私たちの国・日本にとって重要なことは、「中国様のご機嫌を取るために日本が中国に譲歩する」ことではありません。「経済に政治を持ち込む国がある」というリスクを強く意識し、それらのリスクを適切に管理することに尽きるのです。中国税関総署の統計によると9月の日本産水産物の輸入がゼロとなったそうですが、もともと日本産水産物の対中・対港輸出は、割合的には決して多くなかった、という点を踏まえておくべきでもあります。
輸入規制からもうすぐ2ヵ月
中国政府が日本産の水産物に対する輸入禁止措置を講じてから、もうすぐ2ヵ月が経過します。
この措置は、日本政府が8月24日以降、福島第一原発のALPS処理水の海洋放出を開始したことに呼応して中国が講じたもので、中国政府はこのALPS処理水のことを「核汚染水」と呼び、海洋放出を強く非難し続けています。
ちなみに『似たもの同士?中露両国の大使館が処理水を改めて批判』などでも取り上げたとおり、その中国の泰山第三原発から放出されているトリチウムは、2019年実績で238兆ベクレル(うち液体124兆ベクレル、気体114兆ベクレル)です。
これは福島第一原発から今後放流される予定の年間22兆ベクレル以下という目標値の約10倍以上です。日本の処理水を「核汚染水」と呼ぶなら、中国の泰山第三原発から垂れ流されているものこそ、「核汚染水」「核汚染物質」そのものでしょう(しかも日本の10倍以上の、です)。
ついに日本産水産物の輸入がゼロに!
ただ、中国政府の措置は間違いなく日本の水産業に影響を及ぼしているようです。時事通信は18日、中国の税関総署の発表をもとに、「9月の貿易統計(月報)によると、日本産魚介類の輸入額がゼロとなった」と報じました。
中国、日本産魚介類の輸入ゼロに 全面禁輸が影響 9月
―――2023年10月18日13時18分付 時事通信より
輸入規制が導入されたのは8月24日以降であるため、先月発表された8月の統計では、輸入規制の完全な影響はまだ生じていませんでしたが、今回の統計からは全面的な禁輸措置の影響が生じてきた格好だといえるかもしれません。
(※余談ですが、一部のジャーナリストからは「シンガポールなどを迂回することで、日本産水産物を『シンガポール産』などと偽装する手口が横行している」、などとする指摘もあるのですが、これについては日本側では9月のデータが公表されていないため、まだ確認できていません。)
いずれにせよ、中国に再び日本産水産物を買ってもらうためには、日本政府としても中国に対し、何らかの「妥協」をしなければならない、とでもいうのでしょうか。
はたして、中国への輸出で潤ってきた一部業者を救うために、日本政府が福島第一原発の処理水に関連し、何らかの「妥協」をしなければならないという筋合いはあるのでしょうか。
その数字の影響は日本経済全体にとっては「無視し得る」
これについては現実問題として、中国が日本の水産物の禁輸措置を講じたことの影響については、適切に評価することが必要です。
2022年実績で、日本の全世界に対する輸出金額は98兆1750億円であり、このうち中国向けと香港向けの合計は23兆3611億円(うち中国向けが19兆0038億円、香港向けが4兆3574億円)で、この両国・地域向けだけで、全世界向けの23.80%と約4分の1を占めています。
したがって、中国と香港は日本にとって、「輸出先としては」、非常に大事な相手国・地域ではあるのですが、ただ、この23兆3611億円のうち水産物(魚介類及び同調製品)の輸出額はたったの0.57%、すなわち1339億円に過ぎません(うち中国向けが844億円、香港向けが495億円)。
もちろん、この1339億円を多いと見るか、少ないと見るかは微妙ですが、正直、失われる輸出額は、日本国民1人あたりに換算して、年間1,000円~2,000円といったレベルです。極端な話、私たち日本人が1人あたり、魚介類の消費額を年間1,000円も増やせば、中国・香港の規制を無力化できます。
あるいは、最近だと一部の国では日本の魚介類が高級品として重宝されているとのうわさも聞こえてきますが、正直、日本経済にとっての1339億円という金額は、「誤差の範囲内」でもあります。
結局はリスク管理の問題
結論からいえば、今回の一件も、「中国が経済を政治利用する危険な国である」という単なる事例のひとつにすぎないと見るべきでしょう。中国に高値で販売していた一部の業者さんにとっては大変な事態かもしれませんが、日本経済全体としては、この程度の輸出減少は、まったく問題なく吸収できるレベルです。
吸収する方法としては、日本国民による「食べて応援」運動でも良いですし、日本食が大好きな「中国以外の国」への販路拡大でも構いません。前述の通り、ひとり1,000円ほど、マージンや流通費用などを考慮しても2,000円ほど、魚介類の消費を増やせばよい話です。
(※余談ですが、これから会社の忘年会シーズンですが、当ウェブサイトの読者の皆さまのなかでも、忘年会の幹事を務めるという方がいらっしゃれば、もし「食べて応援」の趣旨にご賛同いただけるなら、是非とも「魚介類の積極消費」にご協力ください。)
むしろこのような理不尽な規制を加えたことで、親愛なる中国人民の皆さまにとっては、日本産の美味しい水産物を口にすることができなくなった、ということでもあります。その意味で中国の措置は、自分で自分に制裁を加えている、セルフ経済のようなものです。
正直、中国としては「振り上げた拳(こぶし)」の落としどころが見つからず、むしろ困っているというのが実情かもしれませんが、それに関してもどうやって拳を下すかについては中国が勝手に考えれば良いだけの話です。
私たちの国・日本にとって重要なことは、「中国様のご機嫌を取るために日本が中国に譲歩する」ことではありません。
「経済に政治を持ち込む国がある」というリスクを強く意識し、それらのリスクを適切に管理することに尽きるのです。
View Comments (16)
これは素晴らしい
ホタテ業者はこれまでの行為がブーメランで戻ってきただけだろう
まー読売の報道が正しいのであれば、岸田首相は中国様の御機嫌にナーバスな模様でアリマスが…
カトイッテ高市氏は飛道具には成れても政治力の無さはワリカシ絶望的なし、宏池会に2人続けさせる党内情勢にもナサソウなし、コノタロ&セクシーも軽過ぎて御輿とは見てもらえナサソウなし、党内見回しても適任者ナンゾ居りそうにナイわいな
コーシテ投票率下がってくんかいね~
セクシー〇〇です。おっしゃる通りです。
ゴメンナサイ。m(_ _)m
初め韓国での馬鹿騒ぎ、次いで中国が国内事情から来るのであろう、いかなる観点から見ても非合理極まりない反日実力行使。これ、実は日本にとっては、非常に有益に作用したのではないかと思います。
まず、国内の所謂風評被害なるモノが、ほとんど皆無と言って良い状態になったこと。誰しも、あんな愚かな国の人間と同類とは思われたくありませんからね。
次ぎに、大陸、半島方面の息の掛かった人士が、これを絶好の機会とみたか、自ら表面に躍り出ることで、その思想傾向、知的水準、品性の劣等性などを白状してしまい、当分の間表に出られないほどに、叩かれまくってしまったこと。折しも、Xツイッターにコミュニティノート機能が追加されたことは、ヒダリ巻きアタマが生み出す妄想や、敢えてする煽り目的の偽情報を排除する上で、非常にタイムリーに作用したと思います。
特定野党なんかは、初めからその素性はバレバレですが、案の定「汚染水ガ~」とやって、その政治的影響力は、多分大幅に減じたのではないでしょうか。少なくともその主張の非科学性を白日の下に曝らすことを、盛大にやらかしたわけですからね。
自民党の中にも、他の問題なら「ここは一つ中国の顔も立てて」などと言い出しそうな顔ぶれも、想い浮かばないではないが、流石にこれほど己が科学的立場をとるか、まるっきり非科学的な人間かが峻別されるはなしとあっては、まあ余り表には出てこなかったようですね。
しかし、同じ与党内でも、某党の代表が、「せめて汚染水(とは言わなかったが)を放出するにしても、海水浴シーズンが終わってから」などとのたまわったのには、呆れもしたし、また「さもありなん」とも思いましたね。訪中を控えてご機嫌取りのつもりで言ったんでしょうが、これもその素性がバレたことが、最近自民党にこの党との連立を解消せよという言説が目立ち始めていることと無関係ではないと思います。
総じて、日本の安全保障への関心が高まる中、経済安保のみならず、言論安保も喫緊の問題であること、またそれを担うのはわれわれ国民一人一人であることを、強く意識させるきっかけになったことは、相手方の余りの馬鹿さ加減と相まって、非常に有り難かったと感じる次第です。
失礼します。立憲民主党の阿部知子絶対にゆるすまじ。韓国に帰化しやがれ!
伊江太さまの冷静公正な慧眼のコメントに賛同します。
最初、せっかく表面上は
言いたくてウズウズしても食器棚の影に隠れていた
韓流政党立憲民主党なのに
海の向こうからの韓流本家とで気が大きくなった
阿部知子の発言は、自らあぶり出されるようなもので
『馬シカ脚を表した』という表現は
こういうためにあったのかと感心しました。
ただ、別の見立てでは
阿部知子の問題発言は、
総理の岸田が民主党のお株を奪うような
韓流とウッシッシを始めたなかで
韓流支持者からの
見放すぞ!の突き上げでやむなく発言し、
日本国民向けには
泉代表がおとぼけでうやむやにという
綱渡り戦術だとの見立てもあるようです。
>国内の所謂風評被害なるモノが、ほとんど皆無と言って良い状態になったこと
これは確かに変化を感じます。
中国の水産物輸入がどうのという話より、こちらの方がよほど価値があると思いました。
宮下農相の仰ったよう、(負担感がほぼ皆無なこともあり)ホタテを意識して数回購入しました。とうにノルマはクリアです。自分ちの作物とも相性が良いのでまた買います(ホタテ+ブロッコリー+バター=(゚д゚)ウマー)。
同農相は先日は海外へ売り込みもし、岸田総理も引き続きアピール。(ホタテ税とか言い出さないと良いけど笑)
まだこれからなところはありますが、ホタテの国内消費、かなり増えたのではないかと思っています。ホタテ業者には疑問を感じはするものの、本件によって
・対中依存は今後お話にならない
・しかし中国の脅迫的な貿易政策には実は効果がない
が証明されるようなら、かなり面白いかも。まして、
・それどころか中国の標的になると一時的に面倒だが、反発で超速で脱中国・販路拡大になってしまう
までいければ。
それにしても、この騒動でホタテ需給がどう変化しているのか。繰り返しになりますがまだこれからなものの、マスコミにはきちんと追跡して現状を報じてほしいものです。こういったものこそが「知りたい情報」であり、「マスコミならば持ってこれる情報」なのですから。
やらないようなら、中国様の都合が悪いからだろって疑われるし、能力でも必要性でも、国民からそっぽ向かれちゃいますよ。
伊江太様
いつも、理路整然とした論考を愛読しております。
>国内の所謂風評被害なるモノが、ほとんど皆無と言って良い状態になったこと
旧ツイッターに、コミュニティノート機能が付いたことも大きな寄与をしていると思いますが、政府から、風評加害者のいちゃもんへの反論となる情報を発信し続けていったことも寄与しているものと愚考します。
駄文にて失礼しました。
遠くて近い国。だけど地理的には近くても、心情的に近寄ることが憚れる。
岸田のアホはなにをビビっているのか、売られたケンカを憂いているようでは一国のリーダーには相応しくない。来る選挙では戦えまい。ダークホースは庶民受けする保守新党。候補者によってはいきなりの議席確保もあるかもしれない。何処で誰を立てるか?楽しみだ。只、実績を挙げねばすぐ冷める。立憲民主党がもう少しマトモならなぁ。ところで蓮舫と辻元最近静かだな。
あなたとは違うんですの福田が中国へ行ったそうです
>「経済に政治を持ち込む国がある」というリスクを強く意識し、それらのリスクを適切に管理することに尽きるのです。
ぶっちゃけ、日本国もそのひとつの国ですよね?
>「中国が経済を政治利用する危険な国である」
その例として尖閣中国漁船衝突事件時のレアアース対日輸出禁止、モリソン前豪首相の新型コロナウィルス発生源の真相調査の呼び掛けへの経済報復(石炭・農産物輸入制限)など多数。
しかし対中国姿勢では弱腰の日本政府(尖閣事件では逮捕された漁船の船長の不問・釈放を民主党菅首相が指示。処理水問題ではIAEA総会での高市大臣反論に岸田首相が『中国を再び刺激しないか』と周囲に不安を漏らす)と、毅然とした豪州政府(モリソン前首相の『脅しには屈しない』発言とその通りの対応)とえらい違いがある。
甘い対応をするからなめられる。日本政府(特に岸田さん)も中国の脅しには屈せず毅然とした反論、対応をしてもらいたい。
>>中国としては「振り上げた拳(こぶし)」の落としどころが見つからず、むしろ困っているというのが実情かもしれません
この件とビザ免除の件、どうやって矛を収めるつもりなのか。
ビザ免除については、8月頃に二階訪中の話題が出た時に「二階さんがわざわざ出向いて来て頭を下げられてしまったら仕方ありませんねえ」みたいな感じで拳を下ろすのかと思ったら、予想に反して二階訪中拒否(はっきり拒否したわけではないけど裏で打診して断られたはず)。
更に処理水放流で危機レベルをアップ。
根本的にはアメリカの半導体規制に同調したことが気に入らないんだと思いますが、日本がこの規制の件でアメリカから離反することはあり得ないのは百も承知なはずなので、結局は何か日本が融和姿勢を見せたタイミングで正常化すると予想してました。
もしかしたら今回は簡単には拳を下ろすつもりがないのかもしれません。
であれば、少しぐらいの譲歩は意味がないですね。
譲歩とは日本が譲歩するのですか?
私の解釈が間違っていたら申し訳ありませんが、少しも何も、この件で日本が譲歩することは無いし、もしそんな事をしたら間違い無く政権は崩壊します。
中国人は食いしん坊なのに美味しいものが食べられなくなって残念ですね。台湾のパイナップルに日本の水産物。豪州とは手打ちした、と何かで見たので、オージービーフは食べられるのかな。
第2のホタテ業者が出ないように、政府は業種別に中国依存度を調べ、輸出、輸入で過度に依存している業界を指導すべきかと思います。本来は業者の自己責任ですが、呑気な業界もあるでしょうし、対岸の火事と思っている業界もあるかと思います。例えばユニクロなんか、うちは絶対中国から酷いことされない、と思ってるかも。