逮捕の柿沢議員に「元自民党」という肩書は正確なのか

法務副大臣を辞任し、自民党を離党した柿沢未途衆議院議員が28日、公選法違反容疑で東京地検特捜部に逮捕されました。メディアによっては柿沢氏を巡っては「自民党の」、という冠詞が付くことも多いのですが、その柿沢氏が自民党党員だったのはたった2年あまり、という事実については意外と忘れられているようです。

柿沢議員、逮捕…「自民党に打撃」報道も

今年4月に行われた東京都江東区長選を巡る買収などの公選法違反容疑で、前法務副大臣の柿沢未途・衆議院議員(無所属)とその4人の秘書が28日、東京地検特捜部に逮捕されました。

これを巡っては、いくつかのメディアが「自民党に打撃」、などと報じています。

たしかに自民党は安倍派(清和政策研究会)でパーティー券収入の問題で揺れているなかですので、今回の柿沢容疑者の逮捕は、「政治とカネ」という観点からは、自民党の問題点が浮き彫りになったようなものだ、と見られても無理はありません。

実際、産経ニュースにはこんな記事も出ています。

自民「政治とカネ」で窮地 立憲民主は「来年政権交代」、政治資金改革で与党分断も

―――2023/12/28 20:17付 産経ニュースより

産経は自民党が「『政治とカネ』の問題でさらに厳しい状況に追い込まれた」などとして、安倍派の政治四季パーティー事件を巡って2日連続で議員関係先に強制捜査が入ったことと並び、今回の柿沢容疑者の件を列挙。立憲民主党の岡田克也幹事長も「次期衆院選での政権交代を目指す」と述べた、としています。

柿沢氏の経歴:自民党歴はたったの2年

ただ、ここで少し待っていただきたいところです。

そもそも柿沢氏は、かつては民主党、民進党などに所属していた政治家でした。

柿沢氏の政治家としてのキャリアは、父親である柿澤弘治・元衆議院議員(2009年没)の秘書から始まり、2001年の東京都議会議員選挙に出馬して当選して民主党に入党。しかし、2008年に酒気帯び運転による自動車事故を発生させたことで都議を辞し、民主党を離党しています。

その後は2009年8月の衆議選で「みんなの党」から出馬して比例復活当選し、2012年12月の衆院選では小選挙区での当選を遂げていますが、2013年8月に「みんなの党」を離党。同年12月に結党された「結いの党」に参加しています。

ちなみに同党は2014年9月に「維新の党」と合流しその「維新の党」はさらに2016年3月に民主党と合流して民進党が設立され、村田蓮舫代表(当時)のもとで民進党役員室長を務めています。その意味で柿沢氏は「村田蓮舫(現・齊藤蓮舫)氏の元側近」という言い方もできるかもしれません。

ただ、その後は民進党を離党して「希望の党」に合流し、「希望の党」が国民民主党に合流した際には無所属を選び、2021年9月には同じ選挙区で柿沢氏と熾烈な争いを続けてきた元自民党の秋元司・元衆議院議員がIR汚職で東京地裁から有罪判決を言い渡されたことで、運命が変わったようです。

柿沢氏は首相指名選挙で自民党の岸田文雄総裁に投票したうえで、2021年10月の衆院選では無所属で東京15区から出馬して当選し、自民党から追加公認を受けて自民党入りしています。

法務副大臣就任は今年9月の内閣改造のタイミング

つまり、柿沢氏自身は今回、江東区長選挙での公選法違反容疑に先立って離党するまで、自民党の所属歴はたった2年あまりに過ぎないのです。

もちろん、今回の逮捕容疑となった江東区長選が行われていたのは、柿沢氏が自民党に所属していた時期の話ですので、「自民党所属議員に選挙違反容疑が生じた」と報じること自体は、事実に沿ったものです。

また、一部では柿沢氏を巡り、「法律を守るべき立場にあるはずの法務副大臣が選挙違反を起こした」との批判もありますが、柿沢氏が法務副大臣に就任したのは今年9月の内閣改造のタイミングであり、江東区長選挙の時点では、まだ法務副大臣ではなかったという点には、いちおうは注意が必要です。

ただ、いずれにせよタイミングが悪い話です。柿沢氏が法務副大臣を辞任したのは就任から2ヵ月も経っていない10月31日であり、そのたった半月後には、神田憲次・財務副大臣が税金滞納などの責任を取って辞任しています。つくづく、岸田内閣は閣僚、副大臣、政務官人事での身辺チェックが甘いようです。

そもそも衆院選では小選挙区がモノをいう

もっとも、今回の柿沢氏の逮捕劇が岸田内閣に対するイメージの打撃となるかといえば、そこは微妙ではないでしょうか。

当ウェブサイトでは何度か指摘してきましたが、もしも今すぐ、解散総選挙が行われたとしても、岸田首相、あるいは自民党が政権を失うという状況は考え辛いところだからです。

そもそも、衆議院議員総選挙は全部で465の議席のうち、比例代表に配分されるのは全体の4割弱の176議席に過ぎず、6割強の289議席が小選挙区に配分されています。したがって、小選挙区で票をしっかり固めている候補者が勝利を収めます。

もちろん、自民党に対する逆風は、ある程度は予想されますが、それ以上に「自民党に代替し得る政党」が見当たらないという状況にあるということも、また、間違いありません。

とりわけ岡田幹事長が「次の選挙で政権交代」と息巻くわりには、立憲民主党は政党支持率で見て、(メディアによっては)自民党の4分の1前後に過ぎず、しかも野党第2党であるはずの日本維新の会に、支持率で抜かれることも増えています。

仮に――あくまでも「仮に」、ですが――、日本維新の会への支持が広まり、同党に追い風が吹いたとしても、維新が政権を取ることは、現状では考えられません。そもそも候補者の絶対数が足りないからです。

維新タナボタ効果は自民党にも働き得る

また、維新の候補者が勝てれば良いのですが、現実には維新の候補者が自民党や立憲民主党から票を奪うというパターンも多いと考えられ、そうなると、「ボーダー選挙区」ではより多くの票を維新に奪われた方が落選し、そうでない方が当選する、といった現象も生じるでしょう。いわゆる「維新タナボタ効果」です。

自民党にある程度の逆風が吹き、日本維新の会の候補者が票をかっさらったとしても、それが必ずしも自民党議員の大量落選につながるとは限りません。「大量落選」のリスクがあるのは、前回の選挙でボーダー議員の割合がより多かった立憲民主党の側でしょう。

いずれにせよ、「政治とカネ」の問題で自民党が揺れていることは間違いないのですが、検察の捜査も「大山鳴動してネコが2~3匹」、で終わるのだとしたら、むしろ岸田首相にとっては、来年の冒頭解散、あるいは予算成立後の解散というチャンスが到来することを意味するのかもしれません。

その意味では、柿沢氏の逮捕が自民党への逆風となり、自民党が選挙で苦戦する、などとシンプルに考えるのは、少し短絡的すぎるのかもしれない、などと思う次第です。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. はにわファクトリー より:

    岸田文雄内閣は軽量内閣、2024 年日本の針路任せるには全然足りないと考えます。
    まさかの国賓待遇、褒めて欲しい褒められたい首相どの、議場でどんな目にあっても国民は助けないと思います。

  2. 引きこもり中年 より:

    マスゴミとしては、「柿沢議員が、元自民党」と書くほうが、「元民主党、元民進党」と書くよりインパクトがあると思っているのではないでしょうか。ということは、インパクトさえあれば、「柿沢議員は、無所属」と書くこともあり得るのです。
    蛇足ですが、もし柿沢議員の民主党時代の不正が発覚した場合でも、マスゴミは「柿沢議員は、自民党」と書くのではないでしょうか。

  3. Sky より:

    やはりそうでしたか。うろ覚え、だが確認するのも面倒臭い。ので放置していましたが、あれっ?この人野党じゃなかったっけ?と思ってました。
    職業「政治屋」。
    信条「信条って何?それ美味しいの?政治屋としての便益、地位、満足感、収入が大事なんですけど何か?」
    という人の典型なのでしょう。

  4. さより より:

    柿沢氏の問題と、自民党のパー券の問題を、偶々時期が重なったからと言って、一緒くたにして、「自民党が・・・」という単純なことを書くから、マスゴミさんは益々信頼を失うことになるのですね。しかも、産経までも。余程、記事のネタに困っているのか?と勘繰られてしまいますね。
    柿沢氏の問題は、殆ど、党とは関係のない個人の問題で、しかも、旧来からある手法。しかも、この人の経歴から見れば、偶々自民党にいた時だったと言うだけのこと。それを、党の責任のように書くのは?
    岸田首相の任命責任は、あるかもしれないけれど。ただ、その任命責任なる言葉、国民は聞き飽きているから、もっと別の切り口で記事を書いて欲しいものですね。こんなことは、プロの記者じゃなくても書けることだから。
    いずれにせよ、全く次元の違う問題なのだから、別々に論じて欲しいものです。読者は、マスコミの多様な視点を期待しているのだが、全く、今のマスゴミさんは、一般庶民でも書けるような内容の記事しか書かない。やはり、取材努力と普段の勉強が足りないのでしょうか?

    1. 匿名 より:

      自民党在籍時にやらかした件についての報道なので、特に違和感は無いかと。
      これがもし、民主党?民進党?在籍時にやらかしたことについても「元自民党の」と言っているならおかしいけれど。

      1. さより より:

        風力発電の秋本元議員と柿沢議員の汚職は、個人がやったことで、個人の資質と性格が大きい。一方、パー券の問題は、集団の組織的な問題。しかも、政治家の資金管理の基本である資金の流れの不記載の問題。問題の中身と法律違反の意味が異なる。それを、一緒くたにして、「自民党が」で纏めるのでは、それぞれの問題の本質が見えなくなるから、報道の仕方として、プロとは言えないだろう、ということ。問題の中身が違うことだから、別々に論じて欲しい、ということ。それが、プロの報道屋だろう、ということ。
        柿沢議員を元自民党と呼ぶことを問題にしている訳ではない。報道の仕方が、おざなりだと言いたい。それが、コメントの主旨です。

        1. 匿名 より:

          それを言うなら、今のところの報道内容からすると「自民党の一部派閥による」と書かなければパーティー券収入キックバック未記載の報道も不正確となるし、とっくに亡くなった安倍元総理の名前を使って「安倍派」というのもさらにおかしい。
          ざっくりまとめると政治資金の話になるので(他党もやっているだろうけど外に出てきていないらしい現状では)「自民党が〜」となるのも(簡潔に見出しをまとめようという点では)わからないではない。

  5. より:

    やらかした当時は間違いなく自民党所属だったんですから、特に不思議とも思いませんが。

  6. 雪だんご より:

    マスコミ側に「自民党は貶めたい、野党は叩きたくない」と言う傾向があるのは
    事実ですが、このケースでは一番最近の所属は自民党なのだから間違ってはいないでしょう。

    「自民党所属ですが、実は過去に色んな党をうろつきまわっているタイプです」と
    言った所で、こんなタイプを受け入れてしまった自民党にも非はあるのですから。

  7. x60 より:

    アクロバティック擁護ワロタ

  8. 福岡在住者 より:

    このコメント嬉しいですね。

    最近の夕食の会話
    「最近、盛んに元自民党柿沢未途衆議院議員!とTVで騒いでるけど野党時代の方が長いんだよね。野党を含め当時の悪しき古い政治の風習かもよ。 野党は鬼の首を取ったふりをして騒ぎ建てているけど、パーティーとかは野党や人気地方政治家も普通にやっているし・・・。 東国原なんて他県の知事だったのに福岡市内で盛んに政治資金パーティーやっていたよね。」

    最近のマスメディアの報道はかなり狂っていますね。 あの民主党政権誕生の再現を夢見ているのでしょうか? テレビ朝日が元のポジションに戻りつつありますね(笑) 星浩なんて お役御免の無能人材をTBSに紹介したりとか・・・。  マスゴミが「反自民党」のプロパガンダに染まる時は全ての局が日替わりで同じ内容を朝から晩まで繰り返します。 今、そんな状況ににりつつあるのが心配。 

  9. 世相マンボウ* より:

    柿沢って誰だっけ?
    あれ?なぜ自民党?とか思っていたら
    今日のニュース
    「・・道路の雪を食べてはダメ・・」
    (下記リンク参照)を見て、
    ああ、あの飲酒運転での事故ごまかすため
    『雪喰い』した所属政党民進党らしいと知られた
    あの柿沢さんのことかあ(笑)
    と思い出せました。

    https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/913968

  10. 匿名 より:

    > 逮捕の柿沢議員に「元自民党」という肩書は正確なのか
    正確である。“元自民党の衆議院議員の柿沢未途(容疑者)”のほか“柿澤未途衆議院議員=自民党(を)離党=”、“自民党を離党した柿沢未途衆議院議員” など媒体によって揺らぎはあるものの氏が自民党所属の議員であったことが分かるよう表記している。

    自民党所属の国会議員として自身の選挙区(東京都第15区)でもある江東区の本年4月の区長選挙での公職選挙法違反事件への関与をめぐり自民党を離党し、さらに今回買収の疑いで逮捕されたのだから、氏の容疑についての報道でその違反行為があったとされる当時の党籍を示すのは当然のこと。
    > 自民党歴はたったの2年
    であろうが自民党所属の国会議員として行った行為であることは何ら変わりはない。
    > 村田蓮舫(現・齊藤蓮舫)氏の元側近
    > かつては民主党、民進党などに所属していた
    であったことは今回の容疑とは何の関係もない。

    前回の衆議院選挙で東京15区の候補者として、ともに自民党の推薦を受けて戦った今村洋史氏を支援したのが当時の山﨑孝明江東区長と山崎一輝東京都議会議員の親子で、勝利した柿沢氏が追加公認を受けた。
    そして、4月の江東区長選挙で柿沢氏の支援を受けた木村弥生氏と戦ったのが、父孝明氏の死を受け後継として立候補した一輝氏で、木村氏が勝利した。
    こうした背景からも、公職選挙法違反の買収などがあったとされる時点の柿沢氏の党籍が分かるよう記すのが事実に即した正確な記述なのだが、疑問を呈するということはそれを書かれると何か不都合でもあるのだろうか。

    1. 匿名 より:

      立憲民主党かマスゴミの工作員乙

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