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視聴者や広告に続きクリエイターもTVを見捨て始めた

視聴者離れとスポンサー離れに苦しむテレビ業界に襲い掛かるのは、今度はクリエイター離れだそうです。現代ビジネスの記事によると、日テレの実力プロデューサーがVOD(ネットの動画配信サービス)大手のネットフリックスに移籍するのだそうです。あくまでも一般論ですが、業界に地殻変動が生じるときは、将来有望な若手実力者が逃げ出すものです。

地上波テレビvsVOD

新聞業界が衰亡に向けて突っ走っているという点については、『最新版「新聞値上げ」リストから見える新聞業界の現状』などを含め、当ウェブサイトではしばしば話題として取り上げてきました。

自然に考えて、このインターネット環境が全国津々浦々に普及した時代において、「高いコストをかけて情報を紙に印刷したうえで、人海戦術で各地に配達する」、「月額3,900円前後という大枚で昨日の情報を売りつける」というビジネス自体、破綻していることは明白でしょう。

この点、その理屈でいけば、同じオールドメディア業界に属する業態でも、地上波テレビに関しては、少し状況が違います。地上波テレビは情報を電波に乗せて飛ばすことができるため、「最新の情報をお伝えする」という意味では、少しくらいなら、インターネットに勝ち目がありそうにもみえるからです。

しかし、こうした状況も、大きく変わりつつあります。

そもそもこの多チャンネル時代において、地上波テレビはせいぜい8局しか映らないうえに、時間を決めて放送しているため、オンデマンドで動画を視聴したいと思っているユーザーの需要を満たすことができません。こうした需要を満たすのが、ネットの動画配信サービス(VOD)です。

しかも、最近だとネット回線の速度が急上昇しており、さまざまなVODも出現していて、それらの多くは地上波テレビ放送と比べて画質が高い4K/8K動画配信を実装し始めています。

規制業種の地上波テレビは利権の塊

これに対し地上波は2Kが中心で、今年7月になって、やっと4Kの仕様が固まったというレベルです。

さらには、地上波テレビ局は利権の塊のようなものです。

そもそも事業を開始するのに総務省の認可が必要ですし、許認可権を握る総務省の官僚の皆さま方のご機嫌を損ねないよう、「波取り記者」なる者たちが総務省に出入りしているとの情報もあります(これもインターネット時代だからこそ表沙汰になった話かもしれません)。

大手新聞や民放キー局に存在 電波がらみの工作をする「波取り記者」

―――2021.03.25 07:00付 週刊ポストより

もっとも、当ウェブサイトでお伝えしている「利権の第3法則(※)」の例にもれず、地上波テレビ業界についてもまた、ジワリと地殻変動が生じ始めています。

利権の3法則
  • 利権の第1法則…利権とは、得てして理不尽なものである。
  • 利権の第2法則…利権とは、外から壊すのが難しいものである。
  • 利権の第3法則…利権は保有者の怠惰や強欲で自壊する。

©新宿会計士の政治経済評論

それが、「三重苦」です。

三重苦とは視聴者離れ、スポンサー離れ、クリエイター離れのことですが、それぞれいくつかのデータを指摘しておきましょう。

視聴者離れとスポンサー離れが進むテレビ業界

このうち視聴者離れです。総務省『情報通信白書』から判明する、ここ10年弱のデータに基づけば、年々、オールドメディアの利用時間は減り、ネットの利用時間が増えていて、しかもこの傾向はとくに若年層ほど顕著であることがわかります。

これについては総務省『情報通信白書』に掲載された調査に詳しいですが、該当する調査については『新聞は無料配布されても魅力なし』あたりでも紹介していますので、本稿では再掲しません。

続いて広告主離れについては『ネット広告費が史上初の3兆円台:マスコミ退勢は続く』でも指摘したとおり、株式会社電通が公表しているレポート『日本の広告費』によれば、ネット広告が右肩上がりで伸びているのに対し、マスコミ4媒体広告費は退勢が続いています。

つまり、視聴者とスポンサーについては、こうしたデータで確認することができるのですが、難しいのがクリエイター離れでしょう。これを測定する統一的な尺度があまりないからです。

人気アナ、敏腕プロデューサーが続々退社

ただ、これについては三々五々、興味深い情報が出てくることも間違いありません。

たとえば「テレビ業界からは人気のある実力派アナウンサーが続々と退社している」、という話題については、以前の『人気アナが次々退社:「有能な若手」が去るテレビ業界』でも紹介したとおりですが、それだけではありません。

ウェブ評論サイト『現代ビジネス』が18日に配信した記事でも、テレビ業界で「退社ラッシュ」が生じているというのです。

テレビ業界の「退社ラッシュ」が止まらない…日テレ「敏腕プロデューサー」を引き抜いた「会社の名前」

―――2023/10/18 08:03付 Yahoo!ニュースより【現代ビジネス配信】

現代ビジネスによると、「業界内外に名の通ったテレビマン」が「次々と退社している」、としたうえで、その具体例をいくつか列挙。そのうえで、2009年に日テレに入社し、入社3年目に日テレ史上最年少でプロデューサーに昇進したという「超やり手」が今年9月、日テレを去ったと報じています。

その「超やり手」のプロデューサー、いったいどこに行くのでしょうか。

これについて日テレの局員は、こう明らかにしたそうです。

ネットフリックスですよ。オリジナルドラマの制作を行うそうです」。

ネットフリックスといえば、VODの大手です。

現代ビジネスによると、ネットフリックス関係者はこう明らかにしたそうです。

日本の企業と違い、ネットフリックスではクリエーターと複数年で契約を結ぶ。結果が出せなければ契約更新はされないが、ヒット作を生めば年俸は億を超えることもあります。制作費も日本のテレビ局とはケタ違いですから、実力を試したい人にとっては絶好の環境でしょう」。

クリエイター離れが本格化する!?

この記事で触れられている人物は(おそらくは新卒で)2009年に入社したということですから、年齢的には30代半ば、社会人としても、いわば「脂がのり始める」年代でもあります。

あくまでも一般論ですが、業界に地殻変動が生じるときは、将来有望な若手実力者が逃げ出すものです。業界を離れても通用するほどに実力がある人であれば、とくに業界が沈み始めれば、あっという間に逃げていきます。ましてや若ければなおさらでしょう。

いずれにせよ、今から20数年前に某業界で、「将来有望な若者が、未来のない会社に見切りをつけ、次々と外に出ていく」という姿を見てきた者としては、新聞業界が5年から10年後、テレビ業界も10年から20年後には、衰亡に向けて走っていくのではないか、と思えてならないのです。

新宿会計士:

View Comments (9)

  • 明石家さんまが2017年の段階で「Netflixの制作費に日本のテレビは勝てない」と言ってますからね。

  • 通りで、TVのドラマお粗末になって来た訳だ。それから、芸人とアイドルばかり使ったバラエティーや体験番組、食レポや料理番組、旅行番組。確かにクリエイティビリティの要らない番組ばかり。
    ◯ホ芸人、顔と拙いダンスと軽いリズムの歌が少し歌えるアイドル、これらを使った安直な番組ばかり。
    これでは、谷村新司さんのような情感に満ちた歌が生まれ無くなるはず。
    どうも、これは、AKBやジャニーズのようなタレントをグループ化して売るようになってからでは無いか?タレントが個人で勝負しなくなった。
    才能(タレント)とは別の、アイドルという意味不明の存在の大量製造工場が、AKBやジャニーズ、だった?安直な大量生産は、業界そのものを壊す。これに便乗して、良質な番組作りをとっくに放棄した時に、TV界の内部崩壊は始まっていた。

  • スポンサーと広告代理店の会話

    スポンサー:「来期のテレビ広告なんだけどさ、結構削られちゃってさ」
    広告代理店:「その金額で新作だとグルメ物かぶらり旅になっちゃいますね」
    スポンサー:「ぶらり旅か~、もう飽きられちゃってて視聴率とれないよね。で、タレント誰使うの?」
    広告代理店:「xxxなんかどうですか?」
    スポンサー:「誰、その人」
    広告代理店:「ほら、昔〇〇〇に出てた」
    スポンサー:「あ~、あの人まだ芸能界にいるの?」
    広告代理店:「ドラマの再放送なんかだったらもうちょっと安くあがります。暴れん坊将軍とか必殺仕事人とか、水戸黄門とか」
    スポンサー:「かなり古いな~」
    広告代理店:「あっ、そうそう、韓流ドラマならさらに安くなりますけど」
    スポンサー:「韓流か~、 まっ、しょうがない、次来るとき2つ3つ見繕ってきて」

    • リアルですねー。
      しかし、このスポンサーも大丈夫なのかな?
      もはや、若者は見ず、購買力の乏しい老年層しか見ないTVにしがみついていて。
      韓流に使う予算で、ネット広告のノウハウを早く習得した方がいいと思うけど。

  • 私はテレビを見ませんが、お昼に定食屋さんに入った時に、テレビを時々見てます。
    流れてくるCMと言えば、過払い金、生命保険、サプリメント、・・・とても偏った世代に訴えかけるものばかりのように思いました。お昼だからでしょうかね。

    そういう意味では、スポンサーもだいぶんテレビ業界を見捨てつつあるように感じました。

    • Masuo さま

      BSなんかは略常時その手のCMが流れていますね。
      ただ、地上波で人気がある番組が、BSで放送される場合は少し違いますが…。
      それにしてもBSの番組のスポンサーが略固定されている事を見ると、「矢張りテレビ業界が見限られつつあるな」というのは強く感じられますね。

  • レンタルビデオの時代から、ドラマは 「好きな人はお金を払ってでも見てくれる」 ジャンル。それを地上波で無料放送してCMで稼ぐのと、CSの専門チャンネルやネットで有料配信するのと、どちらのほうが儲かるか?

    すでに昔の作品の再放送は、地上波ではほとんどやらなくなっていて、有料配信がメインになってますね。(地上波が情報バラエティばかりになった理由でもある。) そして、いよいよ新作も?

    なお、昔のドラマやアニメなら、期間限定で無料配信していることも多いから、公式サイトなどをこまめにチェックしていれば、お金を払わずに見ることもできます。

  • ジャニーズ問題は衰退著しい日本のメディアにとどめを刺したと言っても過言ではないでしょう。
    何十年にも渡って社会の木鐸を自称しておきながら、その裏で戦後最悪の児童性的虐待事件の片棒を担いでいたことが白日の下に曝されたのですから。
    今後彼らがどれだけ立派な御高説をたれようとも、「児童性的虐待の共犯者」の言葉に聞く耳を持つ人はいません。
    長らく出羽守として欧米バイアスのかかった国連の日本批判を嬉々として垂れ流していたメディアが、その国連様から引導を渡されるというのはなんとも皮肉なものです。

    国連人権理事会「ビジネスと人権」作業部会訪日専門家報告書
    https://www.ohchr.org/sites/default/files/documents/issues/development/wg/statement/20230804-eom-japan-wg-development-en.pdf#page=10
    和訳
    https://www.sankei.com/article/20230804-V5XJ42C7VFOP7KCRJGAIPKVG74/
    >日本のメディア企業は数十年にもわたり、この不祥事のもみ消しに加担したと伝えられています。

    なお、同報告書では日本のメディア労働者の人権が軽視されていることも問題視されていますが、その点も日本の報道では綺麗にスルーされていますね。