「トリチウム」見出し記事のSNS反応を産経が報じる

福島第一原発近海で基準値を大きく下回るトリチウムが検出されたことを、共同通信が『海水からトリチウム検出』と題して報じた話題を、大手メディアの一角を占める産経ニュースが報じました。「報じた」といっても、共同通信の名前を伏せたうえで、ではあります。ただ、メディアが「報じたら報じっぱなし」が認められる時代ではなくなりつつあることもまたまちがいないでしょう。

マスメディアの本来の役割は「事実を正確に報じること」

新聞、テレビなどのマスメディアは、不特定多数の人たちに対し、日常的にさまざまな情報を伝達する手段でもありますが、それだけに、本来ならば事実関係を正確に報じることが、社会的役割としては期待されているはずです。

しかし、非常に残念なことですが、こうした役割を現在のマスメディアが果たしているとは言い難いのが実情でしょう。なぜなら、新聞、テレビは連日のように、虚報、捏造報道、偏向報道、印象操作――と、大なり小なり何らかの不適切な報道を流しているフシがあるからです。

この点、「日本の新聞、テレビの報道は不適切だ」と感じる人が増えている証拠なのでしょうか、とある新聞記者の方がX(旧ツイッター)にポストした、こんな趣旨の発言が、ちょっとした話題となっています。

以前、「権力の監視が仕事だ」と投稿したところ、「そんなもの求めてない」「事実だけ報じとけば判断は自分でする」というような返信が大量に来たことがある。人権問題もそうだが、どんどんガラパゴス化が進む。このRSFの結果にも、まったく納得。

これは『報道やジャーナリストらの役割は「権力の監視」なのか』でも取り上げたとおり、フランスに本部を置く「国境なき記者団」(Reporters Sans Frontières, RSF)が公表した『報道の自由度』で、日本が180ヵ国中70位と非常に低かったことに関する、この記者の方の感想でしょう。

一般人からのツッコミが殺到

RSFのランキング自体、「客観性も透明性もないマスメディア業界の身内の自己採点という性質があるのではないか」、といった疑問点もさることながら、RSFの日本に関するレポートを読んでいくと、日本の報道の自由度が低い理由はひとえにメディア自身の問題ではないかと思えてなりません。

ただ、こうしたツッコミどころもさることながら、やはり印象的なのは、このポストに対する一般人と思しき人々からのおびただしい批判です。

これらの批判の多くは、(著者自身の主観で要約すれば)「新聞記者は事実を正確に伝えるのが本来の役割ではないか」、「正当なものであれば政権批判も必要だが、批判自体が自己目的化するのは不適切ではないか」、といったものが多いように思えます。

こうした反応を見る限り、わが国の一般国民の意識が高いことは間違いないでしょう。

共同通信の問題の記事

さて、こうしたなか、『「福島の海水からトリチウム検出」…なにか問題でも?』でも取り上げたのが、この記事に関する話題です。

海水からトリチウム検出 原発処理水放出口付近

―――2024/05/07付 共同通信より

これについてはすでに開設したとおり、端的にいえば、記事タイトル、ツッコミどころだらけです。忙しくていちいち中身を読まない人は、「あぁ、福島第一原発近海からトリチウムが発見されたのか!」、などと勘違いしてしまいかねません。

内容としては、福島第一原発の処理水放出口に最も近い場所で6日に採取した海水から、リットルあたり13ベクレルという放射性物質が検出されたものの、これはWHOが定める飲料水としての基準値であるリットルあたり1万ベクレルを大きく下回る水準だった、というものです。

それがどうして、「海水からトリチウム検出」、というタイトルになるのでしょうか。

よくわかりません。

ただ、その後もXなどを眺めていると、この共同通信の記事に対しては批判が殺到しているらしく、なかには「海水から水が検出されるようなものだ」、「なぜそれをわざわざ記事にして配信するのか」、といった具合に、記事そのものについて批判的なものも見受けられます。

この点、少しだけ補足しておくと、共同通信が報じた処理水の分析結果については、東京電力のウェブサイト『福島第一原子力発電所周辺の放射性物質の分析結果』に掲載されている『海⽔分析結果<発電所から3km以内>(全β・γ)』のページで原文の確認が可能です。

これによると「全β」は7つの地点のうち、5つの地点で検出されなかったものの、「1F 南放⽔⼝付近」と「1F 5、66号機放⽔⼝北側」の2ヵ所でそれぞれ1.3ベクレル、1.1ベクレルが検出されているため、ニューズバリューが皆無、というわけではありません。

つまり、他の地点では検出されなかったβ線が、2ヵ所でごく微量ではあるとはいえ検出されたのだ、ということを報じる、という意味であれば、「わざわざそれを記事にする必要はないじゃないか」、という批判は当たらない可能性があります。

産経ニュースが「トリチウム検出」見出し報道のSNS反応を報じる

ただ、もしそのように考える場合であっても、さすがに記事タイトルはもう少し考えた方が良いでしょう。共同通信の記事タイトルだと、「トリチウムは検出されたけれども基準値を大幅に下回っている」、という趣旨の内容が伝わらないからです。

こうしたなか、大手メディアの一角を占める産経ニュースが8日、こんな記事を配信しました。

「トリチウム検出」見出し報道に疑問 飲料基準大幅に下回り「海水から塩分と同レベル」

―――2024/5/8 19:38付 産経ニュースより

産経は、共同通信を名指しこそ避けたものの、「『海水からトリチウム検出』を見出しに取った一部報道に対し疑問の声が広がっている」、「『基準を下回る』の文言を入れず不安をあおりかねないタイトルに対し、SNSでは『海水から塩分を検出したレベル』など報道に対して苦言を呈すコメントが相次ぐ」、と伝えました。

正直、ここまで書くならば、「共同通信が」、とハッキリ報じてほしかったものではありますが、それでも報道に対して一般人がSNSで非難の声を上げていることが報じられたというのは、珍しいことではないでしょうか。

産経はトリチウムが「ALPSで完全に除去できない」こと、「そもそも自然界に広く存在する」こと、「国外の原発施設周辺で人体や環境への影響は確認されていない」ことなどに触れたうえで、こう指摘しています。

一部報道の見出しを巡っては、X(旧ツイッター)上で風評被害を懸念する声もある」。

そのうえで、自民党の政治家らに加え、X上でのいくつかのアカウントの反応を紹介する、というものです(ここで山手線の駅名を冠した怪しげな自称会計士@shinjukuaccが取り上げられたら嬉しかったのですが、残念ながらそれはかないませんでした)。

いずれにせよ、産経がこの話題を取り上げてくれたということは、時代の変化を感じさせるものでもあります。「報道機関も報じたら報じっぱなし」、が許される時代ではなくなりつつある、ということです。

そして、少なくともXでは不適切報道、あるいは新聞記者の不見識なポストに対し、最近では怒りを通り越し、完全に軽蔑している向きもあるようです。

チャットGPTに聞く記事タイトル案

ちなみにちょっとだけ気になって、いま話題の『Chat GPT』を使って、共同通信の記事を入力し、タイトルを考えてもらったところ、こんなタイトル案が出てきました。

福島第一原発周辺の海水から微量のトリチウム検出

正直、こちらの方が、記事タイトルとしては適切ではないでしょうか。

本文は以上です。

読者コメント欄はこのあとに続きます。当ウェブサイトは読者コメントも読みごたえがありますので、ぜひ、ご一読ください。なお、現在、「ランキング」に参加しています。「知的好奇心を刺激される記事だ」と思った方はランキングバナーをクリックしてください。

にほんブログ村 政治ブログ 政治・社会問題へ

このエントリーをはてなブックマークに追加    

読者コメント一覧

  1. 匿名 より:

    共同って中国のまわし者か

    1. 星のおーじ より:

      半日であることは間違いないでしょうね。

      1. 星のおーじ より:

        反日ですね。ボケた。。。

      2. 世相マンボウ(^^) より:

        >>半日であることは間違いないでしょうね。

        彼らの立ち位置からは、
        『半日』どころか 『1/10日』 ぐらい
        の感がありますが(笑)
        まあ、思い上がりからの反日の
        ドブサヨ鬱憤層も一応は日本国民なので、
        国籍だけからは『半日』ぐらいなのかも?
        知れませんなあ。(^^);

  2. 匿名 より:

    「懸念する声もある」
    共同が好んで使う表現だけど、見事にブーメランが刺さってる笑

  3. 匿名 より:

    下手な見出しは風評加害を引き起こします。
    ペンは剣より強し
    という言葉の通り慎重に言葉を選ぶ必要がありますが
    マスコミはそうした事を気にすることもなく
    反原発イデオロギー全開で記事を作っています

    昨年は共同通信絡みの不祥事が多かったですが
    SNSで誹謗中傷
    失敗と言います
    反省する素振りもなく
    偏向報道を続けるのでしょう。

    報道の自由度ランキングの順位はうれしそうに語りますが
    中身や対策を語らないことも同じでしょう。

    マスコミやジャーナリスト不審がつのります

  4. 引きこもり中年 より:

    産経新聞は、「共同通信の記事を、日本市民がSNSで批判している」ということを報道したかった、ということでしょうか。(SNSでの市民運動ということでしょうか)
    蛇足ですが、共同通信が「SNSで批判しているのは、日本国民全体から見れば一部だ」と言いそうですが、それを言うなら(共同通信が好きな)市民団体、市民運動も同じである可能性があるのではないでしょうか。

    1. 引きこもり中年 より:

      毎度、ばかばかしいお話を。
      共同通信:「顧客の求めている商品(記事)を出すのが、商売の基本である」
      ありそうだな。

    2. 世相マンボウ、 より:

      なんせ、共同通信が好きな
      市民団体、市民運動は
      全国津々浦々で?さまざまな?
      市民団体があ‥
      なのだそうですが
      その多くはなぜか同じ
      FAX番号03-5225-7214
      なのですから(笑)

  5. Sky より:

    共同通信社のHPの会社案内をアクセスしてみました。昼休みの娯楽として最高です。是非ともご一読くださいませ。
    https://www.kyodonews.jp/company/

    1. 黒犬 より:

      共同通信社の目的:正確公平な内外ニュースその他の情報を提供し、公平な世論の形成と社会の健全な発展、国際相互理解の増進に寄与すること

      社長メッセージ:ネット空間では日夜、フェイクニュースや中傷、真偽不明の言説が飛び交っています。だからこそ、共同はファクトにこだわり抜きます。事実を追い、掘り起こし、裏付けを取る。特定の主張に偏らない「公平さ」を重んじながら、記事、写真、動画、グラフィックスとして、いち早く伝える。フェイクの時代に立ち向かう仕事を通じて、これからも「信頼の通信社」であり続けます

      確かにこれは笑えますね

    2. 元雑用係 より:

      高尚な社是に痺れます。
      汐留メディアタワーに拠点を置いていれば、テナントに入っている高級イタメシ屋への円安の悪影響なんかがよくわかっていいですよね。
      取材で事実を知るのにとても相応しい立地だと思います。

      (すみませんネタ借用しました)

    3. 世相マンボウ(^^) より:

      うわああ~ (^^);
      あまりに素敵な娯楽のご紹介
      ありがとうございます。
      この比類なき滑稽さに
      類似のものが思いつけないぐらいです。

      なので、想像になるんですが(笑)
      たとえば振込め詐欺集団が法人化して
      企業理念とコンプライアンスポリシーを
      厚かましくHPに掲げたら、こんな感じに
      なるのかなあ? といった感想です。(笑)

  6. 引っ掛かったオタク より:

    「マスメディア」と「報道機関」と「ジャーナリスト/ジャーナリズム」は重複していることが茶飯でも一応弁別しておきませんか?

  7. 元一般市民 より:

    確か鳥取県の三朝温泉(ラジウム温泉)は、40ベクレル/リットルくらいだったかな。
    何故、共同通信は、大々的に報道しないんだろう?今回福島で検出されたトリチウムの3倍もあるのに・・・

    1. 引きこもり中年 より:

      毎度、ばかばかしいお話を。
      共同通信:「福島の海水の放射能は(微量でも)悪い放射能。ラジウム温泉の放射能は良い放射能」
      ありそうだな。

    2. KN より:

      レントゲンもCTスキャンももちろんNGですね。かわいそうに。

      https://tomioka-radiation.jp/2021/08/12/properties-of-tritium.html

  8. KN より:

    ・ツッコミを入れられることが、共同通信にとっては「ヘイト」らしい。
    「報道機関として当然ではありますが、反戦・反核・反差別の立場で取材・執筆しています(ドヤア)。」
    by 共同通信ヘイト問題取材班

    https://twitter.com/kyodonohate/status/1787775247032484151

    ・「海は都合の悪いものを捨てられるゴミ箱じゃないんだよ。」
    知的レベルが低い上に、言葉使いも下品ですね。

    https://yorozoonews.jp/article/15259838

    1. 伊江太 より:

      KN様

      共同通信社や社民党って、大陸や半島から日本海沿岸に大量に押し寄せる漂着ゴミに対して、なんかコメントしたことあったっけ?(笑)

    2. KY より:

       >海は都合の悪いものを捨てられるゴミ箱じゃないんだよ

       それはロシアや特亜に言うべき事でしょ。共同通信は本当に言うべき相手にはとことん「忖度」するんだね。他のマスゴミも大同小異だけど。

  9. Masuo より:

    昨日のコメントで「記事の内容は公平だ」と書きましたが、タイトル見たらクズでしたね。残念です。

    今回の論考で面白なと思うのは、社名を伏せているとはいえ、マスコミがマスコミを批判的に報じる事です。日本のマスコミは(なぜか)全てのマスコミが「右向け右」状態で似たような報道しかしないし、仲間内は庇い合うのが常だったように思います。

    どんな業種でも競争しないと面白くないです。産経、夕刊フジ以外にも、こういう感じの報道がどんどん増えていけばいいなと思います

    1. GABULLAcCHO より:

      思いっきり印象操作・偏向報道しといて、私達は「公正中立です!」などと、イケシャアシャアと宣うから、イラっとしますね。

      あやつ等は「左向け左」の方が良いかとw。

  10. 匿名 より:

    海水から塩分が検出されるのと同程度って言うけど、海水中の塩化ナトリウムは3%ですからね。
    とてもじゃないけどそのまま人体に取込むことは出来ないっすよ。

    1. CRUSH より:

      阿川弘之『軍艦長門の生涯』には、ミッドウェーから戻る途中で、艦上の負傷者に応急処置として生理食塩水の代わりに海水を輸血?して、意外に問題なかったとの記述がありましたよ。

      近代衛生的には論外なのかもしれませんが、戦時の野戦状況下でなにもせず失血死させるよりは感染症がおきなければラッキーくらいの話ですけどね。

      あ、シマッタ、匿名にはレスしない主義なのですが、間違い訂正はノーカンで。

  11. CRUSH より:

    産経新聞のアクションは、褒めてあげたい。

    記事の一つ一つに読者が突っ込み入れるのも、効率悪いし続かない。
    業界で相互監視して淘汰と優勝劣敗が作用することが、健全でサステナブル。

    本来は、総務省の仕事ですわな。
    日本の役所は根本的に勘違いしてる風なのは、業界の箸の上げ下ろし一つ一つまで監督官庁が責任を負う必要なんかないけど、業界の淘汰と優勝劣敗が作用する環境を維持管理することには責任を負うべき。

    イアン・フレミング的に言うならば、
    「右手で左手を洗えば、
    両手がキレイになる」

    自分でゴシゴシ苦労するのは間抜けですわ。

  12. nanashi より:

    産経新聞が共同通信を名指ししなかったのは、産経新聞が共同通信から配信記事を貰っているからでしょうね。
    加えて両社とも47NEWSの参加社でもありますし…。
    5大新聞のうち、産経新聞は基盤がもっと脆弱ですから仕方がないのでしょうけれど…。

  13. 三門建介 より:

    先日、21歳の娘と話していたのですが、バブルの頃のスポーツ新聞と週刊誌は「へ〜...」的だったよと話しました。

    当時のスポーツ新聞は見出しで釣っていたものですね。
    週刊誌もいつの間にか文春砲とかいって皆信じてます。

    一般紙でも30年の間に見出しで釣る様になったのだと気付かされましたね。

  14. やるお より:

    いまだにテレビや新聞見てる、そこのあなた、あなたも日本を悪くしてる犯人の一人です。

※【重要】ご注意:他サイトの文章の転載は可能な限りお控えください。

やむを得ず他サイトの文章を引用する場合、引用率(引用する文字数の元サイトの文字数に対する比率)は10%以下にしてください。著作権侵害コメントにつきましては、発見次第、削除します。

※現在、ロシア語、中国語、韓国語などによる、ウィルスサイト・ポルノサイトなどへの誘導目的のスパムコメントが激増しており、その関係で、通常の読者コメントも誤って「スパム」に判定される事例が増えています。そのようなコメントは後刻、極力手作業で修正しています。コメントを入力後、反映されない場合でも、少し待ち頂けると幸いです。

※【重要】ご注意:人格攻撃等に関するコメントは禁止です。

当ウェブサイトのポリシーのページなどに再三示していますが、基本的に第三者の人格等を攻撃するようなコメントについては書き込まないでください。今後は警告なしに削除します。なお、コメントにつきましては、これらの注意点を踏まえたうえで、ご自由になさってください。また、コメントにあたって、メールアドレス、URLの入力は必要ありません(メールアドレスは開示されません)。ブログ、ツイッターアカウントなどをお持ちの方は、該当するURLを記載するなど、宣伝にもご活用ください。なお、原則として頂いたコメントには個別に返信いたしませんが、必ず目を通しておりますし、本文で取り上げることもございます。是非、お気軽なコメントを賜りますと幸いです。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

【おしらせ】人生で10冊目の出版をしました

自称元徴用工問題、自称元慰安婦問題、火器管制レーダー照射、天皇陛下侮辱、旭日旗侮辱…。韓国によるわが国に対する不法行為は留まるところを知りませんが、こうしたなか、「韓国の不法行為に基づく責任を、法的・経済的・政治的に追及する手段」を真面目に考察してみました。類書のない議論をお楽しみください。

【おしらせ】人生で9冊目の出版をしました

日本経済の姿について、客観的な数字で読んでみました。結論からいえば、日本は財政危機の状況にはありません。むしろ日本が必要としているのは大幅な減税と財政出動、そして国債の大幅な増発です。日本経済復活を考えるうえでの議論のたたき台として、ぜひとも本書をご活用賜りますと幸いです。
関連記事・スポンサーリンク・広告