日経が「悪い円安論」から「良い円安論」に軌道修正か
いわゆる「悪い円安論」の誤りについては当ウェブサイトでもこれまで指摘して来たつもりですが、ここにきて株価の上昇、企業業績の向上に加え、過去最高の第一次所得収支黒字など、「悪い円安論」の誤りを示す兆候がこれでもかというほど出てきました。例の「悪い円高論」路線を修正し始めたのでしょうか。日経新聞に27日、『「悪い円安」から「良い円安」へ』、などとする趣旨の記事が掲載されたようです。
目次
「悪い円安論」
いわゆる「悪い円安論」――、すなわち「円安は日本経済に悪影響を与える」とする主張――については、当ウェブサイトではこれまで何度となく取り上げて来たテーマのひとつです。
というよりも、世の中で一般的に見られる「悪い円安論」については、端的にいえば非常に偏った見方です。
以前の『悪い円安論こそ邪悪なトンデモ論』あたりでも詳述したとおり、円安にはメリットとデメリットがあり、「悪い円安論者」はたいていの場合、このうちデメリットのみをことさらに騒ぎ立て、メリットについてはほぼ無視している、という傾向にあるのです。
とても当たり前の話ですが、貿易には輸出と輸入があり、円安になれば輸入品物価が上昇してしまいますが、輸出競争力は上昇し、さらに輸入代替効果(高くなった輸入品ではなく、国産品への需要が高まる効果)が生じます。
また、外貨建てでおカネを借りている場合、円安により借金の円換算額が増えることで元利金の返済負担が重くなってしまいますが、逆に、外貨建てでおカネを貸している場合は、円安により投融資の円換算額が増えますし、受取利息配当金の円換算額も増大します。
つまり、円安はフロー面から「輸出にプラス、輸入にマイナス、国内産業にプラス」、ストック面から「資産にプラス、負債にマイナス」の効果をそれぞれ与えることになるのです。
円安にはメリット・デメリット両面あるが…総合的に見てメリットが大きい
これを一覧にしたものが、「いつものこの図表」です(図表1)。
図表1 円高・円安のメリット・デメリット
©新宿会計士の政治経済評論/出所を示したうえでの引用・転載は自由
問題は、これらのメリット、デメリットが現在の日本経済にどのように生じているか、です。
結論からいえば、総合的に見て、円安は日本経済に良い影響をより多くもたらします。
まず、せっかく円安になったとしても、かつてと比べると、輸出競争力はさほど上昇しない、とする指摘がある点については、まったくそのとおりでしょう。長引くデフレ不況のせいでしょうか、現在の日本経済は製造業のなかでも、とりわけ川下工程(最終製品を組み立てる工程)の産業がかつてと比べ、廃れてしまっているからです。
もちろん、川上工程についてはしっかりと日本国内に保持されていて、時間をかければ日本に川下工程が戻ってくる土壌はあるのですが、それと同時に現在の日本では労働力不足が深刻化しつつあるため、労賃の問題もあり、中国、東南アジアなどから製造業が一気に戻ってくるとは期待し辛いところであることは間違いありません。
これに加えて現在の日本にとっては、原発が稼働していないなどの理由もあって、エネルギーの輸入が増えてしまっているという事情も見過ごせません。ドル建てで見て同じ値段だったとしても、円安になれば、輸入価格が上昇してしまうからです。
(※余談ですが、こうした円安デメリットが生じるのも、結局は事実上の民主党政権の負の遺産――とりわけ再生可能エネルギー賦課金制度や原発停止――などの影響が大きいのですが、この事実を指摘すると、当ウェブサイトでもなぜか「民主党政権のせいにするな」という支離滅裂なコメントがついたりすることもあります。)
経常収支のうち「第一次所得収支」の黒字は過去最大水準
ただ、これらも結局、物事の一面しか見ていません。輸入品物価が上昇していけば、国産品への需要が増大する効果もあるからです。
たとえば日本人が海外旅行に行かなくなったとすれば、その分、国内旅行が盛んになりますし、実際、国内の観光地が徐々に潤い始めているという兆候もあります(その具体的な事例などについては機会を見て、別稿にて改めて説明したいと思っています)。
また、輸送コストなどの影響もあるのでしょうか、まだ大々的な動きではないにせよ、一部のメーカーは製造拠点を中国から日本に移すなどの事例も出始めているようです。
さらにダイレクトな影響が生じているとしたら、経常収支でしょう。
『円安の影響?我が国の第一次所得収支が過去最大に膨張』などでも取り上げましたが、現在の日本では、経常収支のうちの「第一次所得収支」の黒字が過去最大水準にまで膨張しており、貿易赤字額を大幅に上回っている状況にあります(図表2)、
図表2 経常収支
(【出所】財務省『国際収支の推移』サイトの『6s-1-4 国際収支総括表【月次】』データをもとに作成)
このように、冷静に考えたら、この手の「悪い円安論」は、理論的には最初から破綻しているものでもありますし、現実の数値などで見ても間違っていることは明らかでしょう。当ウェブサイトで「総合的に見て、円安は現在の日本経済にとって大変良い影響を与えている」と指摘し続けて来たゆえんです。
「良い円安」論を唱え始めた日経新聞
もっとも、こうしたなかで理解に苦しむ話題があるとしたら、これかもしれません。
「悪い円安」から「良い円安」へ 株最高値の推進力に
―――2024年2月27日 16:30付 日本経済新聞電子版より
「悪い円安論」を唱え始めたメディアのひとつである日経新聞に27日付で掲載された記事ですが、これがまたなかなかに鮮烈です。
これによると「年明けから円安・株高の連動が鮮明になっている」などとしつつ、「日経平均株価は最高値を更新し」、「世界的なインフレが収束に向かい」、「輸出企業の収益環境が改善」。「インバウンド(訪日外国人)関連企業の業績にも追い風になっている」、などと述べるのです。
さすがに日経新聞ですら、「悪い円安論」のウソを隠しおおせなくなってきた、ということでしょうか。
日経の記事ではまた、こうも述べます。
- 「資源が乏しい日本は、エネルギーや原材料を輸入し、高付加価値の製品を輸出する加工貿易が主軸」。
- 「だが、新型コロナウイルス後の消費急拡大や、その後のロシアによるウクライナ侵攻に起因する国際資源価格の高騰で、原材料やエネルギーの輸入価格が跳ね上がった」。
このあたりも、間違いとは言い切れませんが、現実の数値とは整合しない記述です。
「日本は資源に乏しい国だ」、という表現は、一種の枕詞(まくらことば)のようなものですが、現実問題として、これは実態とは合致していません。
2023年の事例でいえば、日本の輸入額は110兆1711億円ですが、このうち鉱物性燃料の比率は24.79%、原材料の比率は6.29%などとなっており、意外と多くありません。輸入額の過半は「機械類及び輸送用機器」、「雑製品」、「化学製品」といった製品で占められているのです。
ちなみに「機械類及び輸送用機器」のジャンルの輸入額は31兆5307億円で、内訳は、「半導体等電子部品」が4兆6748億円、「通信機」が3兆9457億円、「事務用機器」が3兆1036億円――など、最終製品が中心です。
新聞は正確な情報を流すメディアとは限らない
それなのに、日経新聞の記事を読んでいると、こんな趣旨の記述があります。
「21年以降、輸出物価の伸びが輸入物価の伸びを下回る『ねじれ』が常態化。輸出関連企業は輸入物価の上昇分を製品の輸出価格に十分転嫁できず、日本は大幅な貿易赤字を計上。大幅な円安が輸出企業の業績改善につながらず、株価を押し上げない『悪い円安』が生じていた」。
この記述自体、事実関係を正しく認識していない可能性があります。
以前から当ウェブサイトでも指摘してきたとおり、あくまでも「数字に基づく議論」をするならば、日本の貿易収支悪化の実態は、(石油等の価格上昇を除けば)「資源の輸入価格上昇」よりも、「最終製品の輸入価格上昇」による影響が大きいと考えられます。
そういえば、日経新聞といえばかつて、円安局面が一巡し、やや円高に振れたタイミングで、「悪い円高論」を展開したこともあります(『円安なら「悪い円安」だが円高なら「悪い円高」=日経』等参照)。
正直、この言い訳がましい記事を眺めていると、新聞というものが常に正確な情報を流すメディアであるとは言い切れない、という実態が見えて来る気がしてならないのです。
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
そんな日韓関係論を巡って、素晴らしい書籍が出てきた。鈴置高史氏著『韓国消滅』(https://t.co/PKOiMb9a7T)。
日韓関係問題に関心がある人だけでなく、日本人全てに読んでほしい良著。
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SNS が憎い、SNS こそが汚染情報を流す。
逆上新聞記者の論法はいつも同じです。
汚染情報を流してきたのが新聞 TV であるからこそ SNS が繁盛する。社会工作勢力は新聞 TV ではもはや思い通りにできないので、SNS に目を付けた。伝染伝搬能力が高いからです。
主戦場が入れ替わっただけですが、食い扶持が消滅していく職業さんたちこそが金切り声を止めない。
モーサテに出演し「悪い円安の名付け親」と誇らしげに名乗っていたのに 豹変して出演しているところを見ると 相当 「厚顔無恥」でないと 編集委員には成れないのだとわかりました。記事だと顔が出ないがTVでは 顔が公開されので大変だ。
「午後の紅茶」中。
うっかり検索してしまいました。。
文学部出身…。
失礼ながら如何にも中高時代から数字に弱そうな感じ。一方で詭弁を含む表現力は優れているんですかねぇ?
採用試験の際は取材対象に対する専門性の有無を質したほうが会社にとっても良いのではないかと思うのですが。
新聞記事も新聞記者も、スマホの指操作ひとつで選別されてしまう。
まるでカードを捨てて新しいのを引くかのように、売り上げとか信頼とか、積まれたり捨てられたりする。文章売って給料稼ぐのは本当に大変な時代になりました。
どうしても、円安を悪いものとしたい人がいるように、円安を良いものとしたい人もいるようだ。しかし、為替に良いも悪いもない。周り回って均衡点に戻るだけだ。時間差を使って鞘を取る人はいるだろうが長くは続かない。行き過ぎれば戻るだけ。
外野席の野次馬の目からすれば、
昨日は「鬼畜米英!」と言ってたのに、
今日は「ギブミーチョコ!」と言ってるみたいな?
どちらでも構わないけど、ポリシーなく風見鶏してるから、誰も買わなくなってるんじゃあないのかしら。
仰る通り、オールドメディアはあまりにも恥知らずで自分の言論に責任を取らないから
そう遠くない未来、オールドメディアが滅びた時代がやってくるでしょう。
その時の”ニューメディア”はきっと「間違いを認めて責任を取る」能力を求められる。
問題はそんな能力を育成し維持できるシステムを作れるのかどうか。
もしこのシステムが作れなくなった場合は大衆向けのマスコミが存在せず、
雨の後のタケノコの様に小規模なメディアが乱立して社会の分断化が
進むかも知れません。案外怖い時代になるかも知れませんね。
近いうちに株価が下がりだしてきたら、【やっぱり『悪い円安』だ】に戻ってくると思いますよ。
そう言えば、政界風見鶏とか言われていた政治家が晩年はなんだかたいそう偉そうにしていましたが、経済風見鶏のこの新聞社の晩年は?近いうちに廃業ですかね?