今週の韓国総選挙が占う日韓関係

日本にとっての台湾が「基本的価値を共有するパートナーにして友人」であるのに対し、韓国はどうしてもその地位からは遠い存在であるように思えてなりません。その理由は、政権によって、あるいは選挙結果によって、国と国との約束や国際条約を守ったり守らなかったりするからです。こうしたなか、日韓関係にとっても興味深い山場が今週到来します。韓国総選挙です。

韓国の特殊性と国際約束の履行

先日の『韓国総選挙を機に改めて考えてみたい「韓国の特殊性」』では、今月10日の投開票を予定している韓国の総選挙を手掛かりに、日韓関係やその特殊性――というか、「韓国の特殊性」――について、改めて考察してみました。

ただ、結論的にいえば、「政権交代のたびに国の方針がコロコロ変わり、国際法を破ったり、前政権が取り交わした約束を破ったりする」ことを心配しなければならないような国と、必要以上に関係を深めるべきではない、とするのが当ウェブサイトなりの考え方です。

じつは、この点については、2016年7月に当ウェブサイトを発足させて以来、基本的には変わっていない考え方だと思います。

岸田政権の対韓外交は「あり得ないレベルの譲歩」

自称元徴用工問題や自称元慰安婦問題などがいわゆる「二重の不法行為」(※)に該当していること、日韓諸懸案の圧倒的多数は韓国の日本に対する「二重の不法行為であること」――などについては、先日もざっと振り返っていますので、改めて指摘するまでもないでしょう。

※日韓諸懸案巡る韓国の「二重の不法行為」とは?
  1. 韓国側が主張する「被害」の多くは、(おそらくは)韓国側によるウソ、捏造のたぐいのものであり、最終的には「ウソの罪をでっち上げて日本を貶めている」のと同じである
  2. 韓国側が日本に対して要求している「謝罪」「賠償」などには、多くの場合、法的根拠がなく、何らかの国際法違反・条約違反・約束違反を伴っている

(【出所】当ウェブサイト作成。詳細は『【総論】韓国の日本に対する「二重の不法行為」と責任』等参照)

ただ、それよりも重要な点があるとしたら、韓国でいかなる政権が発足するかを問わず、日本はしっかりとブレない対韓外交を繰り広げなければならない、ということではないかと思います。

この点、当ウェブサイトは岸田文雄首相の経済・安全保障政策について、その一部を非常に高く評価しているつもりですが、ただ、少なくとも対韓外交に限定していえば、評価できるところはほとんどありません。

韓国政府が打ち出してきた自称元徴用工問題の「解決策」とやらは、「韓国による国際法違反状態の是正」という最大の命題が達成できていない時点でゼロ点ですし、それどころか、韓国に対する(旧)ホワイト国復帰措置、通貨スワップ復活、火器管制レーダー照射事件不問などは、「あり得ない」レベルの譲歩です。

敢えて良い点があるとすれば、日本が韓国に対する通貨スワップなどを復活させたことで、それを「再び停止する」という制裁手段が手に入ったことくらいでしょうか(かなり無理のある「良かった探し」かもしれませんが…)。

韓国総選挙は今週投開票:尹錫悦大統領支持基盤は苦戦か

さて、こうしたなかで、今週、日韓関係でちょっとした波乱が生じる可能性があるとしたら、韓国の総選挙でしょう。日経新聞(電子版)などは次のような記事を公開し、韓国の総選挙について、「大統領選と並ぶ大型選挙」「隣国の日本の経済や安全保障も無縁ではない」、などと述べています。

接戦の韓国総選挙/第三極絡む批判合戦/10日投開票、日韓関係も左右

―――2024年4月7日 2:00付 日本経済新聞電子版より

前稿でも紹介した、「日韓の経済関係は重要だ」、「日本にとって安全保障上、韓国との関係は重要だ」、などとする主張そのもので、思わず苦笑してしまいそうになります。

「日本の経済や安全保障」に、「韓国との関係が無縁ではない」といえば、べつにそのこと自体はウソではないかもしれませんが、かなりの誇張が入っています。

少なくとも経済・産業面での日韓のつながりは、日本から見て、(日経新聞さんが考えているほどには)重要ではないからであり、また、安全保障上も、「韓国との関係を深めれば日本の安全保障上の地位が上昇する」というものでもないからです。

ただ、数日前からいくつかのメディアがいっせいに、尹錫悦(いん・しゃくえつ)政権の「苦戦」を伝え始めていることも事実です。

選挙結果について、現時点で予断めいたことを述べるべきではないにせよ、少なくとも韓国国内の選挙情勢に関する調査などを見る限り、尹錫悦氏の支持母体である保守系の政党「国民の力」は、革新系の最大野党「ともに民主党」に対し劣勢です。

朴槿恵政権は弾劾されたが…日韓関係はどうなる?

そうなると、韓国政府が昨年3月に打ち出してきた自称元徴用工問題の「解決策」についても、たとえば2018年の大法院(※最高裁に相当)の判決を無効化させるような新法を通すということは不可能でしょうが、それだけではありません。

野党の勢力次第では、現実に尹錫悦政権に対する弾劾が成立する可能性だって、リスクとして織り込んでおくことが必要です。

ちょうど、今から8年前の2016年に、当時の朴槿恵(ぼく・きんけい)大統領に対する弾劾が国会で成立し、これによって2015年の日韓慰安婦合意や2016年の日韓GSOMIAなどが不安定化したことを思い出しておく必要がありそうです。

万が一にも尹錫悦政権が2027年5月の任期満了を待たずに崩壊することになった場合、日本としては、韓国に対する譲歩(とくにFCレーダー照射と日韓スワップ供与)を「食い逃げ」されるだけの結果に終わる、という可能性はありそうです。

ただし、FCレーダー照射はともかく、日韓通貨スワップに関しては、金額的にはたかだか100億ドルであり、韓国が外貨資金不足に陥った際の支援の原資としては、ほとんど役に立たないこともまた事実でしょう。

なにより、尹錫悦政権が任期をあと3年残して事実上のレームダック化することに加え、岸田文雄政権自体が今年9月で終わってしまう可能性があることも、日韓関係が「関係改善」半ばにして、中途半端な状態で宙ぶらりんになる、というシナリオを見ておいても良いのかもしれません。

いずれにせよ、韓国総選挙の今回の投開票は10日とされますが、今回も早ければ当日中に、遅くとも11日にかけて大勢が判明するものと思われます。4年に1回の韓国総選挙、5年に1回の韓国大統領選は、日韓関係という観点からも、興味深いものです。

ただ、くどいようですが、どの勢力が勝つかによって日本との約束の履行状況が変わってくるという時点で、やはり韓国が「基本的価値を共有する重要なパートナーで友人」という、日本にとっての台湾のような地位を獲得することは、どうも難しいのではないか――、などと思う次第です。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. taku より:

     韓国の総選挙で、右派が勝とうと、左派が勝とうと、韓国人が勝つことに変わりはありません。従って①国と国との約束は守らない(慰安婦、徴用工)②都合のわるいことは事実と認めない(レーダー照射)状況に、変化が起きることもありません。
     従って、我が国は粛々と関係希薄化を進めていけば良い、だけのことです。
     そして、そのような方針を採ろうとしない、岸田政権を早く退場させましょう。

  2. 一之介 より:

    一応?民主主義国家の選挙の結果は民意であり、その国の国民の意思ですね。
    今回の韓国総選挙で反日左派勢力が勝利し、日本との約束の履行が変わるのあれば、日本はそれなりの対応を取れば良いと思いますけれども。私は何の力にもなれませんが、密かに李在明さんガンバレと応援しています。もともと韓国は真摯に付き合うような国ではありませんので、尹錫悦さんのような中途半端で無く、わかり易い方が良いと思いますね。くだらん他国のことよりも、極端には毅然とした対応を取るという、至極当たり前のことができる日本政府を私は強く望みます。

  3. わさび より:

    wowkoreaより・・・・「日本の誤った領有権主張に断固対応」 新任の独島博物館長

    https://www.wowkorea.jp/news/read/430163.html

    韓国は正しく日本は悪いの定義を変えない姿勢が良く分かります。

    大韓民国なので、小国の日本なんてバカにしていいくらで思っているのでは無いでしょうか?

    人口や国土面積なんて気にしません。何せ大韓民国ですから(笑)

  4. 七味 より:

    日韓関係が、韓国の大統領選挙の結果に大きく影響されるものだとすれば、どっちが勝つかを注視するとか、都合が良さそうな方が勝つようになんかの案件で譲歩したりと努力することに意味はないと思うのです♪

    どっちが勝っても、日本への影響があまり生じないように、日韓関係そのものを希薄化していくのが、まずは必要なんだと思うのです♪

    1. 伊江太 より:

      七味様

      でもまあ、個人的には「イジョミョン」政権誕生なんてのを期待したいな。

      コワイモノ見たさで(笑)。

      1. 匿名 より:

        >コワイモノ見たさで(笑)

        いやいや、七味さんの言う、
        >日韓関係そのものを希薄化していく

        動力になるでしょう、というか、そう期待したいですね。
        これで、トランプが米国大統領になれば、半島から撤退するでしょうから、難民防止が必要になりますね。

      2. とある東京都民 より:

        イヤイヤ〜、イジェミョンじゃの〜て、チョグクでねえのかい?

        人望も、人徳も、まるで無しみたいだし〜。

        ムンちゃんが、可愛がってた腹心の子分〜。
        チョグク大統領、爆誕〜!
        …も、さもありなん。

        とある財閥のイ・ジェヨンじゃなくてさあ〜。

  5. とある東京都民 より:

    日本にとっての台湾が『基本的価値を共有するパートナーにして友人』

    一方で、寒酷こと、サウスコリアは、
    日本国と国民にとって、
    『基本的価値も利益も共有できず、自己の都合だけで、一方的に依存しようとし、また、日本の価値も利益も、毀損し続け、害だけ与えてくる夜郎自大な、エネミーでしかない連中』
    だな!

  6. 匿名 より:

    5年1期限定の大統領が変わる度に外交姿勢がガラリと変わる
    (そういうやり方が対外的にまかり通ると思っている)国は
    未熟な政情不安国家と認識すべきだと思うんだがね。
    まともなパートナーシップが成り立つ相手ではない。

  7. クロワッサン より:

    文在寅政権の時のワクワク感を再び味わいたいので、やっぱ李在明に大統領になって欲しいですね。

    売春婦を最高権威者と置くメンヘラマジキチリスカブス民族の象徴として、あれ以上の逸材は今のところ居ないと思われます。

    FCレーダー照射どころか宣戦布告すらしそうなマジキチさが魅力です笑

  8. Masuo より:

    共に民主党と李在明を全力で応援します。
    その方がわかりやすいし、日本の国益に叶いそうです。

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