などとしています(中国にとっても、ルーブルを受け入れたとしても使途に困る以上、これも当然といえるかもしれませんが)。

いずれにせよ、ロシア制裁は効いていないと主張する人々の言い分が正しいのか、冷ややかな目で眺めたいところです。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. 匿名 より:

    ロシアのガスはイランかねってか

    1. 新宿会計士 より:

      【審議継続中】
          ∧,,∧  ∧,,∧
       ∧ (´`д´) (`Д´ ) ∧∧
      ( `・Д) U) ( つと ノ(ヘ・´ )
      | U (  `・) (・´  ) と ノ
       u-u (l    ) (   ノu-u
           `u-u’. `u-u’

  2. はにわファクトリー より:

    JETRO ビジネス短信が本年6月21日に報じるところでは
    https://www.jetro.go.jp/biznews/2024/06/2c35348ab7bfb7df.html
    2023年の天然ガス生産量ランキングにあってイランは世界3位だそうです。記事が言及する一次情報はリンク切れとなっています。イランが天然ガスを必要としているはずがありません。UAWIRE の伝える通りであるなら(今度はカスピ海経由で運ばれた?)ロシア産天然ガスが、インドなり中国なりに転売供給される商流となりそうですが、それは現実に実行可能なことなのかはよく分かりません。元栓を閉めればくいっと生産制限できて商品として出番が戻って来るまで貯めておくことができないのが石油精製の特徴だとのこと、客がいないロシア資源産業は大丈夫でしょうか。

    1. 匿名 より:

      ヒント:横流し

    2. 元雑用係 より:

      ロシア産原油の話ですが、サウジなどの中東産油国もロシア産を購入しているそうです。
      自国産は輸出して高く売り、買い叩いて安く調達できるロシア産は国内消費に回しているとの記述が記憶にあります。しかも支払いは輸入国の通貨でOK。原油にもクリーンな原油、ダーティーな原油があるのだろうと思いました。
      年間1000億㎥がどんな量なのかよくわかりませんけども。

      1. ドラちゃん より:

        へえ、賢いですね

    3. 元雑用係 より:

      こんな感じの記事でした。

      制裁下におけるロシア産エネルギーの行方
      https://www.spf.org/iina/articles/takahashi_04.html

  3. クロワッサン より:

    >いずれにせよ、ロシア制裁は効いていないと主張する人々の言い分が正しいのか、冷ややかな目で眺めたいところです。

    そう言えば、東京都知事選挙が終わってから2週間が経ちますが、まだ来ないですね。

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