NHKの「国の借金」記事に対し一般人のツッコミ殺到
今度は、NHKがやらかしました。政府の債務を「いわゆる国の借金」などと誤った用語で報じたうえで、その金額が増えたことをもって、「財政状況は一段と厳しくなっている」、などと勝手な主観を報じたからです。こうした主観的表現を垂れ流すNHKに公共放送を騙る資格などありません。ただ、それ以上に興味深いのは、X(旧ツイッター)上の一般ユーザーの辛辣な反応です。
目次
「国の借金」論は冒頭から誤っている!
大変良い時代になったというべきか。
数年前に『数字で見る「強い」日本経済』を出版したころは、まだまだ「国の借金」プロパガンダは隆盛でした。
「国の借金」論とは、わかりやすくいえば、「借金が多すぎるから、日本はいずれ財政破綻する」、とする主張で、一見するともっともらしいものの、経済学的には完全に間違った命題でもあります。
「一見するともっともらしい」というのは、一般人にとって非常にわかりやすいストーリーだからです。典型的にはこんな具合でしょうか。
典型的な「国の借金」論
- 「国の借金」は過去最大水準で推移している
- 借金が増えた理由は、歳出が税収を上回る「借金頼み」の厳しい財政運営が続いていたためだ
- 国の借金の総額は現時点でGDPの2倍以上にも達しており、国民ひとりあたり1000万円前後だ
- 山ほどおカネを借りたら返せなくなるのは当然だ
- このままではいずれ財政破綻するのは避けられない
©新宿会計士の政治経済評論
…。
冒頭から間違っている主張ですが(そもそも国債や政府の借入金は「国の借金」ではなく「政府の負債」です)、ただ、微妙に事実を混ぜ込んでいるのに加え、私たち一般人の常識に働きかけるロジックも使われているため、思わず騙される人がいてもおかしくありません。
国債デフォルトの3要件
この点、長年、当ウェブサイトをご愛読くださっている皆さまであれば、このロジックのなにがどうおかしいか、何となくわかっていただけると思いますが、ここでとりあえずいちばん強調したいのは、「国家財政を個人や企業と同一視するな」、です。
この「国の借金」論がなぜ間違っているのかを説明するアプローチはいくつかあり、精緻に議論するならば本が1冊書けてしまうのですが(だからこそ書籍まで出版したのですが)、本稿では手っ取り早いところで、「国内に資金が有り余っていること」を指摘しておきたいと思います。
そもそも論ですが、国債がデフォルトするには、次の3つの条件を「同時に」満たす必要があります。
国債デフォルトの3要件
- 国内投資家が国債を引き受けてくれないこと
- 海外投資家が国債を引き受けてくれないこと
- その国の中央銀行が国債を引き受けてくれないこと
©新宿会計士の政治経済評論
この点、よく「自国通貨建ての国債だったら絶対に債務不履行を起こさない」、と述べる人もいるのですが(これが上記3の要件です)、誤解しないでいただきたいのは、このロジックだと若干不正確だ、ということです。
もちろん、日本国債は全額が円建てですので、いざとなれば日銀に国債を引き受けさせれば、たしかに絶対にデフォルトはしません。しかし、それをやってしまうと、いわゆる財政ファイナンスになってしまい、通貨の信任が傷つくこともありますし、現に財政法第5条では、公債等の直接引受は基本的に禁止されています。
財政法第5条
すべて、公債の発行については、日本銀行にこれを引き受けさせ、又、借入金の借入については、日本銀行からこれを借り入れてはならない。但し、特別の事由がある場合において、国会の議決を経た金額の範囲内では、この限りでない。
したがって、3の「中央銀行引受」は、あくまでも「最後のバックストップ」です。
そして、現在の日本では、上記1、2の要件が充足されるという状況にはありません。
「財政ファイナンス」との指摘については?
この点、「国の借金」の定義をどう捉えるかは、論者によって若干の幅があるのですが、とりあえず日銀が公表している『資金循環統計』に掲載されている「国債・財投債・国庫短期証券」を「国の借金」と定義するならば、その残高は、2023年12月末時点で1222兆円です。
ただ、主体別の国債保有状況(図表1)を見ると、そもそも論として国債の9割近くが国内投資家によって保有されている、という事実を忘れてはなりません。
図表1 主体別国債保有残高(2023年12月末時点)
保有主体 | 金額 | 構成割合 |
中央銀行 | 585兆円 | 47.90% |
預金取扱機関 | 133兆円 | 10.92% |
保険・年金基金 | 233兆円 | 19.06% |
社会保障基金 | 55兆円 | 4.50% |
海外 | 165兆円 | 13.51% |
合計 | 1222兆円 | 100.00% |
(【出所】日銀資金循環統計データをもとに作成。ただし「金額」は国債、財投債、国庫短期証券の合計額)
ではなぜ、このような状態だと「問題ない」といえるのでしょうか。
とくに中央銀行(日銀)が発行済残高の半数近くを保有しているため、これは「事実上の財政ファイナンスだ」、などと主張する人もいるのですが、なぜこの状態は「財政ファイナンス」に該当しないのでしょうか。
資金循環構造に照らし、国債デフォルトはあり得ない
じつは、日銀がこれら585兆円という巨額の国債を購入する資金は、市中の銀行、信金といった金融機関(いわゆる「預金取扱機関」)等から集めているからであり、これら預金取扱機関は家計、企業から巨額の預金を受け入れているからです。
日本の資金循環構造を見てください(図表2)。
図表2 日本の資金循環構造(2023年12月末時点)
(【出所】日銀『物価、資金循環、短観、国際収支、BIS関連統計データの一括ダウンロード』サイトのデータをもとに作成。以下同じ)
これによると「中央銀行」(真ん中の列の一番下)の負債側には「日銀預け」が544兆円計上されており、「預金取扱機関」(真ん中の列の一番上)には「日銀預け」が505兆円計上されています。そして、「家計」(右列上)が「現金預金」を1127兆円保有しています。
ちなみに「非金融法人企業」が保有する「現金預金」も351兆円と巨額ですが、何のことはありません。これらの巨額の現金預金が日銀預けに、日銀預けが国債に、それぞれ姿を変えているだけのことなのです。
したがって、現在の日本においては、国債を引き受ける資金的な余力が非常に大きく、それどころか国債を引き受けてもまだ余っている資金力が外国に向かっていて、「海外」(右列下)の「資産負債差額」484兆円に達していることがわかります。
わかりやすくいえば、「海外」から見て日本から借りているおカネの純額が484兆円、ということであり、日本は国を挙げて海外に484兆円の純資産を保有しているようなものなのです。
日本国債がデフォルトする確率が極めて低いといえる理由はほかにもいくつかあるのですが(たとえば▼国家には徴税権がある、▼国家には寿命がないので国債は満期時に借り換えれば良い、▼経済成長を伴ったインフレで債務負担は減少していく――、など)、これらの詳細については、本稿では割愛します。
(※もっとも、最近になって当ウェブサイトを訪問してくださる方も増えていますので、久しぶりに、「総論」としてまとめてみても良いかもしれない、などとも思っています。)
いずれにせよ、「国の借金」論は、一見するとわかりやすい主張ではあるのですが、実際には誤りだらけの不適切なトンデモ理論、というわけです。
NHKが「国の借金」「財政状況は一段と厳しく」と報じる
さて、当ウェブサイトを立ち上げた2016年7月時点では、「山ほど借金があれば返せなくなる」、「だからこそ日本は全力を挙げて、国の借金を減らして財政を健全化しなければならない」、といった発想に凝り固まった人たちが、まだまだ主流派を占めていたように思えます。
ところが、最近だと(おもにインターネット空間で、ではありますが)「国の借金」論のウソが、徐々にですが、人口に膾炙し始めているフシがあるのです。
そのことを強く印象付けるような出来事があるとしたら、これではないでしょうか。
国債や借入金などをあわせた政府の債務、いわゆる“国の借金”
ことし3月末の時点で1297兆円余りと過去最大を更新し、財政状況は一段と厳しくなっていますhttps://t.co/Gq9rvu5Dwh#nhk_video pic.twitter.com/Z1p2Il64ry
— NHKニュース (@nhk_news) May 10, 2024
これは、財務省が10日に発表した『国債及び借入金並びに政府保証債務現在高(令和6年3月末現在)』を巡って、「公共放送」を自称する放送局・NHKが10日に報じた、『“国の借金” 1297兆円余 8年連続で過去最大を更新 財政厳しく』と題する記事に関するポストです。
ちなみにNHKウェブサイトに掲載された記事の一行目を要約すると、こんな具合です。
国債や借入金などをあわせた政府の債務、いわゆる“国の借金”は、ことし3月末の時点で1297兆円余りと過去最大を更新し、財政状況は一段と厳しくなっている
のっけから、間違っています。
政府債務は政府債務であって「国の借金」ではないからです。
しかも、「財政状況は一段と厳しく」云々の記述も、報道機関として相応しいものではありません。というのも、この表現自体に報じるメディアの主観が入ってしまっていて、客観的事実とはいえないからです。
客観的事実といえない内容を垂れ流している時点で、NHKは公共放送を名乗る資格などありません。
(※もっともNHK自体が「公共放送」を名乗るに値しない放送局である、という点については、『経費不正使用はNHK自体の「在り方」と直結する問題』などを含め、これまでに当ウェブサイトでもしばしば指摘してきたとおりですので、個人的にはさほど驚きませんが…。)
一般ユーザーの辛辣な反応
ただ、それ以上に興味深いのが、このポストに対する一般ユーザーの辛辣な反応です。
5月12日午前11時過ぎの時点で「いいね」の数が256件であるのに対し、「コメント」総数は477件、そして「リポスト」「引用リポスト」数は合計で624件に達しているのです(※X上で「コメント」や「リポスト」、「引用リポスト」が「いいね」を大幅に上回るのは「炎上」の証拠でもあります)。
これらの反応の多くが、「国の借金」論の誤りを指摘する意見や、NHKの報道姿勢を批判するものであり、また、(一部のコメントでは)例の「コミュニティノート」が提案されている、といった指摘もあります(ただし、現時点で一般ユーザーにコミュニティノートは表示されていないようです)。
いずれにせよ、先日の『【総論】腐敗トライアングル崩壊はメディアから始まる』でも指摘したとおり、マスメディアは官僚機構や特定野党などと並び、「国民に選ばれてもいないくせに不当に大きな社会的影響力を握り、日本社会を悪くしている存在」だからです。
そして、インターネットが社会に普及するにつれて、やはり、新聞、テレビを中心とするマスメディアによる情報統制が揺らいできていることは、非常に良い兆候です。
オールドメディアという「第四の権力を握る悪しき独裁者」の権威が、インターネットの力で失墜し、オールドメディアが誰からも相手にされなくなることを通じて権力を失っていけば、オールドメディアを背後から操ってきた「増税原理主義」の財務省の権力もまた、地に堕ちます。
いずれ国民の力で「まともな与党」と「まともな野党」が国会で多数を占めるようになれば、財務省の権力も抑え込まれるはずであり、「国の借金」などとたわけたプロパガンダを国費で垂れ流すことは許されなくなります。
当ウェブサイトがいつまで続けられるかはわかりませんが、少なくとも山手線の駅名を冠した怪しい自称会計士としては、その日が到来するのを見届けたい、などと切望している次第です。
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
そんな日韓関係論を巡って、素晴らしい書籍が出てきた。鈴置高史氏著『韓国消滅』(https://t.co/PKOiMb9a7T)。
日韓関係問題に関心がある人だけでなく、日本人全てに読んでほしい良著。
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【おしらせ】人生で10冊目の出版をしました
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【おしらせ】人生で9冊目の出版をしました
日本経済の姿について、客観的な数字で読んでみました。結論からいえば、日本は財政危機の状況にはありません。むしろ日本が必要としているのは大幅な減税と財政出動、そして国債の大幅な増発です。日本経済復活を考えるうえでの議論のたたき台として、ぜひとも本書をご活用賜りますと幸いです。 |
NHKは公共放送として、テレビ所有者から強制的(?)に受信料を取り立てているのだから、受信料を払っているかもしれないX(旧Twitter)の一般ユーザーの疑問に、誠実に対応する義務があると思うのですが。
>政府債務は政府債務であって「国の借金」ではないからです。
ふと思ったのですが、
「では国の借金と言えるものは何か?」となると、
日本国が海外に貸付ている金額から、
日本国が海外から借りている金額を引いて、
出てくる数字がマイナスだった場合の数字なのかな?と。
政府イコール国という観点だと、
朕は国家なり
ならぬ
政府は国家なり
となるのでしょうね。
ちなみに、
日本政府の予算は政府予算であって国家予算ではなく、
日本政府の出す債権は政府債権であって国債ではない、
と厳密にはなるのかもですね。
>では国の借金と言えるものは何か?
NHK
>X上で「コメント」や「リポスト」、「引用リポスト」が「いいね」を大幅に上回るのは「炎上」の証拠でもあります
「物言えば唇寒し」ですかね。
でもまあ、格好付けずに「フェイクニュース呼ばわり、上等!」と、開き直れるくらいの根性見せてれば、そのうち報道の自由度ランキング世界第70位(ケニアより下位、ハイチに並ぶ)って状況、抜け出せるかも? かな?(笑)
不思議なのですが国家公務員・地方自治体公務員・政治屋・政党・なんにゃら団体・NHKが特に勘違いしていますがマスコミ全般に従事する方々はしばしば
「我々の金で〜を国民(自治体居住者を指すのも含む)にしてやっているんだ!先ず第一に役所(政党とか議員とか局になることもある)の事を優先し感謝しろ!」
とか本気で言います…個人的にも何百回じゃ済まないくらい聞きました。
その原資は税金です。貴殿方の金じゃない。
年金機構の様に運用して増やす責任がある特殊な場合を除いて、税金の行使を一応任されているだけで基本出ていきっぱなしの税金です。
政府の借金という言い方すら私には抵抗があります。
全国の箱もの文化施設やスポーツ施設で
「我々は無力で使わせてあげたいんだけどね〜受益者負担とかいう奴がいるんで困る 演劇やコンサートのチケットやスポーツの試合観戦料金もタダにしてあげたいんだよね〜」
とか
「この橋は私が国から引っ張って来た金で造った!(俺、偉い・次も投票しろ…息子もよろしくな)」
とか
「我々の報道や活動が勝ち取った勝利だ!」
やら
「外国人が可哀想じゃないか!」
だの
「(両親の愛が冷めた程度の)離婚で片親世帯はみんなで支えるのが人道的に正しい!(子ども引きとれなかった方の親は離婚してなきゃ当たり前に負担していたはずの養育費も払わないのってなんで許されるの?)」
極めつけは考え足らずでクチから発する言葉にどうしても知性が感じられない御仁がニヤニヤしながら
「外国人は国の宝」
移民歓迎・人口増えりゃ万事解決・潰れるはずの学校が政治・行政の支払いで存続出来るしなんなら学校増やしちゃうもんね申請すれば実は実態なくてもバンバン認可しちゃうよん♪
国保?年金?出しちゃうよん…なんせ「国(お前は『国』じゃない!)の宝なんだもん」
日本人は我慢しろ!
やだね
圧倒的に日本人の税金でそれらは賄われております。
役所や文化人や政治家や政党やマスコミのために税金払ってるわけじゃありませんから。
>外国人は国の宝
「留学生:」だったかと。引用は正確に。
あの一言って発言する必要ありますか?
留学生なら宝にするのは祖国の方でしょ?
日本じゃない。
日本で就職して住み続けて永住許可やワーキングパーミット取得して祖国の家族親戚に送金するならまるで意味は無いですね。
豊島区の銭湯の二階にあったような日本人は誰も知らない「大学」に留学されて学費はおろか日本での居住費や生活費まで金で渡して挙げ句に1000人以上が学生ビザで入国するや否や行方不明の不法滞在になりアンダーグラウンドな世界で闇仕事している現状で
「留学生は日本の宝」
って発言はそこつ者しか言えないと思いますよ。
彼らは最初から留学しにくるわけではない。
学生ビザという抜け穴を悪用しているだけです。
メリットを享受するのはその外国人たちと学校法人と両国の斡旋業者だけです。
民の敵は財務省!
「まだ”国の借金”論をわめいているのか!それもNHKが!」と昨日驚きました。
”忠誠の証”としてNHKもノルマ的報道をさせられているのかな?と疑いたくなる程。
ただ、Xでも批判一辺倒という訳ではなく、中には批判に噛みついているポストもある。
ただの愉快犯なのか、それとも今更引っ込みがつかない人達なのか……?
ドル建てGDPに着目して日本の国力ガーと言う人たち、国債残高はドル換算しないのかな?
政府が計上している資産が架空計上って可能性もあると思いますけど、そのへんはどうやって担保されてるんでしょうね。WBPC問題をほったらかしにしている会計検査院が仕事をしているようにも見えないので。
減税の話が出ると、この手のプロパガンダが盛んになるような気がします。
財務省との癒着も疑うべきだと思います。
いわゆるデジタル赤字論も出どころは一緒と当方はみています。
稼ぐ道具を根っこに近いところで先に作り込まれてしまい、嘆かわしいことながら、挽回は無理そうです。全世界で同じことが起きているのです。